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2024/09/13

「和漢三才圖會」植物部 卷第八十四 灌木類 溲疏

 

Tyousenkuko

 

ちやうせんくこ 俗云朝鮮枸𣏌

 

溲疏

     本草李當之以溲

     疏楊櫨爲一物故

     和名亦訛爲一物

 

本綱曰溲疏樹形似楊櫨樹高𠀋許皮白中空時時有節其

子八九月熟赤色似拘𣏌子必兩兩相對樹有剌

△按朝鮮枸𣏌枝葉花皆似枸𣏌而子亦如枸𣏌畧大八

 九月熟赤色樹有刺而中空山中則髙𠀋許者亦有

 

   *

 

ちやうせんくこ 俗、云ふ、「朝鮮枸𣏌」。

 

溲疏

     「本草」に、李當之《りたうし》、

     「溲疏《そうそ》」・「楊櫨《やうろ》」

     を以つて、一物《いちもつ》と爲す。

     故《ゆゑに》、和名にも亦、訛《あや

     まり》て、一物と爲す。

[やぶちゃん注:東洋文庫訳では「楊櫨」に対して『うつぎ』とルビを振っているが、私は従えない。「本草綱目」から引用である以上、ここでは、同一種を指すかどうか分からないうちは、用心して、音で読むべきと考えるからである。]

 

「本綱」に曰はく、『溲疏樹《そそうじゆ》は、形、「楊櫨《やうろ》」に似て、樹の高さ、𠀋許《ばかり》。皮、白≪く≫、中空《ちゆうくう》にして、時時《ときどき》、節《ふし》、有り。其の子《み》、八、九月に熟す。赤色≪にして≫、「拘𣏌《くこ》」の子に似て、必≪ず≫、兩兩《ふたつながら》、相對《あひたい》す。樹に、剌《とげ》、有り。』≪と≫。

△按ずるに、朝鮮枸𣏌は、枝・葉・花、皆、「枸𣏌」に似て、子(み)も亦、枸𣏌のごとく、畧《ちと》、大≪きく≫、八、九月、熟して、赤色≪たり≫。樹に、刺、有りて、中空《ちゆうくう》なり。山中には、則ち、髙さ、𠀋許《ばかり》の者も、亦、有り。

 

[やぶちゃん注:自力考証しようとしたが、以上の複数の漢字で中文サイトを調べても、見当たらないばかりでなく、項目標題の「溲疏」で調べると、悉く、

双子葉植物綱バラ亜綱バラ目アジサイ科ウツギ属 Deutzia の多数の種

が、わらわらと、ぞくぞく、出て来るばかりである。されば、出来れば使いたくないないのだが、初版原本を牧野富太郎が植物部を校定し、後に『新註校定国訳本草綱目』第九冊(鈴木真海訳(初版をスライドさせたもの)・白井光太郎(旧版監修・校注)/新註版:木村康一監修・北村四郎(植物部校定)・一九七五年春陽堂書店刊)の当該部を見るしかなかった何で使いたくないかって? 私は、牧野富太郎が大嫌いだからである。彼は南方熊楠が高く評価されるのを、「彼は正式な論文を書いていない」として、相手にしなかったからである。牧野は、熊楠が、ずっと以前から、海外で、英語で、驚異的なグローバルな論文群を、既に、多数、発表していることを全く知らなかっただけの話に過ぎなかったのである国立国会図書館デジタルコレクションのここで当該部を視認出来る。しかし、そこでは、本文の標題「溲疏」の項目下方に、旧版で牧野が同定比定したものを、そのままに以下のようにして、北村は補注もしていない(学名が斜体でないのはママ)。

   *

 和 名 未  詳

 學 名 未  詳

 科 名 未  詳

   *

である。

 しかし、良安は附言で、明らかに時珍の言う「朝鮮枸𣏌」=「朝鮮枸杞」という、「枸杞」とは異なる外見上、似ているが、別な「クコ」の別種、或いは、「クコ」の変種・品種が日本に存在するように明記しているのである。

