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2024/05/05

「和漢三才圖會」植物部 卷第八十二 木部 香木類 杉

 

Sugi

 

すぎ       煔【音杉】沙木

         㯳木

【音衫】   【和名須木】

サン       言經直木也

本綱杉類松而徑直葉附枝生其葉硬微扁如針結實如

楓實其木有赤白二種赤杉實而多油白杉虛而乾燥有

斑紋如雉者謂之野雉班作棺尤貴其木不生白蟻燒灰

[やぶちゃん字注:「班」は「斑」の良安の誤字。訓読では訂した。]

最發火藥人家常用作桶板甚耐水江南人驚蟄前後取

枝揷種出倭國者謂之倭木不及蜀黔諸峒所產者尤良

[やぶちゃん字注:「黔」は底本では、異体字の、下の(れっか)が(へん)にも及ぶ字体である。]

杉材【辛微温】 治毒瘡煮湯洗之無不瘥又治小兒陰腫燒

 灰入膩粉清油調傅効

[やぶちゃん注:「効」は六画目が(つくり)の下にまで伸びている字体。]

                       後京極

 夫木 杦深き片山陰の夕凉みよそにそ過る夕立の雲

[やぶちゃん注:この短歌、「夕凉み」「夕立の雲」の二箇所を誤っており、「した涼み」「夕立のそら」が正しい。訓読では訂した。

△按杉人家植者有二種唐杉葉柔江戸杉葉小硬色淡

 並仲冬爲紅葉三月復青葉五月結實纍纍七八攅生

 細梂青色秋黃枯色二月可下種三月可揷枝四月可

 移植最爲材之長老杉板有雲水之橒爲水桶能耐水

 盛酒酒味美而久不敗羽州秋田長木澤多作出桶木

 ㊉※如此四或六或八割長五六尺余名保太木或名

[やぶちゃん字注:「㊉」は上下左右が尖りなく、「○」に「+」が接した図である。「※」は「○」に(「×」+「-」)を「○」に接した図である。

 鼈木背隆似鼈之甲也最長大者用爲船檣【周三𠀋余大木亦有】

杉木節 治膁瘡黑爛者用老杉節燒灰麻油調隔𥬡葉

貼之絹帛包定數貼而癒

杉木皮 治金瘡血出及湯火傷燒存性研傅之或入雞

 子清調傅一二日癒又包蔀戸及壁用杉皮耐久

杉木脂 本草不載其主治然蠻人【名阿毛牟夜久牟】入膏藥中

 用之蓋𢴃杉材杉節之功可推知

 

   *

 

すぎ         煔【音、杉《サン》】 沙木《さぼく》

           㯳木《けいぼく》

【音、「衫」。】 【和名「須木《すぎ》」。】

           言ふこころは、

サン         「經-直木(すぐのき)」なり。

 

「本綱」に曰はく、『杉は松の類にして、徑直《けいちよく》なり。葉、枝に附きて生ず。其の葉、硬く微《わづかに》扁にして、針のごとし。實を結ぶ。楓《かへで》≪の≫實のごとし。其の木、赤・白の二種、有り。赤杉は、實《じつ》にして、油、多し。白杉は、虛《きよ》にして、乾燥なり。斑紋、有り、雉《きじ》のごとくなる者、之れを「野雉斑(きじまだら)」と謂ふ。棺《ひつぎ》に作るに、尤も貴(たか)し。其の木、白蟻を生ぜず。灰に燒きて、最も火藥を發す。人家、常に用ひて、桶板《をけいた》に作る。甚だ、水に耐ふ。江南の人、驚-蟄(きさらぎ)の前後、枝を取りて、揷種(さし)《う》ふ、倭國に出づる者、之れを「倭木《わぼく》」と謂ふ≪も≫、蜀黔(しよくけん)の諸峒《しよどう》に產する所の者の尤も良きに及ばず。』≪と≫。

[やぶちゃん字注:「黔」は底本では、異体字の、下の(れっか)が(へん)にも及ぶ字体である。]

杉材(すぎのき)【辛、微温。】 毒瘡を治するに、湯に煮て、之れを洗へば、瘥《なほ》らざるといふこと、無し。又、小兒≪の≫陰、腫るるを治す。灰に燒きて、膩粉《はらや》を入れ、清油にて調へ、傅《つ》く。効、あり。

