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2024/06/13

「和漢三才圖會」植物部 卷第八十三 喬木類 目録・黃蘗

[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、初回を参照されたい。「目録」の読みはママである。本文同様、濁点落ちが多い。]

 

和漢三才圖會卷第八十三目録

   喬木類

黃蘗(わうへき)【きはだ】

小蘗(こきはだ)【しこのへい】

黃櫨(はじのき)

波牟木(はんのき)

厚朴(かうぼく)【ほゝのき】

杜仲(とちう)

椿(ひやんちゆん)【椿根皮(チユンコンヒ) 鳳眼草】

𣾰(うるし)

(あづさ)

(ひさぎ)

刺楸(はりひさき)

(こひさき)

(あはき)

(きり)

岡桐(おかきり)[やぶちゃん注:「おか」はママ。]

梧桐(ことうきり)

油桐(あふらきり)

海桐(しまきり)

赬桐(たうきり)

菜盛葉(さいもちは)

(あふち)【せんたん】

黃棟樹(わうれんしゆ)

(ゑんじゆ)

(まゆみ)

莢蒾(けうめい)

秦皮(とねりこのき)

合歡木(ねふのき)

皂莢(さいかし)【皂⻆子 皂⻆刺】

[やぶちゃん字注:「⻆」は「角」の異体字。]

肥皂莢(ひさうけう)

無患子(つぶ)

木欒子附リ菩提樹】

沒石子(もしくし)

訶黎勒(かりろく)

(けやき)【石欅(いしけやき) 槻(つき)】

[やぶちゃん字注:「いしけやき」の「け」は「ケ」の第三画しか見えないが、原本当該部と東洋文庫の当該項のルビから「ケ」と決した。]

波太豆(はたつ)

(ゑのき)

(やなき)

檉柳(いとやなき)【したれ柳】

水楊(かはやなき)

白楊(まるはのやなき)

扶栘(ふいのやなき)

杞柳(きりう)

贅柳(こぶやなき)

美容柳(ひようやなき)

(むきのき)

(にれ)

蕪荑仁(ふいにん)

蘓方木(すはうのき)

[やぶちゃん字注:「蘓」は「蘇」の異体字。]

鳥木(こくたん)

[やぶちゃん字注:「鳥」はママ。当該項では「烏」になっているので、誤刻である。]

黒柹(くろかき)

(かば)

華櫚(くはりん)

椶櫚(しゆろ)

烏臼木(うきうほく)

巴豆(はづ)

海紅豆(かいかうづ)

相思子(たうあづき)

豬腰子(ちやうし)

石瓜(せきくわ)

鐵樹(たがやさん)

美豆木(みつき)

扇骨(かなめ)

奈岐乃木(なぎのき)

古賀乃木(こがのき)

娑羅雙樹(しやらさうしゆ)

梖多羅(ばいたら)

多羅葉(たらえう)

(よう)

 

 

和漢三才圖會卷八十二

         攝陽 城醫法橋寺島良安尙順

   香木類

 

Kihada

 

[やぶちゃん注:右の樹の上に『本草必讀之圖』(「本草必讀」の圖)、左の樹の上に『三才圖會之圖』(「三才圖會」の圖)のキャプションが記されてある。「本草必讀」は「楓」その他で、 既出既注。「三才圖會」の原図は、国立国会図書館デジタルコレクションの萬暦三七(一六〇九)年序刊のものの、ここの「蘗木」で視認出来る。

 

わうへき  黃栢【俗稱】

 きはだ  蘗木

      【和名岐波太】

黃蘗

      今專曰黃栢

唐音

 ハアン ポツ

 

本綱黃蘗樹髙數丈葉似呉茱萸亦如紫椿經冬不凋其

皮外白裏深黃色緊厚二三分鮮黃者爲上根結塊如松

下茯苓名之檀桓【百歳者根長三四尺別在一旁以小根綴之又名檀桓芝】

氣味【苦寒】 入足少陰腎經爲足太陽膀胱引經藥

 【生用則降實火熟用則不傷胃酒制則治上鹽制則治下蜜制則治中也】惡乾𣾰伏硫黃其

[やぶちゃん字注:「蜜」は「グリフウィキ」のこれだが、表示出来ないので、かく、した。]

 用有六瀉膀胱龍火【一也】利小便結【二也】除下焦濕腫【三也】治痢疾先見血【四也】治臍中痛【五也】補腎不足壯骨髓【六也】乃癱疾必用之藥治口瘡如神

[やぶちゃん字注:「臍」は原本では十七画((つくり)の下方の横画の二本目)が十六画の中心から縦に下に下がる。異体字にも見えないので、正字で示した。]

