葡萄畑の葡萄作り ジユウル・ルナアル 岸田國士譯( LE VIGNERON DANS SA VIGNE 1894 Jule Renard) 戦前初版 猫
[やぶちゃん注:底本・凡例等は初回を見られたい。本篇はここ。]
猫
わたしのは鼠を食はない。そんなものを食ふ氣にはならないらしい。つかまへても、それを玩具《おもちや》にするだけである。
遊び飽きると、命を助けてやる。それから、どこかへ行つて、尻尾の輪の中にすわると、罪の無ささうな顏をして、空想に耽る。
然し、爪傷(つめきず)がもとで、鼠は死んでしまふ。
[やぶちゃん注:私のルナール初体験は中学二年の秋に読んだ明治図書中学生文庫十四の倉田清氏の「にんじん」である。「にんじん」には圧倒的な感動を覚えたのだが、同書の末に「付録」として載せられた「博物誌」の抜粋(ボナールの挿絵添えにも惹かれた。特に鼠へのペーソスとともに記憶に刻まれたのは、この「猫」であった。程無く、芥川龍之介のシニカルなアフォリズム「侏儒の言葉」(リンク先は私のブログ・カテゴリ『芥川龍之介「侏儒の言葉」(やぶちゃん合成完全版 附やぶちゃん注釈)【完】』。サイト一括版の本文のみの『「侏儒の言葉」(やぶちゃん合成完全版)』もある)に嵌まったのであった。されば、『「博物誌」ルナアル作・岸田國士譯(正規表現版・ボナール挿絵+オリジナル新補注+原文) 「猫」』は私の人生の、文学的一大転回点のスプリング・ボードであったと言ってよいのである。]
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