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2024/08/01

「和漢三才圖會」植物部 卷第八十三 喬木類 巴豆

 

Hazu

[やぶちゃん注:左下方に、実が、三個、描かれてある。]

 

はづ  巴菽 剛子

    老陽子

巴豆

 

パアヽ テ゜ウ

 

本綱巴豆本出巴蜀【巴蜀今四川也】而形如菽豆故名之今嘉州

眉州戎州皆有之木髙一二丈葉如櫻桃而厚大初生青

色後漸黃赤至十二月葉漸稠二月復漸生四月舊葉落

[やぶちゃん注:この「稠」であるが、どうもしっくりこない。「漢籍リポジトリ」の「本草綱目」の影印本画像を見ても(「集解」の罫線三行目の左列の三字目)、確かに「稠」であるが、原本の送り仮名はカスれているようで、元は「ム」のように見える。「稠」は「多い・繁(しげ)る」の意なのだが、そもそも、直後に「二月復漸生」とあるのは、十二月に葉が、一度、「凋」んだ後に、「二月」になると、「復」(また)、だんだんと葉が「生」える、と言っているように読めるからである。そこで、「維基文庫」の同一箇所の電子化を見ると、思った通り、『至十二月葉漸凋,二月復漸生,』となっているのである。国立国会図書館デジタルコレクションの中近堂版の当該部を見ると、ちゃんと『凋』になっているのであった。これでなきゃ、やっぱ、おかしいでショウ! 訓読では特異的に「凋む」に訂した。

盡新葉齋生卽花發成穗微黃色五六月結實作房生青

至八月熟而黃漸自落一房有二瓣一瓣乙子或三子子

仍有殼用之去殻似大風子殻而脆薄子及仁皆似海松

子其𦂳小者是雌有稜及兩頭尖者是雄雄者峻利雌者

[やぶちゃん注:「𦂳」は「緊」の異体字。]

稍緩也

 戎州之巴豆殻上有縱文隱起如線一道至兩三道呼

 爲金線巴豆最爲上等他處亦稀有

巴豆【辛温有毒】 若急治爲水穀道路之劑去皮心膜油可生

 用若緩治爲消堅磨積之劑炒去烟令紫黑色可熟用

 【生則猛熟則緩】斬關奪門之將胃中寒積者不可輕用

 又云雖可以通腸之藥可以止瀉世所不知也【能吐能下能止

 能行是可升可降之藥也】反牽牛子【中巴豆毒者用冷水黃連汁大豆汁則解之】

 

   *

 

はづ  巴菽《はしゆく》 剛子《がうし》

    老陽子《らうやうし》

巴豆

 

パアヽ テ゜ウ

 

「本綱」に曰はく、『巴豆は、本《もと》、巴蜀《はしよく》より出づ【「巴蜀」とは、今の四川なり。】而《しか》して、形、「菽豆《しゆくたう》」のごとくなる故《ゆゑ》、之れを名づく。今は、嘉州・眉州・戎《じゆう》州に、皆、之れ、有り。木の髙さ、一、二丈。葉は、櫻桃(ゆすらむめ)のごとくにして、厚く、大なり。初生、青色、後《のち》、漸《やうや》く、黃赤《わうせき》し、十二月に至り、葉、漸《やうや》く、凋む。二月、復《また》、漸く、生ず。四月、舊葉(ふるは)、落ち盡《つくし》て、新葉、齋(ひと)しく、生ず。卽ち、花、發《はつし》、穗を成《な》す。微《やや》、黃色。五、六月、實を結ぶ。房《ふさ》を作る。生《わかき》は青く、八月に至り、熟して、黃なり。漸々《ぜんぜん》≪として≫[やぶちゃん注:「々」は送り仮名にある。]、自《おのづと》、落つ。一房、二瓣《べん》、有り、一瓣、乙子《にし》[やぶちゃん注:「乙」は「二」の意。]、或いは、三子≪あり≫、子《み》、仍《より》て、殼《から》、有り。《✕→れば、》之れを用ひるに、殻≪を≫去る。「大風子」の殻に似て、脆《もろ》く、薄し。子、及び、仁《じん》、皆、「海松子《かいしようし》」に似《にる》。其の𦂳《ひきしまりて》小《ちいさ》なる者、是れ、雌なり。稜(かど)、及び、兩頭≪に≫、尖(とがり)有る者、是れ、雄なり。雄なる者≪は≫、峻-利《はげしく》、雌は、稍《やや》、緩《ゆる》し。』≪と≫。