黃蘗無知毋猶水母之無蝦也葢黃栢能制膀胱命門陰

[やぶちゃん字注:「毋」は「母」の異体字であるが、同一行の中で「母」が使用されいるから、明らかに差別化(恐らくは植物と動物の違いを意識して)している意図が明白なので、敢えて用いた。]

中之火知毋能清肺金滋腎水之化源故皆以爲滋陰降

火要藥然必少壯氣盛能食者宜用之若中氣不足而邪

火熾甚者久服則有寒中變

檀桓【苦寒】 治心腹百病安魂魄不饑渴久服通神

△按黃栢藥用外可以染黃色日向加賀之產最良和州

吉野奧州會津之産次之

 

  *

 

わうへき  黃栢《わうばく》【俗稱。】

 きはだ  蘗木《はくぼく》

      【和名「岐波太《きはだ》」。】

黃蘗

      今、專ら、「黃栢」と曰ふ。

唐音

 ハアン ポツ

 

「本綱」に曰はく、『黃蘗樹の髙さ、數丈。葉、「呉茱萸《ごしゆゆ》」に似たり。亦、「紫椿《しちん》」のごとし。冬を經て、凋まず。其の皮、外、白く、裏、深黃色なり。緊《しまりて》、厚さ、二、三分。鮮(あざや)かに黃なる者を、上と爲《な》す。根、結塊≪して≫松の下の茯苓《ぶくりやう》のごとく、之れを「檀桓《だんくわん》」と名づく【百歳の者、根の長さ、三、四尺。別に、一旁《いつばう》、在りて、小≪さき≫根を以つて、之れを綴り、又、「檀桓芝《だんくわんし》」と名づく。】』≪と≫。

『氣味【苦、寒。】 足≪の≫「少陰腎經」に入りて、足≪の≫「太陽膀胱引經」の藥と爲《な》る。』≪と≫。

 『【生にて用ふれば、則ち、實火(じつくわ)を降《くだ》す。≪煮≫熟《にじゆく》して、用ふれば、則ち、胃を傷めず。酒≪もて≫制すれば、則ち、≪體內の≫上《うへ》を治す。鹽≪もて≫制すれば、則ち、≪體內の≫下を治す。蜜≪もて≫制すれば、≪體內の≫中《ちゆう》を治ずるなり。】。乾𣾰《かんしつ》を惡《い》み[やぶちゃん注:「忌み」に同じ。]、硫黃《いわう》を伏《ぶく》す。其の用[やぶちゃん注:ここは「効用」の意。]、六つ、有り。膀胱の龍火を瀉《くだ》す【一《いち》なり。】。小便≪の≫結≪せる≫を利す【二なり。】。下焦《かしやう》の濕腫《しつしゆ》を除く【三なり。】。痢疾≪にて≫、先づ、血を見るものを治す【四なり。】。臍《へそ》の中《うち》≪の≫痛みを治す【五なり。】。腎の不足を補ひ、骨髓を壯《さかん》にす【六なり。】。乃《すなは》ち、癱疾《たんなん》≪の≫必用の藥≪にして≫、口瘡《こうさう》を治すること≪も、また≫、神《しん》のごとし。』≪と≫。

『黃蘗、「知毋《ちも》」、無ければ、猶ほ、水母(くらげ)の、蝦(ゑび[やぶちゃん注:ママ。])、無きがごとくなり。葢し、黃栢、能く、膀胱命門の陰中の火《くわ》を制す。「知毋」は、能く、肺金《はいきん》を清《きよらかにす》、腎水の化源を滋《やしなふ》。故《ゆゑ》、皆、以つて、「滋陰降火《じいんかうくわ》」の要藥たり。然れども、必ず、少壯≪にして≫、氣、盛んにして、能く、食する者、宜(よろ)しく之れを用ふべし。若《も》し、中氣、不足して、邪火《じやくわ》、熾(も)ゆること、甚しき者≪は≫、≪これを≫久しく服すれば、則り、寒中の變、有り。』≪と≫。

『檀桓【苦、寒。】 心腹≪の≫百病を治し、魂魄を安んじ、饑渴せず、久≪しく≫服すれな、神に通ず。』≪と≫。

△按ずるに、黃栢は、藥用の外、以つて、黃色を染むべし。日向・加賀の產、最≪も≫良し。和州・吉野・奧州會津の産、之れに次ぐ。

 

