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2024/06/16

「和漢三才圖會」植物部 卷第八十三 喬木類 厚朴(後に比定種を変更した)

 

Hounoki

 

かうぼく   烈朴 赤朴

 ほゝのき  厚皮 重皮

厚朴

        樹名榛

        子名逐折

      【和名保々加之波乃木

       今云保々乃木】

 

本綱厚朴生山谷中梓州龍州者爲上其木髙三四丈徑

一二尺膚白肉紫春生葉如槲葉四季不凋皮鱗皺而厚

紫色多潤者良五六月開細紅花結細實如冬青子生青

熟赤有核

皮【苦辛温】 其用有三平胃【一也】去腹脹【二也】孕婦忌之【三

 也】雖除腹脹若虛弱人宜斟酌用之誤服脫人元氣乃

 結者散之之神藥能瀉胃中之實平胃散用之佐以蒼

 术瀉胃中之濕平胃土之太過以致於中和而已非謂

[やぶちゃん注:」は「木」の異体字であるが、これは、諸漢方記事を見るに、「朮」の誤字である。訓読では、後の部分も「朮」に訂した。

 温補脾胃也蓋與枳實大黃同用則能泄實滿與陳皮

 蒼术同用則能除濕滿與解利藥同用則治傷寒頭痛

 與瀉痢藥同用則厚腸胃

 【不以薑製則棘人喉舌乾薑爲

  之使惡澤瀉忌豆食之動氣】

[やぶちゃん注:以上の割注は、以上のように、改行している。珍しい書式であるが、これは、続けて書くと、次の行に二字のみとなるのを嫌って、かく、したものと推定される。]

 新六 何そこの西の軒はのほゝかしは山のはまたて月そかくるゝ 知家

 六帖 みちのくの栗狛の山のほゝの木の枕はあれと君か手枕 人丸

△按厚朴葉大者近尺似槲葉而無刻齒淺綠色冬凋春

 生嫩葉夏開花狀似牡丹花而淺紫色大一尺許隨結

 實似冬靑子而熟則殻自裂裏赤中子黒老木皮有鱗

 皺剥入藥用膚白理宻微帶黃作刀劔鞘或釐等奩蓋

 其葉四季不凋者花紅細者並不當

 

   *

 

かうぼく   烈朴 赤朴

 ほゝのき  厚皮《かうひ》 重皮

厚朴

        樹を「榛《しん》」と名づく。

        子《み》を「逐折」と名づく。

      【和名、「保々加之波乃木《ほほかしはのき》」。

       今、云ふ、「保々乃木《ほほのき》」。】

 

「本綱」に曰はく、『厚朴、山谷《さんこく》の中に生ず。梓州《ししう》・龍州の者、上と爲《なす》。其の木、髙さ、三、四丈。徑《めぐ》り、一、二尺。膚《はだへ》、白く、肉、紫。春、葉を生ず、槲(かしは)の葉のごとく、四季、凋まず。皮に鱗《うろこ》の皺(しわ[やぶちゃん注:ママ。])ありて、厚し。紫色。多く、潤《うるほ》ふ者、良し。五、六月、細《こまやか》なる紅≪の≫花を開き、細《こまやか》なる實《み》を結ぶ。「冬青(まさき)」の子(み)のごとし。生《わかき》は、青く、熟《じゆくせ》ば、赤く、核《たね》、有り。』≪と≫。

『皮【苦辛、温。】 其の用、三《みつ》、有り。胃を平《たひ》らぐ【一《いつ》なり。】。腹の脹《は》りを去る【二なり。】。孕婦には、之れを忌む【三なり。】。腹の脹りを除くと雖も、虛弱の人のごときは、宜しく斟酌《しんしやく》して之れを用ふべし。誤り、服すれば、人の元氣を、脫す。乃《すなはち》、結する者、之れを散ずるに、之《これ》、神藥にて、能く、胃中の實《じつ》を瀉《しや》す。「平胃散」に、之れを用ひて、佐《さ》するに、「蒼朮《さうじゆつ》」を以つて、胃中の濕《しつ》を瀉し、胃土の太過《たいくわ》を平らげ、以つて、中和を致すのみ。脾胃を温補《おんほ》すると謂ふに非ざるなり。蓋し、「枳實《きじつ》」・「大黃《だいわう》」と、同じく用ゆれば、則ち、能く、實滿《じつまん》を泄《せつ》す。「陳皮《ちんぴ》」・「蒼朮」と同じく用ふれば、則ち、能く濕滿《しつまん》を除く。解利の藥と同じく用ふれば、則ち、傷寒・頭痛を治し、瀉痢の藥と、同≪じく≫用ふれば、則ち、腸胃を厚くす。』≪と≫。

