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2024/05/19

「和漢三才圖會」植物部 卷第八十二 木部 香木類 木宻

 

Sikimi

 

しきみ   宻香  沒香

      多香木 阿𨲠

      榓【音宻唐韻

        云香木也

        和名之木美】

木宻

      又枳椇木亦名

モ ミツ  木宻與此不同

[やぶちゃん字注:「榓」は底本では(つくり)が「宻」になっている「グリフウィキ」のこれだが、表示出来ないので、そこに示された「櫁」の異体字である、これにした。以下の本文でも同様に処理した。]

 

本綱此亦沈香之類形狀功用兩彷彿樹長丈餘皮青白

色葉似槐而長花似橘花而大子黒色大如山茉萸酸甜

可食其根本甚大伐之四五歳取不腐者爲香

氣味【辛温】 辟臭氣去郡《✕→邪》鬼尸注《✕→疰》心氣

△按志木美武藏伊豆淡路丹波播磨多有之折枝供佛

 葉似冬青而淺青色此與本草所言【木宻葉似槐而長沈香葉似冬青葉】

 稍異摘葉畧有椒氣六月開細白花結實靑白色如天

 蓼子熟則裂破有中子五六顆大如豆而潤滑味甘人

 食之多食則醉恐可有小毒山雀喜食之呼枝葉稱花

 採皮及葉乾未《✕→末》焚香名之抹香浮圖一日不可闕之辟

 氣《✕→鬼氣》尸注《✕→疰》悪氣之功宜哉登愛宕山人必求榓歸其葉不

 着水枯亦不落如雷震非常時燒於竃亦有𢴃

                           後鳥羽院

  隱岐国にてさなからや仏の花におらせまし榓の枝に積もるしら雪

 

   *

 

しきみ   宻香《みつかう》  沒香《もつかう》

      多香木《たかうぼく》 阿𨲠《あさ》

      榓【音「宻」。「唐韻」に

        云はく、『香木なり。

        和名「之木美」。】

木宻

      又、「枳椇木(けんぼなし)」。亦、

      「木宻」と名づく≪も≫、此れと

モ ミツ  同じからず。

 

「本綱」に曰はく、『此れも亦、沈香の類なり。形狀・功用、兩《ふた》つながら、彷-彿(さもに)たり。樹の長《た》け、丈餘。皮、青白色、葉は槐《えんじゆ》に似て、長く、花は橘《きつ》の花に似て、大なり。子《み》は、黒色にして、大なり。山茉萸《さんしゆゆ》のごとく、酸-甜《あまずつぱく》、食ふべし。其の根本《ねもと》、甚だ大なり。之れを伐りて、四、五歳、腐らざる者を取りて、香《かう》と爲《な》す。』≪と≫。

『氣味【辛、温。】 臭氣を辟《さ》け、邪鬼・尸疰《ししゆ》の心氣《しんき》を去る。』≪と≫。

△按ずるに、「志木美」は、武藏・伊豆・淡路・丹波・播磨、多く、之れ、有り。枝を折りて、佛《ほとけ》に供《きやう》す。葉は、冬青(まさき)に似て、淺青色。此れと、「本草」と、言ふ所【『「木宻」の葉は、槐に似て、長く、「沈香」の葉は、冬青の葉に似たり。』≪と≫。】稍(やゝ)異《ことな》れり。葉を摘(むし)れば、畧《ほぼ》、椒《さんしやう》の氣《き》、有り。六月、細≪き≫白花を開き、實を結ぶ。靑白色、「天蓼(またたび)」の子(み)のごとし。熟すれば、則り、裂(さ)け破《やぶ》れて、中《なか》、子《み》、五、六顆、有り、大きさ、豆のごとくにして、潤滑≪にして≫、味、甘し。人、之れを食ふ≪も≫、多く食へば、則ち、醉《ゑふ》。恐らくは、小毒、有るべし。山雀(《やま》がら)、喜びて、之れを食ふ。枝葉を呼んで、「花《はな》」と稱して、皮、及び、葉を採りて、乾《ほし》、末《こな》≪にして≫、香に焚く。之れを「抹香(まつかう)」と名づく。浮圖《ふと》、一日《いちじつ》も之れを闕《か》くべからず。鬼氣・尸𤷮の悪氣を辟くと云ふ[やぶちゃん注:「云」は送りがな中にある。]。之《この》功、宜《むべ》なるかな。愛宕山(あたごやま)に登る人、必ず、榓《しきみ》を求めて歸る。其の葉、水に着《つ》けざれば、枯れても、亦、落ず。雷《かみなり》・震《なゐ》・非常の時、竃《かまど》に燒くも、亦、𢴃《よりどころ》、有り。

                   後鳥羽院

  隱岐国にて

 さながらや仏の花におらせまし

     榓の枝に積もるしら雪

 

