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2024/09/30

「和漢三才圖會」植物部 卷第八十四 灌木類 木芙蓉

 

Fuyou

 

もくふやう  地芙蓉 木蓮

       𬜻木  杹木

       拒霜

木芙蓉

       【只云不也宇】

[やぶちゃん注:「もくふやう」はママ。]

 

本綱木芙蓉揷枝卽生小木也其幹叢生如荆高者丈許

其葉大如桐有五尖及七尖者冬凋夏茂秋半始着花花

類牡丹芍藥有紅者白者千葉者最耐寒不落不結實取

其皮爲索

𣷹色拒霜花 木芙蓉之異種【四川廣州出之】其花初開時白色

[やぶちゃん注:「𣷹」は「添」の異体字。]

 次日稍紅又明日則深紅先後相間如數色

葉花【微辛】清肺凉血散熱解毒治一切癰疽惡瘡

 清凉膏【清露散鐵箍散】 芙蓉葉【或根皮或花或生研或乾】細末以宻調塗

 于腫𠙚四圍中間留頭乾則頻換之治癰疽發背乳癰

 惡瘡初起者卽覺清凉痛止腫消【已成者卽膿聚毒出已穿者卽膿出昜歛】

[やぶちゃん注:「歛」は「斂」の異体字。]

妙不可言或加生赤小豆末尤妙也

△按木芙蓉其樹葉花實皆似木槿而大艷美七月開花

 桃紅色或純白或紅白相半有單瓣有千瓣皆朝開暮

 萎毎枝數朶更開逐日盛其花落結實亦如木槿輕虛

 有薄皮裹細子大如蕎麥冬葉盡落而實殼尙不零拒

 霜之名義𢴃此乎自裂子墮𠙚能生揷枝亦昜活然本

 草所謂花耐寒不落不結實之文未審

 

   *

 

もくふやう  地芙蓉       木蓮

       𬜻木《くわぼく》  杹木《くわぼく》

       拒霜《きよさう》

木芙蓉

       【只《ただ》、云ふ、「不也宇」。】

[やぶちゃん注:「もくふやう」はママ。]

 

「本綱」に曰はく、『木芙蓉は、枝を揷し、卽ち、生ず。小木なり。其の幹、叢生す。荆《いばら》のごとく、高い者、丈許《ばかり》。其の葉、大いさ、「桐」のごとく、五≪つの≫尖《とがり》、及び七≪つの≫尖の者、有り。冬、凋み、夏、茂(しげ)り、秋の半《なかば》に、始めて花を着《つく》。花、「牡丹」・「芍藥」に類《るゐ》≪し≫、紅の者、白き者、千葉《やへ》の者、有り。最も寒に耐へて、落ちず。實を結ばず。其の皮を取りて、索(なは)と爲す。』≪と≫。

『𣷹色拒霜花(てんしよくきよさうくわ)』≪は≫、『木芙蓉の異種【四川・廣州[やぶちゃん注:現在の広東省と広西チワン族自治区。]、之れを出だす。】≪なり≫。其の花、初めて開く時、白色、次《つぎ》≪の≫日、稍《すこし》く紅《くれなゐ》なり。又、明《あく》る日、則ち、深紅≪たり≫。先後《せんご》、相間《あひまぢ》りて、數色《すしよく》のごとし。』≪と≫。

『葉・花【微辛。】肺を清《きよ》≪くし≫、血を凉《すずしく》し、熱を散じ、毒を解す。一切≪の≫癰疽《ようそ》・惡瘡《あくさう》を治す。』≪と≫。

『清凉膏【「清露散」・「鐵箍散《てつこさん》」。】』『芙蓉の葉【或いは、根の皮。或いは、花。或いは、生《を》研《けずる》。或いは乾《ほす。》】≪を≫細末にして、宻《みつ》[やぶちゃん注:糖蜜。]を以つて、調へ、腫≪れる≫𠙚の四圍に塗《ぬり》て、中間《ちゆうかん》に頭[やぶちゃん注:腫れ物の形成されてある腫瘍部分の真上。]を留《と》む。乾(かは)ける≪時は≫、則ち、頻りに、之れを換ふ。癰疽・背に發せる[やぶちゃん注:返り点はないが、返して訓読した。]≪癰疽≫・乳≪に發せる≫癰・惡瘡を治す。起≪き≫初≪めの≫[やぶちゃん注:同前で訓読した。]者は、卽ち、清凉を覺≪え≫、痛≪みを≫止め、腫《れを》を消す【已に≪腫れ物と≫成れる者は、卽ち、膿《うみ》を聚《あつ》め、毒を出≪だす≫。已に穿《うが》れる者は、卽ち、膿を出だし、歛《れん》[やぶちゃん注:収斂効果。]を昜《やす》くす。】。妙≪なること≫、言ふべからず。或いは、生《なま》の赤--豆(あづき)の末《まつ》を加へて、尤も、妙なり。』≪と≫。

