「和漢三才圖會」植物部 卷第八十三 喬木類 赬桐
たうぎり 赬【音稱】
【赤色再染也
今云唐桐】
赬桐
ひきり
本綱赬桐生江南身青葉圓大而長髙三四尺便有花成
朶而繁紅色如火無實爲夏秋榮覌
[やぶちゃん字注:「覌」は、底本では、「グリフウィキ」のこれであるが、表示出来ないので、これを用いた。而して、この字は「觀」の異体字である。]
△按赬桐近年來於薩州屋玖島植庭園愛之葉大五六
寸許而微皺其花深紅色有臭樹之花樣性甚畏寒故
冬則藏根株包藁至春移栽于地或植於盆賞花
*
たうぎり 赬《てい/ちやう》【音「稱」。】
【赤色の「再染(やしほぞめ)」なり。
今、云ふ「唐桐《たうぎり》」。】
赬桐
ひぎり
「本綱」に曰はく、『赬桐《ていとう》は、江南に生ず。身、青く、葉、圓《まろ》く、大にして長し。髙さ、三、四尺。便《すなはち》、花、有り、朶《はなぶさ》≪を≫成して、繁《しげ》く、紅色。火のごとく、實《み》、無し。夏秋の榮覌《えいくわん》と爲《せ》り。』≪と≫。
[やぶちゃん字注:「覌」は、底本では、「グリフウィキ」のこれであるが、表示出来ないので、これを用いた。而して、この字は「觀」の異体字である。]
△按ずるに、赬桐、近年、薩州の屋玖(やく)の島より、來《きた》り、庭園に植《うゑ》て、之れを愛す。葉の大いさ、五、六寸許《ばかり》にして、微《やや》皺(しわ)あり。其の花、深紅色。「臭樹(くさぎ)」の花の樣(ありさま)、有り。性、甚だ、寒を畏《おそ》る。故《ゆゑ》、冬は、則ち、根株を藏(かく)し、藁に包む。春に至りて、地に移し栽《う》ふ。或《あるいは》、盆に植《うゑ》て、花を賞《しやう》す。
[やぶちゃん注:「赬桐」は、
シソ目シソ科キランソウ亜科クサギ属ヒギリ Clerodendrum japonicum
である。「維基百科」の「赬桐」も同種である。良安の示す漢字音には、ちょっと問題がある。「廣漢和辭典」を見るに、音は『テイ』と『チョウ(チャウ)』であり、「稱」(ショウ)とは音通でない。現代中国音では「赬」は「チァン」であり、「稱」は「チェン」で、やはり音通でない。そして、「赬」の意味は、単に「赤い・赤色・薄い赤」の意しかない。而して、同辞典では、「爾雅」の「釋器」を引き、そこに、良安が標題下で割注した『再ビ染ムル謂フ二之ヲ赬ト一。』が引かれている。
ヒギリの当該ウィキを引いておく。『花が美しいことから古くから栽培されてきた』。『落葉性の小低木』『背丈は』一メートル『程度になる。葉は対生で長い葉柄があり、葉身は卵円形で先端が尖り、基部は心臓形となり、その形はキリに似る。葉の長さは』十七~三十センチメートルで、『縁には細かい鋸歯が並び、葉表は深緑色で裏面には黄色い短い腺毛を密生する』。『花期は夏から秋で、枝先に大きな円錐花序を伸ばし、赤い花を多数つける。花序は長さ』三十~五十センチメートルに『なるが、その花軸から花柄、萼や花冠と全てが赤い』。『萼は卵円形で』五『裂し、花冠と同じ赤色。花筒は長さ』二センチメートル、『先端は』五『裂して平らに開き、やはり真っ赤。雄蘂は』四『本、柱頭と共に花筒から突き出し、伸びて先端が上を向く』。『和名は緋桐で、別名にトウギリ(唐桐)がある』。『原産地は東南アジア』で、『中国南部からインド北部にかけて自生している』。『九州南部で植栽され、時に野生化してみられる』。『古くから栽培され、暖地では庭園に植えられることもある』。『日本への渡来は古く』、「花壇地錦抄」(植木屋伊藤伊兵衛(三之丞)著の草花図譜。元禄八(一六九五)年刊)に『出ている。恐らくその渡来は延宝年間』(一六七三年~一六八一年)『と言われる。耐寒性は強くないので』、『栽培は暖地に限られるものの、東京でも暖かい場所では藁囲い程度で冬越し出来る例もある』。『繁殖には根伏せが利用出来る。根を』二十センチメートル『程度切り取って』、『土をかけておくと』、『発根し』、『芽が出る。これは自然な状態でも起きるもので、暖地では親株の周囲に伸びた根から不定芽が生じて集団を作るのが見られるという』と、以上の記載と、完全に一致する。
良安の「本草綱目」のパッチワーク引用は、「卷三十五上」の「木之二」「喬木類」(「漢籍リポジトリ」)の「海桐」(ガイド・ナンバー[085-29b]以下)の「集解」の後半から、ほぼ忠実に引いている。
「榮覌《えいくわん》と爲《せ》り」「榮觀」。東洋文庫訳では、『見事な眺望となる』とある。
「屋玖(やく)の島」屋久島。連れ合いが足が悪かったので、ウィルソン株は断念したが、三十代の時、二泊した。いい島である。
「臭樹(くさぎ)」クサギ属クサギ変種クサギ Clerodendrum trichotomum var. trichotomum 。委しくは、当該ウィキを見られたい。]
« 「善惡報はなし」正規表現オリジナル注 卷一 㐧十三 女房下女をころす事幷大鳥來りてつかみころす事 / 卷一~了 | トップページ | 「善惡報はなし」正規表現オリジナル注 卷二 目錄・㐧一 𢙣念の藏主火炎をふく事 »