[やぶちゃん注:「黃蘗」は、

被子植物門双子葉植物綱ムクロジ目ミカン科キハダ属Phellodendron

で、基本、日中でも基原種は同じで、

キハダ属キハダ変種キハダ Phellodendron amurense var. amurense

である。但し、中国では、同属の、

川黃檗 Phellodendron chinense

(現行の中文名では「蘗」は「檗」である)も広く分布しており、

同種の基原変種川黃檗  Phellodendron chinense var. chinense

及び、

禿葉黃檗 Phellodendron chinense var. glabriusculum

が自生するので、「本草綱目」の引用では、それらを総て比定種とする必要がある。小学館「日本大百科全書」によれば、『黄色の色素をもつ植物染料の一つ』で、『キハダは山地に生じる高木で、内皮は黄色。「きわだ」の名称は、きはだ(黄膚)から出たものという。漢方の薬用植物で、苦味のある内皮を黄蘗皮(おうばくひ)と称して、胃の薬とする。染色には、この黄色の部分を煎じて用いる。媒体を必要としない直接染料で、色は白みを帯びた品のいい色であるが、堅牢性に乏しく、とくに直射日光には弱い』とある。当該ウィキもリンクさせておく。

 「本草綱目」の引用は、「卷三十五上」の「木之二」「喬木類」(「漢籍リポジトリ」)の冒頭の「蘗木」

「唐音」勘違いしている生徒が多かったので、言っておくと、一般に知られる「漢音」は、平安時代初氣頃までに、遣唐使・留学僧などによって伝えられた、唐の首都長安の北方標準音に基づくものを指す。次いで、「呉音」というのは、元来は「和音」と呼ばれていたが、平安中期以後に「呉音」とも呼ばれるようになった。北方系の漢音に対して、南方系であるとされ、特に仏教関係の語などに多く用いられている。而して、「唐音」は、狭義には、江戸時代になって、長崎を通じて伝えられた、明から清の初期の中国語の発音によるものを指す。禅僧・長崎通事・貿易商などによって伝えられた。また、広義には、江戸時代以前から広まった宋音をも含めた「唐宋音」を包含する。孰れも、中国の歴史的王朝・国名とは、関係がないので、注意が必要である。昔、生徒が「唐音」を唐王朝当時の発音と採っていたので、敢えて、ここで言っておく。

「呉茱萸《ごしゆゆ》」「ごしゅゆ」はムクロジ目ミカン科ゴシュユ属ゴシュユ Tetradium ruticarpum 当該ウィキによれば、『中国』の『中』部から『南部に自生する落葉小高木。日本では帰化植物。雌雄異株であるが』、『日本には雄株がなく』、『果実はなっても種ができない。地下茎で繁殖する』八『月頃に黄白色の花を咲かせる』。『本種またはホンゴシュユ(学名 Tetradium ruticarpum var. officinale、シノニム Euodia officinalis )の果実は、呉茱萸(ゴシュユ)という生薬である。独特の匂いと強い苦みを有し、強心作用、子宮収縮作用などがある。呉茱萸湯、温経湯などの漢方方剤に使われる』とあった。漢方薬剤としては平安時代に伝来しているが、本邦への本格的渡来は享保年間(一七一六年から一七三六年まで)とされる。

「紫椿《しちん》」驚いたことに、東洋文庫では、そのまま訳文に使用して、何の注も附していないが、これは「ツバキ」とは縁も所縁もないもので(因みに言っておくと、現代中国語でツバキは「山茶花」「日本椿花」と漢字表記される)、ムクロジ目センダン科チャンチン属 Toona ciliata である。アフガニスタンからインド・パプアニューギニア・オーストラリアにかけての南アジア全域に植生する。当該英文ウィキをリンクさせておく。

