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2024/08/19

「和漢三才圖會」植物部 卷第八十四 灌木類 山茱萸

 

Sannsyuyu

 

[やぶちゃん注:上部に実の図が、二つ、描かれてあり、右のもの(三個体)には、「乾者色枯」(乾(かは)く者は、色、枯れ、)とあり、左のもの(二個体)には、「鮮者色紅」(鮮(あたら)しき者は、色、紅《くれなゐ》なり)とある。]

 

さんしゆゆ  肉棗 雞足

       鬾實 䑕矢

山茱萸  蜀酸棗

 

サン チユイ イユイ

 

本綱山茱萸【與呉茱萸甚不相類治療亦不同未審何緣𠇭此名也】出近道諸山中

[やぶちゃん注:「𠇭」は「命」の異体字。]

木高𠀋餘葉如梅有刺二月開白花如杏四月結實如酸

棗初熟未乾赤色如胡頽子亦可噉既乾皮甚薄

氣味【酸温】 強陰益精安五臟通九竅止小便利補腎氣

 堅陰莖仲景八味丸用之爲君其性味可知矣

 凡使宜去核【實能壯元氣秘精核能滑精不可服】 悪桔梗防風防已

 按倭亦希有之葉無刺花細小黃似女郞花【三才圖會出此別種】

[やぶちゃん注:最終行の良安の評言の頭に「△」はない。通例に合わせて、訓読では挿入した。しかし、この「△」の欠は、実は、本書編集に係わる非常に重大な意味を示していると私は考えている。それは注で詳述する。

 

   *

 

さんしゆゆ  肉棗《にくさう》 雞足《けいそく》

       鬾實《きじつ》  䑕矢《そし》

山茱萸  蜀酸棗《しよくさんんさう》

 

サン チユイ イユイ

 

「本綱」に曰はく、『山茱萸、【「呉茱萸《ごしゆゆ》」とは、甚だ相ひ類せず。治療も亦、同じからず。未だ、何に緣して此の名を𠇭《めい》せしや、審らかならず。】。』[やぶちゃん注:「𠇭」は「命」の異体字である。]『近道《きんだう》[やぶちゃん注:集落近く。]の諸山中に出づ。木の高さ、𠀋餘。葉、梅のごとくにして、刺(とげ)、有り。二月、白≪き≫花を開く。「杏(あんず)」のごとし。四月、實を結び、「酸棗《さんさう》」のごとし。初め、熟して、未だ乾かざる≪は≫、赤色≪にして≫、「胡--子(ぐみ)」のごとく≪して≫、亦、噉(く)ふべし。既に乾けば、皮、甚だ、薄し。』≪と≫。

『氣味【酸、温。】』『陰を強くし、精を益して、五臟を安《やすん》じ、九竅《きうけつ》を通じ、小便の利するを止め[やぶちゃん注:頻尿を正常に戻し。]、腎氣を補ひ、陰莖を堅くす。仲景、「八味丸」に之れを用ひて「君(くん)」と爲し[やぶちゃん注:配合する主薬とすること。]≪たるを以つて≫、其の性・味、知んぬべし。』≪と≫。

『凡そ、使ふに、宜しく核《たね》を去るべし【實は、能く、元氣を壯《さう》にし、精を秘《かく》す。核は、能く、精を滑《なめらかに》す≪故に≫、服すべからず。】。』≪と≫。『桔梗《ききやう》・防風《ばうふう》・防已《ばうい》を悪《い》む。』≪と≫。

△按ずるに、倭にも亦、希《まれ》に、之れ、有り。≪但し、≫葉に、刺、無く、花は、細≪く≫小≪さく≫、黃≪なり≫、「女郞花(をみなへし)」に似≪たり≫【「三才圖會」≪は≫、此れ、別種を出だす。】。

 

