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2024/05/08

「和漢三才圖會」植物部 卷第八十二 木部 香木類 桂

 

Katura

 

かつら  桂

     【和名加豆良】

     肉桂之桂名

      女加豆良

 

 

本綱桂葉如柏葉澤黒皮黃心赤謂之單字桂不藥入用

△按本朝有單字桂者其葉圓似萩葉而木心赤堅而

 易斫用作碁枰【名赤木】或爲木屐齒良尾州奧州及阿波

 土佐多出之蓋不似柏檜葉別此一種乎

 

   *

 

かつら  桂

     【和名「加豆良《かつら》」。】

     肉桂の桂《かつら》を、「女加

     豆良(めかつら)」と名づく。

 

 

「本綱」に曰はく、『桂は、葉、柏(かえ)の葉のごとく、澤《つややかなる》黒。皮、黃、心《しん》、赤≪し≫。之れを「單字桂《たんじけい》」と謂ふ。藥に、入用《にふよう》せず。』≪と≫。

△按ずるに、本朝に「單字桂」といふ者、有り。其の葉、圓《まろく》、萩の葉に似て、木≪の≫心、赤く、堅く、斫《はつり》易し。用ひて、碁枰《ごばん》に作る【「赤木《あかぎ》」と名づく。】或いは、木屐《ぼくり》の齒と爲《な》して、良し。尾州・奧州、及び、阿波・土佐、多く、之れを出だす。蓋し、柏・檜の葉に似ず。別に、此れ、一種か。

 

[やぶちゃん注:「桂」について、東洋文庫の後注には、『中国の桂はクスノキ科肉桂をさす。日本のカツラはカツラ科で、増淵法之氏(『日本中国植物名比較対照辞典』)によれば中國の連香樹とされる』とある。しかし、既に述べたが、再掲すると、漢方でニッケイの皮の薄いものを「桂皮」(ケイヒ)と呼ぶが、これは漢代に書かれた最古の本草書「神農本草經」の上品に「箘桂」及び「牡桂」の名で収載されている。本邦の国語辞典で、「桂」や「牡桂」を引くと、双子葉植物綱ユキノシタ目カツラ科カツラ属カツラ Cercidiphyllum japonicum の異名とするが、しかし、これは無批判に受け取ると、致命的な大火傷を受けるハメになる。そもそもが、

中国語の「桂」は元来は本邦の「カツラ」ではなく、全く別種である「肉桂」(ニッケイ)や、「木犀」

双子葉植物綱シソ目モクセイ科オリーブ連モクセイ属モクセイ Osmanthus fragrans 等の常緑香木の総称

だからである。而して、東洋文庫の編者が、本「桂」で、本来の中国の「桂」がモクセイをも指していることを指摘せずに、以上の「肉桂」をのみを指示する後注を附していることは、明らかに杜撰の極みと言うべきことなのである。先に示した注の『中国の連香樹』とは、中文ウィキ(正式サイト名は「維基百科」)の「(「連香樹」の簡体字表現)の右上の多言語検索「文A 25种语言」で「日本語」を開くまでもなく、それは確かに、本邦のウィキの「カツラ」なのであるが、

中文ウィキの「肉桂属」や、そこでリンクされている中文の各種ニッケイ属の種のページを見ると判るが、どこにも、ニッケイ属の解説に、完全な単体の漢字で「桂」と解説する記載は、載っていない

のである。これは、

中国では、少なくとも現在は、「ニッケイ属」を単に「桂」と記すことは一般的ではない

ことが判るのである。

 さて、本項の「本草綱目」の引用だが、今までと同じく、「卷三十四」の「木之一」「香木類」の「桂」の「集解」の記載のパッチワークである。「漢籍リポジトリ」のこちらの、ガイド・ナンバー[083-15a]の七行目以降を拾って見られたい。

「柏(かえ)」この良安のルビはするべきではなかったことは、もう、言うまでもない。「かえ」という訓は、本邦のヒノキ・サワラ・コノテガシワの古称であるからである。中国語の「柏」は本プロジェクト冒頭の「柏」で述べた通りで、中国と日本では、全く明後日の種群を指すからである。根っこで、この致命的誤謬が複数あるため、この錯誤は元気な亡霊どものように、何度も蘇ってくるのである。いちいち、注で示すのも面倒なので、そこはしっかり読者の方々が、各人、基礎批判の視点を保持し続けてお読み戴くよう、お願い申し上げるものである。

「單字桂」検索をかけても意味不詳。この名称は現代中国でも、現代の日本でも、生き残っていないようで、ネット検索自体にこの文字列では掛ってこない。国立国会図書館デジタルコレクションで検索したところ、物になりそうに見えたのは、「佩文韻府」卷六十~六十七(蔡升元 等編・明治一八(一八八五)年鳳文館刊)のここだったが(右丁後ろから七行目下方)、

   *

單字桂【本草陶弘景―――爲葉似柏者非也柏葉之桂非治病之桂也蘇類頌以欽州者爲――之―亦非也】

   *

で、「ちゃうちゃう!」の連続で話にならん! 良安の言う本邦のそれは、先に示したヒノキ・サワラ・コノテガシワのどれかのように私には思われる。ヒノキより柔らかく、加工しやすい(「斫《はつり》易し」)となると、サワラの可能性が高いように私には思われる。しかも、サワラ材には「白」とは別に、「赤味」と呼ぶ「くすんだ薄い黄褐色」の材があるからである。

「柏・檜の葉に似ず。別に、此れ、一種か」遂に良安は根本的錯誤に気づいていない。ちょっと、哀しいね。なお、次の項は「木犀花」(モクセイ)である。]

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