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2024/08/14

「和漢三才圖會」植物部 卷第八十四 灌木類 枸橘

 

Gezukaratati

 

げず    臭橘

       俗云介須

枸橘

 

ウキユツ

 

[やぶちゃん字注:「俗云介須」の「介須」には、珍しく、「介゛須゛」と濁点が打たれている。

 

本綱枸橘樹葉並與橘同伹幹多刺二月開白花青蕋不

香結實大如彈丸形如枳實而殼薄不香人家多收種爲

藩蘺亦收小實僞𭀚枳實及青橘皮售之不可不辨

蒙筌云臭橘皮微綠不堪藥用今市家欺世媒利無益有

△按枸橘卽枳之種類而樹葉實與枳無異伹實小堅青

 綠色深於枳𭀚之小枳實大非也故及贅言

 

   *

 

げず    臭橘《しうきつ》

       俗に云ふ、「介須《げす》」。

枸橘

 

ウキユツ

 

「本綱」に曰はく、『枸橘、樹も、葉も、並《ならびに》、橘《きつ》と同じ。伹《ただし》、幹に、刺《とげ》、多し。二月に白≪き≫花を開く。青≪き≫蕋《しべ》、香《かんばし》からず。實を結び、大いさ、彈丸のごとく、形、枳實《きじつの》ごとくにして、殼、薄くして、香からず。人家《じんか》に、多く、收《まとめて》種《うゑ》て、藩蘺《ませがき》と爲す。亦、小≪さき≫實を收(をさ)めて、僞《いつはり》て、「枳實《きじつ》」及び「青橘皮《せいきつひ》」に𭀚《あて》て之れを售(う)る。辨ぜざらんは、あるべからず。』≪と≫。

「蒙筌《もうせん》」に云はく、『臭橘の皮、微《やや》綠りなり。藥用に堪へず。今、市家《いちいへ》、世を欺(あざむ)き、利を媒(はか)る≪も≫、益、無くして、損≪のみ≫、有り。』≪と≫。

△按ずるに、枸橘《くきつ》は、卽ち、枳《き》の種類にして、樹・葉・實、枳と異なること、無し。伹《ただし》、實、小にして、堅く、青綠《あをみどり》の色、枳よりも、深し。之れを、「小≪さき≫枳實《きじつ》」に𭀚《あて》たり。≪之れ、≫大いに、非なり。故《ゆゑに》、贅言《ぜいげん》に及≪べり≫。

 

[やぶちゃん注:既に、前項「枳殻」で十全に考証した通り、全項と同じ、

双子葉類植物綱ムクロジ目ミカン科カラタチ属カラタチ Citrus trifoliata

として問題ない。敢えて言うなら、本文で、散々に、ダメなカラタチの個体(群)で同種の個体の内、実が薬用に殆んど、或いは、全く堪えないものを指すと採ってよい。因みに、平凡社「世界大百科事典」の「カラタチ 枸橘」に、『カラタチやミカン類の成熟直前の果実を輪切りしたものを枳殻(きこく)と称し』、『薬用(健胃』。『利尿)とする。またカラタチの未熟果を乾燥したものを枸橘(くきつ)と言い』、『同様に薬用とする。熟果は飲料にし』、『マーマレードをつくることもある』とある通り、カラタチの未熟果を限定的に指すとしてもよいだろう。

 「本草綱目」の引用は、「漢籍リポジトリ」の「木之三」の「枸橘」([088-21b]以下)の「集解」のほぼ全文である。但し、良安は「枸橘」を全く薬剤に用いないと言い切っているが、実際には処方が挙げられているのを、総て、カットしている。短いので、全文を以下に示しておく(少し、手を加えた)。

   *

枸橘【「綱目」】

 釋名臭橘

 集解【時珍曰枸橘處處有之樹葉並與橘同但榦多刺二月開白花青蕋不香結實大如彈丸形如 枳實而殻薄不香人家多收種為藩蘺亦或收小實偽充枳實及青橘皮售之不可不辨】

 葉氣味辛温無毒主治下痢膿血後重同萆薢等分

 炒存性研毎茶調二錢服又治喉瘻消腫導毒【時珍】

 附方【新一】咽喉怪證【咽喉生瘡層層如叠不痛日久有竅出臭氣廢飲食用臭橘葉煎湯連服必愈夏子益奇病方】

 刺主治風蟲牙痛毎以一合煎汁含之【時珍】

 橘核主治腸風下血不止同樗根白皮等分炒研每

 服一錢皂莢子煎湯調服【時珍】

 附方【新一】白疹瘙痒【遍身者小枸橘細切麥麩炒黄為末每服二錢酒浸少時飲酒初以枸橘煎湯洗患處【救急方】】

 樹皮主治中風强直不得屈申細切一升酒二升浸一宿每日温服半升酒盡再作【時珍】

   *

「げず」小学館「日本国語大辞典」に『植物「からたち(枸橘)」の古名。』とある。初出例は天正一九(一五九一)年である。

「橘《きつ》」前項の私の注を、そのまま転写する。これはミカン科ミカン亜科ミカン属タチバナ Citrus tachibana ではなく、ミカン科 Rutaceae の一種としか言えない。何故なら、本邦で普通に名として知られる「橘」=Citrus tachibana 日本固有種であるからである。当該ウィキによれば、『本州の和歌山県、三重県、山口県、四国地方、九州地方の海岸に近い山地にまれに自生する』とある。中国の「橘」は、調べてみても、種同定は出来なかった。ただ、後の「本草綱目」の話で、長江の北には、この「橘」(きつ)は分布しないとするから、ミカン属の中でも、温・亜熱帯に適応した種(群)であるとは言える。

「藩蘺《ませがき》」前項で既出既注だが、再掲しておくと、小学館「日本国語大辞典」では『はんり』として、『藩籬・籬・樊籬』と示し、特にそのまま、総て『まがきの意』とする同辞典で、「藩」は『かきね、かこいの意』とする。

「蒙筌《もうせん》」「本草蒙筌」実用を主眼とした本草書で、全十二巻。明の陳嘉謨(かぼ)の撰で、嘉靖四四(一五六五)年成立。東洋文庫の「書名注」では刊行は万暦元(一五七三)年刊とする。当該部は「維基文庫」の同書の電子化の「卷之四」「木部」の「枳實」で全文が見られる。]

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