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2024/08/27

「和漢三才圖會」植物部 卷第八十四 灌木類 女貞

 

Tounezumimoti

 

[やぶちゃん注:図には二つの樹木体が並べて描かれてあり、左手のものが、キャプションにある「本草必讀」のものであろう。而して、上部には、葉の裏表の図が、二つ、並べて描かれ、右手には、葉の『靣』(おもて)を描き、『深青』色をしていることをキャプションで示し、左手には、葉の『裏』(うら)が描かれ、『色』は表に比して『淺』い青とし、恐らくは表も裏も『文理』(もんり:葉脈)は『明』(あきら)かであるとキャプションしたものと思う。「本草必讀」は、東洋文庫の巻末の「書名注」に、『「本草綱目必読」か。清の林起竜撰』とある。なお、別に「本草綱目類纂必讀」という同じく清の何鎮撰のものもある。この二種の本は中文でもネット上には見当たらないので、確認出来ない。]

 

いぬつばき 貞木 冬青

      蠟樹

女貞   【和名太豆乃木】

      俗云䑕乃久𭦌

      【又云狗都波木

       又云䑕黐】

ねずみのふん

ねすみもち

[やぶちゃん字注:「𭦌」は「曾」の異体字。左端に和訓名が並ぶのは特異点である。]

 

本綱女貞木凌冬而青翠有貞守之操故名之因子自生

最昜長其葉似冬青樹及狗骨木而厚長綠色靣青背淡

長者四五寸五月開細花青白色九月實熟黒似䑕李子

而纍纍滿樹冬月鸜鵒喜食之木肌皆白膩立夏前後取

蠟蟲之種子褁置枝上半月其蟲化出延緣枝上造成白

蠟民間大𫉬其利與冬青樹同名物異

實【苦温】補中安五臟養精神強陰明目黑髮除百病乃上

 品無毒妙藥也葉【微苦】除風散血消腫定痛諸悪瘡及

 口舌生瘡腫脹者皆佳

△按女貞木葉似海石榴而無鋸齒故名姫海石榴其子

 圓長初青熟正黒似䑕屎鸜鵒喜食之伹葉長不過二寸

 其文理不出于端與他葉異也而本草曰長四五寸者

 和漢之異然乎又造成白蠟者未知然乎否

 

   *

 

いぬつばき 貞木《ていぼく》 冬青《とうせい》

      蠟樹《らうじゆ》

女貞   【和名「太豆乃木《たづのき》」。】

      俗に云ふ、「䑕乃久𭦌《ねずみのくそ》」。

      【又、云ふ、「狗都波木《いぬつばき》」。

       又、云ふ、「䑕黐《ねずみもち》」。】

ねずみのふん

ねずみもち

 

「本綱」に曰はく、『女貞《ぢよてい》の木、冬を凌《しの》ぎて、青翠《あをみどり》≪たり≫。「貞守の操(みさを)」、有り。故に、之に名づく。子《み》に因《より》て自生す。最も長《ちやうじ》昜《やす》し。其の葉、「冬青(まさき)」に樹、及び、「狗--木(ひいらぎ)」に似て、厚≪く≫、長≪く≫、綠色≪たり≫。靣《おもて》、青、背、淡《あはし》。長き者、四、五寸。五月、細≪やかなる≫花を開く。青白色。九月、實、熟して、黒く、「䑕李子(むらさきしきぶ)」に似て、纍纍《るいるい》として、樹に滿《みつ》。冬月、鸜鵒(ひよどり)、喜《よろこび》て、之れを食ふ。木の肌、皆、白≪く≫膩≪なめらかなり≫。立夏の前後、蠟蟲《らうむし》の種子《しゆし》を取り、褁《つつみ》て、枝の上に置《おき》、半月にして、其の蟲、化《くわ》して、出《いで》て枝の上に延緣(ひきのぼ)り、「白蠟《はくらう》」を造成《つくりな》す。民間、大いに、其の利を𫉬《とり》、「冬青樹《とうせいじゆ》」と、名を同じくして、物、異《い》なり。』≪と≫。