[やぶちゃん注:「山茱萸」は、日中ともに、

双子葉植物綱ミズキ目ミズキ科ミズキ属サンシュユ亜属サンシュユ Cornus officinalis

である。当該ウィキを引く(注記号はカットした)。『中国原産』。『別名でハルコガネバナ、アキサンゴ、ヤマグミとも呼ばれる。季語は春。庭園樹や公園樹として多く植栽されている。果実は漢方に使われる』。『山茱萸(サンシュユ)は漢名(中国植物名)で、この音読みが和名の由来である。日本名の別名ハルコガネバナ(春黄金花)は、早春、葉がつく前に木一面に黄色の花をつけることからついた呼び名で、日本植物学者の牧野富太郎が山茱萸に対する呼び名として提唱したものである。秋になると』、『枝一面にグミ』(バラ目グミ科グミ属 Elaeagnus )『のような赤い実がつく様子から珊瑚に例えて、「アキサンゴ」の別名でも呼ばれる』。『中国浙江省及び朝鮮半島中・北部が原産といわれ、中国・朝鮮半島に分布する』。『江戸時代』、『享保年間』(一七一六年~一七三六年)『に朝鮮経由で漢種の種子が日本に持ち込まれ、薬用植物として栽培されるようになった』(「和漢三才圖會」は正徳二(一七一二)年の成立である。より正確に渡来を示してあるのは、「跡見群芳譜」の「樹木譜」の「さんしゅゆ(山茱萸)」で、そこには、『日本には、享保』七(一七二二)年、『薬用に朝鮮から導入され、小石川の御薬園で栽培された』。十九『世紀初には世に多く栽』え『ていた』とある。一見、不審に思われるであろうが、実は、寺島良安は承応三(一六五四)年生まれで、没年は不詳なのだが、朝日新聞出版「朝日日本歴史人物事典」の彼の項の最後には、『没年は享保年間』『末期ごろと思われる』とあり、一般に本書の成立とする正徳二(一七一二)年というのは、「自序」に記された最初の稿本の成立であり、実際には、現在、細部に違いがはっきりとある「五書肆名連記版」と「杏林堂版」の二種の版本「和漢三才圖會」があり、良安は、自身でその後に改稿し、改刻されたことが判っているのである。されば、彼は享保六年から享保十六年の十一年間のどこかで、渡来した実際のサンシュユを直に観察し、その新たな評言を添えたものと思われるのである。だからこそ、この、他の項では、まず、見られない評言の前の「△」が落ちているのも、私には得心されたのである)。『日本における植栽可能地域は、東北地方から九州までの地域である。日本では、一般に花を観賞用とするため、庭木などに利用されている。日当たりの良い肥沃地などに生育する』。『落葉広葉樹の小高木から高木で、樹高は』五~十『メートル』『内外になる。枝は斜めに立ち上がる。成木の幹は褐色で樹皮が剥がれた跡が残ってまだら模様になることがあり、若木の幹や枝は赤褐色や薄茶色で、表面は荒く剥がれ落ちる』。『葉は有柄で互生し、葉身は長さ』四~十センチメートル『ほどの』、『卵形から長楕円形で、全縁、葉裏には毛が生える。側脈は』五~七『対あって、葉先の方に湾曲する。葉はハナミズキ』(知られた「花水木」だが、これは、ミズキ目ミズキ科ミズキ属ヤマボウシ亜属アメリカヤマボウシ Cornus florida の異名であるので注意!)『や』、『ヤマボウシ』(ヤマボウシ亜属ヤマボウシ亜種ヤマボウシ Cornus kousa subsp. kous )『に似ているが、やや細長い。秋は紅葉する。葉が小さめのため』、『派手さはないが、色濃く渋めに紅葉する』。『花期は早春から春』(三~四月上旬)『にかけ』て、『若葉に先立って木全体に開花する。短枝の先に直径』二~三『センチメートル』『の散形花序を出して』、四『枚の苞葉に包まれた鮮黄色』(☜!)『の小花を多数つける。花径は』四~五ミリメートル。『花弁は』四『個で反り返り、雄しべは』四『個』。『果期は秋。果実は核果(石果)で、長さ』一・二~二センチメートル『の長楕円形で』、十『月中旬』から十一『月に赤く熟し、グミの果実に似ている。生食はできないが、味は甘く、酸味と渋みがある。核の長さは』八リメートルから十二センチメートル『で、中央に縦の稜がある』。『冬芽は枝の先端に頂芽を』一『個つけ、枝に側芽が対生する。花芽が球形で総苞片に包まれ』、二『枚の小さな芽鱗が基部につく。葉芽は楕円形をしている』。『日当たりがよく、やや湿った場所を好む性質で、栽培は実生・株分けによって繁殖する。土壌の質は全般で、根の深さは植栽樹としてはふつうである。植栽適期は』十一~三『月とされる。剪定は』一~三『月、施肥は』十二~三『月に行う』。『夏には葉がイラガやカナブンの食害を受ける』。『樹木は、庭園樹、公園樹、切り花の用途で使われる。マンサク』(満作・万作:ユキノシタ目マンサク科マンサク亜科マンサク属マンサク Hamamelis japonica )『とともに早春に咲く花木の代表として日本人にも親しまれ、洋風の庭よりも和風の庭に』、一『本立ちで使われることの方が多い。果実には薬効があり、生薬に利用されて漢方など薬用にされる』。『種子を取り除いた果実には、リンゴ酸、酒石酸、没食子酸、酸性酒石酸カリウムなどの有機酸、タンニン、糖などを含んでいる。種子にはパルミチン酸、オレイン酸、リノール酸などの脂肪油を含んでいる。一般に人間の腸はアルカリ性と言われ、有機酸が入って一時的に酸性化すると、細菌はpH7以上の弱アルカリ性でないと繁殖しないため、サンシュユに含まれる有機酸類が制菌に役立つと考えられている』。十『月ごろに赤熟した果実を採取し、熱湯に数分間浸してからザルに上げて種子を取り除き、日干し乾燥させた果肉(正確には偽果)は生薬に利用され、山茱萸(さんしゅゆ)の名で日本薬局方に収録されている。強精薬、止血、滋養強壮、頻尿、収斂、冷え性、低血圧症、不眠症に効用があるとされる。果肉は長さ』一・四センチメートル『程の楕円形。滋養強壮の目的で、牛車腎気丸、八味地黄丸、杞菊地黄丸等の漢方方剤にも使われる』。『民間療法では、腎臓に力をつけてくれる薬草として知られ、膝と腰軟弱、頻尿の人に』、『煎じ』『て服用する用法が知られている。疲労回復、滋養強壮、冷え症、低血圧症、不眠症などに果実酒も用いられ、水洗いした生果実を』三『倍量のホワイトリカー(焼酎)に入れて冷暗所に』三ヶ『月おいてから、適量のグラニュー糖などを入れてさらに』二十『日ほど熟成してから』『飲用する。また、赤く熟した果実を使ってジャムなどにしてもよい』とあった。

