「和漢三才圖會」植物部 卷第八十四 灌木類 黃楊木
つげのき
和名豆介
黃楊木 附《つけた》り いぬつけ
狗黃楊
びんからず
ハアン ヤン モツ 言不爲櫛也
本綱黃楊木生山野中人家多栽揷之枝葉攅簇上聳葉
似初生槐芽而青厚不花不實四時不凋其性難長俗說
歳長一寸遇閏則退今試之伹閏年不長耳其木堅膩作
梳剜印最良世重黃楊以其無火也用水試之沉則無火
凡取此木必以陰脢夜無一星伐之則不裂。
[やぶちゃん字注:「脢」(音「バイ・メ・マイ」)は「背中の肉・背骨の周りの肉」の意であり、意味が通らない。「陰」と「夜」を挟んで「曇った晦(くら)い夜」の意であるから、「晦」の誤字と断ずる。訓読では「晦」に代えた。]
葉【苦平】治婦人難產入達生散中用
夫木賤の女かかしらけつらす朝夕につけのを櫛やとるまなからん爲家
△按黃楊木葉似槐葉而小又似白丁花木葉而四時不
凋無花實其木心色黃白材堅剜印作櫛或爲象戲棊
子佳琉球及屋久島之產最良豆州之者次之
狗黃楊 葉比眞黃楊小厚色亦㴱綠七月結實狀大如
[やぶちゃん注:「㴱」は「深」の異体字。]
山椒青色冬熟正黒色人家多栽之四時不凋其美比
于松柏伹葉淡青無實爲眞黃楊如雌與雄然不載於
本草者中𬜻無之乎
*
つげのき
和名、「豆介《つげ》」。
黃楊木 附《つけた》り 「いぬつげ」
狗黃楊
「びんからず」
ハアン ヤン モツ 言ふ心は、櫛《くし》に爲さざればなり。
[やぶちゃん注:[やぶちゃん注:「心」は送り仮名にある。]
「本綱」に曰はく、『黃楊木《わうやうぼく》、山野の中に生《しやうず》。人家、多《おほく》。栽《うゑ》て、之れを揷《さしぎ》す。枝・葉、攅-簇《さんぞく》して[やぶちゃん注:集まり群がって。]、上《のぼ》り、聳(そび)ゆ。葉、初生の槐《えんじゆ》の芽に似て、青《あをく》、厚《あつし》。花、あらず≪して≫、實《み》のらず。四時、凋まず、其の性、長じ難《がたく》、俗說に、「歳《とし》ごとに、長《ちやうず》ること、一寸。閏《うるふ》[やぶちゃん注:旧暦の「閏月」のある「閏年」。]に遇ふ時は[やぶちゃん注:「時」は送り仮名にある。]、則ち、退《しりぞ》く[やぶちゃん注:逆に退行して低くなってしまう。]。」≪と≫。今、之れを試るに、伹《ただ》、閏年には、長ぜざるのみ≪なり≫。其の木、堅《かたく》、膩《つややか》にして、梳(くし)に作り、印に剜(ほ)りて、最《もつとも》良し。世に、「黃楊を重《おもん》ずることは、其れ、「火《くわ》」[やぶちゃん注:五行の「火」のこと。]、無きを以つてなり。」≪と≫。水を用ひて、之れを試む≪に≫、沉《しづ》む時は[やぶちゃん注:「時」は送り仮名にある。]、則ち、「無火」≪たり≫[やぶちゃん注:「火」の性がないことが判る。]。凡そ、此の木を取るに、必《かならず》、「陰-晦-夜(《く》らきよ)」を以つて、一つも、星、無きを《✕→時に》、之れを伐(き)れば、則ち、裂けず。』≪と≫。
『葉【苦、平。】婦人≪の≫難產を治す。「達生散」の中に入れて、用《もちふ》。』≪と≫。
「夫木」
賤《しづ》の女《め》が
かしらけづらず
朝夕に
つげのを櫛《ぐし》や
とるまなからん 爲家
△按ずるに、黃楊木《つげのき》の葉、「槐」の葉に似て、小さし。又、「白丁花(《はくちやう》げ)の木」の葉に似て、四時、凋まず、花・實、無し。其の木の心《しん》、色、黃白にして、材、堅く、印に剜《ほ》り、櫛に作り、或いは、象-戲《しやうぎ》の棊-子(こま)と爲して、佳なり。琉球、及び、屋久島の產、最良≪なり≫。豆州《づしう》の者、之れに次ぐ。
狗黃楊(いぬつげ) 葉、「眞-黃-楊《まつげ》」に比するに、小さく、厚く、色≪も≫亦、㴱綠《ふかみどり》≪なり≫。七月、實を結ぶ。狀《かたち》、大≪にして≫、山椒のごとく、青色≪たり≫。冬、熟して、正黒色≪たり≫。人家、多く、之れを栽う。四時、凋まず、其の美、松柏《しようはく》に比す≪べし≫。伹《ただし》、葉、淡青《あはきあを》、實、無きを「眞黃楊」と爲す。雌《めす》と雄とのごとし。然≪れども≫、「本草」[やぶちゃん注:「本草綱目」。]に載せざるは、中𬜻には、之れ、無きか。
