「善惡報はなし」正規表現オリジナル注 卷三 㐧十二 繼母子を殺て土に埋事たちまちむくふて其身も殺さる事
[やぶちゃん注:底本・凡例等は初回を参照されたい。]
㐧十二 繼母(けいぼ)、子を殺(ころし)て、土に埋(うづむ)事、たちまち、むくふて、其身も殺《ころ》さる事
○能登國、新川(にゐかは[やぶちゃん注:ママ。])といふ所の近邊に、さる商人(あき《びと》)あり、其身は、つねに、他国しける。
[やぶちゃん注:「能登國、新川(にゐかは)」「能登國」は「越中國」の誤り。旧「新川郡(にいかはのこほり)」は、現在の上新川郡及び下新川郡で、現在の富山県の東半分を占める広域である。当該ウィキの地図で確認されたい。]
はじめの妻(つま)の子と、後(のち)のつまの子と、二人、もてり。
夫(をつと)、他行(たぎやう)しければ、此繼母、邪見のものにて、まゝ子を、にくみ、 あしくあたる事、いふばかりなし。
或時、をつと、一年ばかり、上方にありけるうちに、まゝ子を、ひそかに、ころして、 手づから、うらに、あなを、ほり、うづみけり。
弟が、此よしを見をきて[やぶちゃん注:ママ。以下同じ。]、其後、父、国より、かへりて、兄が事をとふに、母、こたへて、
「されば、きのふのひるほどに、出《いで》けるが、いまだ、かへらず。さだめて、をぢ・をばのかたへも、ゆきつらん。ふしぎさよ。」
と、さながら、あきれたるていに、もてなす。
夫、
「さらば。」
とて、兄弟共《ども》のかたをたづぬるに、其《その》ゆきがた、しれず。
をつと、
『扨は。きやつが、いづくへも、うりやるか、さなくば、ひそかに、ころしけるか。いかさま、しさい、あるべし。』
と、おもひながら、四、五日も、うちすぎぬ。
あるとき、母、弟を、とらへ、大きに、てうちやく[やぶちゃん注:ママ。「打擲(ちやうちやく)」。]しける。
弟、其にくしみにや、父がそばへより、こゞゑになり、
「兄が事を、見をきければ、かやうかやう。」
と、つぐる。
夫、
「さては。」
とて、其うづみし所を、いはせ、ほり出《いだ》し、見ければ、何、うたがふ所のあるべき、兄が「しがい」に、まぎれなければ、やがて、所の奉行へ、うつたへ、其まゝ、死罪に行はれ候へば、因果のだうり、かくのごとし。
終には、天命、のがれがたく、剩(あまつさへ)、をのれ[やぶちゃん注:ママ。]が子に、「あだ」されし事、扨は、天帝、其子に、みことのりありて、其とがを、あらはし、たちまち、害に、あはしめ給ふ。かげに、かたちの、したがふごとく、おそるべし、おそるべし。
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