 さて、次に「維基百科」の同種のページ「山茱萸」を見よう。別名が半端なく多く、『山萸肉・藥棗・棗皮・蜀酸棗肉棗・薯棗・雞足・實棗・萸肉・天木籽・山芋肉・實棗兒・山萸』を挙げる(下線太字部は本項の異名と一致するもの)。『山茱萸の花は、清明節』(二十四節気の第五の三月節。旧暦二月後半から三月前半)『の頃に葉に先立って咲き、枝の上部、又は、葉腋から咲く。萼は黄緑色』(☜!)『で、花びらは四裂する。黄色』(☜!)『で、 雄しべは四つ』であり、『花托は輪状である』とある。

 さて、私が『(☜!)』で注意喚起した意味が、もう、お判りであろう。まず、グーグル画像検索「Cornus officinalis flower」を見てみよう。明らかにサンシュユの花である画像の内、やや白っぽく見える薄黄色のものはあるが、白色の花は、一つも、ないのだ。ところが、「本草綱目」は、「白≪き≫花を開く。杏(あんず)のごとし」と言っている。「杏」は日中ともに、バラ目バラ科サクラ亜科サクラ属アンズ変種アンズ Prunus armeniaca var. ansu であるが、アンズの花はこれである(当該ウィキの画像)。逆立ちしても「如し」とは言えない。良安の評言でも、「花は細かく、小さく、黄色で、女郎花(おみなえし:マツムシソウ目オミナエシ科オミナエシ属オミナエシ Patrinia scabiosifolia )に似ている」と正確に述べていて、サンシュユの花の実際と完全に一致するのである。

 これは、一体、どういうことか?