[やぶちゃん注:東洋文庫訳では、日中ともに同一種のように割注しているが、これは誤りで、良安の附言の日本の「黃楊木」及び「眞黃楊」は、日本固有種である、
〇双子葉植物綱ツゲ目ツゲ科ツゲ属ツゲ変種ツゲ Buxus microphylla var. japonica
であるのに対し、中文の「黃楊」は、
◎同ツゲ属の別種、又は、別亜種であるタイワンアサマツゲ Buxus sinica 、又は、Buxus microphylla subsp. sinica
を指し(正式な漢字表記は「台湾朝熊黄楊」)、本邦固有種の上記「ツゲ」を指す際には、現行では「小葉黄楊」と書く。「維基百科」の「ツゲ属」相当の「黄杨属」、及び、「タイワンアサマツゲ」相当の「黄杨」を見よ。「タイワンアサマツゲ」は、後者のリンク先の「分布」では、『安徽省・広西チワン族自治区・四川省・江西省・浙江省・貴州省・甘粛省・江蘇省・広東省・山東省・湖北省・陝西省など中国本土に分布する』とあるが、邦文の信頼出来る複数の植物サイトでは、分布域を日本の沖縄・中国・台湾とする。
また、良安は「狗黃楊」を挙げているが、これは、全くの別種で、漢字表記も「犬柘植」であるところの、
●モチノキ目モチノキ科モチノキ属イヌツゲ Ilex crenata var. crenata
であるので注意が必要である。
まずは、本文記載順にするが、タイワンアサマツゲは纏まった邦文記載があまり多くないので、「三河の植物観察」の「ツゲ」の包括ページにある、「7」『タイワンアサマツゲ』を引いておくことにする。『日本(沖縄)、中国、台湾に分布する。中国名は黄杨 huang yang』。『低木又は小高木。小枝は円柱形、縦のうねがあり、灰白色。若枝は』四『稜形、有毛、節間は』三、或いは、五ミリメートルから二センチメートル。『葉柄は長さ』一~二ミリメートル。『葉身は形や大きさが変化し、広楕円形~広倒卵形~円形~倒卵形~倒卵状長楕円形~楕円状披針形~披針形、長さ』五、或いは、七ミリメートルから三・五センチメートル、『幅』三・五、或いは、五ミリメートルから二センチメートル。『革質~厚い革質、上面は光沢があり、両面が無毛又は中脈の下半部に微軟毛があり、基部は円形~楔形、先は円形~鈍形で先端が凹む~先の尖った尖鋭形、中脈は上面に盛り上がり、側脈は不明瞭、上面に小しわがある。花序は腋生、頭状花序。花序軸は』三~四ミリメートル、『有毛。苞は広卵形、長さ』二~二・五ミリメートル、『下面が±有毛。雄花は約』十『個、無柄。外花被片は卵状楕円形。内花被片は類円形、長さ』二・五~三ミリメートル、『無毛。雄しべは長さ約』四ミリメートル。『不稔の雌しべは棍棒形の子房柄をもち、先はわずかに膨れ、長さ約』二ミリメートル。『不稔の雌しべと花被片長さは約』二対三、一対一、三対二。『雌花は花被片が長さ約』三ミリメートル。『子房は花柱よりわずかに長く、無毛。花柱は太く、扁平。柱頭は倒心形、花柱の中間まで沿下する。蒴果は類球形、長さ』六~八ミリメートルから一センチメートル。『宿存性の花柱は長さ』は二~三ミリメートル、とある。
次に、ウィキの「ツゲ」を引く(注記号はカットした)。漢字表記は『黄楊、柘植、樿』だが、『別名で、ホンツゲ、アサマツゲ、コツゲなどともよばれる。主に西日本の暖かい地域に分布し、伝統的に細工物の材木として貴重とされ、高級な櫛や将棋の駒の材として知られるほか、垣根や庭木の植栽にも使われる。日本の固有変種』。『「ツゲ」と呼ばれる植物は』、狭義には、この一『変種』である Buxus microphylla var. japonica を『指すが、ツゲ属の総称としても用いる。