『實【苦、温。】中《ちゆう》[やぶちゃん注:漢方で言う「脾胃」。]を補し、五臟を安んじ、精神を養ひ、陰を強くし、目を明《あきらか》≪にし≫、髮を黑≪くし≫、百病を除く。乃《すなは》ち、上品≪にして≫無毒の妙藥なり。葉【微《やや》苦。】風《かぜ》を除き、血を散じ、腫《はれもの》を消し、痛みを定《さだ》め、諸悪瘡、及び、口・舌≪に≫瘡を生じ、腫脹≪せる≫者、皆、佳《よ》≪し≫。』≪と≫。

△按ずるに、女貞木、葉、「海石榴《つばき》」に似て、鋸齒、無き故《ゆゑ》、「姫海石榴(ひめつばき)」と名づく。其の子《み》、圓長《ゑんちやう/だゑん》≪にして≫、初《はじめ》、青、熟≪せば≫、正黒にして、䑕《ねずみ》の屎《くそ》に似≪て≫、鸜鵒《ひよどり》、喜て、之れを食ふ。伹《ただし》、葉≪の≫長さ、二寸に過ぎず、其の文理《もんり》、端《はし》に出でず。他《ほか》の葉と異《こと》なりて、「本草」に、『長さ、四、五寸の者』と曰ふ≪は≫、和漢の異《い》、然《しか》るか。又、『白蠟に造成《つくりな》すと云ふは[やぶちゃん注:「云」は送り仮名にある。]、未だ知らず、然《しか》るや、否や。

 

[やぶちゃん注:これは現代の植物種では、まず、中国の「女貞」自体からして、全く異なる二つの樹種を指し、しかも、良安の言う「姫海石榴」が、これまた、現代では、異なるツバキ科 Theaceaeの二種を指すという、時珍も、良安も、神経症的に錯綜した状態にあるように読めてしまうのである。良安の評言も異種であることは判っているようである。順を追って、示す。

 まず、中国で言う「女貞」は、第一に、

〘「本草綱目」①〙双子葉植物綱シソ目モクセイ科オリーブ連イボタノキ属トウネズミモチ Ligustrum lucidum

を指すが、第二に、同じモクセイ科 Oleaceaeではあるが、異なるトネリコ属 Fraxinusである、

〘「本草綱目」②〙シソ目モクセイ科トネリコ属シナトネリコ Fraxinus chinensis

をも指し、しかも、「本草綱目」も、その二種が、混在して一種として記されてしまっているのである。時珍が混同してしまっている致命的な部分は、『「白蠟《はくらう》」を造成《つくりな》す』の箇所で、これは、後者にのみ見られる現象なのである。

 一方、良安の言う、「姫海石榴」というのも、現行の本邦では、同じツバキ科 Theaceaeながら、異なる樹種二種を指す。但し、良安が言っている「姫海石榴」は、

〘良安「姫海石榴」〙ツツジ目ツバキ科ツバキ連ツバキ属サザンカ Camellia sasanqua

である。これは、良安が『葉、「海石榴《つばき》」に似て、鋸齒、無』し、と言っていることが、決定打となる。しかし、現在、実は、「姫海石榴」を名にし負うている種が、本邦にはあり、それは、

〘現在の植物学上の「姫海石榴」〙ツバキ科ヒメツバキ属ヒメツバキ Schima wallichii

である。但し、この後者のヒメツバキは、当該ウィキによれば、『日本では小笠原諸島(硫黄諸島を除く)と、奄美以南の琉球列島に分布する。国外では東南アジアや東部ヒマラヤにまで分布する』とあり、分布の限定地は、凡そ、当時、良安が実見し得るフィールドの外であるから、良安自身が、この二種を混同しているわけではないので、問題はないと言ってよい。従って、この現代の真正の「ヒメツバキ」は以下では説明しないので、上記リンクを読まれたい。