『戎州の巴豆、殻の上に、縱文(たて《もん》)有りて、隱起≪し≫[やぶちゃん注:所謂、「陰刻」と同じで、盛り上がるのではなく、周囲が凹んで筋紋が生ずることを指していよう。]、線(いとすぢ)のごとく、一道≪より≫兩三道に至る[やぶちゃん注:一筋から、二、三筋まで生ずる。]。呼んで、「金線巴豆《きんせんはづ》」と爲《なし》、最も上等と爲《なす》。他處《たしよ》にも亦、稀に、有り。』≪と≫。

『巴豆【辛、温。毒、有り。】 若《も》し、急に治《ぢ》する≪ことありて≫、「水穀《すいこく》の道路」の劑と爲《なさ》んには、皮≪の≫心《しん》≪の≫膜≪にある≫油を去《さり》て、生《なま》にて用ふべし。若し、緩《ゆる》く治する≪ことありて≫、「消堅磨積の劑」と爲んには、炒りて、烟《けぶり》を去り、紫黑色≪に≫ならしめて、熟し≪たるを≫、用ふべし【生《なま》は、則ち、猛《たけき》なり。熟≪せるは≫、則ち、緩《ゆるやか》なり。】。關《くわん》を斬り、門《もん》を奪ふの將《しやう》なり。胃≪の≫中に、《食物の》寒積《かんしやく》≪せる≫者は、輕《かるがる》しく用ふべからず。』≪と≫。

『又、云はく、「以つて、通腸《つうちやう》の藥とすべし。」と雖《いへども》、以つて、瀉を止《と》むべし。《✕→べきことあるも、》世、知らざる所なり【能《よ》く吐《はか》し、能く下《くだ》し、能く止め、能く行《ゆく》[やぶちゃん注:良い方に向くように促進させる。]。是れ、升《のぼ》すべく、降《くだす》べきの藥なり。】「牽牛子(あさがほ)」に反《はん》す[やぶちゃん注:合わせる薬剤としては「朝顔」とは合わない。]【巴豆の毒に中《あた》る者、冷水・「黃連《わうれん》」の汁・大豆の汁を用ふれば、則ち、之れを解《かい》す。】。』≪と≫。

 

[やぶちゃん注:この「巴豆」は、

双子葉植物綱キントラノオ目トウダイグサ科ハズ亜科ハズ連ハズ属ハズ Croton tiglium

である。小学館「日本大百科全書」から引く。『常緑高木。中国南部、台湾以南の熱帯アジアに分布する。高さ』六~十『メートル。葉は互生し、長さ』二~六『センチメートルの柄をもつ。葉身は卵形または長卵円形で長さ』八~十二『センチメートル、幅』六『センチメートル、先端は緩くとがり、葉柄の近くに』二『個の腺体(せんたい)がある。雌雄同株で』、三『月から』五『月にかけて長さ』十~十二『センチメートルの総状花序を頂生するが、全部が雄花のものと、上部に雄花、下部に雌花をつけるものとがある。雄花は緑色で萼』『は』五『裂し、花弁』三『個をもつが、雌花には花弁がない。蒴果』『は長円形ないし倒卵形で、三鈍角をなし』、三『個の種子をもつ』。『果実は』八『月から』九『月にかけて成熟するが、裂開する前に採取し、取り出した種子を漢方では巴豆』『と称して峻下(しゅんげ)剤として使用する。巴豆を主薬とした処方では』「紫円」(シエン)『が有名である。また、種子を冷圧して得る脂肪油』(三十~四十五%)『を巴豆油といい、皮膚に強い刺激を与えるので発疱(はっぽう)薬とするほか、峻下剤にも使用される。しかし、巴豆は毒性も作用も強いため、使用に際しては注意を要する』とある。当該ウィキを見ると、『種子から取れる油はハズ油(クロトン』(Croton)『油)と呼ばれ、属名のついたクロトン酸のほか、オレイン酸・パルミチン酸・チグリン酸・ホルボールなどのエステルを含む。ハズ油は皮膚につくと』、『炎症を起こす』。『巴豆は』「神農本草經下品」や「金匱要略」に『掲載されている漢方薬であり、強力な峻下作用がある。走馬湯・紫円・備急円などの成分としても処方される。日本では毒薬または劇薬に指定』『されているため、通常は使用されない』とあるが、孰れも、猛毒性の症状等が十全でないので、「維基百科」の「巴豆」を見ると、別名を『水金剛・猛樹・廣仔子』とし、『長江以南の各地に広く分布している』とした上で、『ハズ属の植物群全体が有毒で、種子が最も有毒である』誤って食した場合、『吐き気・嘔吐や、消化器系の灼熱感、重度の腹痛と下痢、血便・眩暈(めまい)・頭痛・呼吸困難』の果てには、『昏睡・痙攣を引き起こし、最終的には呼吸不全により死亡することもある』と、しっかり書かれてある。有毒植物の記載では、こうした注意喚起が絶対不可欠である。