また、庭木として用いる場合に、分類が異るモチノキ科のイヌツゲ』(後掲する)『も、しばしば「ツゲ」と呼ばれる』。『この和名「ツゲ」の語源には諸説あり、葉が次々と密になって出てくることから「次ぎ」とするもの、春から梅雨にかけて黄色みを帯びることから「梅雨黄(つゆき)」とするもの、木目が細かく詰まって丈夫であることから「強木目木(つよきめぎ)」とするものなどがある』。『ツゲは関東以西に広く分布し、いろいろな異称(方言)を持っている。イヌツゲと区別するために「ホンツゲ」、伊勢地方では朝熊山』(ここ。グーグル・マップ・データ)『に分布するので「アサマツゲ」、伊豆諸島では「ベンテンツゲ」、「ハチジョウツゲ」(八丈島)、「ミクラジマツゲ」(御蔵島)など』。『ほかにも、「サワフタギ」(兵庫県)、「ウツギ」(徳島県)、ハマクサギ(高知県)、コアカソ、イボタなどの異名がある』。『英語ではツゲを「box」といい、ツゲ一般を「common box」や「boxwood」と言う。もともとコリント人がこうした木材を使ってピュクシス(木箱)を作っていたのが語源である。特にセイヨウツゲを指して「European Box」、コーカサス地方のものを「Georgian Box」、「Caspian Box」(カスピアツゲ)、日本のものを「Japanese Box」などと呼ぶ』。『「箱」を意味する「box」も、ツゲを意味する「box」も、いずれも語源は古代ギリシアのピュクシス』(当該ウィキによれば、ラテン文字転写で『pyxis』『は、古代ギリシア・ローマ期に用いられた陶器の化粧道具入れ』であり、『つまみのある蓋つきの容器で、表面には』、『しばしば』、『結婚の様子が描かれた。ピュクシスにはギリシア語で「箱」の意味がある』とあった)『に遡ると考えられている』。『中国ではツゲ一般を「黄楊」と書くが、これは後述する別種又は別亜種のタイワンアサマツゲ Buxus sinica又はBuxus microphylla subsp. sinica にあたり、日本のツゲを特に指す場合は「小葉黄楊」と書く』。以下、「学名」の項が有意にあるが、カットする。続いて、「植物学的特徴」の項。『日本の山形県・佐渡島以西の本州、四国、九州の屋久島以北に自然分布する。自生地の北限は山形県だが、いずれも現存する自生地は限定的で、例えば、福岡県のレッドリストでは絶滅危惧II類と評価されていたり、自生地が天然記念物に指定されている場合もある』。『石灰岩地や蛇紋岩地を好み、山地の石灰岩岩地などに自生するが、人の手によって庭にも植栽される』。『常緑広葉樹の低木から小高木で、樹高は通常』一~三『メートル』、『高いもので』四メートル『ほどになるが、稀に』十メートル『まで成長するものもある。幹は直立して』十『センチメートル』『ほどの太さになる。樹皮は灰白色から淡い褐色で、成木は樹皮にうろこ状の筋が入り、滑らかである。小枝は断面がほぼ四角形になる』。『葉は対生し、葉身は倒卵形から長楕円形、やや厚みのある革質で光沢があり』、一~三・五センチメートル『程度と小ぶりで、葉先は小さくへこむ。葉柄は非常に短い。冬の葉は赤味を帯びる』。『開花時期は春(』三~四『月)。雌雄同株。枝先や葉腋から花序が出て、淡黄色の小さな花弁のない花が、葉腋から小枝の先端に束生する。花序の中央には雌花(雌蕊』一『個、萼』六『個)が』一『つあり、これをいくつかの雄花(雄蕊』四『個、萼』四『個)がとり囲んでいる。先が』三『つに割れた雌蕊には樽のような膨らみをもつ緑色の子房がある。雄蕊の先端には黄色い葯をつけている』。『果実は』三『本の花柱が合わさって子房を形成し、楕円形から倒卵形で長さ』一センチメートル『ほどの蒴果をつくり、黒く堅い種子が』二『つ入った室が』三『つできる。実の先端には花柱が残る。秋』の九~十『月に果実が熟して裂け、種を放出する』。『冬芽は葉腋につき、葉痕は楕円形で維管束痕が』一『個つく。冬芽のうち、丸くて白っぽいものは花芽で、葉芽は長楕円形で膜質の芽鱗に包まれる』。以下、「分類」の項(米倉(二〇一二年)の本邦に分布するツゲ属の分類に拠ったもの)。
