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2024/09/17

「和漢三才圖會」植物部 卷第八十四 灌木類 壩齒花

 

Muresuzume

 

はしくは  錦鷄兒

壩齒花 醬瓣子

 

農政全書云壩齒花生山野閒亦人家園宅閒多栽葉似

枸𣏌子葉而小毎四葉攅生一處枝梗亦似枸𣏌有小刺

開黃花狀類雞形結小⻆

△按未識如此樹蓋雞形二字中閒有冠字乎

 

   *

 

はしくは  綿鷄兒《めんけいじ》

壩齒花 醬瓣子《しやうべんし》

 

「農政全書」に云はく、『壩齒花、山野の閒に生ず。亦、人家≪の≫園宅≪の≫閒≪に≫、多く栽《う》ふ[やぶちゃん注:ママ。]。葉、「枸𣏌子《くこし》」の葉に似て、小《ちさ》く、四葉《よつば》毎《ごとに》[やぶちゃん注:返り点はないが、返して訓じた。]、一處に攅-生(あつまり《しやう》)ず。枝・梗(くき)も亦、「枸𣏌」に似て、小≪さき≫刺《とげ》、有り。黃花を開く。狀《かたち》、雞《にはとり》≪の≫形に類して、小≪さき≫⻆を結ぶ。』≪と≫。

△按ずるに、未だ此のごとくなる樹を識らず。蓋し、「雞形」の二字の中閒に、「冠」の字、有るか。

 

[やぶちゃん注:これは「綿鷄兒」で、「維基百科」の「錦雞兒」により、一発で判明した。

双子葉植物綱マメ目マメ科ムレスズメ属ムレスズメ Caragana sinica

である。Katou氏のサイト「三河の植物観察」の「ムレスズメ 群雀」のページによれば、別名『キンジャクカ、キンジャクジュ』で、花期は四~五月で、『落葉低木』で、樹高は一~二メートル。中国からの『帰化種』。『ムレスズメはマメ科ムレスズメ属の観賞用の栽培種』であり、『中国原産で日本には江戸時代』の文政九(一八二六)年『に渡来し』(「梅園草木花譜」の「春三」に拠る)、そこ『に金雀児樹(ムレスズメ)、金雀花(キンジャククア)、金雀樹(キンジャクジュ)と記載されている』とある。『樹皮は暗褐色。当年小枝は無毛。葉は羽状又はときに掌状』で、四『小葉。葉柄と葉軸は長さ』は七ミリメートル~一・五(或いは二・五センチメートル。『脱落性又は宿存性。小葉の葉身は倒卵形』から『長円状倒卵形』を呈し、『長さ』は一~三・五センチメートル『×幅』〇・五~一・五センチメートル、『しばしば、先の対が最も大きく、先は円形で微突形。花は単生。花柄は長さ約』一センチメートル、『中間に関節がある。咢筒は鐘形、長さ』一・二~一・四センチメートル。『花冠は黄色、長さ』二・八~三センチメートル。『旗弁』(きべん:マメ類の花によく見られる蝶形花(ちょうけいか)の、上方にある一枚の花弁を指す。旗を立てたような形なのでかく称する)『は狭倒卵形、爪部は短い。翼弁は基部に耳があり、爪部は拡大部とほぼ同長。竜骨弁は広く鈍い。子房は無毛。豆果は円筒形、長さ』三~三・五センチメートル。『果期は』七『月』とある。『ムレスズメ属』 Caragana は、『低木』、『又は』、ごく『まれに高木』で、『托葉は小さく、脱落性又は宿存性、刺状。葉は偶数羽状複葉、葉軸は最終の小葉の対を超えて伸びるか』、『又は』、『葉軸が縮小して』、『見たところ掌状』を呈し、『小葉は』四~二十『個。葉柄と葉軸は宿存性又は脱落性、宿存するときは』、『しばしば』、『木質で刺状になる。小葉の葉身は全縁、先は』、『しばしば、尖頭』を成し、『花は腋生、普通、単生だが、ときに』二~五『個、束生する。花柄は関節がある。小苞は無く又は』一つから『多数ある。咢は筒形又は鐘形』で、五『歯、外側の』二『個は普通、小さく、基部は袋状又は袋状でない。花冠は黄色、まれに紫色~帯ピンク色~白色、旗弁はときに淡黄色又は橙赤色、翼弁と竜骨弁は』、『しばしば、耳形』を成す。『雄しべは』二『体雄しべ 』(九+一)。『子房は類無柄、まれに、柄がある』。『世界に約』百『種があり、温帯のアジア、ヨーロッパ東部に分布する。中国には』六十六『種ある』とある。以下、「ムレスズメ属の主な種と園芸品種」で、以下のムレスズメを含む(それはカットした)十一種が挙げられて、それぞれ解説がなされてある。