 まず、〘「本草綱目」①〙のトウネズミモチLigustrum lucidum当該ウィキを引く(注記号はカットした)。漢字表記は『唐鼠黐』。『常緑広葉樹の高木』。『葉は楕円形で厚く光沢があり、ネズミモチ』(イボタノキ属ネズミモチ Ligustrum japonicum )『よりも大きく、葉脈が透けて見える。花期は』六~七『月頃で、枝先にネズミモチよりも大きな円錐形の花序を出して、黄白色の花を多数咲かせる』。『果実は』十二『月頃に紫黒色に熟す』。『トウネズミモチの場合、葉裏を光に透かしてみると』、『葉脈の主脈も側脈も透けて見えるが、ネズミモチの方は、主脈が見えるものの』、『側脈は見えないので判別できる。また、果実はともに楕円形であるが、トウネズミモチの方が球形に近く、ネズミモチはやや細長い。また、総じてネズミモチの方が樹高が低い』。『中国中南部原産。日本では明治時代初期渡来した』(☜:良安は本種トウネズミモチを全く知らないのである)、『帰化植物』。『大気汚染公害に強いことから、都市部を中心に公園緑化樹などに利用される。よく目にする生け垣の利用は、国産の近縁種ネズミモチが殆どである』。『漢名を女貞といい、果実を干したものは女貞子(じょていし)と称する生薬で、ネズミモチ同様に強壮剤にする』。『近年、鳥に依る糞の被害も拡大し、問題視されている。急速に日本各地に広がりだしているため、侵略的外来樹木としても注意が必要である(要注意外来生物)』とある。

 次に、白蝋が採取される、〘「本草綱目」②〙のシナトネリコ Fraxinus chinensis 当該ウィキを引く(同前)。漢字表記『支那梣』(中文名は「維基百科」の同種によれば、「白蜡」で異名「梣」「白荆」「青榔木」とあり、見逃せないのは、そのページのヘッドに、同属(「女貞属」)への「見よ見出し」が出ていることから、このシナトネリコを「女貞」と思って、このシナトリネコのページを見る人が多いことを裏付けている。則ち、現代中国でも時珍の如く混同している人が多いことを示していることに気づかれたい『モクセイ科トネリコ属の植物の一種。中国では白蝋樹(はくろうじゅ、パイラーシュー)と呼ぶ。伝統的な中国医学では樹皮を秦皮(しんぴ)』(この生薬名は日中で古くから非常に知られたものである)『と呼び、痢疾に対する処方とする』。『落葉喬木で、樹高は』十~十二メートル『に達する。樹皮は灰褐色で縦に裂ける。奇数羽状複葉でその長さは』十五~二十五センチメートル、『葉柄は』四~六センチメートル。『葉軸は真っ直ぐ張り、上面には浅い溝がある。小葉は通常』五~七『枚、倒卵長円形から披針形、葉縁は整正鋸歯である。円錐花序は頂生および側生し、長さ』八~十センチメートルで、『下垂する』。四~五『月にかけて開花し』、七~九『月にかけて披針形で扁平な翼果をつける。雌雄異株で、雄花と雌花は別の個体に生じる。雄花は密集し、萼は小さく釣り鐘状、長さは約』一ミリメートル、『花冠はなく、葯は花糸と同等の長さ。雌花はまばらで』、『萼は大きく』、『桶状』をなし、『長さは』二~三ミリメートルで、『浅く』四『裂し、花蕊は細く長く、柱頭は』二『裂する』。『ベトナム、朝鮮半島および中国大陸の南北各省に分布し』(☜本邦には自生しないので、良安は本種を知らないのである)、『海抜 』八百~千六百メートル『の地域に生育する。湿潤を好み、成長が早く、山地の雑木林の中に多く生える。中国での栽培の歴史は古く、分布も広い。特に中国西南部各省での栽培が最も盛んである。貴州省西南部の山間部の栽培種は枝葉が特に広く大きく、常に山地にあって半野生状態を呈する』。『シナトネリコの材は強靭で、家具、農具、荷車、合板などの製造に適している。樹皮は、中国伝統医学において秦皮(しんぴ、チンピー)と呼ばれ、内服では解熱、下痢、長血・おりものに、外用では目の充血・腫れ・痛み・かすみ目・角膜混濁に処方される。主成分はエスクレチン』(Aesculetin)『およびフラキセチン』(fraxetin:この二種は、桜の葉に代表される植物の芳香成分の一種であるクマリン(coumarin)の誘導体及び化合物である)。『中国では、白蝋虫(イボタロウムシ)を接種して養殖し、白蝋(イボタ蝋)を採集する。白蝋樹の名はここに由来する。また』、『シナトネリコは、痩せ地や旱魃に耐え、軽度の塩鹹地でも生育することができ、成長も早いため、砂漠緑化における固砂樹種に適している』とある(なお、「イボタロウムシ」は説明すると、異様に長くなってしまうので、「和漢三才圖會卷第五十二 蟲部 五倍子 附 百藥煎」の私の注の「蠟蟲の蠟子」を見られたい)