〇Buxus microphylla
〇Buxus subsp. microphylla
〇チョウセンヒメツゲ Buxus var. insularis (別名「シマヒメツゲ」「タイシャクツゲ」)
〇ツゲ Buxus var. japonica(別名「アサマツゲ」「コツゲ」。本邦の固有変種タイプ種)
〇ベンテンツゲ Buxus var. kitashimae(別名「ミクラジマツゲ」「ミクラツゲ」「ハチジョウツゲ」。固有変種)
〇ヒメツゲ Buxus var. microphylla(栽培種)
〇コツゲ Buxus var. riparia (固有変種)
〇タイワンアサマツゲ Buxus subsp. sinca(前で引用した種)
〇オキナワツゲ Buxus liukiuensis(ケナシオキナワツゲ)
『岡山・広島・朝鮮半島・中国にはチョウセンヒメツゲ準絶滅危惧(NT)(環境省レッドリスト)が、伊豆諸島にはベンテンツゲ(ミクラツゲ)が、紀伊半島と四国の一部で、渓流植物として知られるコツゲが、 南西諸島から中国・台湾にはタイワンアサマツゲ絶滅危惧IA類 (CR)(環境省レッドリスト)』(中文名で「黄楊」)『が』、『それぞれ』、『分布し、栽培種であるヒメツゲが各地で利用されている』。『前述のように、御蔵島のある伊豆諸島のベンテンツゲは』、『葉がやや大きく、亜種とする分類もある』。『また、南西諸島・台湾には同属別種のオキナワツゲ絶滅危惧II類(VU)(環境省レッドリスト)(「インカンキ」「リンギ」などとも呼ばれる』『)が分布する』。『ツゲの自生地としては、福岡県の朝倉市と嘉麻市にまたがる古処山』(こしょさん:ここ。グーグル・マップ・データ)『が「古処山ツゲ原始林」』『があり、ここは』、戦後直ぐの一九二七年『に天然記念物に指定され、その後』一九五二『年』『に特別天然記念物に指定が格上げされている。指定面積は十一・七』ヘクタール。『三郡変成帯に属する古処山には、標高』六百~八百五十九メートル『の山頂付近に石灰岩があり、高度からすると』、『普通はブナ林となる環境だが、指定面積のうち』、三ヘクタール『の面積の範囲で、石灰岩の露頭に沿って純度の高いツゲ林が帯状に形成されている。林におけるツゲの割合は』八十『%から』百『%に達し、およそ』六千六百『本の個体が生育する国内最高のツゲ林とされている。なかには樹齢』千『年を超えるものもあるが、それでも高さ』十二メートル、『幹周』り『は』一・七メートル『に留まり、ツゲの特徴である成長の遅さを示している。尼川(』一九九五『年)は、「古処山ツゲ原始林」はブナの植生帯における石灰岩地にツゲ林が生育した学術上貴重な植生と説明している』。一九二七『年の天然記念物指定時には、「大部分は変種オオヒメツゲ Buxus microphylla var. arborescens Nakai で、その他に変種アサマヅケ var. japonica と変種マルバツゲ var. rotundifolia Nakai がある」と説明されていたが、これらの変種は var. japonicaにまとめられ、その後、上述のとおり、Buxus microphylla にまとめられた』。『愛知県の旧鳳来町黄柳野(つげの)地区(現新城市)の甚古山』(じんこやま)『北斜面のツゲ自生地』(「ひなたGIS」の国土地理院図のここ。山名は現地でのこの自生地附近の呼称で、南東にピークを持つ富幕山(とんまくやま)の山体の一部に当たる)『は』、一九四〇『年代にはツゲの自生地の北限と考えられていたこともあり、「黄柳野ツゲ自生地」として』、一九四四年『に天然記念物の指定を受けている。本地では、アカマツやウバメガシ等の常緑樹とともに、樹高の低いツゲが生育している。