「和漢三才圖會」植物部 卷第八十二 木部 香木類 必栗香
ひつりつかう 花木香
詹香
必栗香
本綱必栗香生髙山中葉如老椿擣置上流魚悉暴腮而
死木爲書軸白魚不損書也
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ひつりつかう 花木香《くわぼくかう》
詹香《せんかう》
必栗香
「本綱」に曰はく、『必栗香は、髙山の中に生ず。葉、老椿《おひつばき》のごとし。擣《つ》きて、≪川の≫上流に置けば、魚、悉く、腮(えら)を暴《さら》して死す。木を書軸と爲《す》れば、白-魚(しみ)、書を損ぜざるなり。』≪と≫。
[やぶちゃん注:前の実在しない「櫰香」と同じく、良安の評がない。前項で語れなかったことから、これもろくにディグぜず、放置プレイしたものか? しかし、これは、本邦にもちゃんと植生する、
ブナ目クルミ科ノグルミ(野胡桃)属ノグルミ Platycarya strobilacea
のことである。日中でも同種であることは、台湾のサイト「百草谷藥用植物園」の「化香樹」に上記学名を掲げ、「別名」として、筆頭に『必栗香』を挙げ、以下『化香木、詹糖香、詹香、台灣化香樹、花果兒樹、放香樹、還香樹』とあり、更に、『根部可供藥用』とし、『葉、果有毒』とあり、『浸液可殺虫、毒魚、葉可為驅蟲劑』、『根部碾末可供藥用』とあったから、確実である。ウィキの「ノグルミ」によれば、『中国中南部、台湾、朝鮮半島、日本(東海以西の本州、四国、九州)に分布する』。『日当たりの良いところを好む』。『落葉広葉樹の高木で、幹は直立して樹高は』十~二十『メートル』『くらい、直径は』六十『センチメートル』『くらいになる』。『樹皮は黒褐色で縦に細かく裂ける』。『一年』の『枝はやや太く、多数の皮目があり、無毛か』、『まばらに毛が残る』。『葉は互生で、奇数羽状複葉』。『花期は』六『月ごろ』で、『風媒花であり、風に乗せて花粉を運ぶ。雌雄同株』。『果実は革質の硬い鱗片で覆われ、形状は長楕円形でハリネズミに似ている』。『これは、トゲトゲしていて触ると痛いし、食用にもならない。冬でも枝の先に果穂が残る』。『冬芽は卵形で短毛があり、上部の芽鱗はときに黄褐色を帯びる』。『枝先の頂芽は側芽よりも大きく、側芽は枝に互生する』。『葉痕は心形や腎形で、維管束痕が』三『個つく』とあって、『建築材、器具材にする』。『樹皮から抽出するタンニンは皮をなめすのに利用された』。『ノグルミを燃やすと』、『特有の芳香があり』、本邦の『中国地方や九州地方では福の神を呼ぶため大晦日や節分にこれを焚く風習があった』、『昔は、樹皮や枝葉を砕いて魚毒にした』とある。調べたところ、ノグルミの持つ魚毒成分はナフトキノン(naphthoquinone)というナフタレン環骨格をもつキノンであることが判った。
「本草綱目」の当該部は、未だ「漢籍リポジトリ」が一向に作動しないので、「維基文庫」の電子化物で調べたところ、「卷三十四」の「木之一」「香木類」の「必栗香」の独立項で見た。短いので、やや表記に手を加えて掲げておく。
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必栗香(「拾遺」)
【釋名】花木香、詹香。
【集解】藏器曰「必栗香生高山中。葉如老椿、搗置上流、魚悉暴腮而死。木白魚不損書也。」。
【氣味】辛、溫、無毒。
【主治】鬼疰心氣、斷一切惡氣、煮汁服之。燒爲香、殺蟲、魚(藏器)。
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「椿」ツツジ目ツバキ科 Theeae 連ツバキ属ヤブツバキ(ツバキ) Camellia japonica 。中文ウィキでも同種であるが、中国語では「山茶花」である(中文の当該種のウィキを参照されたい)。ウィキの「ツバキ」には、『日本における海岸近くの山中や、雑木林に生える代表的な野生種を』特に『ヤブツバキとよんでいる』。『植物学上の種(標準和名)であるヤブツバキ』『の別名として、一般的にツバキと呼んでおり』、『またヤマツバキ(山椿)の別名でも呼ばれる』『日本内外で近縁のユキツバキから作り出された数々の園芸品種、ワビスケ、中国・ベトナム産の原種や園芸品種などを総称的に「椿」と呼ぶが、同じツバキ属であってもサザンカを椿と呼ぶことはあまりない。なお、漢字の「椿」は、中国では霊木の名で、ツバキという意味は日本での国訓である』。『ヤブツバキの中国植物名(漢名)は、紅山茶(こうさんちゃ)という』とあった。なお、「椿油」の項には、『椿油は、種子(実)熱を加えずに押しつぶして搾った油で』、『「東の大島、西の五島」の名産品としてもよく知られている』。『高級食用油、機械油、整髪料、養毛剤として使われるほか』、『古くは灯りなどの燃料油としてもよく使われた。ヤブツバキの種子』『から取る油は高価なため、同じくツバキ属の油茶などから搾った油もカメリア油の名で輸入されている。また、搾油で出る油粕は川上から流して、川魚、タニシ、川えび等を麻痺させて捕獲する毒もみ漁に使われた』とあり、最後にノグルミとの意外な通性が確認出来るが、ツバキの方の魚毒成分は、ナマコ類が持つそれと同じサポニン(saponin)である。
「鰓(えら)を暴《さら》して死す」東洋文庫訳では、『鰓(えら)を痛めて死ぬ』とあるが、採らない。私の訓の方が、毒揉みの凄惨な様子がよく伝わると考えるからである。
「白-魚(しみ)」節足動物門昆虫綱シミ目 Thysanura のシミ類で、シミ科 Lepismatidae・ムカシシミ科 Lepidotrichidae・メナシシミ科 Nicoletiidae・Maindroniidae 科に分かれる。ここは時珍の記載だから、そこまでである。中国に分布するシミ類のリストはネット上では見出せなかった。因みに、本邦で現在よく見かける在来種は、シミ科ヤマトシミ属ヤマトシミ Ctenolepisma villosa(やや褐色を呈し、日本在来の室内種)と、同属のセスジシミ Ctenolepisma lineata(茶褐色で光沢に乏しく、背に縦線模様を持つ)であるが、近年は移入種であるセイヨウシミ属セイヨウシミ Lepisma saccharina(銀白色を呈する)の方が在来種よりも優勢である。但し、「和漢三才圖會卷第五十三 蟲部 衣魚(シミ)」の私の注で述べた通り、シミ類は、古くから、書物を有意に食害するとされたが、実際には顕在的な食害は殆んど認められないのが事実で、それは冤罪の部類と言ってよく、シミの食い痕とされるものの多くは、木質部や紙にトンネルを掘り、或いは標本類をバラバラになるまで著しく食害するところの、多食亜目ナガシンクイ上科シバンムシ科 Anobiidae に属する「死番虫」類が真犯人である。]
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