譚 海 卷之十五 諸病妙藥聞書(19)
○うち身のくすり。
黃柏・犬山椒【各一兩。】・明礬【一匁。】
右、三味、細末、酢に、ときぬれば、治する事、妙也。
[やぶちゃん注:「犬山椒」双子葉植物綱ムクロジ目ミカン科サンショウ属イヌザンショウ 変種イヌザンショウ Zanthoxylum schinifolium var. schinifolium 。当該ウィキによれば、『果実を煎じた液や葉の粉末は漢方薬に利用される』。『樹皮や果実を砕いて練ったものは湿布薬になる』とあった。]
○又、一方。
療治所、下野(しもつけ)栗橋より五里、江戶より十六里有(あり)。「ぢうでう坂」まきの甚右衞門と云(いふ)百姓也。右かたへ、尋行(たづねゆく)べし。骨のおれたる「うで」も、引(ひき)ちがひたるにても、みな直し、もとの如くする也。奇妙。
[やぶちゃん注:「引ちがひたる」肉離れのことか。]
○又、一方。
足をくじきたるを治する方、よろし。前に出(いづ)。
[やぶちゃん注:「(10)」の「○足を、くじきたるを、治す方。」。]
○又、一方。
靑松葉を手一束に切(きり)、酒に煎じ、其酒を、醉(ゑふ)ほど、のましむ。醉(ゑひ)て、其人、ねぶる也。ねぶりさむるとき、必(かならず)、吐(はく)也。其後(そののち)、再(ふたたび)、うち身、起(おこ)る事、なし。しかふして、「安神散(あんしんさん)」か、「龍王湯(りゆうわうたう)」一貼(いつてふ)、服すべし。血を、とゝのふる也。
但(ただし)、怪我せし時、目・口より、少しにても、血の出(いで)たるには、此方、用(もちゆ)るといヘども、きく事、なし。
[やぶちゃん注:「安神散」サイト「おきぐすり屋」のこちらを見られたい。
「龍王湯」小学館「日本国語大辞典」に、『江戸時代、女性特有の病気や避妊に用いた煎じ薬』とあるが、ちょっと怪しいし、違うな。]
○又、一方。
水一升・酢一合・鹽一合
右、三味を、まじへ、せんじつめ、痛所(つうしよ)を、あらふべし。
○又、一方。
「にかわ」を、とき、付(つく)べし。
[やぶちゃん注:「おいおい!」と言いたくなったが、考えてみると、効果あるかも知らんね。]
○又、一方。
鳥賊魚(いか)、甲を、けづり、「そくい」にまぜて、痛所へ、はるべし。「いかのかう藥」店に有(あり)。
[やぶちゃん注:「そくい」「續飯」。既出既注だが、再掲しておくと、飯粒を練りつぶして作った粘りけの強い糊のこと。]
○年をへて、打身おこるには、
大根を、澤山に、おろし、痛所へ付(つく)べし。殊の外、通じ、痛(いたみ)、こらへがたき程也。取(とり)かへ、取かへ、三、四度も、つくれば、通じもなく、こらへ安く成(なる)也。其時に止(やむ)ベし。大根、初めは、しみて、いたみ、こらへがたし。灸をすうるやう也。「大こん」のからみ、骨に、とほりて後は、あつく、こらへがたきも、うすく成る也。
[やぶちゃん注:「通じもなく」不詳。「痛みが続かなくなって」の意か。]
○やけどのくすり。
紫の切(きれ)を黑燒にして、胡麻油にて、とき、つくべし。
○又、一方。
あつ灰(ばひ)を、水にひたし、付(つく)べし。
○又、一方。
玉子の油を付(つく)べし。玉子を煮て、其鍋を傾けおけば、油、出(いづ)るを、綿に、しめして、とるべし。
○又、一方。
南天葉(なんてんのは)を摺鉢にて、すり、其汁を、度々、付(つく)べし。
○又、一方。
新しき「あはび貝」へ水を入(いれ)て、石にて摺(する)時は、白き水に成(なる)也。それを付(つく)れば、治す。尤(もつとも)、度々(たびたび)付べし。
○又、一方。
ふるき家の百年もへたる竈(へつつい)を、くづしたる下に、灰の、「たどん」ほどに、かたまりたる物、有(あり)。それを、へがしへがし、すれば、赤色也。赤色を、へがせば、中に「むくろじ」ほどにてあるは、朱のいろのごとし。是、正眞(しやうしん)の「伏龍肝(ぶくりゆうかん)」也。甚(はなはだ)、得がたきもの也。是を、すこし、水にて、とき、「やけど」のうへに、ぬる時は、塗(ぬる)かたはしより、いたみ、とまる。奇妙の方也。
[やぶちゃん注:「伏龍肝」「株式会社ウチダ和漢薬」公式サイトの「ブクリュウカン(伏龍肝)」を見られたい。]
○又、一方。
靑菜の汁にて、「さとう」を、とき、付べし。
○又、一方。
鹽を、「めしつぶ」にまぜて、付べし。
○又、一方。
生醬油(きじやうゆ)を付べし。
○又、一方。
里芋を「わさびおろし」にて、すり、「さとう」をまぜ、付べし。又、山いも・黑ざとう、玉子の白味にて、とき、付べし。
○又、一方。
黃柏、黃と白と「かば色」と三品、等分にして、「ごまの油」にて、とき、付るも、よし。
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