『【「薑《きやう》」≪にて≫製《せい》≪を≫以つてせざれば、則ち、人の喉《のど》・舌を、棘(いらつ)かす。「乾薑《けんきやう》」を、之れが「使」に爲《な》す。澤瀉《たくしや/おもだか》を惡《い》み[やぶちゃん注:「忌み」に同じ。]、豆を忌む。之れを食へば、氣を動かす。】』≪と≫。

 「新六」

   何《なに》ぞこの

       西の軒ばの

    ほゝかしは

      山のはまたで

       月ぞかくるゝ 知家

 「六帖」

   みちのくの

       栗狛(くりこま)の山の

    ほゝの木の

      枕はあれと

       君が手枕(たまくら) 人丸

△按ずるに、厚朴、葉の大なる者は、尺に近く、槲(かしは)の葉に似て、刻齒《きざみば》、無く淺綠色。冬、凋≪み≫、春、嫩葉(わか《ば》)を生ず。夏、花を開く。狀《かたち》、牡丹の花に似て、淺紫色。大いさ、一尺許《ばかり》。隨ひて、實を結ぶ。「冬靑(まさき)」の子《み》に似て、熟すれば、則ちお、殻、自《おのづか》ら、裂(さ)け、裏、赤《あかし》。中の子《たね》、黒し。老木の皮、鱗皺《うろこじは》、有り。剥(は)ぎて、藥用に入《いるる》。膚《はだへ》、白く、理(きめ)、宻(こまか)にして、微《やや》、黃を帶ぶ。刀劔の鞘(さや)、或いは、釐-等(でぐ)の奩(いえ[やぶちゃん注:ママ。「家(いへ)」で「箱」のこと。「釐-等の奩」の私の注を見られたい。])に作る。蓋し、「其の葉、四季、凋まざる。」と云≪ひ≫[やぶちゃん注:「云」は送り仮名にある。]、花、紅にして、細きなり。」と云ふは[やぶちゃん注:同前。]、並びに、當たらず。

 

[やぶちゃん注:これは、良安の種の類推に、非常に、問題がある。それについて、東洋文庫では後注で、「冬青(まさき)の子に似て」という部分を指摘にして、『良安は冬青をマサキと認識して話をすすめているが、中國の冬青は現在ではナナメノキとされている』とあるからである。この以下に続く痙攣的誤謬の堆積物を、まず、「腑分け」しなければならない。

「冬青」は本邦に於いては、現行、双子葉植物綱バラ亜綱ニシキギ目モチノキ科モチノキ属ソヨゴ Ilex pedunculosa の漢字表記

である。当該ウィキによれば、ソヨゴは『常緑樹で』、『冬でも葉が青々と茂っていることから「冬青」の表記も見られる』しかし、『「冬青」は常緑樹全般にあてはまることから、これを区別するために「具柄冬青」とも表記され』、『中国』の『植物名でも』「具柄冬青(刻脈冬青)」『と表記される』とあり、当該中文ウィキでも、そうなっている(他に別名として「長梗冬青」も挙げられてある)。ところが、良安は、この「冬青」に『マサキ』とルビしてしまっている。しかし、「マサキ」は、

ニシキギ目ニシキギ科ニシキギ属マサキ Euonymus japonicus

であって、上位の科タクソンで異なる、全くの異種なのである。翻って、本標題の「厚朴」は、現行では、「ナナメノキ」の異名を持つ、

〇モチノキ目モチノキ科モチノキ属モチノキ亜属ナナミノキ Ilex chinensis

を指すのである。中文名も正しく「冬青」である。Wikispecies」の「Ilex chinensisの終わりにある「一般名」に「中文:冬青」とあるので、間違いない。従って、

「本草綱目」で時珍が記述している「厚朴」はこののナナミノキと断定してよい

ということになるか――と思った。★【二〇二四年八月十日以下の修正と追記】と断定してしまったのだが、「桑」の項に注をするために調べる内、「東京理科大学薬学部」公式サイト内の「シナホウノキ」(PDF)の解説中に、『中国原産で』『日本産のホウノキと近縁』とし、『 中国では厚朴をシナホウノキのことを指し、日本ではホウノキ( Magnolia obovata Thunberg )を和厚朴、シナホウノキを唐厚朴と区別する』とあるのを見つけてしまったことから、

