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2024/05/09

「和漢三才圖會」植物部 卷第八十二 木部 香木類 木犀花

 

Mokusei

 

もくせい   巖桂

       【毛久世伊】

木犀花

 

 

本綱巖桂此箘桂之類而稍異其葉不佀柹葉亦有鋸齒

[やぶちゃん字注:「佀」は「似」の異体字。]

如批杷葉而粗澀者有無鋸齒如巵子葉而光潔者叢生

[やぶちゃん字注:「巵子」は「梔子」(クチナシ)の別語。]

巖嶺間其花有白者名銀桂黃者名金桂紅者名丹桂有

秋花者春花者四季花者逐月花者其皮薄而不辣不堪

入藥惟花可收茗浸酒鹽漬及作香茶髮澤之類耳

花【辛温】 同百藥煎・孜兒茶作膏餅噙生津辟臭化痰治

 䖝牙痛

△按木犀葉似海石榴而畧長有鋸齒五六月開小花香

 單淡白色此所謂銀桂矣未見黃及紅者也考其主治

 則入透頂香外卽《✕→郞》藥而可矣

𤲿譜云木犀葉邊如鋸齒而紋麁者其花香甚灌以楮糞

[やぶちゃん字注:「麁」の上部は「分」が乗っているが、異体字として見当たらないので、「麁」とした。]

花茂蠶沙壅之亦可

 

   *

 

もくせい   巖桂

       【≪和名≫「毛久世伊」。】

木犀花

 

 

「本綱」に曰はく、『巖桂《がんけい》は此れ、箘桂《きんけい》の類にして、稍《やや》異《い》なり。其の葉、柹《かき》の葉に佀《に》ず、亦、鋸齒《のこぎりば》、批杷の葉のごとくにして、粗澀《そそふ》の者、有り。鋸齒、無くして、巵子(くちなし)のごとくにして、葉の光潔《くわうけつ》≪なる≫者、有り。巖《いはほ》≪の≫嶺《みね》の間に叢生す。其の花、白き者、有り、「銀桂」と名づく。黃の者、「金桂」と名づく。紅なる者、「丹桂」と名づく。秋、花さく者、春、花さく者、四季、花さく者、月を逐《お》ひて、花さく者、有り。其の皮、薄くして、辣(から)からず、藥に入るゝに、堪へず。惟《ただ》、花を收めて茗《ちや》とすべし。酒に浸し、鹽に漬け、及び、香茶・髮澤《はつたく》の類に作るのみ。』≪と≫。

[やぶちゃん字注:「佀」は「似」の異体字。「巵子」は「梔子」(クチナシ)の別語。]

『花【辛、温。】 「百藥煎(ひやくせんやく)」・「孜兒茶(ひきちや)」と同じく、膏餅《かうべい》に作り、噙(ふく)めば、津《つばき》を生じ、臭《くさき》を辟《さ》け、痰を化《くわ》し、䖝牙《むしば》の痛みを治す。』≪と≫。

△按ずるに、木犀の葉は、海石榴(つばき)に似て、畧(ちと)、長く、鋸齒、有り。五、六月、小花を開く。香《かをり》≪ある≫單《ひとへ》の淡白色≪のもの≫、此れ、所謂、「銀桂」か。未だ黃及び紅の者、見ざるなり。其の主治を考ふるに、則ち、「透頂香(とうちんかう)」・「外郞藥(ういらう《やく》」に入れて、可なり。

「𤲿譜」に云はく、『木犀の葉の邊《まはり》、鋸齒のごとくして、紋、麁《あら》き者、其の花、香《か》、甚し。灌《そそ》ぐに、楮糞《かうぞこえ》を以つてすれば、花、茂る。蠶沙(さんしや)を、之れに壅(こえ)して、亦た、可なり。

 

[やぶちゃん注:中国語の「木犀」は、

双子葉植物綱シソ目モクセイ科オリーブ連モクセイ属モクセイ Osmanthus fragrans 等の常緑香木の総称

である。既に何度も述べた通り、中国では「桂」の代表種の一つである。良安の「本草綱目」の初めの引用は、「卷三十四」の「木之一」「香木類」の「桂」の「集解」終りの部分からの引用で、「漢籍リポジトリ」のこちらの、ガイド・ナンバー[083-23b]を忠実に引用してある。「花」は[083-24a]でこれも確かな引用である。

「巖桂」これは、モクセイ科Oleaceaeの常緑小高木のうち、

モクセイ属モクセイ変種キンモクセイ Osmanthus fragrans var. aurantiacus

同属モクセイ変種ウスギモクセイ(薄黄木犀)Osmanthus fragrans var. thunbergii

同属モクセイ変種ウスギモクセイ品種ギンモクセイOsmanthus fragrans var. aurantiacus f. aurantiacus

)の総称であるが、一般には、特に最後のギンモクセイを指す

「箘桂《きんけい》」独立項で既出。

「粗澀《そそふ》」音(漢音)の現代仮名遣は「ソウ」。これは、葉にある葉脈が網目状になっている網脈のことを指す

「巵子(くちなし)」リンドウ目アカネ科サンタンカ亜科クチナシ連クチナシ属クチナシ Gardenia jasminoides の異名漢字表記。その強い芳香は邪気を除けるともされ、庭の鬼門方向に植えるとよいともされ、「くちなし」は「祟りなし」の語呂を連想をさせるからとも言う。真言密教系の修法では、供物として捧げる「五木」(梔子・木犀・松・梅花・榧(かや:裸子植物門マツ綱マツ目イチイ科カヤ属カヤ Torreya nucifera )の五種の一つ。