 実は、サンシュユ亜属には、「跡見群芳譜」の「樹木譜」の「みずき(水木・瑞木)」によって、中国にのみ分布するサンシュユの近縁種である(冒頭は中文名)、

川鄂山茱萸・緣杞 Cornus chinensis

があることが判ったのであった。リンク先によれば、分布域は『河南・陝甘・湖北・廣東・四川・貴州・雲南産』である。そこで、今度は、グーグル画像検索「Cornus chinensis flower」を見てみる。すると、サンシュユとは全く異なる派手な形の白い四弁花であることが判明したのである。これこそ、良安が言っている白い花ではなかろうか?(但し、相変わらず、アンズとは、これジェンジェン、違うんだけどね……私に出来たディグは、これまでだ……)

 「本草綱目」の引用は、「漢籍リポジトリ」の「木之三」「灌木類」では、版本上のミスか、何故か判らぬが、「山茱萸」が存在しないので、「維基文庫」の「本草綱目」で見た。ここである。例によって切り張りパッチワークである。

「呉茱萸《ごしゆゆ》」既出既注だが、再掲すると、「ごしゅゆ」はムクロジ目ミカン科ゴシュユ属ゴシュユ Tetradium ruticarpum 当該ウィキによれば、『中国』の『中』部から『南部に自生する落葉小高木。日本では帰化植物。雌雄異株であるが』、『日本には雄株がなく』、『果実はなっても種ができない。地下茎で繁殖する』。八『月頃に黄白色の花を咲かせる』。『本種またはホンゴシュユ(学名 Tetradium ruticarpum var. officinale、シノニム Euodia officinalis )の果実は、呉茱萸(ゴシュユ)という生薬である。独特の匂いと強い苦みを有し、強心作用、子宮収縮作用などがある。呉茱萸湯、温経湯などの漢方方剤に使われる』とあった。漢方薬剤としては平安時代に伝来しているが、本邦への本格的渡来はこれまた、享保年間(一七一六年から一七三六年まで)とされる

「酸棗《さんさう》」日中ともに、双子葉植物綱バラ目クロウメモドキ科ナツメ属サネブトナツメ Ziziphus jujuba var. spinosa である。

「胡--子(ぐみ)」前の引用に割注で出した。日中同じ。

「仲景」東洋文庫後注で、「張仲景」は『後漢の人。長沙の大守であったが、一族のほとんどが十年あまりの間に傷寒(惡性伝染病)で亡くなったのに発憤し、『傷寒雑病論』十六巻を著した。』とある。「本草綱目」では、よく彼の記載が引用される。

「八味丸」富山県の「池田屋安兵衛商店」公式サイト内の「八味丸」を参照されたい。

「桔梗《ききやう》」キク目キキョウ科キキョウ属キキョウ Platycodon grandifloras の根を乾燥させた生薬名。当該ウィキによれば、『鎮咳、去痰、排膿作用があるとされ』、『代表的な漢方処方に桔梗湯(キキョウ+カンゾウ』(マメ目マメ科カンゾウ属スペインカンゾウ Glycyrrhiza glabra の乾燥させた根を基原植物とする生薬名)『)がある』。『炎症が強い場合には石膏と桔梗の組み合わせがよいとされ、処方例として小柴胡湯加桔梗石膏がある』とあった。

「防風《ばうふう》」セリ目セリ科ボウフウ属ボウフウ Saposhnikovia divaricata の根及び根茎を乾燥させた生薬名。但し、本種は中国原産で本邦には自生はしない。。

「防已《ばうい》」長くなるから、「酸棗仁」で既出既注してあるので、そちらを見られたい。

『花は、細≪く≫小≪さく≫、黃≪なり≫、「女郞花(をみなへし)」に似≪たり≫【「三才圖會」≪は≫、此れ、別種を出だす。】』「女郞花(をみなへし)」は日中同じで、マツムシソウ目オミナエシ科オミナエシ属オミナエシ Patrinia scabiosifolia である。なお、東洋文庫後注に、『この部分、杏林堂版では「木には皮がないようである。花は杏のようで淡黃色である」とある。』とある。最後の『「三才圖會」≪は≫、此れ、別種を出だす』は、例の「東京大学」内の「三才図会データベース」の画像をトリミングして示す。絵の方は、かなり汚損を清拭した。

 

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ここで良安が言っているのは、挿絵の二種が、山茱萸とは異なる種であることを指示しているものと読める。この二種は花の形が、孰れもサンシュユ Cornus officinalis とは、花の形状が異なり、また、川鄂山茱萸・緣杞 Cornus chinensis と、上の図は似ているように見えるものの、花弁の数が違うので、確かに「別種」と見える。但し、「三才圖會」の絵は、少なくとも実在する動物類でも、変なものが多く、トンデモ幻想博物画みたようなものが、有意に多いので、馬鹿正直にこの種を調べるのは、ちょっと、やる気が起こらない。悪しからず。しかし、解説文の方は、「山茱萸」の解説と見紛うものになっては、いるぞ!

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