[やぶちゃん注:「効」は六画目が(つくり)の下にまで伸びている字体。]

                     後京極

 「夫木」 杦《すぎ》深き

        片山陰《かたやまかげ》の

       した凉み

          よそにぞ過(すぐ)る

                 夕立のそら

△按ずるに、杉は、人家に植うる者、二種、有り。「唐杉《からすぎ》」は、葉、柔らかなり。「江戸杉」は、葉、小さく、硬く、色、淡く、並びに、仲冬、紅葉となる。三月、青葉に復(かへ)る。五月、實《み》を結ぶ。纍纍《るいるい》として、七、八、攅生《むらがりしやう》ず。細かなる梂(ちゝり)、青色、秋、黃(きば)み、枯色《かれいろ》≪たり≫。二月、種を下《ま》≪く≫べし。三月、枝を揷すべし。四月、移植《うつしうう》べし。最も「材の長《ちやう》」たり。老杉《おいすぎ》の板には、「雲水」の橒(もく《め》)有り。水桶と爲《な》して、能く水に耐へ、酒を盛り《→るに》、酒の味、美《よく》して、久しく、敗《くさ》れず。羽州秋田、長木澤より、多く、桶木《をけぎ》を作出《つくりいだ》す。「㊉」「※」、此くのごとく、四つ、或いは、六つ、或いは、八つに割り、長さ、五、六尺余。「保太木(ほたき)」と名づく。或いは、「鼈木(すつぽんぎ)」と名づく。背(せ)、隆(たか)くして、鼈の甲に似たり。最も長《たけ》大なる者、用ひて、船≪の≫檣(ほばしら)と爲す【周《めぐり》三𠀋余の大木、亦、有り。】。

[やぶちゃん字注:「㊉」は上下左右が尖りなく、「○」に「+」が接した図である。「※」は「○」に(「×」+「-」)を「○」に接した図である。

杉木の節 臁瘡《れんさう》≪の≫黑く爛(たゞ)るゝ者を治す。老杉の節を用ひて、燒灰に≪し≫、麻油《ごまあぶら》に調へて、𥬡葉《わかば》を隔てて、之れを貼(は)り、絹≪の≫帛《ぬの》に包≪み≫定む。數貼《すはり》にして癒ゆ。

杉木の皮 金瘡《かなきず》・血出《けつしゆつ》及び湯-火-傷(やけど[やぶちゃん注:三字へのルビ。])を治す。燒きて、性《せい》を存《そん》≪じて≫、研《こなにし》て、之れを傅《つ》くる。或いは、雞子《けいらんの》清(しろみ)を入≪いれ≫、調≪へ≫、傅く。一、二日にして、癒ゆ。又、蔀戸(しとみど)及び壁を包むに、杉の皮を用ひて、久《きう》に耐ふ。

杉木の脂《やに》 「本草」に其の主治を載せず。然れども、蠻人【「阿毛牟夜久牟《アモンヤクン》」と名づく。】、膏藥の中に入れ、之れを用ゆ。蓋し、杉材・杉節の功に𢴃《よ》りて、推して知るべし。

 

[やぶちゃん注:これも、日中の「杉」の示す種が異なるので、安易に読むことは出来ない。「本草綱目」で言う「杉」は、中国南部に自生する(本邦にも植栽されている。渡来は江戸時代或いはそれ以前とされる)、

裸子植物門マツ綱ヒノキ目ヒノキ科コウヨウザン亜科コウヨウザン属コウヨウザン Cunninghamia lanceolata

であるのに対し(同種についての詳細は当該ウィキを見られたい)、本邦の「杉」は、

ヒノキ科スギ亜科スギ属スギ  Cryptomeria japonica

で、亜科タクソンで異なる全くの別種である。

「煔」の字の原義は「火が燃え上がる」であるが、大修館書店「廣漢和辭典」によれば、「名詞で『木の名』とし、『杉』とある。にしても、上記の通りであるから、本邦のスギではないと考えねばならない。

