葡萄畑の葡萄作り ジユウル・ルナアル 岸田國士譯( LE VIGNERON DANS SA VIGNE 1894 Jule Renard) 戦前初版 ポピイ
[やぶちゃん注:底本・凡例等は初回を見られたい。本篇はここ。「ポピイ」(標題“les coquelicots”)は。音写すると、「ル・コクリコト」で、狭義には、「雛罌粟・雛芥子」=双子葉植物綱キンポウゲ目ケシ科ケシ属ヒナゲシ Papaver rhoeas を指す。本邦では「虞美人草」の名でも知られる。フランスでは野原で普通に見られる親しい花であり、国花の一つである、フランス国旗の右の赤のラインも本種をイメージしている(因みに、左の青は後注する「矢車菊」=キク目キク科ヤグルマギク属ヤグルマギク Centaurea cyanus を、中央の白はマーガレット=「仏蘭西菊」=キク科キク亜科フランスギク属フランスギク Leucanthemum vulgare が元である。学名のグーグル画像検索をリンクさせておく)。ヒナゲシの学名のグーグル画像検索をリンクさせておく。フランスでは、幾つかの地方名があり、coquelicot・pavot-coq・pavot des champs・pavot sauvage・poinceau・ponceau等がある。なお、本邦ではケシ科 Papaveraceaeケシ属 Papaver のケシ類を総じて英語の「ポピー(poppy)」で通称しているが、英語で単に“poppy”と言った場合は、イギリス各地に自生している園芸種としても盛んに栽培されている、本種ヒナゲシ(“corn poppy”:コーン・ポピー)を指す。一方、日本語で単に「ケシ」と言って、それが同時に種を指している場合には、麻薬であるアヘンの元であるケシ Papaver somniferum を指すので、注意が必要である。]
ポ ピ イ
彼等は麥の中で、小さな兵士のやうに、氣取つてゐる。然し、もつともつと綺麗な赤い色。それに、あぶなくはない。
彼等の劍《つるぎ》は芒(のげ)である。
風が吹くと飛んで行く。そして、めいめいに、氣が向けば、畝(うね)のへりで、同鄕出身の女、矢車草《やぐるまさう》の花と、つひ[やぶちゃん注:ママ。]話が長くなる。
[やぶちゃん注:「彼等の劍《つるぎ》は芒(のげ)である。」原文は“Leur épée, c’est un épi.”。この“épi”は「(麦・稲などの)穂」の意。「芒」は「のぎ・のげ(野毛)・ぼう・はしか」と読み、漢字では「芒」と同語源で「禾・鯁」(後者は専ら「喉に刺さる小さな魚の骨」として使われる)とも書く。
「矢車草」既に『「博物誌」ルナアル作・岸田國士譯(正規表現版・ボナール挿絵+オリジナル新補注+原文) 「ひなげし」』で注してあるが、再掲すると、ヤグルマソウ=キク目キク科ヤグルマギク属ヤグルマギク Centaurea cyanus 。当該ウィキによれば、『一部でヤグルマソウとも呼ばれた時期もあったが、ユキノシタ科のヤグルマソウと混同しないように現在ではヤグルマギクと統一されて呼ばれ、最新の図鑑等の出版物もヤグルマギクの名称で統一されている』とあった。原文では、“bleuet”で、フランス語のウィキでは Cyanus segetum で標題するも、これはヤグルマギクのシノニムであるので、間違いない。いやいや、何より、ヤグルマギクは既に述べた通り、フランスの国花の一種なのである。フランス語のウィキ“Emblème végétal”(「植物の紋章」)のフランスの条に、『ヤグルマギク、デイジー、ポピーはフランスの花の象徴である(ヤグルマギクは第一次世界大戦のフランス退役軍人のシンボルであ』る、と記されてある。これは、フランス語のウィキでは、『ボタン・ホールに附けられたフランスのヤグルマギクは、退役軍人、戦争犠牲者、未亡人、孤児 に対する記憶と連帯の象徴である』とある。但し、同種の花の色は、青というより、明るい紫色である(グーグル画像検索「ヤグルマギク」をリンクさせておく)。]
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