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2024/05/18

譚 海 卷之十五 諸病妙藥聞書(12)

○小便不通。

 東海道小田原宿にうりぐすりあり。へその下へ、はりて、きみやうに、通ずるくすり也。

 

○又、一方。

 芝(しば)西の久保大坂屋といふ飛脚屋にて、「うりぐすり」にする也。一つゝみ、代二百文なり。小べん、通じかぬるには、「す」にて、とき、へその下へ、はるベし。大べん、通じかぬるときは、そくゐに、くすりを、すりまぜ、紙につけて、足のうらへ、張(はる)也。

[やぶちゃん注:「そくゐ」「そくいひ」の音変化。飯粒を練り潰して作った、粘り気の強い糊。「そっくい」とも言う。]

 

○又、一方。

 冬瓜(とうがん)を、「かんひやう」のごとく、むきて、陰ぼしにして、たくはへおき、「こんぶ」を、二寸四方ほどに切(きり)て、冬瓜のぶんりやうを、みあはせ、ひとつに、せんじ、その湯を飮(のむ)べし。いたつて、通じをつける也。

[やぶちゃん注:「冬瓜」双子葉植物綱スミレ目ウリ科トウガン属トウガン品種トウガン Benincasa pruriens f. hispida

「かんひやう」「かんぺう」が正しい。「干瓢・乾瓢」で鮨・煮物の具にする、夕顔(ウリ目ウリ科ユウガオ属ユウガオ変種ユウガオ Lagenaria siceraria var. hispida )の白い果肉を細長く剥き、干した食品。]

 

○又、一方。

 「田にし」の實(み)を、なまにて、すりくだき、紙につけ、へそのしたへ、張(はる)べし。

[やぶちゃん注:「田にしの實」この場合、「身」でなく、「實」を用いていることから、生貝を殻ごと摺り砕くことを指している。身だけなら、「くだき」とは言うまい。]

 

○寢小べんを治するには、

 「なめくじり」を、ひとつ、「しろざとう[やぶちゃん注:ママ。]」にまぶして、のむべし。

[やぶちゃん注:「なめくじり」狭義には、軟体動物門腹足綱ナメクジ科ナメクジ属Meghimatium bilineatumの和名であるが、広義の日本産ナメクジは、現在の既知種は四種、推定未知種数は凡そ五種である。但し、生で摂取するのは、現代では、甚だ危険である。ウィキの「ナメクジ」によれば、『種類によっては、生きたまま丸呑みにすると、心臓病や喉などに効くとする民間療法があるが、今日では世界から侵入した広東住血線虫』(脱皮動物上門線形動物門双線綱円虫目擬円形線虫上科 Metastrongyloidea に属するジュウケツセンチュウ(住血線虫)属カントンジュウケツセンチュウ(広東住血線虫)Angiostrongylussyn. Parastrongyluscantonensis )『による寄生虫感染の危険があることが分かっているため』、『避ける』べきである。『オーストラリアでは、ふざけてナメクジを食べ、寄生虫が大脳に感染し、脳髄膜炎で』四百二十『日間』、『昏睡状態に陥り、意識が回復後も脳障害で体が麻痺』八『年後に死亡した例がある』からである。『一方で』、『中国医学では、蛞蝓(かつゆ)という名称で、生薬として使用される。効能は清熱解毒、止咳平喘など』とある。]

 

○「りんびやう」を治するには、

 「きうり」の「つる」を、せんじ、その湯の中へ、「さとう[やぶちゃん注:ママ。]」を入(いれ)て、のむべし。

[やぶちゃん注:「りんびやう」性感染症である淋病。真正細菌プロテオバクテリア門 Proteobacteria βプロテオバクテリア綱 Beta Proteobacteria ナイセリア目 Neisseriales ナイセリア科 Neisseriaceae ナイセリア属  Neisseriaナイセリア・ゴノローエ (淋菌)Neisseria
gonorrhoeae
に感染することにより起こる性感染症。ウィキの「淋病」によれば、名称の「淋」は『「淋しい」という意味ではなく、雨の林の中で木々の葉からポタポタと雨がしたたり落ちるイメージを表現したものである。淋菌性尿道炎は尿道の強い炎症のために、尿道内腔が狭くなり痛みと同時に尿の勢いが低下する。その時の排尿がポタポタとしか出ないので、この表現が病名として使用されたものと思われる』。『古代の人は淋菌性尿道炎の尿道から流れ出る膿を見て、陰茎の勃起なくして精液が漏れ出す病気(精液漏)として淋病を』捉え、“gono”(「精液」)、“rhei”(「流れる」)の意の合成語“gonorrhoeae”と『命名した』(ギリシャ語由来のラテン語であろう)。『男性の場合は多くは排尿時や勃起時などに激しい痛みを伴う。しかし、場合によっては無症状に経過することも報告されている』。『女性の場合は数週間から数カ月も自覚症状がないことが多い。症状があっても特徴的な症状ではなく、単なる膀胱炎や膣炎と診断されることがある』が、『放置すると菌が骨盤内の膜、卵巣、卵管に進み、内臓の炎症、不妊症、子宮外妊娠に発展する場合もある』。『新生児は出産時に母体から感染する』ことが殆んどで、『両眼が侵されることが多く、早く治療しないと失明するおそれがあ』り、以前はこれを「風眼(ふうがん)」と呼んだ。感染者の多かった江戸時代や近代では、温度の低い湯屋(ゆうや:銭湯)で感染して、失明した子を知っている、と四十四年も前、高校時代の老体育教師が保健の授業で語っていたのを思い出す。「浴槽のこういう角のところに菌が集まるんだ。」と絵まで描いて呉れた。]