「「經-直木(すぐのき)」及び「本草綱目」の「徑直」もともに、「真っ直ぐに経(たて)にそそり立つこと」を意味する。

『「本綱」に曰はく、『杉は松の類にして、徑直《けいちよく》なり。……』「本草綱目」の引用は「卷三十四」の「木之一」「香木類」の「杉」である。「漢籍リポジトリ」のこちらの、ガイド・ナンバー[083-13a]の「集解」の「頌曰」の途中以降をパッチワークしたもの。但し、いちいち二重鍵括弧で分離するのは、労多くして、私の益がないので、やめた。向後も、そうする。悪しからず。

「楓《かへで》≪の≫實のごとし」これは、ちょっと戸惑った。東洋文庫訳は、この「楓」に『ふう』という音をルビしている。これは、明らかに本邦の「楓(かへで)」ではないことを示唆するための仕儀と見える。確かに、「楓」の字は、中国では、本邦の

ムクロジ目ムクロジ科カエデ属 Acer

を示す漢字ではなく、

ユキノシタ目フウ(楓)科フウ属フウ Liquidambar formosana

或いはフウ属を指すのである。実際にフウ属の果実の画像(当該種の日本語ウィキ)で見てみると、このように小さな毬(いが)のような多数の棘状の突起を、多数、出した実である。そこで本邦のウィキの「スギ」にある、「裂開した球果と種子」のボタニカル・アートを見ると、なんとなく、似ている(酷似しているわけでない)。一方、本邦の「カエデ」を見ると、御存知の通り、カエデの果実は、二枚のプロペラのような形をした形状であり、凡そ、スギの実とは似ていないのである。「じゃあ、何で、あんたは、ちょっと戸惑っただい?」と突っ込まれることと思うが、私は、取り敢えず、『中国では「楓」はフウでありカエデではない』という東洋文庫訳を検証するために、本邦のカエデ(楓)を中国では「楓」とは書かないことを確認しようとした結果である。本邦の真正の「カエデ」に対応する中文ウィキはこれだが、その標題は「枫属」であったからである。而して、この「枫」は「楓」の簡体字に他ならないからである。現代中国では、別種に対して「楓」と「」の字を用いているからである。正直、何となく、「ふ~ん……でも……これでええんかな? 中国の人は、勘違いせんのかねぇ?……」という気がしたからである。

「其の木、赤・白の二種、有り。赤杉は、實《じつ》にして、油、多し。白杉は、虛《きよ》にして、乾燥なり」この色による分類は、中文のフウに当たる「枫香树」には、「白楓」・「白膠香」の異名を載せるが、紅葉の箇所と、「花」を解説する文中に「赤」はあるものの、同属の異種とする記載はない。不審である。ちょっと思ったのは、木材にした際、赤みのあるねっちりした材と、白い乾燥した材の二種が得られるという意味かと思ったが、そうした記事を載せるものをネットでは見出せなかった。これまで、であるが、掟破りで申し訳ないが、本邦のスギ材には、白・赤があるのである。当該ウィキの「木材」の項に、『辺材は白色』(☜☞)『心材は』、普通、『淡紅から暗赤褐色(赤芯)だ』(☜)とあるのは、これ、気になる、ね。

「斑紋、有り、雉《きじ》のごとくなる者、之れを「野雉斑(きじまだら)」と謂ふ」これは明らかに木材に加工した際の「節」のある部分のこおを言っていると私は推定する。さればこそ、前の「赤・白の二種」も材質を言っていると考えたのである。

「棺《ひつぎ》に作るに、尤も貴(たか)し」これも推測だが、フウの樹脂は独特の香りを持つとあるから、或いは、死臭を誤魔化す効果があるからではなかろうか?