 次に〘良安「姫海石榴」〙サザンカ Camellia sasanqua (同前)。本邦の漢字表記は『山茶花』(中文名は「茶梅」)。『常緑広葉樹』『の小高木』。『別名では、オキナワサザンカともよばれる。童謡「たきび」の歌詞に登場することでもよく知られる。 神戸市の市の木にもなっている』。『漢字表記の「山茶花」は中国語でツバキ類一般を指す山茶に由来し、サザンカの名は山茶花の本来の読みである「サンサカ」が訛ったものといわれる。もとは「さんざか」と言ったが、音位転換した現在の読みが定着した。ツバキ属の一種であるが、ツバキ(ヤブツバキ)よりも花がやや小形であることから、ヒメツバキ』(☜)『やコツバキなどの別名もある』。『樹皮は淡灰褐色で表面は平滑である。樹皮が灰白色のツバキに対して褐色を帯びている。一年枝ははじめ紅紫色で毛が生えている。葉は長さ』二~五『センチメートル』『程度の鋸歯のある楕円形でツバキよりも小さく、やや厚くツヤがあり、互生する』。『花期は、秋の終わりから初冬にかけての寒い時期』(十~十一月)で、『枝の先に』五『枚の花弁の花を咲かせる。野生の自生種では花色は部分的に淡い桃色を交えた白色であるのに対し、植栽される園芸品種の花の色は、濃い紅色や白色やピンクなど様々である。花の奥には蜜があり、花粉の授受は昆虫と鳥の両方に頼っている。サザンカの開花はツバキよりも早い晩秋で、花弁が』一『枚ごとに散るので、ツバキとの見分けのポイントになる。また、サザンカの子房には毛があるが、ツバキにはない。花の付き方もやや異なり、ツバキが葉の裏側について葉陰で咲かせることが多いのに対し、サザンカは』、『むしろ』、『葉の表面側に付いて、目立ちやすい』。『果期は翌年の』九~十『月。花が咲いたあとに直径』二センチメートル『程度の球形の果実がつく。果実の表面には短い毛が生えていて、開花の翌年の秋に表皮が』三『つに裂けて、中から』二、三『個の黒褐色をした種子が出る』。『冬芽は葉の付け根につき、花芽や葉芽はツバキに似るが全体に小ぶりである。花芽は広楕円形で白い毛があり、夏頃に見られる。葉芽はやや平たい長卵形で毛があり』、五~七『枚の芽鱗に包まれている』。『冬の季語にされるなど、サザンカには寒さに強いイメージがあるが、開花時期に寒気にさらされると』、『花が落ちること、四国・九州といった暖かい地域が北限である事などから、原種のサザンカは特に寒さに強いわけでは無い。品種改良された園芸種には寒さに強く、真冬でも花を咲かせる品種も少なくない』。『サザンカ、ツバキ、チャノキなどのツバキ科の葉を食べるチャドクガ』(鱗翅目ドクガ科ドクガ属チャドクガEuproctis pseudoconspersa )『が知られている。この毒蛾の卵塊、幼虫、繭、成虫には毒針毛があり、触れると皮膚炎を発生させる。また、直接触れなくても、木の下を通ったり風下にいるだけでも』、『毒針毛に触れ、被害にあうことがある』『自生種は、日本の本州山口県、四国南西部から九州中南部、南西諸島(屋久島から西表島)などに、日本国外では台湾、中国、インドネシアなどに分布する。山地に自生するほか、人手によって植栽されて庭でもよく見られる』。『なお、ツバキ科の植物は熱帯から亜熱帯に自生しており、ツバキ、サザンカ、チャは温帯に適応した珍しい種であり、日本は自生地としては北限である』。『ツバキと共に、代表的な冬から早春の花木で、庭木として人気が高く園芸種も多数あり、生垣によく利用される。サザンカもツバキも、ヨーロッパ、イギリス、アメリカで愛好され、多くの園芸品種が作出され、現在も多くの品種が作り出されている。ちなみに多くの言語でもサザンカと呼ばれている。種子からは油が採れる』以下、「栽培品種」の項があり、三群が示されてあるが、省略する。

 「本草綱目」の引用は、「漢籍リポジトリ」の「木之三」「灌木類」の「女貞」([088-39a]以下)のパッチワークである。

「冬青《とうせい》」この場合は「女貞」の異名。次項が「冬青」であるが、そこで詳細に考証するが、時珍の示すそれは、現行の「冬青」と異なり、トウミズネモチでもないもので、良安はそちらで種同定を誤っている。ざっくり言うと、「本草綱目」のそれは、モチノキ目モチノキ科モチノキ属モチノキ亜属ナナミノキ Ilex chinensis である。