モクレン科モクレン属シナホウノキ Magnolia officinalis 

真の「厚朴」であることが判った。

 こうした多重錯誤が行われているため、話しが全く噛み合わなくなってしまっており、結果、ドン尻で、良安は、『蓋し、「其の葉、四季、凋まざる。」と云、花、紅にして、細きなり。」と云ふは、並びに、當たらず。』と不満をブチ挙げるに至っているのである。

 良安の「本草綱目」のパッチワーク引用は、「卷三十五上」の「木之二」「喬木類」(「漢籍リポジトリ」)の「厚朴」(ガイド・ナンバー[085-8a]以下)はかなり長いので、各自で見られたい。

 以上で一度、比定同定した「ナナミニノキ」について、小学館「日本大百科全書」から引用しておく(当該ウィキは、失礼乍ら、記載が頗る貧困で、樹形等の写真ぐらいしか役に立たない)。『ななみのき』は『七実木』であり、『モチノキ科』Aquifoliaceae『の常緑高木。高さは』十『メートルに達する。幹は灰褐色、若枝は緑色で稜がある。葉は厚く、長卵状楕円形、長さ』七~十三『センチメートル、低い鋸歯がある。花は』六『月、葉腋から出た集散花序につき、淡紫色。雌雄異株。核果は球形、径約』六『ミリメートルで、赤く熟す。静岡県以西の本州、四国、九州』、及び、『中国に分布し、山地に生える。美しい実が多くなるので』、『この名がある。材は器具材とし、樹皮から』「トリモチ」や『染料をとる』とあった。中文ウィキは存在しない。英文の当該種のウィキを見るに、『冬青は伝統的な中医学で使われる五十種の基本的な生薬の一つで、「冬青」(中国語名「冬青」)という名前で呼ばれている。中医学では、血行を促進し、鬱血を取り除いて、熱と毒素を排除するとされている。狭心症・高血圧・ぶどう膜炎(眼の中の「虹彩」・「毛様体」・「脈絡膜」から成る非常に血管の多い組織を総称して「ぶどう膜」と呼び、そこに炎症が起こる病気を指すが、実際には、「ぶどう膜」だけではなく、脈絡膜に隣接する「網膜」や、眼の外側の壁となっている「強膜」に生じる炎症も含んで総称する)、・咳・胸部圧迫感・喘息等の症状を改善すると信じられている。また、本種の根は、皮膚感染症・火傷・外傷に局所的に塗って効果がある。中国やヨーロッパの多くの都市で街路樹として使用されている』といった内容が記されてあった。これらの対応疾患は、時珍の記述によく一致するようには見える。

 以下、邦文の「シナホオノキ」詳しい記事がないので、英文ウィキの「 Magnolia officinalis 」のものを引く。『標高三百〜千五百メートルの中国の山岳地帯・渓谷に自生するモクレン属の一種である』『落葉樹で、高さは二十メートルに達する。樹皮は厚く茶色で、裂け目はない。葉は幅広く卵形で、長さ二十~四十センチメートル、幅十一~二十センチメートル。花は香りがよく、幅十~十五センチメートル、九~十二枚(まれに十七枚)の白い花被片があり、五月から六月に咲く』。以下の『二種』の変種がある。

Magnolia officinalis var. officinalis(葉の先端が鋭く尖る)

Magnolia officinalis var. biloba(葉は先端に切れ込みがある。この変種は野生には見られず、栽培種としてのみが知られる。但し、これは真の品種ではなく、栽培種である可能性もあるが、未だ確定されていない)

M. officinalisMagnolia obovata(ホオノキ)と殆んど違いがない。両者の間に一貫して見られる唯一の違いは、M. officinalis の果実集合体の基部が丸いのに対し、M. obovata の果実集合体の基部は鋭いこと​​である。さらなる研究により、 M. officinalisM. obovata の亜種として扱うべきかどうかが、最終的に決定されるかもしれない』。『非常に芳香のある樹皮は、茎、枝、根から剥がされ、伝統的な中国医学で使用され、厚朴(これが一般名)として知られている。伝統的な使用法は、湿気や痰を取り除き、膨張を和らげる』、『現在、商業用及び家庭用に使用される樹皮の大部分は、栽培されている植物から供給されている』。『樹皮にはマグノロールとホノキオールという二種のポリフェノール化合物が含まれており、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ(PPARガンマ: peroxisome proliferator-activated receptor gamma)作動薬及びGABAA 調節薬』(向精神薬・全身麻酔薬)『として実証されている』とあった。