「最も火藥を發す」火薬の発火剤として最適であることを言う。

「驚-蟄(きさらぎ)」二十四節気の第三の「啓蟄」のこと。「二月節」(旧暦一月後半から二月前半)で、現在のグレゴリオ暦では三月八日頃に当たる。

「倭木《わぼく》」東洋文庫訳ではここに割注し、『(カワイスギ)』とする。私が植物記載では古くから最も信用する嶋田英誠氏の編になるサイト「跡見群芳譜」の「外来植物譜」の「かわいすぎ」によれば、本種は、

ヒノキ科スギ属カワイスギ Cryptomeria fortunei

で、漢名「柳杉」(りゅうさん)』で、『漢語別名』を『長葉柳杉』と言う。『スギは、かつては』一『属』一『種、日本の特産と考えられたが、近年』、『華東に自生品が見出された。これを日本のスギの変種 C.japonica var. sinensis 、或は別種の C.fortunei とする』とあり、『浙江(天目山)・江西(廬山)・福建(北部)に自生』し、『中国では、樹皮を薬用にする』とあった。また、ウィキの「スギ」の「分類」の冒頭には、『中国南部の浙江省(天目山)、福建省(南平市)、江西省(廬山)、四川省、雲南省にはカワイスギとよばれるスギ属の植物が分布しており』、『スギとは別種(Cryptomeria fortunei Hooibr. ex Billain(1853))とされることもあるが』、普通、『スギの変種(Cryptomeria japonica var. sinensis Miq.(1870))とされる』。『形態的には、葉が細く著しく内曲し、雄球花は基部の葉よりも短く、種鱗先端の歯牙があまり尖らず、果鱗は約』二十『個で』、『それぞれ』二『個の種子をつける点で基準変種(Cryptomeria japonica var. japonica)と異なるとされる』。『しかし、形態的および遺伝的には日本に分布するスギの変異内に含まれるともされ、分類学的に分けないこともあり、また中国に分布するものは自生ではなく』、『植栽起源とされることもある』とあった。日中の種違いの流れが、ここで、本邦の真正のスギとの接点が見出された。「可愛い過ぎ」! よかったね! 良安先生!

「蜀黔(しよくけん)」長江上流の旧「蜀」(現在の四川省成都市附近)と旧「黔」(貴州省附近)。

「諸峒《しよどう》」中国南西地方に住む少数民族の名。また、少数民族の居住地の総称。

「毒瘡」梅毒を「瘡毒」というが、ここは悪性の瘡(かさ)や癌を指すか。

「小兒≪の≫陰」小児の陰部が腫れる病気。男子の、であろう。

「膩粉《はらや》」「輕粉」とも書き、「けいふん」「はやや」等とも呼んだ「粉白粉」(こなおしろい)・伊勢白粉のこと。白粉以外に、顔面の腫れ物・血行不良及び腹痛の内服・全般的な皮膚病外用薬、さらには梅毒や虱の特効薬や利尿剤として広く使用された。本邦では、伊勢松坂の射和(いざわ)で多く生産された。成分は塩化第一水銀Hg₂Cl₂=甘汞(かんこう)であり、塗布でも中毒の危険性があり、特に吸引した場合、急性の水銀中毒症状を引き起こす可能性がある。現在は使用されていない。]

「夫木」「後京極」既出既注の「夫木和歌抄」の平安末から鎌倉初期にかけての公卿・歌人で、関白九条兼実の次男。官位は従一位・摂政・太政大臣であった九条良経の一首。「卷二十九 雜十一」に所収する。「日文研」の「和歌データベース」で確認した(同サイトの通し番号で「13904」)。そこでは、確かに、

   *

 すきふかき かたやまかけの したすすみ

       よそにそすくる ゆふたちのそら

   *

となっている。

「唐杉《からすぎ》」漠然とした中国伝来の杉類のことか。とすれば、既に述べた通り、スギ科・スギ属でない可能性が、いや高い。

「江戸杉」本邦でスギが大々的に人為植栽されたのは江戸時代である。

「梂(ちゝり)」球果。

「羽州秋田、長木澤」東洋文庫訳の割注では、現在の『秋田県角館市』とするが、角館市には「長木沢」という地名は現存しない。候補は同市街の北にある「真木沢」(グーグル・マップ・データ航空写真)か?

「保太木(ほたき)」「榾木」か。

「鼈木(すつぽんぎ)」「柀」で既出だが、所持する辞書にも載らず、ネットでも掛かってこない。しかし、意味は判る。粘りの強い材質を意っているものであろう。

「臁瘡《れんさう》≪の≫黑く爛(たゞ)るゝ者」東洋文庫訳の割注では、『脛骨部にできる潰瘍』とある。

「阿毛牟夜久牟《アモンヤクン》」不詳。東洋文庫も注しない。]

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