[やぶちゃん注:例によって、日中の同定植物が異なる。これには、流石に良安も気づいて、『「本草」』(「本草綱目」を指す)『と、言ふ所【『「木宻」の葉は、槐に似て、長く、「沈香」の葉は、冬青の葉に似たり。』】稍(やゝ)異《ことな》れり』と言ってのであるが、東洋文庫の後注に、『良安は木蜜を櫁とし、これを日本のシキミに當てて考えているが、日本のシキミはシキミ科、中國の木蜜(蜜香)は沈香と同じジンチョウゲ科』であると指摘してある。「本草綱目」の「木蜜」を探すのに少し手間取ったが、恐らく、「維基文庫」の「土沉香」がそれであると思われる。そこに別名で『蜜香樹』があった。則ち、

双子葉植物綱アオイ目ジンチョウゲ科 Thymelaeaceaeジンコウ属アクイラリア・シネンシスAquilaria sinensis

であり、中国固有種で、海南・広東・広西・雲南及び香港に分布する。一方、本邦の「櫁」は、目レベルで異なる、

アウストロバイレヤ目 Austrobaileyalesマツブサ科シキミ属シキミ Illicium anisatum

で、縁もゆかりも全くない、全然違う種で、この仏式の供え物として誰もが知っているところのあれである(当該ウィキを見られたい)。本州から沖縄諸島及び済州島に分布する。

 前者は日本語ウィキがなく、学名で検索すると、本邦の苗の販売サイト等が挙がってくるものの、ベトナム原産などと噓をついており、リンクを張る気にならない。一番いいのは、同種の英文ウィキであろう。さらに、そこを見ると、両者の類似した通性があることが判る。そこには、『この木は、お香や薬に使用される貴重な香木である沈香を産出する。以前は、この木材は、線香や、御香の製造に使用されていた』と言った内容が書かれてあるのである。則ち、ここの『香と爲す』が、それだ。

 一方、本邦の「櫁」=シキミは、仏事に於いて抹香線香として利用されることで知られ、そのためか、別名も多く、「マッコウ」「マッコウギ」「マッコウノキ」「コウノキ」「コウシバ」「コウノハナ」「シキビ」「ハナノキ」「ハナシバ」「ハカバナ」「ブツゼンソウ」などがある。最後の「カウサカキ」は「香榊」で、ウィキの「サカキ」によれば、上代にはサカキ(ツツジ目モッコク科サカキ属サカキ Cleyera japonica )・ヒサカキ・シキミ・アセビ・ツバキなどの『神仏に捧げる常緑樹の枝葉の総称が「サカキ」であったが、平安時代以降になると「サカキ」が特定の植物を指すようになり、本種が標準和名のサカキの名を獲得した』とある。サカキは神事に欠かせない供え物であるが、一見すると、シキミに似て見える。名古屋の義父が亡くなった時、葬儀(臨済宗)に参列した連れ合いの従兄が、供えられた葉を見て、「これはシキミでなく、サカキである。」と注意して、葬儀業者に変えさせたのには、感銘した。因みに、シキミは全植物体に強い毒性があり、中でも種子には強い神経毒を有するアニサチン(anisatin)が多く含まれ、誤食すると死亡する可能性もある。シキミの実は植物類では、唯一、「毒物及び劇物取締法」により、「劇物」に指定されていることも言い添えておく。「小毒」どころではない。注意!

 なお、「本草綱目」の引用は「卷三十四」の「木之一」「香木類」の「蜜香」の独立項で(「漢籍リポジトリ」)、ガイド・ナンバー[083-32b]から始まるが、引用は「集解」の[083-29a]の行目中ほどから冒頭が始まっているものの、以降は、その前の部分数箇所をパッチワークしている。

「唐韻」唐代に孫愐(そんめん)によって編纂された「切韻」(隋の文帝の六〇一年の序がある、陸法言によって作られた韻書。唐の科挙の作詩のために広く読まれた。初版では百九十三韻の韻目が立てられてあった)の修訂本。七五一年に成ったとされるが、七三三年という説もある。参照した当該ウィキによれば、『早くに散佚し』、『現在に伝わらないが、宋代に』「唐韻」を『更に修訂した』「大宋重修広韻」が『編まれている』。『清の卞永誉』(べんえいよ)の「式古堂書畫彙考」に『引く』中唐末期の『元和年間』(八〇六年八月~八二〇年十二月)の「唐韻」の『写本の序文と各巻韻数の記載によると、全』五『巻、韻目は』百九十五『韻であったとされる。この数は王仁昫』(おうじんく)の「刊謬補缺切韻」に『等しいが、韻の配列や内容まで等しかったかどうかはわからない』。『蒋斧旧蔵本』の「唐韻」『残巻(去声の一部と入声が残る)が現存するが、韻の数が卞永誉の言うところとは』、『かなり異なっており、元の孫愐本からどの程度の改訂を経ているのかは』、『よくわからない。ほかに敦煌残巻』『も残る』。「説文解字」の『大徐本に引く反切は』「唐韻」に依っており、かの「康熙字典」が、「唐韻」の『反切として引いているものも』、「説文解字」大徐本の『反切である』とある。