「榛《しん》」「本草綱目」の「厚朴」の「釋名」に出てしまっているのだが、これ、コマッタちゃんで、現行では、

ブナ目カバノキ科ハシバミ属ハシバミ変種 Corylus heterophylla var. thunbergii

を指す。

「逐折」中文の「中醫世家」のここに見つけた。『杀鼠,益气明目。一名百合。浓实,生禾间,茎黄,七月实黑,如大豆。』とあるので、この「益气明目」は「当たり」である。

『和名、「保々加之波乃木《ほほかしはのき》」。今、云ふ、「保々乃木《ほほのき》」。』これも修正する。これは、先に追加した通り、シナホオノキとほとんど変わらないとされる、

モクレン目モクレン科モクレン属ホオノキ節ホオノキ Magnolia obovata

である。

「梓州《ししう》」南北朝時代から宋代にかけて、現在の四川省綿陽市(グーグル・マップ・データ。以下、無指示は同じ)南部に設置された州名。

「龍州」南北朝時代から明代にかけて、現在の四川省の綿陽市北部と、同省の広元市西部に跨る地域に設置された州名。

「槲(かしは)」繰り返さないが、先行する「柏」の項では、良安は、そこでは、この「槲」を「くぬぎ」と読んじゃってるのだ。やり過ぎのドタバタ・コメディを見てるような呆れたありさまである。

「冬青(まさき)」このルビを以って、「マサキ」が「厚朴」とイコールと断じて「本草綱目」の記載を読んでしまった良安の認識こそが地獄の坩堝落ちの大脱線の始まりであったのである。

「平《たひ》らぐ」平静な状態に戻す。

「胃中の實《じつ》を瀉《しや》す」胃の内部にある、異常な食物の固まったものを排泄・除去する。

「平胃散」サイト「おくすり110番」の「平胃散」を見られたい。「Ⅰ作用」の「働き」に『平胃散(ヘイイサン)という方剤』は、『胃の働きをよくして、水分の停滞を改善し』、『その作用から、消化不良による胃もたれ、胃のチャポチャポ、お腹のゴロゴロ、下痢などに適応し』、『体力が中くらいの人を中心に広く用いることができ』るとあって、「組成」の項に、『平胃散の構成生薬は、胃腸によい下記の』六『種類で』あるとして、「厚朴」を『健胃作用』があるとし、蒼朮・厚朴・陳皮・生姜(ショウキョウ:薑(ショウガ))・大棗(タイソウ)・甘草をリストする。

「佐《さ》するに」「主薬の補助剤とし」の意。

「蒼朮《さうじゆつ》」はキク目キク科オケラ属ホソバオケラ Atractylodes lancea の根茎の生薬名。中枢抑制・胆汁分泌促進・抗消化性潰瘍作用などがあり、「啓脾湯」・「葛根加朮附湯」などの漢方調剤に用いられる。参照したウィキの「ホソバオケラ」によれば、『中国華中東部に自生する多年生草本。花期は』九~十『月頃で、白〜淡紅紫色の花を咲かせる。中国中部の東部地域に自然分布する多年生草本。通常は雌雄異株。但し、まれに雌花、雄花を着生する株がある。日本への伝来は江戸時代、享保の頃といわれる。特に佐渡ヶ島で多く栽培されており、サドオケラ(佐渡蒼朮)とも呼ばれる』とある。

「胃土」東洋文庫訳では、割注があって、『(胃は五行の土にあたる)』とある。

「太過《たいくわ》」「大過」とも書く。ここは、易(えき)の六十四卦の一つ。「沢風大過」とも称し、「四陽」が「中(ちゅう)」に集まり、「二陰」が外にあるために、陽が盛大に過ぎる状態を指す語であろう。

「枳實《きじつ》」ミカン・ダイダイ・ナツミカン等の未熟果実を乾燥させたもの。漢方で健胃・胸痛・腹痛・鎮咳・去痰などに薬用とする。

「大黃《だいわう》」ダイオウ。タデ目タデ科ダイオウ属 Rheum の一部の種の根茎の外皮を取り去って乾燥したもので、健胃剤・潟下剤とする。「唐大黄」と「朝鮮大黄」との種別がある。

「實滿《じつまん》を泄《せつ》す」消化器系で閉塞を起こしているものを、排泄させる。

「陳皮《ちんぴ》」中国では熟したムクロジ目ミカン科ミカン属マンダリンオレンジ Citrus reticulata の果皮を観想させたものであるが、本邦では熟したミカン属ウンシュウミカン Citrus unshiu のそれで代用する。

