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2024/04/04

譚 海 卷之十三 水仙花めぐすりたる事 萍葉蚊遣につかふ事 べほうの事

○水仙の根にある玉、「つき目」によし。玉を、すり鉢にて、すりつぶし、糊のやうに成(なり)たるを、紙にぬり、目の上にはりて、一夜、寢る時は疵(きず)なく治する也。

 紙は、目より、隨分、大きく拵(こしらへ)たる、よし。

 又、水仙のはなを貯置(ためおき)て、眼のかゆき、或は、痛(いたむ)時など、目藥のごとく用ゆべし。湯に、花をひたして、洗ふ也。

[やぶちゃん注:「水仙」単子葉諸仏類キジカクシ目ヒガンバナ科ヒガンバナ亜科スイセン連スイセン属ニホンズイセン Narcissus tazetta var. chinensis 。但し、和名に日本とあるが、原産地は地中海沿岸で、本邦へは古くに中国南部を経由して渡来たものである。関東以西から九州で暖地の海岸線に自生する。ウィキの「スイセン属」によれば、知られた事実であるが、『有毒植物で、毒成分はリコリン(lycorine)やタゼチン(tazettine)、ガランタミン(galanthamine)のアルカロイド類』『とシュウ酸カルシウム (calcium oxalate) 』で、『全草が有毒で、鱗茎に特に毒成分が多い。スイセンの致死量はマウスで10.7g/kgである。食中毒症状と接触性皮膚炎症状を起こす。中毒は初期に強い嘔吐があり摂取物の大半が吐き出されるため』、『症状が重篤に到ることは稀であるが、鱗茎をアサツキと間違えて食べ死亡した例がある』。『葉がニラととてもよく似ており、家庭菜園でニラを栽培すると同時に、観賞用として本種を栽培した場合などに、間違えて食べ中毒症状を起こすという事件が時々報告・報道される』。『厚生労働省によると、2008年~2017年に起きた有毒植物による食中毒188件のうち、最多はスイセン(47件)だった』とある。しかし、『スイセンは有毒植物であるが、含まれている成分リコリンは、食中毒などのときに吐かせる吐剤でもあり』、『これを人工的に水素化してヒドロリコリンにすると、アメーバ赤痢の薬として役立つとされる』。また、(☞)『民間療法で、乳腺炎、乳房炎、咳が出るときの腫れに、鱗茎を掘り上げて黒褐色の外皮を除き、白い部分をすりおろしてガーゼに包んで外用薬として患部に当てておくと、消炎や鎮咳に役立つと言われている』。『身体にむくみがあるときも同様に、足裏の土踏まずに冷湿布すると』、『方法が知られている』とあるので、ここに書かれた療法は、強ち、否定出来ないようである。

「つき目」「突き目(つきめ)」で、眼球の角膜中央部の小さな外傷に化膿菌が感染して起こる細菌性角膜潰瘍の一種。「稲の葉先」や「麦の芒(のぎ)」、また、「逆(さか)まつ毛」などによる「突き傷」によって起こることが多いので、この名がある。異物感・流涙・眩しさ・痛みなどがあり、角膜に混濁が生じ、進行すると、前眼房に膿(うみ)が溜まり、放置しておくと、遂には角膜穿孔が起こり、虹彩が脱出,失明に至る。早期の抗生物質の投与・点眼が有効で、近年では重症例は少ない。角膜に混濁が残る場合は角膜移植を行う(主文は平凡社「百科事典マイペディア」に拠った)。]

 

○萍(うきくさ)は、「かたばみ」の葉の如く、夏月、水面に、ひまなく、うかび、生ずるもの也。すくひとり、かわかして、「蚊いぶし」にすべし。

[やぶちゃん注:「萍」単子葉植物綱オモダカ(澤瀉・面高)目サトイモ科ウキクサ亜科ウキクサ属ウキクサ Spirodela polyrhiza 。漢字表記は他に「浮草」「蘋」。これを「蚊いぶし」にしたという記載は、探し得なかった。あってもおかしくないが、その効果は、私が思うに、ボウフラとの共時的競合的(水面を覆って呼吸を邪魔する)な意味に於いて、多分に、共感呪術的な意味が臭うように感じられる。

「かたばみ」カタバミ目カタバミ科カタバミ属 Oxalis 亜属Corniculatae節カタバミ品種カタバミ Oxalis corniculata  f. villosa 。]

 

○「べぼう」と云(いふ)木も、蚊遣(かやり)に、よろし。さつまより出(いづ)るもの也。江戶にて數寄屋河岸(すきやがし)、「さつま問屋」といふに、あり。

[やぶちゃん注:「べぼう」裸子植物門マツ綱ヒノキ目ヒノキ科ヒノキ亜科ビャクシン(柏槇)(ネズミサシ(鼠刺))属 Juniperus 節ネズ Juniperus rigida の地方名。個人ブログ「ここでも道草」の「企画展8/蚊遣り/ベボウ/カヤノキ」に、『蚊燻し(かいぶし)(=蚊遣り)は、マツやスギなどを燻して使いますが、山の近くに住む人々はベボウを燻しました』。『ベボウはムロノキ・ネズミサシなどと呼ばれるヒノキ科の針葉樹で、三河・遠江(とおとうみ)地域の方』言『名です』とあった。ウィキの「ネズ」によれば、和名は、『針葉が硬く尖っているため、ネズミの通り道に置いておくことでネズミ除けになるという意味で「ネズミサシ(鼠刺)」の名前がつき、これが縮まって「ネズ」となったとされる』とある。

「さつまより出るもの也」とあるが、同前ウィキによれば、『本州(岩手県以南)、四国、九州、朝鮮半島、中国北部、ロシアに分布する』。本邦では『瀬戸内地方に多い』とあり、薩摩名産というわけではない。]

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