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2024/08/18

「和漢三才圖會」植物部 卷第八十四 灌木類 楤木

 

Taranoki

 

たらのき

       俗云太良乃木

楤木【音忽】

      【倭名抄以桵訓

       太良者非也桵

ツヲン モ  則蕤核見于前】

 

本綱楤木高𠀋餘直上無枝莖上有刺樹項生葉謂之鵲

[やぶちゃん注:「項」は「頂」の誤刻であろう。訓読では訂した。後も同じ。]

不踏以其多刺而無枝故也山人折取頭茹食謂之吻頭

△按惚山谷有之項上生葉秋凋春生取嫩葉可煠食有

 獨活之香氣葉間開小白花成叢隨結子小而黒色如

 椒月其木枝皆有刺

[やぶちゃん注:「月」は「目」の誤刻。訓読では訂した。]

 

   *

 

たらのき

       俗に云ふ、「太良乃木」。

楤木【音「忽《コツ》」。】

      【「倭名抄」、「桵」を以つて、

       「太良」と訓《くんずる》は、非なり。

       「桵」≪は≫、則ち、「蕤核」≪なり≫。

ツヲン モ  前を見よ。】

 

「本綱」に曰はく、『楤木《コツボク/たらのき》、高さ𠀋餘。直上≪して≫、枝、無く、莖の上に、刺《とげ》、有り。樹の頂《いただき》に、葉を生ず。之れを「鵲踏(《かささぎ》ふ)まず」と謂ふ。其れ、刺、多くして、枝、無きを以つて≪の≫故《ゆゑ》なり。山人、頭《かしら》≪の部分を≫を、折り取りて、茹でて食ふ。之れを、「吻頭《ふんとう》」と謂ふ。』≪と≫。

△按ずるに、惚は山谷≪に≫、之れ、有り。頂≪の≫上に、葉を生じ、秋、凋(しぼ)み、春、生ず。嫩葉《わかば》を取りて、煠(ゆで)て食ふべし。獨-活(うど)の香氣、有り。葉の間に、小≪さき≫白≪き≫花を開≪く≫。叢《むらがり》を成し、隨《したがひ》て、子《み》を結ぶ。小にして、黒色、椒《さんしやう》の目《み》のごとし。其の木、枝、皆、刺、有り。

 

