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2024/05/28

譚 海 卷之十五 諸病妙藥聞書(18)

○癲疳(てんかん)を治する藥。

 蝙蝠(かはほり)の黑燒、七疋分、こしらへ、日々、飮べし。

[やぶちゃん注:「癲疳」癲癇。]

 

○又、一方。

 火屋(ほや)の灰を飮(のむ)時は、治する也。

 

○又、一方。

 下總國葛飾郡駒木村(こまぎむら)、平右衞門と云(いふ)者の方に賣藥あり、一貼(いつてふ)の料代(れうだい)二百錢也。

[やぶちゃん注:「下總國葛飾郡駒木村」現在の千葉県流山市駒木(こまぎ)(グーグル・マップ・データ)。]

 

○洒に醉(ゑひ)たるを、さます方。

 白桃花(はくたうくわ)の花を、陰ぼしにして貯置(をさめおき)、大醉(だいすい)の時、少し、「さゆ」に入(いれ)て飮(のむ)べし。郞座に、醉を、さます也。

 

○酒毒には、

 葛の花を粉にして、白湯(さゆ)にて用(もちゆ)べし。藥店に有(あり)。

 

○水におぼれて死(しし)たる人を生(いき)かへす方。

 先(まづ)、其人を女牛(めうし)の背に、うつむけてくゝりつけ、牛の尻をたゝく時は、牛、そこらを、はしりありく。其度每(そのたびごと)に、死人の腹、おされる故、目・口より、水をはき出す也。扨(さて)、よく水を出(いだ)させて後(のち)、「わら」を燒(やき)たる灰の上に、ふさしめ、前後より、わら火を燒(やき)て、あたゝむれば、其人、息を、ふきかへす。其後に氣付抔(など)與へ、療治すべし。

 

○又、一方。

 溺死せし人には、雞(にはとり)の「とさか」の血を、とりて、のましむれぱ、卽座に、息、出(いで)て、水を吐(はく)也。

 

○水に落(おち)て、水をのみたるを吐(はか)するには、酢を、少し煎じて、のましむべし。腹中の水、殘らず吐(はく)也。

 

○血止(ちどめ)の藥【名「軍中一捻香」。】

 石灰を「寒ざらし」にして貯置(たくはへおき)、六月中、「にら」を取(とり)て摺鉢にて、すり、石灰を、まぜて、陰干にして、ひかたまりたる時、藥硏(やげん)にて、おろし、切疵などに付(つく)べし。「武田家中に、もちゆる、くすり成(なる)。」よし。

 

○又、一方。

 靑地といふ鳥を、黑燒にして付(つく)べし。

[やぶちゃん注:「靑地」本邦で普通に見かけるのは、スズメ目スズメ亜目ホオジロ科ホオジロ属アオジ亜種アオジ Emberiza podocephala 。漢字表記は「蒿雀」「青鵐」で、この「靑地」の「地」は勝手な当て字である。読みは「あをじ」である。博物誌は「和漢三才圖會第四十二 原禽類 蒿雀(あをじ) (アオジ)」を見られたい。]

 