「松の下の茯苓《ぶくりやう》」菌界担子菌門真正担子菌綱ヒダナシタケ目サルノコシカケ科ウォルフィポリア属マツホド Wolfiporia extensaウィキの「マツホド」によれば、アカマツ(球果植物門マツ綱マツ目マツ科マツ属アカマツ Pinus densiflora)・クロマツ(マツ属クロマツ Pinus thunbergii)等のマツ属 Pinus の植物の根に寄生する。『菌核は伐採後』二~三『年経った切り株の地下』十五~三十センチメートルの『根っこに形成される。子実体は寄生した木の周辺に背着生し、細かい管孔が見られるが』(oso(おそ)氏のキノコ図鑑サイト「遅スギル」のこちらで画像で見られる)、『めったには現れず』、『球状の菌核のみが見つかることが多い』。『菌核の外層をほとんど取り除いたものを茯苓(ブクリョウ)と呼び、食用・薬用に利用される。天然ものしかなかった時代は、松の切り株の腐り具合から』、『見当をつけて』、『先の尖った鉄棒を突き刺し』、『地中に埋まっている茯苓を見つける「茯苓突き」と言う特殊な技能が必要だった。中国では昔から栽培されていたようだが』、一九八〇『年代頃より』、『おがくず培地に発生させた菌糸を種菌として榾木に植え付ける(シイタケなどの木材腐朽菌と同様の)栽培技術が確立され、市場に大量に流通するようになって価格も下がった。現在ではハウス栽培で大量生産されて』おり、『北京では茯苓を餅にしてアンコをくるんだ物が「茯苓餅」または「茯苓夾餅」の名で名物となっている。かつては宮廷でも食された高級菓子で、西太后も好物だったという。現在は北京市内のスーパーでも購入することができる』。『薬用の物では、雲南省に産する「雲苓」と呼ばれる天然品が有名であるが、天然物は希少であるため』、殆んど『見ることはできない』。『日本は』、『ほぼ全量を輸入に頼っていたが』、二〇一七年に『石狩市の農業法人が漢方薬メーカーの』「ツムラ」(「夕張ツムラ」)との『協力で、日本初となるハウス量産に成功した』とある。『菌核の外層をほとんど取り除いたものは茯苓(ブクリョウ)という生薬(日本薬局方に記載)で、利尿、鎮静作用等があ』り、『多くの漢方方剤に使われ』ているとあった。

「檀桓芝」「霊芝」でご存知の通り、実は、この「芝」と言う漢字は、まさに担子菌門真正担子菌綱タマチョレイタケ目マンネンタケ科マンネンタケ属レイシ Ganoderma lucidum を指す漢字として作られたものなのである。「シバ」ではなく、「神聖なキノコ」を示す漢語なのである。レイシに就いては、私の「日本山海名産図会 第二巻 芝(さいはいたけ)(=霊芝=レイシ)・胡孫眼(さるのこしかけ)」を参照されたい。

『足≪の≫「少陰腎經」』東洋文庫の後注に、『身体をめぐる十二経脈の一つ。巻八十二肉桂の注一参照のこと』とある。このプロジェクトで先行している「肉桂」の私の注を見られたい。

『足≪の≫「太陽膀胱引經」』同前で、『身体をめぐる十二経脈の一つ。卷八十二肉桂の注三參照のこと』とある。リンク同前。

「實火(じつくわ)」東洋文庫の割注に、『(激しい陽性の熱)』とある。

「龍火」東洋文庫の割注に、『(陰火。うちにこもった熱?)』と、疑問符附きである。

「小便≪の≫結≪せる≫」「結」は「結滯」の意。排尿困難。

「下焦」中医学が仮想した器官「三焦」の一つで、「五臓六腑」の名数にも入っている。生命の根幹たる気と水液を司り、五臓六腑にそれらを送りだす最重要の働きがあるとされた。上焦・中焦・下焦の三つに分けられる。上焦は「心」・「肺」で飲食物を送り込むことを、中焦は「脾胃」の消化運動を、下焦は「肝」・「腎」にあって排泄を司るとされた。しばしば、比喩として用いられる「病膏肓に入る」の「膏肓」の「膏」は心臓の下部、「肓」は隔膜の上とされ、身体の一番奥で生命維持機能を統括する場所を指す語であり、この三焦がその臓器であるという話を嘗て聴いたことがあった。

「濕腫」体内に溜まった過剰な水分や湿気によって生ずる水腫や腫物。

「癱疾《たんなん》」東洋文庫の割注に、『(激しい陽性の熱)』とある。

「口瘡《こうさう》」口腔内の炎症や感染症。知られたものでは、新生児・乳児に見られる「鵞口瘡」(がこうそう)で、口の粘膜に発生する黴であるカンジダ(菌界子嚢菌門半子嚢菌綱サッカロミケス目 Saccharomycetalesサッカロミケス科カンジダ 属 Candida )感染症がある。口腔の内側の粘膜・舌・口唇に、白色のミルクの滓(かす)のように隆起する粘膜斑で、擦っても剝がすことが難しく、無理に剝そうとすると出血する。

「知毋《ちも》」単子葉植物綱キジカクシ目キジカクシ科リュウゼツラン亜科ハナスゲ属ハナスゲ Anemarrhena asphodeloides の根茎の生薬名「知母」。当該ウィキによれば、『中国東北部・河北などに自生する多年生草本』『で』、五~六『月頃に』、『白黄色から淡青紫色の花を咲かせる』。『根茎は知母(チモ)という生薬で日本薬局方に収録されている』。『消炎・解熱作用、鎮静作用、利尿作用などがある』。「消風散」・「桂芍知母湯」(ケいしゃくちもとう)・「酸棗仁湯」(さんそうにんとう)『などの漢方方剤に配合される』とある。