△按ずるに、木芙蓉は、其の樹・葉・花・實、皆、「木槿《むくげ》」に似て大きく、艷美なり。七月、花を開き、桃紅色、或いは、純白、或いは、紅・白≪の≫相《あひ》半(なかば)す。單瓣《ひとへ》、有り、千瓣《やへ》、有り、皆、朝、開き、暮に萎(しぼ)む。枝毎《ごと》[やぶちゃん注:返り点はないが、返って訓じた。]≪に≫、數朶《すだ》≪あり≫、更に開きて、日を逐《おひ》て、盛《さかん》なり。其の花、落ちて、實を結ぶ。亦、「木槿(むくげ)」のごとく、輕虛≪にして≫、薄皮、有りて、細≪かなる≫子≪たね≫を裹《つつ》む。大いさ、「蕎麥《そば》」≪の實≫のごとし。冬、葉、盡《ことごと》く落ちて、實の殼、尙を[やぶちゃん注:ママ。]、零《お》ちず。「拒霜」の名義、此れに𢴃《よ》るか。自《おのづか》ら、裂《さけ》て、子《たね》、墮《お》つる𠙚、能く生(は)へ[やぶちゃん注:ママ。]、枝を揷(さ)して、亦、活《いき》昜《やす》し。然《しか》るに、「本草」に、所謂《いはゆる》、『花、寒に耐へて、落ちず。實を結ばず。』の文《ぶん》、未-審(いぶかし)。

 

[やぶちゃん注:「木芙蓉」は、日中ともに、

双子葉植物綱アオイ目アオイ科アオイ亜科フヨウ連フヨウ属フヨウ Hibiscus mutabilis

であり、当該の「維基百科」も「木芙蓉」である。当該ウィキを引く(注記号はカットした)。『種小名 mutabilisは「変化しやすい」(英語のmutable)の意。「芙蓉」はハスの美称でもあることから、とくに区別する際には「木芙蓉」(もくふよう)とも呼ばれる。中国名は、木芙蓉』。『中国原産といわれている。中国、台湾、日本の沖縄、九州・四国に分布する。日当たりのよいところを好み、暖地の海岸に近い林などに自生する。日本では関東地方以南で観賞用に栽培され、庭木や公園樹、街路樹としても植えられる』。『落葉広葉樹の低木で、幹は高さ』一~四『メートル』『になる。寒地では冬に地上部は枯れ、春に新たな芽を生やす。樹皮は灰白色から淡褐色をしており、滑らかで縦に筋や皮目がある』。『葉は互生し、表面に白色の短毛を有し掌状に浅く』三~七『裂する』。七~十『月初めにかけてピンクや白で直径』十~十五センチメートル『程度の花をつける。朝咲いて夕方にはしぼむ』一『日花で、長期間にわたって毎日次々と開花する。花は他のフヨウ属と同様な形態で、花弁は』五『枚で回旋し』、『椀状に広がる。先端で円筒状に散開するおしべは根元では筒状に癒合しており、その中心部からめしべが延び、おしべの先よりもさらに突き出して』五『裂する』。『果実は蒴果で、毛に覆われて多数の種子をつける。果実が熟すと上向きに』五『裂して、種子を出す。冬でも多くの果実がついていることがある』。『冬芽は裸芽で枝と共に星状毛に覆われており、枝先に頂芽がつき、側芽は枝に互生する。葉痕は心形や楕円形で、維管束痕が多数輪になって並ぶ』。『同属のムクゲ』(フヨウ連フヨウ属 Hibiscus 節ムクゲ Hibiscus syriacus )『と同時期に良く似た花をつけるが、直線的な枝を上方に伸ばすムクゲの樹形に対し、本種は多く枝分かれして横にこんもりと広がること、葉がムクゲより大きいこと、めしべの先端が曲がっていること、で容易に区別できる。フヨウとムクゲは近縁であり』、『接木も可能』である。『南西諸島や九州の島嶼部や伊豆諸島などではフヨウの繊維で編んだ紐や綱が確認されている』(☜)。『甑島列島(鹿児島県)の下甑町瀬々野浦では』、『フヨウの幹の皮を糸にして織った衣服(ビーダナシ)が日本で唯一確認されている。ビーダナシは軽くて涼しいために重宝がられ、裕福な家が晴れ着として着用したようである。現存するビーダナシは下甑島の歴史民俗資料館に展示されている』四『着のみであり、いずれも江戸時代か明治時代に織られたものである』。以下、「変種・近縁種」の項から。本来、ここには不要かと思うが、フヨウは私の好きな花なので掲げることとする。

