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2024/10/16

「和漢三才圖會」植物部 卷第八十四 灌木類 接骨木

 

Niwatokozoku

 

にはとこ  續骨木

      木蒴藋

接骨木

     【和名美夜都古木

      俗云尒波止古】

ツヱ クラ モツ

 

本綱接骨木高一二𠀋許木軆輕虛無心斫枝杄之生

[やぶちゃん注:「杄」は、この場合、「揷」の異体字。]

其花葉都類蒴藋陸英水芹輩此木乃有折傷續筋骨之功

故名之

氣味【甘苦】折傷續筋骨除風痺齲齒可作浴湯

△按接骨木人家藩籬植之三四月開小白花攅生作朶

 經年者結子攅簇赤俗用此木削小杵用按積聚疝塊

 

   *

 

にはとこ  續骨木《ぞくこつぼく》

      木蒴藋《ぼくさくてき》

接骨木

     【和名、「美夜都古木《みやとこぎ》」。

      俗、云ふ、「尒波止古《にはとこ》」。】

ツヱツ クラツ モツ

 

「本綱」に曰はく、『接骨木《せつこつぼく》、高さ、一、二𠀋許《ばかり》。木の軆《てい》、輕虛にして、心《しん》、無《なし》。枝を斫《き》り、之れを杄《さ》≪せば≫、生ず。其の花・葉、都《すべ》て「蒴藋(そくづ)」・「陸英」・「水芹《すいきん》」の輩《うから》に類《るゐ》す。此の木、乃《すなは》ち、折傷≪せる≫筋・骨を續《つぐ》の功、有(あり)。故に、之れを名づく。』≪と≫。

『氣味【甘苦。】折傷≪せる≫筋・骨を續(つ)ぎ、風痺《ふうひ》を除《のぞき》、齲齒《うし》[やぶちゃん注:「虫歯のズキズキする痛みには」の意。]≪には≫、浴湯《よくたう》に作《なす》べし。』≪と≫。

△按ずるに、接骨木《にはとこ》、人家、藩-籬(まがき)の之れを植う。三、四月、小≪さき≫白花を開き、攅生《さんせい》して[やぶちゃん注:群がって生じ。]、朶《ふさ》を作る。年を經《へたる》者は、子《み》を結ぶ。攅-簇《こゞな》りて、赤し。俗、此の木用ひて、小≪さき≫杵《きね》を削《けずりいだす》。用ひて、積聚《しやくじゆ》・疝塊《せんくわい》を按《やすん》ず。

 

[やぶちゃん注:「接骨木」は、中国の漢方生剤「接骨木」の基原種である、中国北部原産の、

双子葉植物綱マツムシソウ目ガマズミ(莢蒾)科ニワトコ属ヒロハニワトコ(旧名・異名コウライニワトコ) Sambucus williamsii

を指す(「維基百科」の「接骨木」を見よ)。一方、本邦では、中国にも分布する、

ニワトコ属ニワトコ亜種ニワトコ Sambucus racemosa subsp. sieboldiana

を指す。本邦のそれは、コウライニワトコとは種小名が異なり、亜種でもあるので、別種である(東洋文庫訳では、「本草綱目」の引用本文の「接骨木」に早々と安易に『(スイカズラ科ニワトコ』とやらかして、日中で同種とやらかしてしまっている)。因みに、確かに別種である(シノニムでない)ことは、「維基百科」の「接骨木属」で、『无梗接骨木 Sambucus sieboldiana (日本和朝)』(この学名はニワトコ Sambucus racemosa subsp. sieboldiana のシノニムである)の一つ下に、『接骨木 Sambucus williamsii 』を挙げていることから、明白である。独立した「維基百科」の「接骨木」も見られたい。

 まず、ヒロハニワトコについては、しっかりした日文の記事があまりない。Katou氏のサイト「三河の植物観察」の「ニワトコ 庭常」のページにある記載が、最新の内容(学名等)なので、引用する(学名が斜体でないのはママ)。

   《引用開始》

11 Sambucus williamsii Hance コウライニワトコ 高麗庭常

  synonym Sambucus williamsii Hance var. coreana (Nakai) Nakai

  synonym Sambucus manshurica Kitag.

