「神威怪異竒談」(「南路志」の「巻三十六」及び「巻三十七」)正規表現電子化注「巻三十六」 篠之實
[やぶちゃん注:凡例・その他は初回を見られたい。底本の本篇はここ。]
篠之實(しののみ)
享保庚戌(かのえいぬ)年、當國、所々(しよしよ)の山㙒(さんや)に、篠に実のなる事、夥(おびただ)し。
其実、薏苡仁(ズヽダマ)の如し。可食(くふべし)。
土民、寡婦・老幼(らうやう)となく、手毎(てごと)に、袋(ふくろ)・筐(はこ)やうのもの、携(たづさへ)て、取事(とること)、夥敷(おびただしき)事也。
前代未聞也。
其(その)取收(とりをさむ)る事、多きは、二、三石[やぶちゃん注:三百六十一~五百四十一リットル。]に及ぶ。
農夫・嫠婦(リふ)[やぶちゃん注:「寡婦」に同じ。]、臨時の利德を得る事、勝(かつ)て[やぶちゃん注:ママ。「嘗て」「曾て」。]計(かぞ)ふべからず。
「是(これ)、畢竟(ひつきやう)、凶荒(きやうくわう)の兆(きざし)。」
と、古老の考(かんがへ)也。
秋に至(いたり)、篠、悉く、枯(かれ)たり。
[やぶちゃん注:「篠」単子葉植物綱イネ目イネ科タケ亜科メダケ属メダケ Pleioblastus Simonii 。「ブリタニカ国際大百科事典」を引く(コンマを読点に代えた)。『イネ科のメダケ属の』一『種。関東南部以西、四国、九州に分布し、山野、河岸や海辺などに生える常緑のタケ。別名が多く』、『カワタケ、ナヨタケ、ニガタケなどと呼ばれる。地下茎で繁茂し、藪となって群生する。稈は高さ』六センチメートル『ほどになり、中空の円筒形で、上部は密に分枝し、節は低く、節』の『間は長い。葉は掌状に枝先から斜めにつく』。時折り、『開花をみるが、のちに枯死する。稈』(かん:十目に幹に当たる部分の学術用語)『は軟らかで粘性が強いので、ざる、うちわの骨。笛、建築用材に用いられる』とある。千葉県の「野田市」公式サイト内の「草花図鑑」の「メダケ(女竹)(イネ科メダケ属)」の解説(PDF)が写真もあり、お薦めである。私は、今、住んでいる場所から、小学校卒業した三月、富山県高岡市伏木に転居したが、その直前の三月初め、家の傍の崖に密生していたメダケの大群落が花を咲かせたのを見た。実を食べた(味は覚えていない)。皆、枯れてしまった。
「享保庚戌年」享保十五年で、グレゴリオ暦一七三〇年。
「薏苡仁(ズヽダマ)」「數珠玉」は、私の好きな草で、イネ科ジュズダマ属ジュズダマ変種ジュズダマ Coix lacryma-jobi var. lacryma-jobi 。当該ウィキを見られたい。]
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