 本篇の「本草綱目」の引用は、「卷三十五下」の「木之二」「喬木類」(「漢籍リポジトリ」)の「巴豆(ガイド・ナンバー[086-46b]の以下)の長大な記載からの、超短縮型のパッチワークである。

「菽豆《しゆくたう》」この「菽」は、お馴染みの「大豆」、マメ目マメ科マメ亜科ダイズ属ダイズ Glycine max の古名である。

「嘉州」現在の四川省楽山市一帯(グーグル・マップ・データ。以下同じ)。

「眉州」現在の四川省眉山市一帯。

「戎州」現在の四川省宜賓(ぎひん)市一帯。

「櫻桃(ゆすらむめ)」これは良安の読みは――完全なるハズレ――であるので、注意。本邦で「ユスラウメ」と言った場合は、

×バラ目バラ科サクラ属ユスラウメ Prunus tomentosa当該ウィキによれば、『中国北西部』・『朝鮮半島』・『モンゴル高原原産』であるが、『日本へは江戸時代初期にはすでに渡来して、主に庭木として栽培されていた』とある)

を指すが、中国語で「櫻桃」は、

○サクラ属カラミザクラ Cerasus pseudo-cerasus(唐実桜。当該ウィキによれば、『中国原産であり、実は食用になる。別名としてシナミザクラ』『(支那実桜)』・『シナノミザクラ』・『中国桜桃などの名前を持つ。おしべが長い。中国では』「櫻桃」『と呼ばれ』、『日本へは明治時代に中国から渡来した』とあるので、良安は知らない

である。「維基百科」の「中國櫻桃」をリンクさせておく。

「大風子」「大風子油」で複数回既出既注。キントラノオ目アカリア科(旧イイギリ科)ダイフウシノキ属 Hydnocarpus の植物群。

「海松子」既出既注だが再掲しておくと、マツ属Strobus 亜属 Cembra 節チョウセンゴヨウ Pinus koraiensis の種子。所謂、「松の実」のことである。

「峻-利《はげしく》」この読みは東洋文庫訳のルビ『はげしい』を参考に附した。

「金線巴豆」現行では、使われていない模様。検索に掛ってこない。

「水穀《すいこく》の道路」「道路」は漢方に於ける体内の導線を言っているようである。サイト「薬読」(やくよみ)の「中医学第33回 人体を作る気・血・津液とは(1)」の「はじめに」のページに、『“水穀”の“水”とは液体としての飲食物のこと、”穀“とは固体としての飲食物のことを指し、あわせて「水穀=飲食物」を意味』するとあった。

「消堅磨積の劑」不詳。この文字列に「漢方」をたして、フレーズ検索しても出てこない。

「寒積《かんしやく》」不詳。食物が消化されずに、残留し、しかも、それが体温を下げる様態を言うか。漢方サイトで調べても、見つからない。

「牽牛子(あさがほ)」強力な下剤として知られる漢方名「ケンゴシ」は、ナス目ヒルガオ科サツマイモ属アサガオ Ipomoea nil の種子である。「維基百科」の「牽牛花」を見ると、「有毒部位」として、『全草に微毒があるが、種子には特に強毒性がある』とし、『子供や家畜が誤って食べると、手足の脱力・眩暈・食欲不振などの症状が出ることがある』とある。因みに、私の家系の一方である笠井家(母方の笠井家であるが、私の父方(藪野家)の祖母と母方の祖父は笠井家の兄妹であるから(父母は従兄妹である)、私には最も濃い形で笠井家の血が流れていることになる)では朝顔を植えることを禁忌としている。いつか詳しく書こうと思うが、笠井家の先祖は加賀藩前田家の家老であったが(加賀藩の古地図で確認済)、後に子孫が、何らかの不祥事によって改易のような処置を受け、これも理由不明乍ら、その嫡流当主が、ある時、朝顔畑の中で(祖母から中部地方の何処かと聴いたが忘れてしまった)、割腹して果てたから、と伝わる。植物禁忌伝承はよく聴くが、私自身の中の「血」の問題でもあり、事実、私の家には、今も昔も、朝顔は植えられたことがない(個人的には好きな花だが)。朝顔禁忌――これだけリアルな事実に裏附けられているのは、比較的珍しい部類に属すると私は思っている。

「黃連《わうれん》」キンポウゲ目キンポウゲ科オウレン属オウレン Coptis japonica の髭根を殆んど除いた根茎を乾燥させたもの。古くから消炎・止血・瀉下などの要薬として汎用されてきた。]

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