[やぶちゃん注:「楤」は、前項の注で示した通り、

セリ目ウコギ科タラノキ属タラノキ Aralia elata

である。日中ともに同種である。当該ウィキを引く(注記号はカットした)。漢字表記は『楤木・楤の木・惣木・桵木』で、『落葉低木。別名は数が多く、「タランボウ」「オニノカナボウ」など地方によって様々な呼び名がある。新芽が山菜として有名なタラの芽(楤芽)で、天ぷらなどに調理されて食べられる。葉は良い香りがする』。『標準和名とされているタラノキについては、名称の由来はよくわかっていない』。『別名は』以上の外に、『タラ(楤、桵)、ウドモドキともよばれるが、地方によってはタランボウ、オニノカナボウ、タラッペ、イギノキ、トゲウドノキなど』である。『中国名は「遼東楤木」』(「維基百科」の「遼東楤木」によれば、『分布は日本・朝鮮・ロシア』・中国では『吉林省・遼寧省・黒竜江省』の北方の、百~一千百メートルの森林中に植生する。ヨーロッパやアメリカでは園芸植物として導入されて』おり、『日本や韓国では山菜として食用とされている』とあり、中国での異名として「龍牙楤木」・「刺龍牙」「刺老鴉」が挙げられてある)。『春に萌える若芽は、タラノメ(タラの芽)とよばれている』(初任の頃のワンダーフォーゲル部の引率で丹沢で採取して食べたが、すこぶる私の大好物となった)。『日本の北海道・本州・四国・九州・沖縄のほか、朝鮮半島、中国、千島列島、サハリンの東アジア地域に分布する』。『平地から標高』一千五百『メートル以上までの山地の原野、河岸、森林、林道脇など明るい日当たりの良い山野に自生する。特に、野原や』藪、『崩壊地などの荒れた場所に生える。いわゆるパイオニア的な樹木であり、森林が攪乱をうけると、たとえば』、『伐採跡地に素早く出現し、大小の集団を作って群生する。栽培もされる』。『落葉広葉樹の低木から高木で、高さは』二~六『メートル』『程度になり、幹、枝、葉にも鋭いトゲが密にある。生育環境にもよるが』、一『年で』二十~六十『センチメートル』『ほど伸び』、五『年で』三メートルに『達するものも珍しくはない。幹は』、『あまり』、『分枝せずにまっすぐに立』つ。『細い幹の樹皮には、幹から垂直に伸びる大小の鋭い棘が多くつくのが特徴である。幹が太いものは樹皮が縦に裂けて、見た目の印象が変わる。春に萌える芽は枝の先に出る』。『葉は互生し、幹や枝の先端だけに集まってつき、夏には傘のように四方に大きく葉を開く。葉身は』これで(同ウィキの葉と葉身の画像)、『全体の長さが』五十~一メートル『にも達する大きなものであり、全体に草質でつやはない。葉柄は長さ』十五~三十センチメートル『で基部がふくらむ。小葉は長さ』五~十二センチメートル『の卵形から楕円形で先が尖り、裏は白みを帯び、葉縁に粗い鋸歯がある。葉軸にはトゲが多い。葉全体に毛が多いが、次第に少なくなり、柄と脈状に粗い毛が残る。秋には赤色や橙色に紅葉するが、紅葉しはじめは』、『紫色になりやすい』。『花期は晩夏』八~九月頃で、『幹の先端の葉芯から長さ』三十~五十センチメートル『ほどある総状花序を複数つけ、多数の径』三『ミリメートル』『程度の小さな白い花を咲かせる。花弁は三角形で』五『枚、雄蕊は』五『本で突き出ている。自家受粉を防ぐため、雄蕊が先に熟して落ちた後』、五『個の雌蕊が熟し、秋には黒色で直径』三ミリメートル『ほどの小さな球状の果実となり』、十~十一月頃、『熟す』。『枝先にできる冬芽の頂芽は大きく円錐形で、側芽は互生して小さい。冬芽は芽鱗は』三、四『枚に包まれている。葉痕は浅いV字形やU字形で、維管束痕が』三十~四十『個ほど見られる』。『分類上は幹に棘が少なく、葉裏に毛が多くて白くないものを』品種『メダラ』( Aralia elata f. subinermis )『といい、栽培されるものはむしろこちらの方が普通である』。以下「品種」の項には、『タラノキが本格的に栽培されるようになったのは』一九八〇『年ごろと新しく、系統はごく少ない。メダラと称するとげの少ない濃緑で多収系を選抜したものを、山梨県農業試験場八ヶ岳分場が全国に先駆けて育成普及した品種に、「駒みどり」と「新駒」がある。その他にも、全国各地の農業試験場や民間栽培者が、その地方の優良系を選抜育成した品種も普及している』として、『野生種』について、『とげが多いが、栽培種に比べて格段に風味、香りがよく非常に美味。収穫後の回復力が弱く、個体数が少なく希少である』とした後、四種の品種(系統を含む)が掲げられてあるが、新しい種なので、ここでは不要なので、省略する。従って、以下、長く続く「栽培」関連の項もカットする。以下、「利用」の項。『特に有名なのは、新芽の山菜としての「タラの芽」の利用であるが、樹皮は民間薬として健胃、強壮、強精作用があり、糖尿病にもよいといわれる。材は軽くてやわらかく、下駄や杓子などがつくられる』。『タラの芽』『とは、タラノキの枝先に出る若芽のことで、主に山菜として食用にされる主な旬は』三~四『月で、市場に出回っているものの多くは栽培品である。山菜としては苦味や灰汁は少なく、扱いやすい食材で、天ぷらや揚げ物によく使われるほか、軽く茹でてごま和えや胡桃和えなどの和え物や炒め物にされる』。『栄養素はタンパク質が多めでコク深い味わいがある。山村地域では、古くから春の高級山菜として珍重され、俗に「山菜の王様」と称される』。『トゲがあるため』、『作業用の革手袋などが必要になる。新芽の根元で容易にむしることができるが、鎌等の道具を用いることもある。採取する新芽は、まだ葉が開ききっていない枝の先端の若芽(頂芽)だけにする。枝先の芽を摘んだあとに、やや下から』二『番目や』三『番目の芽が膨らんでくるが、タラノキはあまり枝を出さず、弱りやすい木であるため、それより下の芽は残すようにする。一定の時期を過ぎると候補と成る芽の素は枯れて発芽しない。幼い一本立ちのタラノキ(高さがだいたい膝から腰くらい)の頂芽を取るとその幼木全体が枯れてしまう。なお、枝ごと切ると木が枯れてしまうため、無謀な採取は慎むように注意喚起されている』。『韓国のタラの芽農家では、収穫のあと適当な数だけ残して枝を切り取る(夏には再び大きくなる)。そのまま放置すると』、『タラノキは高さ』三~四『メートルに成長し、収穫も困難になる』。『園芸業者が販売している枝に棘のない品種(メダラ)や別種のリュウキュウタラノキ( Aralia ryukyuensis )を栽培し』、『販売することもある』。『新芽の採取時期は桜の』八『分咲きころに同期しており、里の桜がタラの芽の採取時期でもある。日本では中国地方・四国・九州が』四月頃、『関東地方などの暖地は』四~五月頃、『北海道・東北地方・中部地方の寒冷地は』五月頃『といわれる。栽培する場合、韓国南部では』四『月上旬、中部から北部にかけては』四『月中旬・下旬に収穫する。温室で栽培したものは早春や夏、場合によっては冬にも収穫可能』である。『根元のかたい部分を切り落として、袴(はかま)の部分を取り除く。生のまま、根元の底に切れ込みを入れて天ぷらにするのが一般的で、口いっぱいにひろがる独特の芳香、心地よい苦味とコクが特徴的である。天ぷら以外にも、茹でて水にさらし、おひたしやゴマの和え物、煮びたし、酢の物にしたり、油炒め、汁の実にして食べてもよい。生のまま火であぶって、味噌をつけて食べてもおいしく食べられる。韓国では浅く茹でてチェコチュジャン(酢コチュジャン)をつけて食べるのが一般的。また、しょうゆ漬けにすると苦みは減少し、独特の芳香は濃くなる』。『タラノキ皮として、樹皮は楤木皮(たらのきかわ)、根皮は楤根皮(そうこんぴ)とよんで生薬として用いられる。樹皮の部分は刺老鴉(しろうあ)ともよばれるが、中国薬物名の楤木はタラノキの仲間の別種である』。『乾燥させたタラノキ皮を煎じて』用いると、『血糖降下、健胃、整腸、糖尿病、腎臓病に効用があるといわれる。また、芽をたべることで同じような効果が期待できると言われている。根皮も「タラ根皮」(タラこんぴ)という生薬で、糖尿病の症状に対して用いられる。高血圧や慢性胃炎には皮つき枝を刻んだものでお茶代わりに飲用することもでき、常用しても支障は出ない。暖める作用がある薬草で、熱があったり、のぼせやすい人や、妊婦への服用は禁じられている』。『膵臓のβ細胞に障害を与えた糖尿病モデルに対してタラノメ抽出物を投与したが』、『改善効果は認められなかった』『一方、ラットへのブドウ糖やショ糖の負荷投与に際して血糖値上昇が』、七~八『割も抑制された。このことから、タラノメは糖尿病の治療というよりも予防や悪化防止に効果があると考えられるとする報告がある』。『なお、タラノキ材は小細工用に使われる』。『芽』の出し始め『は有毒のヌルデ』(ムクロジ目ウルシ科ヌルデ属ヌルデ変種ヌルデ Rhus javanica var. chinensis当該ウィキに、『葉にできた』虫癭(ちゅうえい)『を五倍子(ごばいし/ふし)という。お歯黒の材料にしたり、材は細工物や護摩を焚くのに使われる』とある)『やヤマウルシ』(ウルシ科ウルシ属ヤマウルシ Toxicodendron trichocarpum )『にも似ているが、これらの木はトゲがないことから見分けられる』とあった。但し、ここで最後の二種を『有毒』と言っているのはウルシかぶれを指しているに過ぎない。特に前者ヌルデは一般的には、ヤマウルシと比較すると、かぶれはそれほど強くはないとされる(私は四十代で発症し、両方ともダメだが)。