  synonym Sambucus coreana (Nakai) Kom. et Aliss.

  synonym Sambucus latipinna Nakai  ヒロハニワトコ  [Ylist]

 朝鮮、中国(安徽省、福建徽省、甘粛徽省、広東徽省、広西徽省、貴州徽省、河北徽省、黒竜江徽省、河南徽省、湖北徽省、湖南徽省、江蘇徽省、吉林徽省、遼寧徽省、陝西徽省、山東徽省、山西徽省、四川徽省、雲南徽省、浙徽省江)、ロシア原産。中国名は接骨木 jie gu mu。別名はトウニワトコ。中国以外のものはヒロハニワトコ(Sambucus latipinna)と分類されていたが、まとめられた。標高5001600mの山の斜面、低木地、沢沿い、道端、民家の傍に生える、葉と花序が無毛、花序にパピラがあるだけ。コウライニワトコはニワトコ(Sambucus sieboldiana)に近いが、髄が暗色で、葉の小葉が少なく、鋸歯がより明瞭で、花序が小型である。POWO(Kew)では日本を分布域に含めている。

 低木又は小高木。高さ56m。古い枝は赤褐色、狭い楕円形の皮目が目立つ。髄は帯褐色。葉は奇数羽状複葉。小葉は(1)2 3(5)(jugate)、側小葉は卵状円形~狭楕円形~長円状披針形、長さ5-15㎝×幅1.27㎝、基部はくさび形~円形、ときに心形、非対称、縁には不規則な鋸歯があり、ときに基部や中間より下に1~数個の腺のある歯をもち、先は鋭形~尖鋭形、または尾状。小葉の最下の対は小葉柄が無又は長さ約0.5㎝以下。頂小葉は卵形又は倒卵形、上面には若い時にまばらに毛があり、無毛になり、小葉柄は長さ約2㎝、基部はくさび形、先は尖鋭形又は尾状。托葉は 狭線形又は帯青色の突起に減じる。花序は頂生の集散花序からなる円錐花序、長さ511㎝×幅414㎝、花序柄があり、ときにまばらに毛があり、すぐに無毛になる。花は葉の展開と同時に現れ、密。萼筒はつぼ形、長さ約1㎜。萼片は三角状披針形、わずかに萼筒より短い。花冠は蕾では帯ピンク色、開くと白色又は帯黄色。花冠筒部は短い。花冠裂片は長円形又は狭卵状円形、長さ約2mm。雄しべは広がり、花冠裂片の長さとほぼ同長。花糸は基部でわずかに広がる。葯は黄色。子房は3室。花柱は短い。柱頭は3裂。果実は赤色、まれに青黒色又は紫黒色、卵形又はほぼ球形、直径35㎜。核は23個、卵形~楕円形、長さ2.53.5㎜、わずかにしわがある。花期は45月。果期は910月。2n=36