「水母(くらげ)の、蝦(ゑび)、無きがごとくなり」東洋文庫の割注に、『水母と蝦は共生し、蝦は水母の涎(よだれ)を飲んで生き、その代り水母の眼の役割をして水母の移動に力を貸しているという。また黄栢は腎経血分の藥、知母は腎経気分の藥で、相俟って効力を発揮する』とあった。前半部、クラゲ・フリークである私から見ても、頑張って注してあると思う。私は、フリークの海産生物以外でも、寄生している種と、寄生されている種との、完全な「共生」(相互共生)というのは、なかなか無批判に納得出来るケースは、そう多くないと感じている人種である。旧来、安易に「共生」という言い方をする学者や一般人には、必ず、眉に唾つけて「片利共生なんじゃないの?」と突っ込むトンデモ男なのである。確かに、私が海産無脊椎動物に目覚めた小学校二年生に知った、名にし負う、

エビクラゲ刺胞動物門鉢虫綱根口クラゲ目イボクラゲ科ビクラゲ属エビクラゲ Netrostoma setouchianum の口腕に、多くの

節足動物門甲殻亜門軟甲綱真軟甲亜綱ホンエビ上目十脚目抱卵亜目コエビ下目タラバエビ上科タラバエビ科クラゲエビ属クラゲエビ Chlorotocella gracilis が共生している

という子供向けの読物には、ひねこびていなかった私は、大いに素直に感動したものだったのは事実ではあった(しかし、そこに描かれたイラストでは、あろうことか――どっしり海底に鎮座したエビクラゲの下に、これまた、茹でた如き紅色の、大きな、如何にもな「エビ」が触手の間にデンと隠れている――というトンデモ画であったことも、いっかな、忘れないのだが)。けれども、高校時代頃には、『これらは、他の生物社会に対して、安っぽいヒューマニティを安易且つ独善的に及ぼしたものも多いのではないか?』と、頗る懐疑的になって今に至っていたのであった。しかし、今回、仕切り直して調べてみた結果、林健一・坂上治郎・豊田幸詞共作になる学術論文「日本海および東北地方の太平洋岸に出現したエチゼンクラゲに共生するクラゲモエビ」(雑誌『Cancer』二〇〇四年五月発行所収・PDF)に於いて、

『クラゲモエビとエチゼンクラゲとの共生については正確に報告されたことはなかった』『今回』、『潜水観察を行い』、『さらに水槽での短期飼育を行った』結果、『クラゲモエピの形態と共生関係を観察することができた』

とあるのを見た以上、相互共生を、この二種間には、確かに認められると確信した。この「エチゼンクラゲ」とは、大型になるクラゲの筆頭である、

口クラゲ目ビゼンクラゲ科エチゼンクラゲ属エチゼンクラゲ Nemopilema nomurai

で、本邦では主に東シナ海から日本海にかけて分布し、実に最大個体では傘の直が二メートル、湿重量は百五十キログラにも達する。古くは瀬戸内海に有意に入り込んでいたものか備前国(岡山県)を産地としたことに和名は由来する(但し、私は実はそれは、エチゼンクラゲの近縁種である、ビゼンクラゲ科ビゼンクラゲ属ビゼンクラゲ Rhopilema esculenta を指していたのではないかと秘かに思っている)。なお、これ以外にも、香川県水産課のスタッフが執筆しているブログ「うどん県おさかな課」の「アナタはダレ?ワタクシはエビクラゲです、か?」に、試験場での現認になる、エビクラゲに『共生』していた小エビとして、クラゲエビ以外に、「タコクラゲエビ」という種も挙げてあった。但し、この和名、そこに記された『広島大学総合博物館研究報告』(第三号・二〇一一年十二月発行)の、大塚攻・近藤裕介・岩崎貞治・林健一論文『瀬戸内海産エビクラゲNetrostoma setouchiana に共生するコエビ類』によって(ここでPDFでダウンロード出来る)、この種は、正しくは、

コエビ下目テッポウエビ上科モエビ科ホソモエビ属タコクラゲモエビ Latreutes mucronatus

であることが、判明した。

「肺金《はいきん》」東洋文庫の割注に、『(肺は五行の金に属する)』とあった。

「中氣、不足して、邪火《じやくわ》、熾(も)ゆること、甚しき者≪は≫、≪これを≫久しく服すれば、則り、寒中の變、有り」この部分、あんまり、言っている意味が解らないことを正直に告白しておく。]

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