「善惡報はなし」正規表現オリジナル注 卷三 㐧六 にはとりの玉子を取むくふ事
[やぶちゃん注:底本・凡例等は初回を参照されたい。]
㐧六 にはとりの玉子を取《とり》むくふ事
○「同国」の内に、さるわかき女ありけり。
[やぶちゃん注:「同国」前話を受けるのであるが、美濃国か、下野国か、判らぬ。一応、前者で採っておく。]
我子、あまり、てうあい[やぶちゃん注:ママ。「寵愛」は「ちようあい」でよい。]のあまりに[やぶちゃん注:前にある「あまり」は衍字っぽい。]、庭鳥(にわとり)を、おほく、かひて、其玉子を、あまた、ころし、我子に、くはする事、數しらず。
ある時、女の夢に、一人の女房、きたりて、我子のふしたる、まくらもとに、うちよりて、世に、うらめしげなるふぜいにて、
「なさけなくも、わらはが子を、あまた、ころし給ふは、何事ぞや。其方ばか、子をおもひ給ふか。鳥類・ちくるい[やぶちゃん注:ママ。]までも、何れか、我子をかなしまぬは、なし。せんなき事を、し給ふ物かな。いまに、おもひしり給はん。あら、なさけなや。うらめしや。」
と、云《いひ》て、なみだを、
「はらはら」
と、こぼして、
「たはたは」
と、立てかへりけるを見れば、「にはとり」なり。
また、次の夜も、きたりて、うちうらみ、なきて、かへりしが、其子、ほどなく、わづらひ付、ひたと、「にはとり」のなくまねをしける事、三十日ばかりりして、つゐに[やぶちゃん注:ママ。]、くるひ死にしたり。
「是は、」『にはとり』の、むくひなり。」
と みな、きく人ごとに、いひあへり。
此はなしは、近年の事也。
[やぶちゃん注:「たはたは」当初、「たはたは」の誤刻(両参考底本は、ともに後半は踊り字「〱」)かと思ったが、或いは、確信犯で、ニワトリの霊のそれ故に、わざとひっくり返したともとれなくは、ない。そうすれば、直後の「にはとり」の語が出るまで、読者は、この「たはたは」に奇異感覚を持ち続けるからである。私は、膨大な量の怪奇談をブログで電子化注してきたが、異界から出現する物の怪や幽霊が、現世の人間のとは、異なる言語表現をするケースを、かなり体験しており、その中の殆んどは、明らかに誤植・誤刻ではなく、作者が異界を判り易く読者に知らせる手法として、まさに確信犯で作者・編者がわざと記していると思ったものが、甚だ、多いからである。]
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