「和漢三才圖會」植物部 卷第八十四 灌木類 金櫻子
[やぶちゃん注:図の上半分に『「本草必讀」≪の≫圖』というキャプションを持った実(み)二個体の絵がある。「本草必讀」は、東洋文庫の巻末の「書名注」に、『「本草綱目必読」か。清の林起竜撰』とある。なお、別に「本草綱目類纂必讀」という同じく清の何鎮撰のものもある。この二種の本は中文でもネット上には見当たらないので、確認出来ない。]
のいばら 山石榴 刺梨子 山鷄頭子
金櫻子 山雞頭子
【杜鵑花小蘗
並名山石榴
林檎何裏子
亦名金櫻子】
キン イン ツウ 同名而異物也
本綱金櫻子叢生於山林閒大類薔薇有刺四月開白花
夏秋結實亦有刺黃赤色形似小石榴而長核細碎而有
毛冬熟采之熬作煎酒服寄餽人云補治有殊効
*
のいばら 山石榴《さんせきりゆう》
刺梨子《しりし》
雞頭子《さんけいとうし》
金櫻子
【「杜鵑花《さつき》」・「小蘗《きはだ》」、
並びに、「山石榴」と名づく。
「林檎《りんご》」・「何裹子《かかし》」、
亦《また》、「金櫻子《きんあうし》」と
名づく。】
キン イン ツウ 同名にして、異物なり。
「本綱」に曰はく、『金櫻子、山林の閒に叢生す。大《おほい》に薔薇《ばら》に類す。刺《とげ》、有り。四月、白≪き≫花を開く。夏・秋、實を結ぶ。亦た、刺、有り、黃赤色。形、小さき「石榴《ざくろ》」に似て、長し。核《たね》、細《こまか》に碎《くだ》けて、毛、有り。冬、熟して、之れを采る。熬《い》りて、煎酒《いりざけ》と作《なし》、服し、≪或いは、≫人に寄-餽(をく)りて[やぶちゃん注:読みはママ。「餽」は「贈(おく)る」の意である。]、「補治《ほじ》に、殊《こと》≪に≫、効、有り。」と。』≪と≫。
[やぶちゃん注:ここで、「金櫻子」として主文で語られているものは、日中ともに(但し、本邦では帰化植物である)、
双子葉植物綱バラ亜綱バラ目バラ科バラ属ナニワイバラ Rosa laevigata
である。「熊本大学薬学部薬用植物園」公式サイト内の「植物データベース」の同種の記載を引用する(コンマ・ピリオドを句読点に代えた。なお、当該の邦文ウィキは存在しない)。『中国南部の原産で、日本には暖地で野生化している。つる性常緑低木、茎はトゲがあり、毛は無い。葉は』三『出複葉、小葉は短柄をもち、楕円形、先端は尖り、基部はくさび型。縁には細かい鋸歯があり、両面無毛。花は小枝の先に』一『個』、『付き、大型で径』五~七センチメートル、『白色、花柄と萼筒にはトゲが多い。偽果は楕円形で、黄色に熟する』。「薬効と用途」の項。『偽果は下痢、頻尿、遺精などに用いる。葉は腫れ物や潰瘍に汁を外用する。花や根は偽果と同様の作用がある』。『花が大きく』、『病気や害虫も少ないため』、『観賞用に栽培される。江戸時代に』、『大阪の植木屋が普及したため』、『ナニワイバラの名がつけられた』とある。「維基百科」の「金樱子」によれば、『原産地は台湾・ラオス・ベトナム、及び、中国本土の長江以南の地域である』とする。
「本草綱目」の引用は、「漢籍リポジトリ」の「木之三」「灌木類」の「金櫻子」([088-33b]以下)のパッチワークである。標題下の同名異物の列挙も、「釋名」で時珍が述べている内容である。
「杜鵑花《さつき》」本邦ではツツジ目ツツジ科ツツジ属サツキ Rhododendron indicum を指すが、サツキは日本固有種であるから、「サツキ」と良安がルビを振ってしまっているのは、アウトである。そもそも、
中文の「杜鵑花」はツツジ目 Ericales(中文「杜鹃花目」)と、ツツジ属 Rhododendron(中文「杜鵑花屬」)で、二つの広義タクソン群を指し、
種としての本邦固有種「サツキ」は中文名「皋月杜鹃」
と言う。「維基百科」の同種をリンクさせておく(但し、日本固有種なので、記載は愛想もないもので、ゼロ解答に近い)。
「小蘗《きはだ》」これも前注と同様のアウトで、しかも二重に致命的にアウトである。
良安が振った「キハダ」はムクロジ目ミカン科キハダ属キハダ Phellodendron amurense var. amurense
であり、中文名は「黃蘗」「黃柏」(リンクは先行する本書のそれ)だからであるが、困ったことに、本邦で「小蘗」と書いて、「めぎ」と読む場合は、これまた、ジェンジェン違う、
キンポウゲ目メギ科メギ属メギ Berberis thunbergii の異名
であるからである。一方、前注と同じく、
中文で「小蘗」と言うのは、メギ科 Berberidaceae とメギ属 Berberis の総称
であるからである。これは、「維基百科」の「日本小檗」を見れば、歴然とする。
「林檎《りんご》」日中ともに、現在のタイプ種は、バラ目バラ科サクラ亜科リンゴ属セイヨウリンゴ Malus domestica である。ウィキの「リンゴ」によれば、『リンゴの原産地はアジア西部といわれ』、『北部コーカサス地方が有力視されている』。『DNA分析から、今日』、『食べられているすべてのリンゴの祖先植物は、カザフスタン東部に広がる天山山脈の斜面の森林に自生するマルス・シエウェルシイ( Malus sieversii )という野生リンゴの木であったことがわかっている』。『今から約』五千『年から』一『万年前に栽培植物化され、そこから好ましい性質を持つリンゴが徐々にシルクロード沿いに西に運ばれることになったと言われている』とある。一方、本邦で「和林檎」と漢字表記する、リンゴ属ワリンゴ Malus asiatica があり、ウィキの「ワリンゴ」によれば、『中国原産であり』、『日本に』は八『世紀頃』(『平安時代』)『に渡来したとされる。中国では「花紅」「沙果」「文林郎果」などと表記される』とあることから、ここは後者のワリンゴを比定すべきかとも思われる。
「何裹子《かかし》」不詳。東洋文庫は以上のルビをしながら、知らんふりである。識者の御教授を乞う。
「石榴《ざくろ》」日中ともに、フトモモ目ミソハギ科ザクロ属ザクロ Punica granatum 。私の好きな樹。]
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