譚 海 卷之十五 諸病妙藥聞書(11)
○大便、けつする[やぶちゃん注:「結する」。便秘すること。古くは「祕結」と言ったのである。]とき。
野に自然と生じたる黃菊のはなをとりて、「らんびき」にて、そのあぶらを、とりおきたるを、一しづく、なむれば、心よく通ず。
[やぶちゃん注:「らんびき」「譚海 卷之一 同國の船洋中を渡るに水桶をたくはへざる事幷刄物をろくろにて硏事」の私の「らんびき」の注を参照されたい。]
○又、一方。
木瓜(きうり)を、みそしるに、にて、くふときは、ひけつ、きはめて、通ずるなり。「きうり」を陰ぼしにして、たくはへおき、冬も用(もちゆ)べし。
[やぶちゃん注:「木瓜」ここは胡瓜(きゅうり)のこと。]
○又、一方。
肉蓯蓉(にくじゆよう)三兩を、酒、三わんに、いれて、一わんに、せんじつめて、飮(のむ)べし。
[やぶちゃん注:「肉蓯蓉」シソ目ハマウツボ科ホンオニク属ホンオニク Cistanche salsa の肉質茎を乾燥した生薬。中国内陸部から内蒙古・中央アジアの乾燥地に分布する。本邦には植生しない。当該ウィキによれば、『滋養強壮作用を有する生薬として用いられる。ニクジュヨウは黒褐色で甘い香りがする。ニクジュヨウの主な有効成分はフェニルプロパノイド配糖体やモノテルペンである』とある。多分、知らないというお方が多いだろうが、結構、それを用いたものを日本人は飲んでいる。『ニクジュヨウは、薬用酒である養命酒(養命酒製造)、遼伝来福酒(薩州濵田屋』・『プラントテクノロジー』『)、生薬配合の滋養強壮剤であるゼナ(大正製薬)、ナンパオ(田辺三菱製薬)、ユンケル黄帝ゴールド(佐藤製薬)、ユースゲンキング(エスエス製薬)などに配合されている』とあるからである。]
○又、一方。
滑石(かつせき)を「めしつぶ」にて、ねり、かみ[やぶちゃん注:「紙」。]へ、つけ、臍より、一寸したへ、はるべし。
[やぶちゃん注:「滑石」(かっせき)は、珪酸塩鉱物の一種で、フィロケイ酸塩鉱物(Phyllosilicates)に分類される鉱物、或いは、この鉱物を主成分とする岩石の名称。世界的には「タルク(talc:英語)」のほか、「ステアタイト」(Steatite:凍石)・「ソープストーン」(Soapstone:石鹸石)・「フレンチ・チョーク」(French chalk)・「ラバ」(Lava:原義は「溶岩」。本鉱石は変成岩である)とも呼ばれる。Mg3Si4O10(OH)2。水酸化マグネシウムとケイ酸塩からなる鉱物で、粘土鉱物の一種(当該ウィキ他に拠った)。]
○又、一方。「三黃湯(さんわうたう)」と云(いふ)。
黃連(わうれん)・大黃(だいわう)・黃苓(わうごん)、右、三味、目方、各、等分。
右、三味、「粉ぐすり」なりと、「せん藥」にしてなりとも、ふくすべし。たゞし、少(すこし)づつ、用(もちゆ)べし。おほくもちゆるときは、くだりすぎて、なんぎする也。
[やぶちゃん注:「三黃湯」サイト「Kracie」のここに載る「漢方三黄瀉心湯」。但し、そこに「成分」として『ダイオウ1.0g、オウゴン・オウレン各0.5gより抽出』とあり、全等分ではない。解説に、『「三黄瀉心湯」は、漢方の古典といわれる中国の医書『金匱要略[キンキヨウリャク]』に収載されている薬方で』、『比較的体力があり、のぼせ気味で、顔面紅潮し、精神不安や便秘などの傾向のある方の高血圧の随伴症状(のぼせ、肩こり、耳なり、頭重、不眠、不安)、鼻血、痔出血、便秘』(☜)、『更年期障害、血の道症に効果があ』るとある。
「黃苓」「黃芩」に同じ。、双子葉植物綱キク亜綱シソ目シソ科コガネバナ Scutellaria baicalensis の根から採れる生薬。漢方にあっては婦人病の要薬として知られる。血管拡張・血行循環促進・産後の出血・出血性の痔・貧血・月経不順といった補血作用(但し、多くは他の生薬との調合による作用)を持ち、冠状動脈硬化性心臓病に起因する狭心症にも効果があるとする。]
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