「善惡報はなし」正規表現オリジナル注 卷二 㐧七 ごりんより血の出る事
[やぶちゃん注:底本・凡例等は初回を参照されたい。「ごりん」は言わずもがな、「五輪塔」のこと。挿絵はない。]
㐧七 ごりんより血(ち)の出《いづ》る事
越前つるがのきんがうに、じやうど寺(でら)あり。
ある時、はかの、ごりんのだいの、あはせ目より、血のながるゝ事、おびたゞし。
此の妄者(まうじや)[やぶちゃん注:「亡者」。]を、いかなるものぞといふに、難產にて、死せる女の「はか」なりと、知れり。
此事、かくれなければ、見物、寺内にぐんじゆ[やぶちゃん注:「群衆」。]す。
後《のち》には、門をとぢて、出入《でいり》、なかりけり。
「血の出《いづ》る事、つねは、いでずして、其妄者の名日[やぶちゃん注:二種の参考底本ともにママ。「命日」。]ごとに出る。」
と、いひあへり。
住持も、是に迷惑し、其比《そのころ》、「たいをう」、修行し、其《その》近鄕にましましけるを、住持、いそぎ、しやうじ申《まうし》て、くだんのとをり[やぶちゃん注:ママ。]を語り給へば、「たいをう」、
「いとやすき事也。」
とて、そくじに止め給ふと、聞ゆ。
それより、かさねて別(べち)の子細、なかりし、となり。
かやうのはなしは、前代未聞、ためしなき事也。
比は、明曆(めいりやく)元年の事也。
此の事は、深く愼しむ事なるがゆへ[やぶちゃん注:ママ。]に、くはしくは、しるさず。
[やぶちゃん注:「たいをう」「卷二 㐧一 𢙣念の藏主火炎をふく事」に登場した、法力ある僧である。
「明曆元年」一八五五年。]
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