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2024/07/23

「和漢三才圖會」植物部 卷第八十三 喬木類 贅柳

 

Kobuyanagi

 

こぶやなき 正字未詳

 

贅柳

 

 

△按贅柳生山谷叢生髙五六尺葉似白楊葉而花穗與

 柳無異其木枝皆有縱脹起剥皮如堆文亦似人肬贅

 故呼曰贅柳木理濃美可以作牙杖

 

   *

 

こぶやなぎ 正字、未だ詳かならず。

 

贅柳

 

 

△按ずるに、贅柳、山谷に生じ、叢生す。髙さ、五、六尺。葉、白楊《まるばやなぎ》の葉に似て、花穗、柳と異《こと》なること無し。其の木・枝、皆、縱(たつ)に、脹《ふく》れ起《おこ》ること、有り。皮を剥げば、堆(うづたか)き文《もん》のごとく、亦、人の肬(いぼ)、贅《こぶ》に≪も≫、似たり。故《ゆゑに》、呼んで「贅柳《こぶやなぎ》」と曰ふ。木理(きめ)、濃(こまや)かにして、美なり。以つて、牙杖(やうじ)に作るべし。

 

[やぶちゃん注:これは、比定同定に困った。東洋文庫でも、一切、種名を出していない。そこで、私が所持する中で、最も信頼している小学館「日本国語大辞典」で引いた。あった! しかし……そこには……疑問を添えつつも、『植物「いぬこりやなぎ(犬行李柳)」の異名か。《 季語・春 》*俳諧。誹諧発句帳―春・柳「葉かすみのかかるはあやしこぶ柳<親重>*俳諧。毛吹草―五「用よけに精を入るやこぶ柳<栄正>」*和漢三才図会―八三「贅柳(コブヤナキ)』とあり、「語源説」として『その根に瘤を生ずるところから〔俚言集覧〕』とし、「発音」として『コブヤナギ』と、例示に本項が引かれてしまっているからである。私は既に、前項の「𣏌柳」で、それを、双子葉植物綱キントラノオ目ヤナギ科ヤナギ属イヌコリヤナギ Salix integra に比定同定してしまっているからである。私は、それなりに、手順を踏んで、日中の記載を調べ、それを決定している。

 されば、どうするか?

 まず、一つ、気になったことがある。それは、「語源説」の「俚言集覽」(国語辞書。福山藩の漢学者太田全斎が、自著の「諺苑 」(げんえん)を改編増補したものと考えられているもので、十九世紀前期の成立。全二十六巻。石川雅望(まさもち)の「雅言集覧」に対するものとして書かれたらしく、口語・方言を主として扱い、諺も挙げてある。配列は五十音の横段(ア~ワ/イ~ヰのように)に従う。後、井上頼圀・近藤瓶城が普通の五十音順に改め、増補刊行した「增補俚言集覽」全三冊が一般に利用されている。江戸時代の口語資料として重要。ここは「ブリタニカ国際大百科事典」に拠った)の引用である。そこには、

『その根』(☜)『に瘤を生ずる』

とある。ところが、良安は、ここで、

『其の木・枝』(☜)『皆、縱(たつ)に、脹《ふく》れ起《おこ》ること』が『有』って、その木、或いは、枝の『皮を剥げば、堆(うづたか)き文《もん》の』ようなものが視認でき、それは、『亦、人の肬(いぼ)、贅《こぶ》に≪も≫、似』ている。

と言っている点の齟齬である。

肬・瘤が生ずる部位が違う

のである。これは、孰れの記載も、いい加減ではない形で、その部位を指定しているのである。

ということは、太田全斎の言っている「イボヤナギ」と、良安がここで指示している「イボヤナギ」は異なる種だということになる。とすると、これは、

●「イヌコリヤナギ」ではなく、「コリヤナギ」(ヤナギ属コリヤナギ Salix koriyanagi )ではないか?

或いは、

●「イヌコリヤナギ」の個体の中で、何らかの寄生病原体によって肬状・瘤状の変形が生じた異常個体ではないか?

という仮説を、私は、この時点では、持ったのだが、気になったので、国立国会図書館デジタルコレクションの「俚言集覽 中卷」(村田了阿編・井上頼圀/近藤瓶城・増補/一九六五年名著刊行会刊)で確認してみた(左ページ上段四~五行目)。電子化する。《增》は、原本では「增」の囲み字。

   *

癭(コブ)柳 〔鷹筑波〕氣力もやあればそ力こぶ柳《增》水楊の一種根に瘤を生す枝の心[やぶちゃん注:芯。]にて柳ごりを製す𣏌柳ともいふ

   *

おい、おい! ヤバいぞ! 『𣏌柳ともいふ』とあるやないか!