「濕滿《しつまん》を除く」「漢方で言う体内の病的な湿気(しっき)の膨満状態を取り除く」の意。

「解利の藥」東洋文庫の割注に、『(利き目のするどいのを緩める薬)』とある。

「傷寒」漢方で「体外の環境変化により経絡が冒された状態」を指し、具体には、「高熱を発する腸チフスの類の症状」を指すとされる。

「薑《きやう》」「乾薑」漢方生薬としては「良姜」で、ショウガ目ショウガ科ハナミョウガ属 Alpinia の根茎を乾したものを指す。

「澤瀉《たくしや/おもだか》」ここは正しくは「たくしや」(たくしゃ)で読むのが正しいが、良安が「おもだか」と読んでいた可能性を完全には排除出来ないので、かく、した。本邦で「澤瀉」は、

単子葉植物綱オモダカ目オモダカ科オモダカ属オモダカ Sagittaria trifolia

を指すのであるが、中国では、

オモダカ科サジオモダカ属ウォーター・プランテーン変種サジオモダカ Alisma plantago-aquatica var. orientale

属レベルで異なる別種の塊茎を乾燥させたものを「澤瀉」と言うからである。詳しくは、私の「大和本草卷之八 草之四 水草類 澤瀉(をもだか) (オモダカ)」を参照されたい。

「新六」「何《なに》ぞこの西の軒ばのほゝかしは山のはまたで月ぞかくるゝ」「知家」「新六」は「新撰和歌六帖(しんせんわかろくぢやう)」で「新撰六帖題和歌」とも呼ぶ。寛元二(一二四三)年成立。藤原家良(衣笠家良)・藤原為家・藤原知家(寿永元(一一八二)年~正嘉二(一二五八)年:後に為家一派とは離反した)・藤原信実・藤原光俊の五人が、寛元元年から同二年頃に詠んだ和歌二千六百三十五首を収録した類題和歌集。奇矯・特異な詠風を特徴とする。日文研の「和歌データベース」の「新撰和歌六帖」で確認した。「第六 木」のガイド・ナンバー「02483」である。

「六帖」「みちのくの栗狛(くりこま)の山のゝの木の枕はあれと君が手枕(たまくら)」「人丸」「六帖」は「古今和歌六帖」のこと。全六巻。編者は紀貫之、或いは、「和名類聚鈔」で知られる源順(したごう)とも言われる。草・虫・木・鳥等の二十五項、五百十六題について和歌を掲げた類題和歌集。十世紀の終わり近く、円融・花山・一条天皇の頃の成立か。成立年代は未詳であるが、貞元元(九七六)年から永延元(九八七)年まで、又は源順の没年である永観元(九八三)年までの間が一応の目安とされる。日文研の「和歌データベース」の「古今和歌六帖」で確認した。「第五 服飾」のガイド・ナンバー「03237」である。「栗狛の山」とは山体が宮城・秋田・岩手の三県に跨る栗駒山(くりこまやま:標高千六百二十六メートル)のこと。なお、「夫木和歌抄」にも載るが、そちらでは「読人不知」である。

「釐-等(でぐ)の奩(いえ《✕→いへ》)」割注したが、まず、後半を順序立てて言うと、「奩」は音「レン」で、古くは、漢代の化粧用具の入れ物を指した。青銅製と漆器とがり、身と蓋とから成り、方形や円形のものがある。この中に、鏡や小さな容器に詰めた白粉(おしろい)・紅・刷毛・櫛などを入れる。また,身が二段重ねになっており、上段に鏡を,下段に白粉などを入れるタイプもある。長沙の馬王堆一号漢墓や楽浪の王光墓などから出土している。という訳でここは、まずは、ざっくりと「箱」のことと捉えて欲しい。さて、問題は前の部分で、始めは意味が判らなかった。まず、「釐等」を調べると、小学館「日本国語大辞典」に、「れいてんぐ」で「釐等具・厘等具」と漢字表記し、『「れい」「てん」はそれぞれ「釐」「等」の唐宋音』とし、『釐(りん)・毫(ごう)のような少量までを量るのに用いる秤(はかり)。明治初年頃まで、金銀などの貴重品の重さを量るのに用いた』とある。さすれば、金銀の重量を計る器具を入れる「奩」=「箱」? なんか、今一、ピンと来ない。ところが、後に読みが続き、「れいてん。れてぐ。れいてぐ。れていぐ。れてん。」とあった。而して、良安は「釐等」に対して「テグ」とルビしている。――決定打は東洋文庫の訳で――『釐等奩(にんぎょうばこ)』――とあったので、瞬時に氷解した。「テグ」は「デグ」で、その発音を用いただけであり、「でぐ」の意味は「木偶」(でく・でぐ)のことで、大道芸人が操る木彫りの「人形」や、仕掛けを施した「操り人形」を指し、「その芸人が木偶人形を入れて旅をし、人形操りの台にもした奩」=「人形箱」の意なのだった。]

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