「光潔《くわうけつ》」東洋文庫訳では、『光潔(つややか)な』と訓読している。

「銀桂」前掲のギンモクセイ。

「金桂」これは東洋文庫では、キンモクセイではなく、「アサギモクセイ」とするが、「アサギモクセイ」という独立種は存在しない。ネットを管見するに、これは前掲のウスギモクセイの異名であろう。松村忍氏のサイト「庭木図鑑 植木ペディア」の「ウスギモクセイ」の解説中に、『ややこしいが』、『中国ではウスギモクセイを「金桂」または「銀桂」と呼び、キンモクセイは「丹桂」、ギンモクセイは「桂花」と呼ぶ』とあった(太字は私が附した。

「丹桂」こちらが、現行のキンモクセイ(金木犀)の漢異名である。

「秋、花さく者、春、花さく者、四季、花さく者、月を逐《お》ひて、花さく者、有り」一般に「木犀」というと、既に述べた通り、本邦の現行では、普通は代表種としてギンモクセイを指すが、ギンモクセイの花期は、九月から十月で、花は白色である。キンモクセイも同期で、花はオレンジ色。アサギモクセイも九月であるが、宮崎県では時に二~三月に開花すると、「国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所 九州支所」の「ウスギモクセイ」にはあったので、中国は亜寒帯から熱帯まで広く、低地から高々度の高山まであることから、花期に大きな幅があり、こうした謂いになったものであろう

「茗《ちや》」「茶」に同じ。

「髮澤《はつたく》」東洋文庫訳では割注で『(かみをつややかにする)』とある。

「百藥煎(ひやくせんやく)」「阿煎藥」(あせんやく)の別称。インド原産のマメ科セネガリア属アセンヤクノキ Acacia catechu の樹枝を乾燥し、水煎した液を濃縮乾燥した塊状エキス。「ペグ阿仙薬」と称されるが、現在、本邦には輸入されておらず、代わりに、アカネ科Rubiaceaeの「ガンビール阿仙薬」が使われている(サイト「家庭の中医学」のこちらに拠った)。

「孜兒茶(ひきちや)」「碾茶・挽茶」で、緑茶をひいて粉にした抹茶のことであろう。

「膏餅《かうべい》」半軟体の餅のように固めたものを言うか。

「噙(ふく)めば」口に含めば。

「津《つばき》」その刺激で唾液が盛んに出ることを言っている。

「臭《くさき》を辟《さ》け」口臭を抑え。

「痰を化《くわ》し」痰を除き。

「䖝牙《むしば》」「蟲齒」。「䖝」は「虫(蟲)」の訛字(誤用漢字)である。

「海石榴(つばき)」良安の解説であるから、ツツジ目ツバキ科 Theeae 連ツバキ属ヤブツバキ Camellia japonica を指す。

「透頂香(とうちんかう)」薬の名。以下の「外郞藥(ういらう《やく》」、「外郎(ういろう)」に同じ。元の礼部員外郎で、応安年間(一三六八年~一三七五年)に日本に帰化した陳宗敬(他に延祐・順祖などの名が伝えられるが、詳細事績不詳)が、博多で創製し、後、外郎家を名乗り、その子孫が京都で製したという。室町時代に外郎家が北条氏綱に献上してから、相模国小田原の名物となった。口中を爽やかにし、頭痛を去り、痰を切ると言われ、また、戦陣の救急薬としたともいう。公家が冠の中に入れて髪の臭気を去るのに用いたところからの名である。歌舞伎の「外郎賣」の早口言葉で大ブレイクをした。現在も小田原に店舗があり、私も何度か行ったことがある。

「𤲿譜」「八種畫譜」。明の黄鳳池の編。「唐詩五言画譜」・「新鐫六言唐詩画譜」・「唐詩七言画譜」・「梅竹蘭菊四譜」・「新鐫木本花鳥譜」・「新鐫草本花詩譜」・「唐六如画譜」・「選刻扇譜」から成る。

「楮糞《かうぞこえ》」楮から作った肥料らしい。詳細不詳。ウィキの「コウゾ」によれば、『コウゾは、ヒメコウゾとカジノキの雑種』(交雑種)『という説が有力視されている』(学名もバラ目クワ科コウゾ属コウゾ Broussonetia × kazinoki 。)『本来、コウゾは繊維を取る目的で栽培されているもので、カジノキは山野に野生するものであるが、野生化したコウゾも多くある』。『古代においては、コウゾとカジノキは区別していない』とあった。

「蠶沙(さんしや)」蚕(かいこ)の糞。

「壅(こえ)」肥(こえ)。肥料。]

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