倉内』(一九九五年)『は、ツゲの北限としてよりも、本州内陸の蛇紋岩山地において、生育密度の大きいツゲとウバメガシの自生地として意義があるとしている。なお、黄柳野(つげの)の由来は、同じく本地に生育するイヌツゲである』。『ツゲの北限は、山形県酒田市(旧・平田町)の小林川沿いのものとされている。このツゲ群落は、「小林川ツゲ植物群落」として』一九九三年『に林野庁の保護林(種類は「植物群落保護林」)に設定されている』。『日本の固有変種であり、環境省のレッドリストに掲載されていないものの、自生地が限られていることなどから、各地方公共団体のレッドリストには掲載されており、その数は』二十二『自治体である。また、自生地で説明したとおり、日本国内のツゲの自生地のうち』、一『箇所が特別天然記念物に』、一『箇所が天然記念物に指定されている。また、林野庁の保護林に、ツゲを対象とした』一『箇所が設定されている』。以下、「日本人とツゲの利用」の項。『庭木によく利用される。成長に時間が掛かるツゲの材木は、木目が細かく最も緻密でかたく、道管が均一に分布する散孔材で、加工後の狂いが生じにくい。乾燥後の比重は』〇・八『で硬く、黄色みを帯びて美しい』。『こうした特徴により、古来、細工物の材料として親しまれ、印章、将棋の駒、版木、そろばんの珠、三味線のバチ、彫刻、ブローチなどの装身具、家具指物、下駄などに用いられてきた。現代ではツゲ材の将棋の駒は高級品であり、工芸品・美術品としての価値があるとみなされている。特に、堅く誤差の少なさが要求されるような物に適している。一般の印材、字母印材、彫刻材としてもっとも優秀である。製図機、測量用具などの重要な部材でもあり、かつては義歯にも使用された。版画の台木はサクラ材が主だが、人物の頭髪のような繊細な彫刻を必要とする部分』に『のみ』、『ツゲ材を埋め込んで使用することもある。かつて浮世絵の版木などにも用いられた。とりわけ』、『日本で重用されたのが櫛である。ツゲ製の櫛は藤原京や平城京跡から』、『たびたび』、『出土している』。『将棋の駒など細工品の用途では、材が淡黄褐色かつ緻密でツゲに似るタイ産のアカネ科クチナシ属のプッド Gardenia collinsiae 』『を「シャムツゲ」と称し、安価な代用品として輸入されてきた。しかしシャムツゲの品質は著しく劣る。現代では、特に関東以東ではシャムツゲが大半を占めているとされていたが、公正取引委員会は「ツゲ」ではないものを「ツゲ」と表示することに対して是正を求め、「外国産アカネ」と表示されることになった』。以下、「文学」の項だが、例示された「万葉集」からの二首と「新古今和歌集」一首、俳句例三句、花言葉はカットした。『万葉集や新古今和歌集ではツゲを詠んだ和歌がいくつか登場するが、詠まれているツゲは植物そのものを指すのではなく、櫛、そして櫛の所有者である女性への恋慕の情を表現するために用いられている』。以下、「ツゲにまつわる風習」の項。『日本では、特に鹿児島・薩摩地方や御蔵島産のツゲが有名である。鹿児島の旧習では、女の子が生まれるとツゲの木を植える。娘が年頃になる頃には、ツゲの木も成長しており、ツゲの木を切って売り、嫁入り道具を揃える。このため「嫁を探すならツゲの木を探せ」という言い回しがある。また、「薩摩つげ櫛」は、鹿児島県の伝統工芸品に指定されている。高級品とされるツゲ櫛は、使うほど艶が出るといわれ、昔は母から娘へと受け継がれた』。『西洋ではチェスの駒(白)に用いられた。黒は黒檀を使った』。『ヨーロッパのツゲは』、普通、『セイヨウツゲ』( Buxus sempervirens )『を指す。西洋では古来、ツゲは葬礼と関わりがあり、墓地にツゲの木を植える。葬儀では棺と一緒にツゲの枝を埋葬する。ワーズワースは』十九『世紀のイングランド北部の葬儀の様子を伝えており、葬儀の参列者は』一『本づつツゲの枝を持ち、墓穴に投げ入れるという風習があった』。