「沈香」先行する『「和漢三才圖會」植物部 卷第八十二 木部 香木類 沈香』を参照されたい。

「槐」マメ目マメ科マメ亜科エンジュ属エンジュ Styphnolobium japonicum 。中国原産で、当地では神聖にして霊の宿る木として志怪小説にもよく出る。日本へは、早く八世紀には渡来していたとみられ、現在の和名は古名の「えにす」が転化したもの。

「橘」これは、双子葉植物綱バラ亜綱ムクロジ目ミカン科ミカン属マンダリンオレンジ Citrus reticulata のこと。当該ウィキによれば、『原産地はインドのアッサム地方で、これが交雑などで変化しながら世界各地に伝播したものと考えられている』もので、一方、本邦の「橘」は、古代を除き(「古事記」に出る「橘」は如何なる種であったかは、現在も確定不能である)、同じミカン属ではあるが、日本固有のタチバナ Citrus tachibana で、種としては、異なる。

「山茉萸」ミズキ目ミズキ科ミズキ属サンシュユ Cornus officinalis当該ウィキによれば、『中国』の『浙江省及び朝鮮半島中・北部が原産といわれ』、『中国・朝鮮半島に分布する』。『江戸時代』の『享保年間に朝鮮経由で漢種の種子が日本に持ち込まれ、薬用植物として栽培されるようになった』、『日本における植栽可能地域は、東北地方から九州までの地域である』とある。

「尸疰」(ししゅ)は鬼邪の気が人体を侵したために、或いは、癆病(宿痾とされた肺結核がそれ)の癆虫の伝染により、胃中に冷滞を惹起し、消化力が無くなって起こる病態。寒熱を発し、精神が錯乱し、沈黙し、苦しい所を特定出来ず、胃中に冷滞があり、熱薬を服しても効かない。長らく患うと、次第に衰えて「尸の疰する所となる」とする。

「心氣」この場合は、「心気の不足した状態」を指す。具体には、動悸・息切れ・全身の倦怠感・精神疲労の症状が増強するなどの病態を言う。

「冬青」バラ亜綱ニシキギ目モチノキ科モチノキ属ソヨゴ Ilex pedunculosa当該ウィキによれば、『和名ソヨゴは、風に戦(そよ)いで葉が特徴的な音を立てる様が由来とされ、「戦」と表記される。常緑樹で冬でも葉が青々と茂っていることから「冬青」の表記も見られる』。但し、『「冬青」は常緑樹全般にあてはまることから、これを区別するために「具柄冬青」とも表記される。中国植物名でも、具柄冬青(刻脈冬青)と表記される』とある。ここは良安に記載だから、ソヨゴでよい。

「椒」山椒。ムクロジ目ミカン科サンショウ属サンショウ Zanthoxylum piperitum

「天蓼(またたび)」ツバキ目マタタビ科マタタビ属マタタビ Actinidia polygama

「山雀(《やま》がら)、喜びて、之れを食ふ」スズメ目スズメ亜目シジュウカラ科シジュウカラ属ヤマガラ亜種ヤマガラ Parus varius varius 。博物誌は、私の「和漢三才圖會第四十三 林禽類 山雀(やまがら) (ヤマガラ)」を見られたい。調べてみたところ、事実であることが判明した。サイト「九州地方環境事務所」内の「アクティブ・レンジャー日記」の「ヤマガラとシキミ」の1」及び「2」(副題「(野山の生物シリーズ)【雲仙地域】」)に(記者は古城かおり氏)、現認例が書かれてあり、後者では、『「ヤマガラはシキミの猛毒に対処する仕組みをもっていると考えられる」という内容の論文を見つけました。さらに「シキミはヤマガラの体内に寄生している生き物を駆除する効果がある」という仮説を立てて研究が行われていることが分かりました』。『シキミについて調べるうちに、他にも分かったことがあります。土葬が一般的だった時代は、毒性の強いシキミを墓地の近くに植え』、『野犬による墓の掘り返しを防いだり、シキミの強い香りで腐臭を消したりしていたとも言われています。今の時代は、抹香や線香の材料として利用されています』とあった。

「浮圖」(ふと)はサンスクリット語「buddha」の漢音写で、元は「仏陀」の意で、そこから広く「僧侶」を指す語となった。

「愛宕山(あたごやま)」現在の京都府京都市右京区嵯峨愛宕町にある山。ここ(グーグル・マップ・データ)。古くから信仰の山であった。良安は京の医師であった。私は山麓の参道入口にある「鮎茶屋平野屋」が大のお気に入りで、二度、行っている。「怪奇大作戦」の実相寺昭雄監督の名作「京都売ります」以来、ずっと訪ねたかった料理屋である。

「後鳥羽院」の和歌は、「後鳥羽院御集」拾遺にある一首。国立国会図書館デジタルコレクションの『列聖全集』第一巻 「御製集」(大正一一(一九二二)年列聖全集編纂会刊)のこちらによれば、

   *

   冬の御歌の中に【一本遠島御百首】

 さながらや佛の花にをらせまし

    樒のえだにつもるしらゆき

   *

とある。]

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