「和漢三才圖會」植物部 卷第八十二 木部 香木類 水木犀
もつこく 【俗云毛豆古久】
水木犀
本綱木犀一種葉無鋸齒如巵子葉而而光叢潔生巖嶺
間謂之巖桂【一種有鋸齒如批杷葉而粗澀者卽木犀也】
△按水木犀今人家庭園植之難長而有大木小枝多毎
枝梢五七葉最茂狹長厚光澤背淡夏開小白花其香
似木犀花香結子三四顆作簇有彩色自裂中有赤子
種其子亦生其葉四時不凋秋有紅葉者新古相襍亦
美
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もつこく 【俗「毛豆古久」と云ふ。】
水木犀
「本綱」に曰はく、『木犀の一種。葉、鋸齒、無く、巵子(くちなし)の葉のごとくして、而《しか》も、光潔《くわうけつ》にして、巖嶺《がんれい》の間《かん》に叢生《そうせい》す。之れを、「巖桂《がんけい》」と謂ふ【一種、鋸齒、批杷の葉ごとくにして、粗澀《そそふ》の者、有り。卽ち、「木犀」なり。】。』≪と≫。
△按ずるに、「水木犀《もつこく》」は、今≪の≫、人家≪の≫庭園に之れを植う。長《たけ》し難くして、而≪れども≫、大木、有り。小枝、多く、枝の梢《こづえ》毎《ごと》≪に≫、五、七葉≪と≫、最も茂《しげ》し。狹長≪にして≫、厚く、光澤≪あり≫、背《うら》、淡し。夏、小白花を開く。其の香、「木犀花」の香に似て、子《み》を結ぶこと、三、四顆、簇《むれ》を作《な》し、彩色、有り。自《おのづか》ら裂(さ)けて、中に赤子《あかきみ》、有り。其の子を種《う》ゑても、亦、生ず。其の葉、四時、凋(しぼ)れず。秋、紅葉なる者、有り、新・古≪の葉≫、相襍(《あひ》まぢ)れる≪も≫、亦、美なり。
[やぶちゃん注:これは、本邦の漢字表記「木斛」で、現代中国も日本も同じで、
ツツジ目モッコク科モッコク属モッコク Ternstroemia gymnanthera
であるとしてよいだろう。但し、現行では「水木犀」の漢語は生きていないこと(ネットで中文で調べても、この単語が全く掛かってこないのである)と、上記の通り、シソ目モクセイ科オリーブ連モクセイ属 Osmanthus とは縁もゆかりもない別種である。
ウィキの「モッコク」によれば、『別名でイイクともよばれる[1]。江戸五木の一つ。モチノキやマツと並び「庭木の王」と称される。中国名は、厚皮香(別名: 日本厚皮香)』。『日本では、千葉県以西の本州沿岸部、四国、九州、南西諸島に自然分布し』、『日本国外では朝鮮半島南部、台湾、中国を経て』、『東南アジアからインドに分布する。暖地の海岸近くの山地に自生する』。『常緑広葉樹の中高木』で、『成長すると樹高は約』六『メートル 』、『時には』十五メートル、『胸高直径』八十『センチメートル』『に達する大木となる。枝が密集して整った樹形をつくり』、『全体としては円錐形のきれいな樹形になる』。『幹の樹皮は暗灰色で滑らか』で、『皮目が多い。若い枝は灰褐色で無毛である』。『葉は互生ながら、枝先に集まる。葉身は長さ』四~七センチメートルの『倒卵状楕円形あるいは狭倒被卵形、あるいは狭倒卵形で、葉先は丸く、葉脈が見えない厚い革質で光沢があり、暗緑色をしている』。『十分に日光が当たる環境では葉柄が赤みを帯びる』。『花期は』六~七月頃、『直径』二センチメートル『ほどの白色から黄色へ変化する花を付け』、『芳香を放つ。花は葉腋に単生し』一~二センチメートルの『柄があって』、『花は』『曲がって下を向く』。『株によって』、『両性花または雄花をつけ、雄花の雌しべは退化している』。『両性花をつける株には、直径』十~十五『10 - 15ミリメートル』『の球形で卵状球形の果実が実り、秋』『になると熟す』。『果実が熟すと』、『厚い果皮が不規則に裂けて、橙赤色の種子を露出する』。『この種子は鳥によって食べられて親木から離れたところまで運ばれると考えられている。また、この種子は樹上で赤く目立つため、アカミノキの別名がある』。『冬芽は半球形や円錐形で紅紫色、多数の芽鱗の重なりが目立つ』。『葉の付け根につき、枝先では輪生状の葉のもとにつく』。『まず』、『葉が展開して新枝が伸び、新枝に花芽ができる』。『葉痕は半円形で、維管束痕が』一『個つく』。『日本では関東地方から沖縄までの範囲で植栽可能である』。『耐寒性はやや劣るものの、性質は丈夫で大気汚染にも良く耐える』。『日なたに植えて育てられるが、耐陰性があり、生長は穏やかである』。『土壌の質は湿りがちな壌土にして』(☜恐らくは、「水木犀」の漢名は、モクセイに似た形状で、花の香りの共通性、及び、ここに示された湿った地面を好むことに由来すると考えられる)。『根を深く張る』。『病虫害に強く、葉が美しく樹形が整うため、公園樹や庭木として日本庭園によく植栽されており、庭のシンボルツリーや主役として扱われ、高級な雰囲気をもたらすことのできる樹種である』。『樹齢を重ねるごとに風格を増すことから「庭木の王様」とされている』(☜良安の謂いと一致する)。『材は緻密で細工物に向き』、『堅く美しい赤褐色をおびる材を床柱のような建材、櫛などの木工品の素材として用いる。また、樹皮は繊維を褐色に染める染料として利用される』。『民間療法では、葉を集めて乾燥し煎じ出したものを腎疾患や肝疾患に用いる』とあった。
「本草綱目」の引用は、例の如く、「卷三十四」の「木之一」「香木類」の「箘桂」の「集解」終りの部分からの引用で、「漢籍リポジトリ」のこちらの、ガイド・ナンバー[083-23a]であるが、問題があって、「水木犀」の名は出てこない。
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如枇杷葉而粗澀者有無鋸齒如巵子葉而光潔者叢生巖嶺間謂之巖桂俗呼為木犀
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則ち、この標題の「水木犀」は、良安が勝手に附した可能性が極めて高いと私は推理するものである。
「巵子(くちなし)」既出既注。リンドウ目アカネ科サンタンカ亜科クチナシ連クチナシ属クチナシ Gardenia jasminoides の異名漢字表記。
「批杷の葉」バラ目バラ科ナシ亜科シャリンバイ(車輪梅)属ビワ Rhaphiolepis bibas の葉は、厚く、堅く、表面が凸凹しており、葉脈ごとに波打ち、而して、葉縁には、波状の鋸歯がある。
「粗澀《そそふ》の者」東洋文庫訳では、割注があって、『(網脈の顕著なもの)』とある。「網脈」とは、葉脈が網目状に伸びた葉脈を「網状脈」と称する。但し、我々の身の周りにある植物の殆んどは、網状脈を持っている。]
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