『一方、日本と同じように、ツゲは細工物、彫刻などに使われ、古代ギリシャではピュクシス(化粧箱)がつくられた。印章にも用いられたほか、チェスの駒、弦楽器、バグパイプなどに利用された。現代では、こうした西洋楽器の修理・修復にも日本のツゲが用いられている』。「園芸」の項。『ツゲは背丈が低く、枝や葉が重なり合うように密になるので、垣根や庭木に使われる。西洋庭園では庭木や植え込み、花壇の縁取りに使われる。特にこの用途のために矮小化されたヒメツゲ(別名クサツゲ) Buxus microphylla var. microphylla は高さ』一メートル『ほどにしか成長せず、葉も一回り小さい。ヒメツゲは園芸、盆栽などにも愛好されるが、自生地は不明で、人工的に栽培されたものだけが知られている』。『このほか、アフリカから西アジアを原産とする小型の種であるセイヨウツゲ B. sempervirens『も庭園などで垣根に用いられ、形状や斑などの外見で多くの品種が出回っている』。『日本では鹿児島県などで工芸品材料の高級材木としてツゲの栽培が行なわれている。しかし、農地(畑)から山林に地目変更することができる木材の中にツゲが含まれておらず、ツゲ林は「畑」として課税されている』とある。
最後にウィキの「イヌツゲ」を引いておく(注記号はカットした)。『犬柘植、学名』『 Ilex crenata var. crenata 』『は』モチノキ目 Aquifolialesモチノキ科 Aquifoliaceae『の常緑小高木。山地に生え、よく植栽にもされる。葉は小形で実は黒い』。『日本では北海道の一部、本州、四国、九州に分布し、日本国外では韓国の済州島から知られる。山地に自生する』とあるのだが、「維基百科」の「齿叶冬青」を見ると、別名「日本冬青」とし、学名を Ilex crenata としているが、これは、このイヌツゲIlex crenata var. crenata のシノニムである。しかもその解説には、『日本、ヨーロッパ、アメリカ、台湾、中国大陸東部に分布』するとある。『常緑広葉樹の低木から時に高木になり、高さは』通常、二~三『メートル』『であるが』、十五メートル『に達する場合もある。枝は灰褐色で、ほぼ滑らかで大きな裂け目やや割れ目はない。新しい樹皮は皮目が目立つ。よく分岐し、一年枝は』、『はじめ』、『緑色で短毛がある』。『葉は互生し』、一・五~三『センチメートル』『の小さな楕円形で、厚みがある革質でのっぺりとしたつやがある。葉縁には丸い鋸歯がある』。『花期は』六~七『月頃で、雌雄異株である。葉腋に白い小さな花を咲かせる。果実は秋に黒く熟し、径』六~七『ミリメートル』『ほどある』。『冬芽は小さな円錐形で芽鱗に包まれて先端が尖り、枝先や葉の付け根につく。葉痕は半円形で維管束痕が』一『個』、『つき、両肩に托葉痕がある』。『他に、押し葉標本にして乾燥させると』、『葉が黒くなる、という』採取試料『での同定には役に立たない特徴もある』。『名前に「ツゲ」が付くが、ツゲ(ツゲ科)とは科が異なり、全くの別植物である。ツゲは葉を対生するが、イヌツゲは互生である点で識別できる』。『変異が多く、品種として名付けられているものにコバノイヌツゲ f. microphylla 、オオバイヌツゲ f. latifolia があり、それぞれ名前通りの特徴である。マメツゲについては後述する』。『園芸品種としてキンメツゲがある』。『よりはっきりとしたものとしては以下のようなものがある』。
〇ハイイヌツゲ Ilex crenata var. paludosa (『本州から北海道の寒地の湿地に生え、茎の基部が這う』)
〇ツクシイヌツゲ Ilex crenata subsp. fukasawana (『葉がやや大きくて薄く、やや細長く、枝に稜がある。四国と九州南部、伊豆諸島と中国に分布』)
