「和漢三才圖會」植物部 卷第八十二 木部 香木類 扉木
とべら 正字未詳
とひらのき 【倭名抄用石
楠草三字】
扉木
俗云止比良乃木
今云止閉良
△按此樹山中多今人家庭園植之樹葉狀似楊梅而有
臭香相傳云除夜揷之門扉能辟疫鬼故名扉木矣四
月開小白花結實四五顆櫕生青色稍熟自裂中有子
赤色似水木犀子而大
治牛病 用葉擂揉鹽少許和與之良
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とべら 正字、未だ詳かならず。
とびらのき 【「倭名抄」、「石楠草」の
三字を用ふ。】
扉木
俗、云ふ、「止比良乃木《と
びらのき》」と。今、云ふ、
「止閉良《とびら》」。
△按ずるに、此の樹、山中に多し。今、人家≪の≫庭園、之れを植ふ。樹葉の狀《かたち》、楊梅(やまもも)に似て、臭(くさ)き香(か)、有り。相≪ひ≫傳へて云ふ、「除夜、之れを門扉に揷せば、能く、疫鬼を辟《さ》く。故《ゆゑ》≪に≫、「扉木」と名づく。」≪と≫。四月、小≪さき≫白≪き≫花を開き、實を結ぶこと、四、五顆、櫕(こゞな)り生(な)る。青色、稍《やや》熟して、自《おのづか》ら裂(さ)け、中に、子《たね》、有り。赤色。「水木犀(もつこく)」の子に似て、大なり。
牛の病《やまひ》を治す。 葉を用ひて擂揉《するもみ》て、鹽《しほ》、少し許り、和して、之れを與《あた》へて、良し。
[やぶちゃん注:これは、良安のオリジナル項目であり、「扉木」は、
セリ目トベラ科トベラ属トベラ Pittosporum tobira
である。小学館「日本大百科全書」によれば、『常緑の大形低木。高さ約』三『メートルに達する。葉は枝先近くに密に互生し、楕円状倒卵形で長さ十センチメートル、幅約三センチメートル、革質で光沢があり、先は丸い。六月頃、枝先に集散花序を作り、白色花を開く。花は単性花で芳香があり、雌雄異株。萼片は五枚、卵形で縁(へり)に毛がある。花弁は箆(へら)形で平開し、先端は、しばしば反り返る。雄しべは、雄花では、長く稔性であるが、雌花では、小さく、不稔性。雌花には、三枚の心皮からなる雌しべが一本ある。果実は球形で、径一・二~一・六センチメートル、熟すと、三裂開し、赤色の種子を裸出する。和名は、節分の日に、この果実を扉に挟み、魔除けとすることに由来し、別名を「トビラノキ」とも称する。海岸に生え、関東地方以西の本州から沖縄、及び、朝鮮半島南部・中国大陸南部・台湾に分布するが、中国のものは自生ではない可能性がある。近縁のコヤスノキ(子安木)Pittosporum illicioides は常緑低木で、葉質はトベラほど厚くなく、先は鋭く尖る。花柄は毛がなく、細長い。兵庫県・岡山県の山地の林内に生え、台湾と中国大陸中部にも分布する。神社の林に多く見られ、安産祈願をすることから、「コヤスノキ」の名がある。トベラ属は約百五十種あり、一部はアジアにあるが、分布の中心はポリネシア及びオーストラリアである。小笠原にはトベラの近縁種が四種あり、狭い地域で著しく種分化が起こっていることで知られる。トベラ科PittosporaceaeはAPG分類(一九九八年に公表された被子植物の新しい分類体系。「被子植物系統グループ」(Angiosperm Phylogeny Group)とは、この分類を実行する植物学者の団体名で、この分類は、現在は特に命名されておらず、「APG体系」・「APG分類体系」などと呼称されている)でもトベラ科とされる。この分類によると、アジア・アフリカ・オーストラリアの暖帯から熱帯に九属約二百五十種あり、日本には一属六種が分布する、とある。画像のある当該ウィキもリンクさせておく。
『「倭名抄」、「石楠草」の三字を用ふ。』「和名類聚鈔」では、「卷二十」の「草木部第三十二」の「木類第二百四十八」に、
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石楠草(トヒラノキ/クサナムサ) 「本草」に云はく、『石楠草【「楠」、音「南」。和名「止比良乃木」。俗に云ふ、「佐久奈無佐」。】。』。
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「楊梅(やまもも)」ブナ目ヤマモモ科ヤマモモ属ヤマモモ Morella rubra 。同じく「日本大百科全書」から引くと、『ヤマモモ科』Myricaceae『の高木。高さ』十五~二十『メートル。枝はもろく、多くの細枝がある。葉は長さ』五~十『センチメートルで広倒披針形または倒披針形、革質で先が』尖る。『成木は全縁または浅い鋸歯があり、実生の幼苗期は葉縁の切れ込みが深い。雌雄異株』三月頃、『葉腋に発育した花穂は、雌花序は長さ』一~二『センチメートルの棒状になり、柱頭は紅色で』二『裂した雌しべを』四~五『個つけ、雄花序は長さ』三『センチメートルの長い筆の穂先状になり、多量の花粉を飛ばす。果実は径』一・五~二『センチメートルの球形で』、六~七『月に成熟する。果色は濃紅赤色、赤色、帯淡紅白色などがある。甘・酸味が強く多汁で、生食のほか、砂糖漬け、焼酎漬けにする。ジュースは淡紅色になる。樹皮は乾燥し』て、『楊梅皮とし、下痢や打撲症に効く。また諸媒染剤により、茶、黄、黄金、褐、緑黒色などの染料にする。関東地方以西から九州』及び『台湾を含む中国暖地に分布し、山地に生える』とある。画像のある当該ウィキもリンクさせておく。
「臭(くさ)き香(か)、有り」当該ウィキによれば、『枝葉は切ると悪臭を発するため、節分にイワシの頭などとともに鬼を払う魔よけとして戸口に掲げられた風習があった』とし、『根の皮や枝には悪臭がある』とある。
「櫕(こゞな)り生(な)る」群がって実を結ぶ。
「水木犀(もつこく)」江戸五木の一つで、「庭木の王」と称されるツツジ目モッコク科モッコク属モッコク Ternstroemia gymnanthera 。詳しくは、当該ウィキを見られたい。]
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