 

○又、一方。

 車前子(おほばこ[やぶちゃん注:底本のルビ。])を、實も、葉も、根も、生(なま)にて、ひとつに、「すりばち」にて、すりくだきたるを、湯にて飮(のむ)べし。

[やぶちゃん注:「車前子(おほばこ)」シソ目オオバコ科オオバコ属オオバコ変種オオバコ Plantago asiatica var. densiuscula 。「車前草」(しゃぜんそう)とも呼ぶ。懐かしいな。当該ウィキに『子供たちの遊びでは、花柄を根本から取り』、『つ折りにして』、二『人が互いに引っかけあって引っ張り合い、どちらが切れないかを競うオオバコ相撲が知られ』、『スモトリグサ(相撲取り草)の別名もある』とあるが、もう何十年も、子どもらが、それをやっているのを、見たことが、ないよ……。]

 

○淋病痛を治するには、

 土通草【和名「つちあけび」。】右一味を、「りんびやう」のくすりに、くはへ、用(もちゆ)べし。又、此草、一種、みそ汁にて、くひても、よし。

[やぶちゃん注:「土通草」『和名「つちあけび」』単子葉植物綱キジカクシ目ラン科ツチアケビ属ツチアケビ Cyrtosia septentrionalis (シノニム:Galeola septentrionalis )。ナラタケと共生する大型の腐生蘭の一種。和名は、秋に低山を彩る赤い果実を、アケビに見立ててたもの。太くて、長い根茎がある。茎は太く直立し、葉緑体を欠き、褐色、高さ五十センチメートルから一メートルで、ところどころに退化した鱗片葉がある。六~八月、分枝した花序に多数の花をつける。花は黄褐色で,径一・五~二センチメートル程度。花被は、あまり開かない。唇弁は、やや多肉質で、黄色味が強い。果実は肉質で赤くなり、垂れさ下がる。熟しても、裂開しない。北海道から奄美大島まで分布し、落葉樹林の林縁や笹藪などに生える。ツチアケビ属は旧熱帯を中心に約二十種ある。本邦には、今一種、蔓性のツルツチアケビCyrtosia altissima(異名:タカツルラン)が、九州南部・琉球に分布する(以上の主文は平凡社「世界大百科事典」他に拠った)。私は山行の途中、何度か、見かけたが、花も実も、何となく、気持ちの悪いものであった。学名のグーグル画像検索をリンクさせておく。]

 

○又、一方。

 鼠尾草、一味、せんじ、のむべし。

[やぶちゃん注:「鼠尾草」フトモモ目ミソハギ科ミソハギ属ミソハギ Lythrum anceps 。「禊萩」。但し、当該ウィキによれば、『鼠尾草(そびそう)という別名があるが、これはアキノタムラソウ』(シソ目シソ科イヌハッカ亜科アキギリ属アキノタムラソウ  Salvia japonica )『の誤用漢名でもあるので』、『まぎらわしい』。『盆花としてよく使われ、ボンバナ、精霊花(ショウリョウバナ)などの名もある。ミソハギの和名の由来はハギに似て禊(みそぎ)に使ったことから禊萩、または溝に生えることから溝萩によるといわれる。祭事などに用いられるため、その関係の呼び名が豊富で、他にも「盆花」「精霊花」「霊屋草」などとも呼ばれる』。『「千屈菜(みそはぎ)」は秋の季語であ』り、『また、「千屈菜(せんくつさい)」として下痢止めなどの民間薬としてもちいられる』。但し、『本来』、『「千屈菜」(qianqucai)という漢名は、やはり』、『収れん性止瀉薬として下痢に用いられてきたエゾミソハギ』( Lythrum salicaria )『を指すのであり、現在では』、『これはミソハギとは別種とされている』とあることから、津村の言っている「鼠尾草」は確かに現在のミソハギを指しているかどうかは、甚だ怪しい気がする。

 

○痔のくすり。

 芝增上寺地中(ぢちゆう)、淡島明神の社ある寺にて、賣(うる)所の「あぶらぐすり」、もちゐて、きみやう也。指にて、ぬる、くすり也。

[やぶちゃん注:「淡島明神の社ある寺」現在の芝大神宮(グーグル・マップ・データ)であろう。]

 

