「和漢三才圖會」植物部 卷第八十三 喬木類 黃楝樹
わうれんじゆ
黃楝樹
農政全書云黃楝樹生山野中葉似初生椿樹葉而極小
又似楝葉色微𭘧黃開花紫赤色結子如碗豆大生青熟
亦紫赤色葉味苦
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わうれんじゆ
黃楝樹
「農政全書」に云はく、『黃楝樹、山野の中に生ず。葉、初生の椿樹(ヒヤンチユン)の葉に似て、極小。又、楝《あふち》の葉に似、色、微《やや》黃を𭘧ぶ。花を開≪けば≫、紫赤色。子《み》を結≪べば≫、碗豆《ゑんどう》の大いさのごとし。生《わかき》は、青く、熟せば、亦、紫赤色≪たり≫。葉の味、苦し。』≪と≫。
[やぶちゃん注:「黃楝樹」は、
双子葉植物綱ムクロジ目ウルシ科カイノキ属カイノキ Pistacia chinensis
である。「維基百科」の当該種「黃連木」には、別漢名として、『腦心木・爛心木・楷木・黃連茶・孔木・楷樹』が挙げられているばかりだが、中文繁体字のサイト「A+醫學百科」のここに、
「黃楝樹」があり、そこでは、別名を「黃連木」として、「來源」にPistacia chinensis の学名を明記している
から、間違いない。なお、東洋文庫では、どこにも本種を掲げていない。何度も言うが、百科事典の訳で、当該種を比定同定せずに済ますのは、一発退場レッド・カードである。「何、考えてんの?」と呆れるばかりである(さればこそ、植物ド素人の私が、このプロジェクトをやることの僅かな意義があろうかとも言えるのであるが)。以下、当該ウィキから引く(注記号はカットした)。『カイノキ』(『楷樹、楷の木』)は、『同じウルシ科のピスタチオ』(カイノキ属ピスタチオ Pistacia vera )『とは同属で近縁。別名カイジュ、ランシンボク(爛心木)、トネリバハゼノキ、ナンバンハゼ(南蛮櫨)、クシノキ(孔子の木)、オウレンボク、トネリコバハゼ』。『カイノキは、直角に枝分かれすることや小葉がきれいに揃っていることから、楷書にちなんで名付けられたとされる。別名のクシノキは、山東省曲阜にある孔子の墓所「孔林」に弟子の子貢が植えたこの木が』、『代々』、『植え継がれていることに由来する。また、各地の孔子廟にも植えられている。このように孔子と縁が深いことから、学問の聖木とされる』。『また、科挙の進士に合格したものに楷の笏を送ったことから、その合格祈願木とされていた』。『落葉広葉樹の高木。雌雄異株で、樹高は』二十~三十『メートル』、『幹の直径は』一メートル『ほどになる』。『葉は互生し、偶数羽状複葉だが、奇数の葉が混じることがある』とも言われるらしい。『小葉は』五~九『対で、倒卵披針形で、濃い緑色をしている。秋には美しく紅葉し、透き通るような赤色から橙色、しばしば黄色が入り』、『グラデーションになる』。『花は円錐花序で』、四~五『月に葉に先立って花を咲かせる。雄花は淡黄色、雌花は紅色を呈する』。『秋には』五、六『ミリメートル』『 の赤い球形の果実を房状につける。果実は熟すると紫色になる』。『中国原産。東アジアの温暖な地域に自生する。日本には』、大正四(一九一五)『年に孔林で採られた種子が伝えられ、東京都目黒区の林業試験場(現在の林試の森公園)に植えられた』(ということは、良安は原木を知らないということである)。『夏には大きな木陰を提供し、秋には美しく紅葉することから、街路樹、公園や庭園などに植えられる。俗に「学問の木」とされ、稀に学校に植えられたり、盆栽にされる』。『若葉には特異な芳香があり、茶の代用にされるほか、野菜としても食用にされる』。『材質は堅く、心材は鮮黄色で木目が美しい。優良な家具材であり、船材、杖、碁盤などに用いられる』。『種子の』四十二・二六『%が油からなっており(仁部分の油含有率は』五十六・五『%)で、燃料やバイオディーゼル燃料に使用するため栽培されている』とあり、以下、「カイノキ属」として、カイノキを含む十五種が挙げられてある。但し、中文でざっと調べたところでは、中国に同属の異種が自生する記載は、見当たらなかったから、複数種を掲げる必要はないように思われた。
「農政全書」明代の暦数学者でダ・ヴィンチばりの碩学徐光啓が編纂した農業書。当該ウィキによれば、『農業のみでなく、製糸・棉業・水利などについても扱っている。当時の明は、イエズス会の宣教師が来訪するなど、西洋世界との交流が盛んになっていたほか、スペイン商人の仲介でアメリカ大陸の物産も流入していた。こうしたことを反映して、農政全書ではアメリカ大陸から伝来したサツマイモについて詳細な記述があるほか、西洋(インド洋の西、オスマン帝国)の技術を踏まえた水利についての言及もなされている。徐光啓の死後の崇禎』十二『年』(一六三九年)『に刊行された』とある。光啓は一六〇三年にポルトガルの宣教師によって洗礼を受け、キリスト教徒(洗礼名パウルス(Paulus))となっている。以下は、同書の「卷五十四 荒政」(「荒政」は「救荒時の利用植物群」を指す)「木部」にある。「漢籍リポジトリ」のここの、ガイド・ナンバー[054-13b] に、
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黄棟樹 生鄭州南山野中葉似初生椿樹葉而極小又似楝葉色㣲帶黄開花紫赤色結子如豌豆大生青熟亦紫赤色葉味苦
救飢 採嫩芽葉煠熟換水浸去苦味油鹽調食蒸芽曝乾亦可作茶煮飲
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とあった(附帯する影印本画像を確認して、表記が正しいことを確認したので、そのままコピー・ペーストした)。
「椿樹(ヒヤンチユン)」良安が中国音を、わざわざ附していることに安堵する。先行する「椿」で見た通り、双子葉植物綱ムクロジ目センダン科Toona属チャンチン Toona sinensis である。
「楝」詳しくは、前項「楝」の私の注を見られたいが、双子葉植物綱ムクロジ目センダン科センダン属センダン Melia azedarach var. subtripinnata、及び、トウセンダン Melia toosendan を指す。
「碗豆《ゑんどう》」マメ目マメ科マメ亜科エンドウ属エンドウ Pisum sativum 。中国語でも同一種を指すので、安心してルビを振った。]
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