・オオムレスズメ(大群雀)Caragana arborescens (『中国、モンゴル、ロシア、カザフスタン原産。中国名は树锦鸡儿』)

Caragana densa (『中国原産。中国名は密叶锦鸡儿』)

Caragana frutex(『中国、モンゴル、ロシア、カザフスタン、ヨーロッパ東部原産。中国名は黄刺条锦鸡儿』)

Caragana jubata (『中国、モンゴル、ロシア、インド、ブータン原産。中国名は鬼箭锦鸡儿』)

・マンシュウムレスズメ(満州群雀)Caragana manshurica(『朝鮮、中国、ロシア原産。中国名は东北锦鸡儿』)

・コバノムレスズメ(小葉の群雀)Caragana microphylla (『中国、モンゴル、ロシア原産。中国名は小叶锦鸡儿』)

・コムレスズメ(小群雀)Caragana rosea (『中国原産。中国名は红花锦鸡儿』)

・ヒメムレスズメ(姫群雀)Caragana stenophylla (『中国、モンゴル、ロシア原産。中国名は狭叶锦鸡』)

・ウスリームレスズメ aragana ussuriensis (『中国、ロシア原産。中国名は乌苏里锦鸡儿』)

・リョウトウムレスズメ Caragana zahlbruckneri (『中国原産。中国名は金州锦鸡儿』)

なお、当該ウィキは記載が貧困であるが、特に『ムレスズメは、アセチルコリンエステラーゼ阻害活性を示すスチルベノイド三量体のα-ビニフェリンや、プロテインキナーゼC阻害剤のミヤベノールC』、『また』二『つのスチルベン四量体コボフェノールAとカラシノールB』『を含むことで知られる』とある。但し、これは同種の英文ウィキを翻訳したものに過ぎず、著者が化学的知識を以って判って書いたものではないものである。なお、「和漢三才圖會」の成立は正徳二(一七一二)年であるから、良安は評言通り、本種を知るべくもなかったのである。

「農政全書」明代の暦数学者でダ・ヴィンチばりの碩学徐光啓が編纂した農業書。当該ウィキによれば、『農業のみでなく、製糸・棉業・水利などについても扱っている。当時の明は、イエズス会の宣教師が来訪するなど、西洋世界との交流が盛んになっていたほか、スペイン商人の仲介でアメリカ大陸の物産も流入していた。こうしたことを反映して、農政全書ではアメリカ大陸から伝来したサツマイモについて詳細な記述があるほか、西洋(インド洋の西、オスマン帝国)の技術を踏まえた水利についての言及もなされている。徐光啓の死後の崇禎』十二『年』(一六三九年)『に刊行された』とある。光啓は一六〇三年にポルトガルの宣教師によって洗礼を受け、キリスト教徒(洗礼名パウルス(Paulus))となっている。以下は、同書の「卷五十六 荒政」(「荒政」は「救荒時の利用植物群」を指す)にある。「漢籍リポジトリ」のここの、ガイド・ナンバー[056-13b] に、

   *

壩齒花 本名錦鷄兒又名醤瓣子生山野間中州人

家園宅間亦多栽葉似枸杞子葉而小每四葉攢生一

處枝梗亦似枸杞有小刺開黄花狀類鷄形結小角兒

味甜

  救飢 採花煠熟油鹽調食炒熟喫茶亦可

   *

とあった。]

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