「善惡報はなし」正規表現オリジナル注 卷五 㐧三 一じやうばう執心の事
[やぶちゃん注:底本・凡例等は初回を参照されたい。]
第三 一じやうばう、執心(しうしん)の事
○寬永年中に、佐渡の國「はも」といふ所に、「いちじやうばう」と申《まうし》て、ありける。
[やぶちゃん注:「寬永年中」一六二四年から一六四四年まで。徳川家光の治世。
『佐渡の國「はも」』現在の佐渡市羽茂(はもち)地区(グーグル・マップ・データ)であろう。小佐渡の沢崎鼻や宿根木のある半島の、中間部分に当たる。]
せんざい[やぶちゃん注:「前栽」。]に柹(かき)の木を、うへて、とし比(ごろ)、是を、あひ[やぶちゃん注:ママ。]しけるが、「むじやうへんめつ」[やぶちゃん注:「無常變滅」。]のならい[やぶちゃん注:ママ。]とて、死(しゝ)けり。
ある時、弟子の房主(ばうしゆ)、此木を、
「きりて、たきゞに、せん。」
とて、きりてけり。
扨《さて》、わりて、見るに、中に、くろく、文字(もんじ)、あり。
ふしぎにおもひ、よく見れば、
「いちじやう房」
といふ、文字、なり。
あやしくおもひ、なから[やぶちゃん注:「半ら」。木の真ん中の辺り。]、
「ひた」
と、わりけるに、わるごとに、文字、ありけり。
「是は。いか成《なる》事ぞ。」
と、いふに、
「房主、ぞんじやう[やぶちゃん注:「存生」。]の時、おしく[やぶちゃん注:ママ。「惜(を)しく」。]おもひ、つゐに[やぶちゃん注:ママ。]、其心、さいごまで、おもひつめて、死《しし》けり。其執心、木の中に、とゞまりける。」
と、きく人ごとに、申《まうし》あへり。
あさましき心也《なり》。
是《これ》は、近年の事也。
山科の人、佐渡に、久しく、すみ、上《のぼ》りて、かたられける。
[やぶちゃん注:実は、佐渡市羽茂(はもち)地区の羽茂大崎(はもちおおさき)に、嘗つてあった法乗坊(歴史的仮名遣では「はふじやうばう」)という寺の跡地に、大木の「江戸彼岸」の桜(双子葉植物綱バラ目バラ科サクラ属シダレザクラ変種・品種エドヒガンCerasus itosakura var. itosakura f. ascendens :日本に自生する十種、或いは、十一種あるサクラ属の基本野生種の一つ)の大木があることで有名である。ここ(グーグル・マップ・データ)。サイト「さど観光ナビ」の「法乗坊のエドヒガン」に、『法乗坊跡地で茅葺屋根の建物に寄り添うように枝を拡げています。樹齢は』二百五十年から二百六十『年と伝わり、根元周り』六・九メートル、『樹高』二十一メートル、『枝張りは東西南北ともに』二十六メートルに『およびます。地元の人々からは「法乗坊の種蒔き桜」と呼ばれ、農作業の目安として親しまれています』とある。作者は、この事実を知っていたと思われ、本話に柿として転用したのであろう。私は佐渡好きで、三度、行っているが、この桜は見ていない。四度目は、是非、見たく思っている。]
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