   《引用終了》

 次に狭義の本邦のウィキ「ニワトコ」を引く(注記号はカットした)。『別名セッコツボク[4]。山菜や民間薬に利用される』。『日本の』同種の『漢字表記である「接骨木」(ニワトコ/せっこつぼく)は、枝や幹を煎じて水あめ状になったものを、骨折の治療の際の湿布剤に用いたためといわれる。中国植物名は、「無梗接骨木(むこうせっこつぼく)」といい、ニワトコは中国で薬用に使われる接骨木の仲間であり、中国名(漢名)で接骨木といえばトウニワトコ』(⇒コウライニワトコ)『を指す』。『地方により、ヤマダズ(山たづ)、タズノキ(タヅノキ)、ダイノコンゴウ(関東地方)などの方言名がある。「山たづ」は、日本最古の歌集』「万葉集」にも『詠まれた』(二首)『呼び名で、対生の羽状複葉をツルの羽を広げた姿に見立てたもので、ツルの古名「たづ」からきているとする説がいわれている』。『日本での古名はミヤツコギ(造木)と称されており、平安時代の本草書』「本草和名」に『接骨木、和名美也都古木」と『あり、平安時代後期の歌人源俊頼の自撰歌集』「散木奇歌集」には『「春たてば 芽ぐむ垣根の みやつこ木 我こそ先に 思ひそめしか」と詠まれている。ミヤツコギの名は「宮仕う木」に由来し、紙を切って木に挟み神前に捧げた幣帛(御幣)が、大昔は木を削って作られた木幣だったものと推定され、その材料に主にニワトコが用いられたとの説がいわれている。 また』「古事記」の『「允恭天皇記」が伝える衣通王』(そとおりのみこ:「衣通姫」とも書く)『の歌に「山たづ」が歌われ、「山たづは今の造木なり」との注釈がある』。『日本では、北海道、本州、四国、九州(対馬・甑島・種子島・奄美大島を含む)に分布し、日本国外では、朝鮮半島や中国に分布する。暖地の丘陵、山麓、谷間などの、原野や山野の林縁など』、『いたるところにみられ、湿気があって日当たりのよい所に多い。古来より栽培もされていて庭にも植えられる』。『落葉広葉樹の低木。樹形は下部からよく分枝し、枝は独特な弧形を描き、高さは』二~六『メートル』『になる。幹の古い樹皮は黒褐色で厚いコルク質があり、目の粗い深いひび割れが入る。枝は太めで毛はなく、樹皮は褐灰色で皮目があり、若い枝は緑色から灰褐色で、生長とともに厚いコルク質層が発達し、縦にひび割れが生じる。枝に太くて白い髄がある。早春に花序と葉が同時に芽吹く』。『葉は対生し、奇数羽状複葉で長さ』八~三十『センチメートル』、『花のつかない枝の葉は長さ』八センチメートル『の葉柄を含めて』四十五センチメートル『に』も『なる。小葉は長さ』五~十二センチメートル、『幅』一~三・五センチメートルの『先のとがった長楕円形から広楕円形で、基部は円形か』。『円』(まる)『い』、『くさび形になり、短い小葉柄があり、縁には細鋸歯がある。花のつく枝の小葉は』二~三『対、つかない枝のものは』三~六『対となる』。『花期は春(』三~五『月)。若葉が開くとすぐに、今年枝の先端に長さ幅とも』三~十センチメートル『になる円錐花序を』出『し、淡黄白色の小さな花を多数つける。花冠は径』四~五『ミリメートル』で。五つに『深裂し、かすかに匂いがある。雄蘂は』五『個で花弁より短い。子房は鐘状で』三『室からなる』。『果期は』六~七『月。果実は長さ』三~五ミリメートル『になる球卵形の核果となり、梅雨のころに赤色から暗赤色に熟す。中に』三『個の種子が入る。果実が黄色に熟す種』(たね)『が』、『まれにあり、キミノニワトコという。果実の中には』三『個の種子があるが、成熟するのは』一、二『個で、残りは不稔となる』。『冬は枝先が枯れることが多いことから、冬芽の頂芽は発達せず、側芽は枝に対生する。頂芽は副芽を伴い』、六~八『枚の芽鱗に覆われる。花芽は大きく、広楕円形で丸みを帯び、葉芽は長卵形である。冬芽のわきにある葉痕は大きく、半円形で維管束痕が』三~五『5個』、『つく』。『実生または、挿し木で繁殖させる。定植後に、根元から側芽が多数生えるので』二、三『本を残して旧枝を剪定する』。『若葉を山菜にして食用としたり、その葉と若い茎を利尿剤に用いたり、また材を細工物にするなど、多くの効用があるため、昔から庭の周辺にも植えられた。魔除けにするところも多く、日本でも小正月の飾りや、アイヌのイナウ(御幣)などの材料にされた。樹皮や木部を風呂に入れ、入浴剤にしたり、花を黒焼にしたものや、全草を煎じて飲む伝統風習が日本や世界各地にある』。『若葉は山菜として有名で、天ぷらにして食べられる。採取時期は』三~四『月ごろが適期で、すんぐりとしたはかまの間から出る若芽を摘み取る。はかまを取り除いて天ぷらにするほか、よく茹でて水にさらし、おひたしにしたり、ごま・酢味噌・からしなどで和えた和え物にする。食味は独特の味と舌ざわりがあり、滋養強壮によいとされる。ニワトコの若葉の天ぷらは「おいしい」と評されるが、青酸配糖体を含むため』、『多食は危険である。体質や摂取量によっては下痢や嘔吐を起こす中毒例が報告されている』。『果実は焼酎に漬け、果実酒の材料にされる』。『春から夏に採取した葉を細かく切って天日乾燥させたものは生薬になり、「ニワトコ」もしくは「接骨木葉」と称して民間薬として使われる。水腫、利尿、発汗、筋骨挫傷について薬効があり、便秘、水種、浮腫を目的に、葉』を『煎じ』、『服用する用法が知られている。挫傷には茎葉』『を』『水で煎じて、患部を温罨法』(おんあんぽう)『する』。『葉や枝の黒焼きを打撲の民間薬にもした。また、古代エジプトでは』、『糖尿病の症状である多尿の治療のために、ニワトコの実や新鮮なミルクを混ぜたものが飲まれていたという記録が残されている』。『枝は夏に採取して細かく刻み』、『天日乾燥させたものが利用される。打撲、捻挫、あせも、湿疹、神経痛に、枝の乾燥品』『を布袋に入れて、浴湯料として風呂に入れて使用する方法が知られている』。『枝の髄は太く発達し、若い枝から抜き出した髄を乾燥させたものは、顕微鏡観察の標本用に、生物組織から徒手にて薄い切片を切り出すときの支持材(ピス)の材料として利用され、今日でもキノコの同定などで簡易に組織切片を得るときなどに重用されている』。以下、「下位分類」の項。