○又、一方。

 「ねぶの木」の、皮を、さりて、其内にある「あま皮」を陰干にして、夫(それ)をせんじたる汁にて、「あま酒」をつくりて飮べし。

[やぶちゃん注:「ねぶの木」私の偏愛する花を咲かせるマメ目マメ科ネムノキ亜科ネムノキ属ネムノキ Albizia julibrissin 『今日のシンクロニティ「奥の細道」の旅 49 象潟 象潟や雨に西施がねぶの花』に写真を飾ってある。富山県高岡市伏木矢田新町にあった実家には、裏に三メートルはあった合歓の木があったが、花は一度も咲かなかった。そこに家を建てたのは、一九七一年頃だったから、その後、大学の休みに帰郷したものの、やはり花は咲かなかった。調べてみたら、合歓の木は、花を咲かせるようになるには、十年以上かかるとあった。ストリートビューで見たら、もう樹はなかった。何となく寂しい気がした。]

 

○又、一方。

 「腰ひえ」に用ゆ。あらひ藥、よし。

 

○又、一方。

 「なめくじり」を胡麻の油に、ひたしおけば、とけて、白き油になる也。それを痔のいたむ時、つけてよし。但(ただし)、冬、「なめくじり」を求(もとむ)るには、竹藪の落葉をかき分(わけ)てさがす時は、多く、ある也。

 

○又、一方。

 無果花【和名「いちじく」。】・蛇退皮(へびのぬけがら)、

 右、二味、黑燒にして、極上の麝香(じやかう)、少(すこし)計(ばかり)、くはへ、「きぬ」の切れに、つゝみて、痔のところへ、おしあて、おしあて置(おく)ときは、治する也。

 

○又、一方。

 羗蜋の黑燒、ごまのあぶらにて、付(つけ)て、よし。

[やぶちゃん注:「羗蜋」(きやうらう(きょうろう))は二度、既出既注だが、再掲しておくと、恐らく昆虫綱鞘翅(コウチュウ)目多食(カブトムシ)亜目コガネムシ下目コガネムシ上科 Scarabaeoidea及びその近縁な科に属する種のうち、主に哺乳類の糞を餌とする一群の昆虫を指す語である。「食糞性コガネムシ」とも呼ばれる。中文ウィキのその種群を示すそれは「蜣螂」の漢字が当てられている。その日本語版「糞虫」も見られたい。]

 

○又、一方。

 芝、太好庵の「めぐすり」を付(つけ)てよし。

[やぶちゃん注:「芝、太好庵」先の芝大神宮の前にあった薬店。サイト「公益財団法人 瑞鳳殿」の『三代藩主伊達綱宗公313遠忌法要記念ブログ 御身必要のもの―善応殿副葬品「酸漿蒔絵合子」内容物分析調査―』に、『寛永の末に芝明神前宇田川町に太好庵せむし喜右衛門という医者が、「花の露」という薬油を製しており、これは頭髪用の油ではなく、顔にできた吹き出物に効き、顔に艶を与える匂い油であったそうで、現在で言う化粧水や乳液、薬用クリームとかそういったものを想像させます。「花の露」には松脂は含まれていなかったようですが、「伽羅の油」も化粧下地に用いられることもあったとされ、使用法についても一通りではなかったようです』とあった。しかし、「めぐすり」が痔に効くか?

 

○又、一方。

 「しゞみ貝」のせんじ汁にて、あらひて、よし。

 

○又、一方。

 寒中、五寸ぐらゐの鮒(ふな)、いきたるまゝにて、五倍子の粉に、まぶし、黑燒にしたるを細末にして、寒中・蝕寒をかけて、まいてう、空腹に、「さゆ」にて、服すべし。

[やぶちゃん注:「五倍子」ムクロジ目ウルシ科ヌルデ属ヌルデ変種ヌルデ Rhus javanica var. chinensis の葉に、ヌルデシロアブラムシ(半翅(カメムシ)目腹吻亜目アブラムシ上科アブラムシ科ゴバイシアブラ属ヌルデシロアブラムシ Schlechtendalia chinensi)が寄生すると、大きな虫癭(ちゅうえい)を作る。虫癭には黒紫色のアブラムシが多数詰まっており、この虫癭はタンニンが豊富に含まれていうことから、古来、皮鞣(かわなめ)しに用いられたり、黒色染料の原料になる。染め物では空五倍子色(うつぶしいろ:灰色がかった淡い茶色。サイト「伝統色のいろは」こちらで色を確認出来る)と呼ばれる伝統的な色を作り出す。インキや白髪染の原料になるほか、嘗つては、既婚女性及び十八歳以上の未婚女性の習慣であった「お歯黒」にも用いられた。また、生薬として「五倍子(ごばいし)」あるいは「付子(ふし)」と呼ばれ、腫れ物や歯痛などに用いられた。主に参照したウィキの「ヌルデ」によれば、『但し、猛毒のあるトリカブトの根「附子」も「付子」』『と書かれることがあるので、混同しないよう注意を要する』。さらに、『ヌルデの果実は塩麩子(えんぶし)といい、下痢や咳の薬として用いられた』とある。

「をかけて」は「にかけて」の誤記であろう。]

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