○又、一方。

 狐袋(きつねぶくろ)と云(いふ)物、古き庭に生ずるもの也。夫(それ)を取(とり)て、日に、ほしおく時は、粉に成(なる)也。是を付(つく)るも、よし。

[やぶちゃん注:「狐袋」まず、菌界ディカリア亜界 Dikarya担子菌門ハラタケ亜門ハラタケ綱ハラタケ目ハラタケ科ホコリタケ属ホコリタケ Lycoperdon perlatum であろう。同種は異名を「キツネノチャブクロ(狐の茶袋)」と言う。当該ウィキによれば、『食べられるのは頂部がトゲに被われて内部がはんぺん状の白い幼菌のみで、少しでも着色があるものは悪臭があり食べられない』。『幼菌は食用キノコの中では非常に香りの強い物であるため、人によって好みが分かれるという。内部が純白色で弾力に富んだ若い子実体を選び、柄を除き、さらに堅くて口当たりの悪い外皮を剥き去ったものを食用とする。はんぺんに似た口当たりであるため、吸い物のような薄味の汁物などによく合う。軽く湯がいてから、酢の物、醤油をつけての串焼き、バター炒め、野菜炒め、鍋物などにも合う』とあり、「薬用」の項には、『漢方では「馬勃(ばぼつ)」の名で呼ばれ、完熟して内部組織が粉状となったものを採取し、付着している土砂や落ち葉などを除去し、よく乾燥したものを用いる。咽頭炎、扁桃腺炎、鼻血』(☜ ☞)、『消化管の出血、咳などに薬効があるとされ、また抗癌作用もあるといわれる』。『西洋でも、民間薬として止血に用いられたという』(☜)。『ホコリタケ(および、いくつかの類似種)は、江戸時代の日本でも薬用として用いられたが、生薬名としては漢名の「馬勃」がそのまま当てられており、薬用としての用途も中国から伝えられたものではないかと推察される。ただし、日本国内の多くの地方で、中国から伝来した知識としてではなく』。『独自の経験則に基づいて、止血用』』(☜)『などに用いられていたのも確かであろうと考えられている』とある。]

 

○又、一方。

 「松のは」を、粉にして、ふりかけて、よし。

 

○「きれぢ」・「はしり血」には、

 「靑のり」を、錢(ぜに)のまはりほどにして、火に、あぶり、少し、「おはぐろ」を、あつく、わかしたるを、右の「靑のり」へ、かけて、痛所(つうしよ)へ付(つく)れば、一日の内に、なほる事也。

[やぶちゃん注:『「きれぢ」・「はしり血」』とあるが、基本、同義で、「裂肛」を指す。通常は、硬く太い便によって肛門が傷ついたために発症するため、「切れ痔」・「裂け痔」と呼ぶ。]

 

○「ちどめ」のまじなひ。

 紙を三つに折(をり)て、又、それを、三つに折たるにて、血を押(おさ)ふべし。卽時に、血、とまる也。

 

○「とけつ」・「たんけつ」の藥。

 「くはずいせき」壹味、耳かきにて、ふたつ計(ばかり)飮(のみ)て、とまる也。

[やぶちゃん注:「くはずいせき」「花蕊石」。漢方生剤サイト「イアトリズム」のこちらによれば、基原は『蛇紋石を含む大理石』で、『止血作用、創傷回復、消腫作用、鎮痛作用など』があるとする。]

 

○又、一方。

 「れんこん」を「わさびおろし」にて、すりて、「さゆ」へ、しぼり込(こみ)、のますれば、卽時に治する也。急なる時は、「れんこん」の「しぼり汁」計(ばかり)をも、あたゝめ、用(もちゆ)ベし。

 

○鼻血出(いづ)るには、

 くみだての水を、紙に、ひたし、頭の眞中を冷して、よし。

 

○下血には

 梅ぼしを黑燒にして、「さゆ」にて、飮(のむ)べし。

 

○ふみぬきせしには、

 古たゝみのきれに、沈香、一味、くはへ、細末にして、水にとき、ぬりて、よし。

[やぶちゃん注:これは類感呪術である。]

 

○針・釘など、人の身に立(たち)、肉の内え[やぶちゃん注:ママ。]、入(いり)たる時、

 かまきりのほしたるを細末にして、疵口へ、ぬりおけば、針のかしら、少し、出(いづ)る也。其時、毛拔(けぬき)にても、「くぎぬき」にても、はさみ、ぬきとるべし。

 此方、名「權法散」。甲州高坂彈正家方(はう)。

 

○又、一方。

 鼠の「ふん」、角(かど)あるを、一つ、「めしつぶ」に、すりまぜ、針の立(たち)たる所へ付置(つけおく)ベし。針、「かしら」を出(いだ)す也。

[やぶちゃん注:いや、これは、化膿する危険性が高いな。]

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