〇亜種変種オオニワトコ Sambucus racemosa subsp. sieboldiana var. major(『日本海側の多雪地帯に分布』)。

〇亜種エゾニワトコ Sambucus racemosa subsp. kamtschatica (『北海道、本州の関東地方北部以北に分布し、標高の高い場所(北海道で』二百~五百メートル、『本州で』千七百五十メートル『以上)に生育する。外国では、朝鮮中北部、中国東北部、南千島、樺太、カムチャツカに分布する。花序に毛状の突起がある』)

〇セイヨウニワトコ Sambucus nigra (『花に良い香りがあり、赤実と黒実がある』)

『ニワトコは小葉の数、形、大きさや果実の色などに変異が多く、この他に多くの品種(form)がある』とある。

 「本草綱目」の引用は、「漢籍リポジトリ」の「木之三」「灌木類」の「接骨木」([088-79a]以下)のパッチワークである。

「續骨木《ぞくこつぼく》」「維基百科」の「接骨木」で「本草綱目」初出。

「木蒴藋《ぼくさくてき》」同前で「唐本草」初出。この「蒴藋」というのは、マツムシソウ目レンプクソウ科ニワトコ属ソクズ Sambucus chinensis の漢語名である。多年草で、別名をクサニワトコ(草接骨木)と言う。日中に分布する。当該ウィキを見られたい。

「陸英」前注のソクズ相当の「維基百科」の「接骨草」に、ソクズの花をのみ、指す時の呼称として、『陆英』(=陸英)は上がっており、その初出を「神農本草經」としてある。

「水芹《すいきん》」セリ目セリ科セリ属セリ Oenanthe javanica の中文名。「維基百科」の水芹」を見よ。

「輩《うから》に類《るゐ》す」草本の種を、木本の種と同じ性質を持った同一グループとするのは、古典的博物誌にありがちであるが、そもそも草本・木本の分類自体が、実はとっくに時代遅れではあるのである。

「風痺《ふうひ》」東洋文庫訳に割注して、『(身体がだるく』、『痛みが身体のあちこちに走る症』』とある。

「浴湯《よくたう》に作《なす》べし』先の邦文のニワトコの引用にあった。

「積聚《しやくじゆ》」東洋文庫訳に割注して、『(臓腑にできるしこり)』とある。

「疝塊《せんくわい》」内蔵の病気に伴って起こる発作性・周期性の激しい腹痛を「疝痛」というが、この場合は、その痛みの中心に何らかの腫瘍があるものを言うか。]

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