「神威怪異竒談」(「南路志」の「巻三十六」及び「巻三十七」)正規表現電子化注「巻三十七」 安喜土居之西妙見山
[やぶちゃん注:原書の解説や凡例・その他は初回を見られたい。今回の底本はここ。標題は「あき どゐのにし みやうけんざん」と訓じておく。]
安喜土居之西妙見山
安喜郡(あきのこほり)、土居の西に、妙見山といふ髙山(かうざん)、有(あり)。至(いたつ)て魔境(かきやう)也。
妙見菩薩の堂(だう)、有(あり)。
此(この)堂、造作(ざうさく)の度(たび)毎(ごと)、大工も、申の刻、下(さが)り[やぶちゃん注:午後四時過ぎ。]ぬれば、居(を)る事、ならず。刻限を考へ、下山する時、材木、かな屑(くづ)も、其儘(そのまま)、取散(とりちら)しおけども、翌朝、見れば、奇麗に掃除して有(ある)、とぞ。
「參詣する人、穢火(ゑくわ)を改めざれば、忽(たちまち)、怪しみ、多し。」
とぞ。
[やぶちゃん注:以上のロケーションは、現在の高知県安芸市土居の西方にある妙見山に祀られている、安芸市井ノ口に鎮座する「星神社」である(以上はグーグル・マップ・データ)。「ひなたGPS」で見ると、「妙見山」の山名を確認出来る。国土地理院図で見ると、この星神社のある所が最高標高で448メートルである。廃仏毀釈以前は、別当寺があって、「妙見菩薩の堂」もあったものであろう。グーグル・マップの「星神社」のサイド・パネルの画像を見ると、同寺神社境内に『白衣観音菩薩像の出現地』の新しい石碑が確認出来るが、これは、妙見菩薩ではない。妙見菩薩は、北極星、又は、北斗七星を神格化した仏教の天部の一つで、本来は道教由来の神格と考えられるもので、「妙見」とは「優れた神通の視力」の意で、「善悪や真理を能(よ)く見通す者」という意味であるのに対し、白衣観音は、吉祥を表わす観世音菩薩で、中世以降は「三十三観音」の一つとされ、息災延命・安産・育児などの祈願の本尊とされる。尊形は一面二臂(ひ)で、肉身は白黄色を呈し、白衣を纏う、純然たる仏教の菩薩(神)である。
「穢火」(現代仮名遣「えか」)は、「忌(い)み火(び)」と同じで、結果的には「神聖な火」で、神道で言う「斎火」(いむび)と同義で、「清浄な火」の意であるが、実は、「火」は「穢れやすいもの」とされており、神前に年の始めに神社から神聖な火種を貰ったり、神仏の祭儀に際し、特別に神聖な火種を熾(おこ)すのである。ここは、造作改修等の際に出た木屑等を、安易に工人が燃やす火や、神主・別当僧等でない参詣人個人が、燈明として安易に起こす火もまた、これ、清浄でない「穢(けが)れた火」なのである。]
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