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2024/05/31

「和漢三才圖會」植物部 卷第八十二 木部 香木類 櫰香

 

Kaikou

 

くわいかう     兠婁婆香

櫰香【音懷】   【楞嚴經出】

 

[やぶちゃん注:「兠」は「兜」の異体字。]

 

本綱櫰香江淮湖嶺山中有之大者丈許小者多被※采

[やぶちゃん注:「※」=「𤍫」-「土」+「扌」であるが、こんな漢字は見当たらない。国立国会図書館デジタルコレクションの中近堂版を見ると、「樵」となっている。原本の「※采」の読みは、良安によって『カリトラ』とあることから、訓読では、「樵」に代えた。]

葉青而長有鉅齒狀如小薊葉其香對節生其根狀如拘

𣏌根而大煨之甚香楞嚴經所謂煎水沐浴卽此香也

[やぶちゃん注:「𣏌」は「杞」の異体字。]

 

   *

 

くわいかう     兠婁婆香《とろばかう》

櫰香【音「懷」。】 【「楞嚴經《りようがきやう》」に出づ。】

 

[やぶちゃん注:「兠」は「兜」の異体字。]

 

「本綱」に曰はく、『櫰香、江淮・湖嶺の山中に、之れ、有り。大なる者、丈許《ばかり》、小《ち》さき者、多く樵-采(かりと)らる。葉、青くして、長く、鉅齒(のこぎり《ば》)、有り。狀《かたち》、小-薊(あざみ)の葉のごとく、其の香、節《ふし》に對《たい》≪して≫、生《しやう》ず。其の根の狀、拘𣏌《くこ》の根のごとくして、大きく、之れを煨《やきうづ》め≪れば≫、甚だ香《かんば》し。「楞嚴經」に所謂《いはゆ》る、『水を《→に》煎じて、沐浴す。』と≪あるは≫、卽ち、此の香《かう》なり。

 

[やぶちゃん注:「櫰香」は、中文サイトで幾つも記述があるが、殆んどが、「本草綱目」の引き写しの本草書の記載で、ある日本に研究者の論文を見出したが、実在するかどうかわからないといった叙述だけで、遂にネット上でも、現在の樹木の学名を記すものは、見当たらなかった。「兠(=兜)婁婆香」で調べても、同じであった。「東洋文庫」も科も属も種も、否、対象植物についての注の一つも、ないのである(杜撰! 判らぬのなら、不明と注すべきだ! 底本は百科事典なんだぞッツ!!!)。本植物部は、まだ初っ端であるが、実在しないという樹は、初めてである。良安の評がないのも、少なくとも、比定すべきものが本邦には存在しないからであろう。

 「本草綱目」の当該部は「漢籍リポジトリ」が一向に作動しないので、「維基文庫」の電子化物で調べたところ、「卷三十四」の「木之一」「香木類」の「櫰香の独立項で見たが、良安の当たった版本が異なるのか、「小者多被樵采」に相当する部分が存在せず、「楞嚴經」に載るのは、『壇前根』とのみある。短いので、以下に全文をコピー・ペーストしておく(一部、改行部を普通の同書の書式に代え、句点・括弧閉じるを追加した)。

   *

櫰香
(櫰音懷。)《綱目》

【釋名】兜婁婆香。

【集解】時珍曰︰ 香,江淮、湖嶺山中有之。木大者近葉青而長,有鋸齒,狀如小薊葉而香,對節生。其根狀如枸杞根而大,煨之甚香。《楞嚴經》云︰壇前根。

【氣味】苦,澀,平,無毒。

【主治】頭癤腫毒。碾末,麻脂調塗,七日腐落。(時珍)

   *

「楞嚴經」は二種ある。一つは、秦の名翻訳僧鳩摩羅什訳で、首楞厳三昧について説いた「首楞嚴三昧經」全三巻で、今一つは、「大佛頂如來密因修證了義諸菩薩萬行首楞嚴經」の略名で、全十巻。般剌蜜帝(ばんらみたい)訳とされるが、中国で捏造された偽経と考えられている。修禅・耳根円通などについて禅法の要義を説いた経で、一名を「中印度那陀大道場經」「大佛頂經」と言い、通常、「首楞嚴經」というと、これを指すことが多い、と小学館「日本国語大辞典」にはあった。「大蔵経データベース」で、両経を調べたが、文字列「煎水沐浴」も「壇前根」も、見出せなかった。万事休す。

「江淮・湖嶺」東洋文庫訳の割注を参考にするに、現在の江蘇省・安徽省湖北省・湖南省と、広西チワン族自治区及び広東省北部・湖南省及び江西省南部を東西に走る中国南部最大の褶曲山脈にして、長江水系と珠江水系の分水嶺であり、華中と華南の境界を成している南嶺(五嶺)山脈(位置は当該ウィキを参照されたい)周辺を含む――幻しの香木には相応しい――甚だ呆れるほどの広域に当たる。そんなに広く分布するなら、樹種をある程度、具体に示し得るはずだのに……。

「鉅齒(のこぎり《ば》)」「鉅」には、「かぎのように先が曲がった形」の意があるから、まあ、違和感は薄い。東洋文庫訳は『鋸歯(ぎざぎざ)がある』と意訳している。

「小-薊(あざみ)」キク目キク科アザミ亜科アザミ連アザミ属 Cirsium 、及び、それに類する植物の総称。但し、日中辞書では、現代中国語では、特にアレチアザミ Cirsium segetum (中国シノニム Cephalonoplos setosum )を指定している。このアレチアザミは朝鮮・中国(長江流域以北)産で、本邦では対馬にのみ自生する。

「節《ふし》に對《たい》≪して≫、生《しやう》ず」東洋文庫訳では、『羽状複葉で節のところに対生する』とある。判りがいい。

「拘𣏌」ナス目ナス科クコ属クコ Lycium chinense の根皮は、漢方で清涼・強壮・解熱薬などに用い、「地骨皮」「枸杞皮」と呼ぶ。

「煨《やきうづ》め≪れば≫」東洋文庫訳では、割注で、『(煨(や)く(埋』(うず)『め火』(び)『にうめる)』とある。これを参考に読みを振った。白水社「中国語辞典」では、『1 とろ火で時間をかけて煮込む』、『2 直接』、『火・灰の中に入れて蒸し焼きにする』とあった「2」を採用した。]

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