……と……その瞬間……実は、私は……昨日……前回の「𣏌柳」を注している最中……

チラと――ある――素朴な疑問を抱いたことを思い出した

のである。それは、

……『「杞柳」で「役に立たない柳」の意味なのに、「本草綱目」には、「車の轂(こしき)にするとよい」と言い、「その枝を処理を施して編んで、箱-篋(はこ)を作る」と言ってる。……かの「孟子」にも、「盃を作る」と書いてある、というじゃないか? 良安も、「その枝で篋(はこ)」則ち、「柳行李」を「作る」と言い、その皮を金瘡(刀剣・包丁等による切り傷)の妙薬としているじゃないか? これ、十全に役に立ってるやんか? なんで、こんな名前にしたんやろ?』……

という不審である。

 私は、前回では、あくまで、「杞柳」の日中の漢字表記、及び、学名を比定同定の「伝家の宝刀」としたのであるが、

……これ……考えてみりゃあ……なんだな……

……「イヌコリヤナギ」……

……「犬行李柳」……

……「犬」だ!

◎この「犬」は、諸生物の和名や通称で――『非常によく似ているが、「役に立たない」種の卑称の接頭語』――じゃないか!!!

と、遅蒔きながら、ようよう、気がついたのであった。則ち、

★前の「𣏌柳」こそが、漢名に偽りありであって、それこそが、由緒正しい、ヤナギ属コリヤナギ Salix koriyanagi であって、この「贅柳」の方こそが、イヌコリヤナギ Salix integra である

という結論に至ったのであった。

 仕切り直す。さても。この「贅柳」は、

双子葉植物綱キントラノオ目ヤナギ科ヤナギ属イヌコリヤナギ Salix integra

である。「維基百科」の「杞柳」を見られたい。本邦のウィキの「イヌコリヤナギ」を引く(注記号はカットした)。『犬行李柳』は、『水辺などに生える。栽培品種であるハクロニシキ(白露錦、学名:S. integra 'Hakuro Nisiki')がよく栽培されている』。『北海道〜九州』『朝鮮に分布する落葉低木』とあるが、これは、誤りである。「維基百科」の「杞柳」の「分布」に、『日本・ロシア・北朝鮮・安徽省吉林省・河北省・黒竜江省・遼寧省など中国大陸に分布し』、『安徽省撫陽市扶南県は、中国林業局によって「中國杞柳之」に選ばれた』とある。『樹高は』一・五『メートル』『ほどで、幹径は』十『センチメートル』『ほどになる。一年枝は真っ直ぐに伸びて、小枝は折れにくい。樹皮は暗灰色で滑らかだが、老木になると縦に裂ける。一年枝は黄褐色で無毛である。花期は』三~四月で、『雌雄異株。種子は白い毛が生えている。冬芽は小さく、卵形で無毛』、一『枚の芽鱗が帽子状に被っている。枝先に仮頂芽を』二『個』、『つけ、側芽は枝に対生するが、ずれたり』、『互生することもある。葉痕はV字形で維管束痕が』、三『個』、『つく』。『名前の由来は、コウリヤナギ(コリヤナギともいう)』(コリヤナギが正式和名であるが、漢字表記は「行李柳」である。ヤナギ属コリヤナギ Salix koriyanagi 『に似ているが、役に立たないという意味から。中国名は、杞柳』とある。この場合の「杞」=「𣏌」は、ご存知の「杞憂」の中国古代の国名である。杞の国の人が、「天が、崩れ落ちてくるのではないか?」と心配したという、「列子」の「天瑞」篇の故事から、「心配する必要のないことをあれこれ心配すること・取り越し苦労」の意に転じた。古くは「杞人の憂へ」とも言った。

 さて。厳密には、

――イヌコリヤナギに、根、或いは、幹・枝に、病変のようなイボ状・コブ状のものが生じ、

――コリヤナギには、それが発生しないという事実確認が出来ないと、決定打とはならない

のだが、流石に、ネット上にそのようなことまで書いてくれている日・中の記事は、ない。どなたか、お教え下さったら、恩幸、これに過ぎたるはない。

 なお、これより、前の「𣏌柳」の注の全面改訂に取り掛かる。

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