「善惡報はなし」正規表現オリジナル注 卷五 㐧十四 ねずみのふくを取報來り死事 / 「善惡報はなし」正規表現オリジナル注~了
[やぶちゃん注:底本・凡例等は初回を参照されたい。本篇は、第二参考底本は最初の四行分のみが視認出来る他は、それ以降は下部が大幅に破損してしまっているため、第一参考底本を参考に電子化するしかなかった。なお、本篇を以って、「善惡報はなし」は終っている。]
㐧十四 ねずみのふくを取《とり》、報(むくい)來り、死(しぬる)事
〇都とうじの邊(へん)にて、さる農人(のうにん)、はたを、うちけるに、土手(どて)より、ねずみ、一つ、出《いで》て、錢(ぜに)を一文(《いち》もん)、をきて[やぶちゃん注:ママ。「置きて」。以下同じ。]、もとのあなへ、かへりぬ。
其次(《その》つぎ)に、また、一つ、出て、みぎのごとく、錢を、をきて、かへりぬ。
䑕(ねづみ)、五、六十も出《いで》て、次㐧次㐧《しだいしだい》、ならぶる。
此男、ふしぎに思ひ、見る所に、
「ひた」
と持《もち》て出《いづ》る。
『いかさま、とらばや。』
と、おもひ、やがて、かきよせ、皆、取《とり》てけり。
又、ねずみ、出《いで》て、錢の、なき事を、ふしぎさうにして、かへり、一つのねずみ、ちいさき「つぼ」を、一つ、くわへ[やぶちゃん注:ママ。「啣(くは)へ」。]出《いで》て、をのれと[やぶちゃん注:ママ。]、手を、「つぼ」の中へ、さし入《いれ》て、かへる。
次㐧次㐧[やぶちゃん注:後半は原書では、踊り字「〱」。]、出《いで》て、手をさし入て、かへる。
此男、つくづく、みて、
『ふしぎをする事かな。』
と、おもひ、
『いか成《なる》事か、しつらん。』
と、おもひ、をのが[やぶちゃん注:ママ。]手を、さし入てみるに、別の事なく、それより、家に、かへりしが、其ゆび、何(どこ)ともなく、次㐧に、くさり入《いり》て、四、五日の中《うち》に、手くびより、くさり、おちけり。
家(か)しよく、ならずして、後には、乞食と也《なり》[やぶちゃん注:漢字はママ。]、終《つひ》に、としへて、かつゑ、死《しに》けり。
「扨《さて》は。鼠の『むくひ』なり。」
と、人、口〻《くちぐち》に、いひあへり。
萬屋庄兵衞【開板】
[やぶちゃん注:最後の「【開板】」は二行割注で、第一参考底本では、右から左に横書になっており、全体が、下二字上げインデントである。
「家(か)しよく」「家職」(=家業:この場合は農耕)を考えるが、私は「稼穡」(穀物を植えることと収穫すること。 則ち、農業)の方が、しっくりくるように感じられた。本書では、漢字の当て字も稀にあり、多くの漢字とすべき部分が、読者の便を考えて、ひらがなにしてある箇所が甚だ多いから、「稼穡」でもよいと考えている。
なお、第一参考底本の吉田幸一氏の巻末の本書の解題のここ(右ページ)によれば、本書が『諸国咄的怪異小説であ』り、ロケーションは、東は『常陸、下総、下野』、北陸は『能登、佐渡』、西は『備州、石見、九州の筑後にまで及んでゐる』ことから、不詳の作者について、『仏教的な因果応報譚であることゝ併せて、諸国』『遍歴の経験をもつた僧侶の著述であらう』と推定され、『各はなしは聞書の形式をとり、その敍述の方法といひ、内容といひ』、『正三』(しょうさん)『道人の聞書たる「因果物語」と似てゐる。或ひは』(ママ)『「因果物語」を模した作品と言つても過言でないと思ふ』と述べておられることを附記しておく。因みに、そこで吉田氏が示された、鈴木正三「因果物語」は、片仮名本(義雲・雲歩撰)底本・饗庭篁村校訂版を底本として、このブログ・カテゴリ「怪奇談集Ⅱ」で、既に二〇二二年十月に全電子化注を終えているので、未読の方は、どうぞ。]
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