○スイフヨウ(酔芙蓉)Hibiscus mutabilis (『朝』、『咲き始めた花弁は白いが、時間がたつにつれてピンクに変色する八重咲きの変種であり、色が変わるさまを酔って赤くなることに例えたもの。なお、「水芙蓉」はハスのことである。混同しないように注意のこと』)

○サキシマフヨウ(先島芙蓉)Hibiscus makinoi (『鹿児島県西部の島から台湾にかけて分布する。詳細は』当該ウィキ『を参照』)

○アメリカフヨウ(草芙蓉)Hibiscus moscheutos (英語: rose mallow:『米国アラバマ州の原産で』、七『月と』九『月頃に直径』三十センチメートル『近い巨大な花をつける。草丈は』五十センチメートルから一・六〇メートル『くらいになる。葉は裂け目の少ない卵形で花弁は浅い皿状に広がって互いに重なるため』、『円形に見える。この種は多数の種の交配種からなる園芸品種で、いろいろな形態が栽培される。なかには花弁の重なりが少なくフヨウやタチアオイ』(アオイ亜科タチアオイ属タチアオイ Althaea rosea )『と似た形状の花をつけるものもある。日本での栽培も容易であり、多年草であるため』、『一度植えつければ毎年鑑賞することが可能』)

○タイタンビカス Hibiscus × Titanbicus(『日本で作出された園芸品種』で、前記『アメリカフヨウとモミジアオイ』(フヨウ属モミジアオイ Hibiscus coccineus )『の交配選抜種』。六『月下旬』から十『月初頭に』十五センチメートル『ほどの花を多数つける。草丈は』一~二メートル『ほど。葉はモミジ葉』で、所謂、『ハイビスカスそっくりの南国風の花であるが』、『北海道等の寒冷地』を含め、『日本全国での屋外栽培・屋外越冬が可能。栽培もいたって容易である』)

 「本草綱目」の引用は、「漢籍リポジトリ」の「木之三」「灌木類」の「木芙蓉」([088-70a]以下)の独立項のパッチワーク。

「杹木《くわぼく》」「杹」一字で木芙蓉=フヨウを指す漢語。

「牡丹」ユキノシタ目ボタン科ボタン属ボタン Paeonia suffruticosa

「芍藥」ユキノシタ目ボタン科ボタン属シャクヤク Paeonia lactiflora

「𣷹色拒霜花(てんしよくきよさうくわ)」中文の「百度百科」の「拒霜」を見るに、「木芙蓉」の別名である。そこの「出典」に、北宋の文学家・歴史学者宋祁(そうき 九九八年~一〇六一年)の「益都略記」(正しくは「益部方物略記」)から引いてある。当該書を「中國哲學書電子化計劃」の同書で確認すると(ガイド・ナンバー「62」)一部に手を加えた)、

   *

右添色拒霜花【生彭・漢・蜀州。花常多葉、始開白色、明日稍紅、又明日則若桃花然。】

   *

とあった。

「清凉膏」「清露散」「鐵箍散」孰れも不詳。「箍」は訓は「たが」で、お馴染みの桶や樽などを締める竹や金属製の輪を言う。ここは、恐らく、体内の病的に弛んだ様態を正常に戻すための強い矯正効果を換喩したものとは思われる。

「赤--豆」これは、マメ目マメ科マメ亜科アズキ変種アズキ Vigna angularis var. angularis の種子を基原とする生薬「赤小豆(せき/しやくしやうづ)」(せきしょうず/しゃくしょうず)を指す。「ウチダ和漢薬」公式サイト内の「生薬の玉手箱」の「赤小豆(セキショウズ・シャクショウズ)」に詳しいので、参照されたい。

「蕎麥《そば》」ナデシコ目タデ科ソバ属模式種ソバ Fagopyrum esculentum

『然《しか》るに、「本草」に、所謂《いはゆる》、『花、寒に耐へて、落ちず。實を結ばず。』の文《ぶん》、未-審(いぶかし)』このような特異なフヨウの種があるのか、どうか、少しは調べてみたが、私には判らなかった。識者の御教授を乞うものである。

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