 然るに、例えば、名にし負う「朝鮮枸杞」の名から、韓国語の「クコ」相当のページを見たが、クコ Lycium chinense 以外の狭義の「クコ」でない種、変種・品種の記載は、一切、記載がなかった。また、「維基百科」の「枸杞屬」には、前種クコ以外に十種が挙がっているが、各個の内、独立ページがあるものの六種には、朝鮮半島を分布とする記載は認められなかった。最後に、英文のクコ属相当のページには、全世界の百一種もの種がリストされているが、同様に、独立ページがあるものを総て確認したが、前種クコ以外に、中国・朝鮮半島・日本に分布する種はなかった。これ以上、私には、やりようがない。

 而して、「本草綱目」の「朝鮮枸杞」も、良安の言う本邦の「朝鮮枸杞」も、私は、単に、

双子葉植物綱ナス目ナス科クコ属クコ Lycium chinense の見かけ上の変異個体、或いは、病的に変形した病的個体(群)

であると、私は断定するものである。因みに、東洋文庫も一切だんまりで、割注も何も、ない。

 「本草綱目」の引用は、「漢籍リポジトリ」の「木之三」「灌木類」の「溲疏」([088-57a]以下)が独立項である。以下に全文を掲げる(不審があったので、影印本で一部を補正した下線は、私が、次の注のために附した)。

   *

溲疏【本經下品】

 釋名巨骨【别錄】

 集解【别錄曰溲疏生熊耳川谷及田野故坵墟地四月采當之曰溲疏一名楊櫨一名牡荆一名空疏皮白中空時時有節子似枸杞子冬月熟赤色味甘苦末代乃無識者此非人籬援之楊櫨也恭曰溲疏形似空疏樹高丈許白皮其子八九月熟赤色似枸杞必兩兩相對味苦與空疏不同空疏即楊櫨其子為莢不似溲疏志曰溲疏枸杞雖則相似然溲疏有刺枸杞無刺以此為别頌曰溲疏亦有巨骨之名如枸杞之名地骨當亦相類方書鮮用宜細辨之機曰按李當之但言溲疏子似枸杞子不曽言樹相似馬志因其子相似遂謂樹亦相似以有刺無刺為别蘇頌又因巨骨地骨之名疑其相類殊不知枸杞未嘗無刺但小則刺多大則刺少耳本草中異物同名甚多況一骨字之同耶以此為言尤見穿鑿時珍曰汪機所斷似矣而自亦不能的指為何物也】

 氣味辛寒無毒【别錄曰苦微寒之才曰漏蘆為之使】主治皮膚中熱除

 邪氣止遺溺利水道【本經】除胃中熱下氣可作浴湯【别錄】【時珍曰按孫真人千金方治婦人下焦三十六疾承澤丸中用之】

   *

先に示した『新註校定国訳本草綱目』第九冊の当該部はここの冒頭。但し、その前に、「枸杞地骨皮」の「集解」の中に、以下の記載がある(同前。[088-50b]の六~七行目)。

   *

馬志注溲疏條云溲疏有刺枸杞無刺以此為别溲疏亦有巨骨之名如枸杞之名地骨當亦相類用之宜辨或云溲疏以高大者為别是不然也今枸杞極有高大者入藥尤神妙

   *

同じく『新註校定国訳本草綱目』第九冊の当該部はここ(左ページ後ろから五行以降)

『「本草」に、李當之《りたうし》、「溲疏《そうそ》」・「楊櫨《やうろ》」を以つて、一物《いちもつ》と爲す』これは、「漢籍リポジトリ」の「木之三」「灌木類」の、さらに後の「牡荆」([088-59b]以下)の「集解」の途中([088-60a]の六行目の途中から)に出現する(同前)。

   *

李當之藥錄言溲疏一名楊櫨一名牡荆理白中虚斷植即生按今溲疏主療與牡荆都不同形類乖異而仙方用牡

   *

同じく『新註校定国訳本草綱目』第九冊の当該部はここ(右ページ七行以降)

「李當之」中文の「Baidu 百科」によれば、三国時代の知られた医師で、著名な名医華佗の弟子。古典について殆んど知識がなかったが、神農の古い古書を研究し、特に医学に熱心であった、とある。

「楊櫨」同じく『新註校定国訳本草綱目』第九冊の当該部はここからだが、ご覧の通り、和名・学名・科名は総て『未詳』である。遂に、全く不詳の植物が出現したのである。

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