 「本草綱目」の引用は、「漢籍リポジトリ」の「木之三」の「楤木」([088-80b]以下。かなり短い)の「集解」からのパッチワークである。

『「倭名抄」、「桵」を以つて、「太良」と訓《くんずる》は、非なり。「桵」≪は≫、則ち、「蕤核」≪なり≫。前を見よ』は、既に前の「㽔核」で同じことを良安が言っているので、詳細に注をしてあるから、そちらを参照されたい。

「鵲踏(《かささぎ》ふ)まず」「鵲」はズメ目カラス科カササギ属カササギ亜種カササギ Pica pica sericea同種の日本での分布は、限定的であり、良安は実物を見たことがない可能性が高い。詳しくは、私の「和漢三才圖會第四十三 林禽類 鵲(かささぎ)」を参照されたい。

「獨-活(うど)」セリ目ウコギ科タラノキ属ウド Aralia cordata。若葉・蕾・芽・茎の部分が食用になり、香りもよい。蕾や茎は初夏五~六月と採取出来る期間が短いが、若葉はある程度長期間に渡って採取することが可能である。私も好物だ。参照したウィキの「ウド」によれば、『根茎を独活(どくかつ)と称し』、『独活葛根湯などの各種漢方処方に配剤されるほか、根も和羌活として薬用にされる』。『秋に根を掘り取って輪切りにし天日干ししたものを用いて、煎じて服用すると、体を温めるとともに頭痛や顔のむくみに効用があるとされる』。『また、アイヌ民族はウドを「チマ・キナ」(かさぶたの草)と呼び、根をすり潰したものを打ち身の湿布薬に用いていた。アイヌにとってウドはあくまでも薬草であり、茎や葉が食用になることは知られていなかった』とある。

「椒《さんしやう》」。山椒。ムクロジ目ミカン科サンショウ属サンショウ Zanthoxylum piperitum 。]

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