『同属には他にもあるが、多くは』、『より葉が大きく、赤い実のなるもので、似たものは少ない。やや似ているのは九州南部から琉球列島と台湾に分布するムッチャガラ』Ilex mutchagara 『である。より枝が細く葉も長く、全体にすんなりした姿をしている。
〇変種マメイヌツゲ学名 I. Ilex crenata f. bullata(単に「マメツゲ」とも呼称する。『葉の表側が』膨らんで『反り返るもので、園芸用に栽培される。丸く刈り込まれたものが』、『よく見かけられる』)
以下、イヌツゲの「利用」の項。『高木であるが』、『刈り込みに強く、よく生け垣や庭木、道路緑化など植え込みにふつうに使われる。材は細工物などに使われる。モチノキ同様』、『樹皮から』、『鳥もち』(黐)『がとれ、モチノキから得たものがシロモチやホンモチと呼ぶのに対し、イヌツゲから得たものをアオモチという』。『また』、烏賊籠漁に『おいて』、『利用され、カゴにイヌツゲの枝葉を結びつけて海に入れることで、イカ(コウイカ)』コウイカ目コウイカ科コウイカ属コウイカ Sepia (Platysepia) esculenta『が枝葉に卵を産みつけにくる。そのため、福岡県新宮町相島などでのコウイカ漁においてよく利用されており、イヌツゲのことを通称「イカシバ」と呼んでいる』とある。
「本草綱目」の引用は、「漢籍リポジトリ」の「木之三」「灌木類」の「黄楊木」([088-76a]以下。非常に短い)のパッチワークである。
「びんからず」「跡見群芳譜」の「樹木譜」の「いぬつげ」に、『小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1806)32に、柞木は「イヌツゲ ヤドメ加州越州 ヨメガサラ ケヅラ江州 カシラケヅリ カシラケヅラ共同上 ガニノス播州 コメゴメ紀州、同名多シ ハマツゲ筑前 ビンカゞリ同上 ビンカゝ佐州 ビンカゝズ信州 ビンカラズ三才図絵」(☜四異名に注目。「ビンカラズ」は本書出典)『メハリギ土州 カシラツカミ同上 ネヂノキ」と。』あった。
「槐《えんじゆ》」バラ亜綱マメ目マメ科マメ亜科エンジュ属エンジュ Styphnolobium japonicum 。先行する「槐」を見よ。
「達生散」個人ブログ「日本漢方の初歩と自然の日記2」の「達生散 上田山澤 切要方義」に、『達生散』『姙娠八九个月に之を内服し人をして産し易からしむ』とあり、『大伏皮 大腹皮 原本三錢今用二錢』・『人參』・『陳皮』・『紫蘇 各五分』、『白芍藥』・『白朮』・『當歸 各一錢』、『炙甘草 二錢』。『右細切作一服』とある。
「夫木」「賤《しづ》の女《め》がかしらけづらず朝夕につげのを櫛《ぐし》やとるまなからん」「爲家」既注の「夫木和歌抄」に載る藤原為家の一首で、「卷二十九 雜十一」に所収する。「日文研」の「和歌データベース」で確認した(同サイトの通し番号で「14072」)。
「白丁花(《はくちやう》げ)の木」本巻巻末から一つ前に立項する。国立国会図書館デジタルコレクションの中近堂版の当該部を示しておく。そこで考証するが、リンドウ目アカネ科アカネ亜科ヤイトバナ連ハクチョウゲ属ハクチョウゲ Serissa japonica であろう。当該ウィキの葉の画像を見るに、ウィキの「ツゲ」葉の画像と比べると、ちっとは、似ている時期もあるようだ。
『「本草」に載せざるは、中𬜻には、之れ、無きか』前掲通り、中国にも植生する。但し、今のところは、「本草綱目」に、載るか、載らないかは、判らない。「維基百科」の同種のページでは、現行では標題の中文名には「齿叶冬青」とあり、別名に『波缘冬青』・『钝齿冬青』・『圆齿冬青』・『假黄杨』とあるが、例えば、先行する「冬青」には、これらに似た名を見出せない。判明したら、追記する。]
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