「蠟樹《らうじゆ》」先に示した通り、シナトネリコ Fraxinus chinensis を指す。

「太豆乃木《たづのき》」これもアウトである。これは、マツムシソウ目ガマズミ科ニワトコ属ニワトコ亜種ニワトコ Sambucus racemosa subsp. sieboldiana の異名である。

「䑕乃久𭦌《ねずみのくそ》」これもマズい。現行では、先に示したイボタノキ属ネズミモチ Ligustrum japonicum の不名誉極まりない卑称異名である。

「狗都波木《いぬつばき》」「犬椿」。同じくネズミモチの異名。「犬」は本邦の植物名では、「本家本元に似ながらも違う嘘臭いもの」で、「役にたたない」のニュアンスも持つ卑称接頭語である。

「貞守の操(みさを)」「堅く正しい節操を守り続けること」の意。一年を通じて葉が青々と茂っていることをそれに喩えたもの。

「狗--木(ひいらぎ)」このルビはアウト。「ひいらぎ」は「柊」で、本邦の昔から、我々に馴染みのある、シソ目モクセイ科モクセイ連モクセイ属ヒイラギ変種ヒイラギ Osmanthus heterophyllus であるが、ヒイラギは台湾と日本(北海道を除く)に分布し、中国には植生しないからである。では何かというと、バラ亜綱モチノキ目モチノキ科モチノキ属ヤバネヒイラギモチ Ilex cornuta で、本種は当該ウィキによれば、『中国東北部、朝鮮南部に自生』するとあり、御丁寧に、『名前に「ヒイラギ」が付くが、ヒイラギはモクセイ科』Oleaceae『で』、『本種とは全く別の植物である』とある。「維基百科」の同種のページ「枸骨」にも、『ヨーロッパ、アメリカ、北朝鮮、浙江省、江蘇省、湖南省、江西省、雲南省、湖北省、上海、安徽省など中国本土に分布し、標高百五十メートルから千九百メートルの地域に生育』するとあって、こちらのヤバネヒイラギモチは、逆に日本には自生しないのである。

「䑕李子(むらさきしきぶ)」完全アウト。中国の「李(子)」は本邦の「ムラサキシキブ」ではない。前回の「鼠李」の私の注冒頭の考証部を参照されたい。

「鸜鵒(ひよどり)」またしても、アウトである。スズメ目ヒヨドリ科ヒヨドリ属ヒヨドリ Hypsipetes amaurotis ではなく、スズメ目ツグミ科ツグミ属クロツグミ Turdus cardis であると私は考えている。私の拘りは別として、そもそも、良安は自己矛盾を示しているのである。それは、「和漢三才圖會第四十三 林禽類 鵯(ひえどり・ひよどり) (ヒヨドリ)」で、良安は自身の評で、冒頭『按ずるに、鵯の形、鸜-鵒(つぐみ)に似て、尾、長く、蒼灰色。』と、はっきりそこでは「ツグミ」とルビを振っているからである。なお、ネットでは、圧倒的に「鸜鵒」をスズメ目ムクドリ科ハッカチョウ属ハッカチョウ Acridotheres cristatellus に同定しているようだが、それはそれで、鳥類学的に正しいのであろうけれども(私は鳥類も冥い。嘗つては「日本野鳥の会」にも入っていたが、それは連れ合いの家族会員として入っていたに過ぎない)、私は、「和漢三才圖會」を読み、注を附す際には、「本草綱目」での李時珍の認識、及び、良安の意識の中での認識を第一優先しているのであり、当時の彼らが、現在のどの種と考えていたかを考証するのが、私の「和漢三才圖會」での、第一義的に重要な「立ち位置」であるからして、ハッカチョウ説を五体投地して拝み奉って譲る気は、全く「ない」のである。何より、「和漢三才圖會第四十三 林禽類 鸜鵒(くろつぐみ) (ハッカチョウとクロツグミの混同)」を見て戴いても、良安に意識錯誤が手に取るように見えるのである。是非、参照されたい。いや、無論、そこで私は、抜かりなく「ハッカチョウ説」も紹介してあるのである。

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