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2024/10/22

「和漢三才圖會」植物部 卷第八十四 灌木類 粉團花

 

Kodemari

 

てまり   綉毬  繡毬

      玉繡花

粉團花 【天末利】

 

 

遵成八牋及畫譜云有二種 麻葉花開小而色𨕙紫者

[やぶちゃん字注:「遵成八牋」の書名は「遵生八牋」の誤りであるので、訓読では訂した。「𨕙」は「邊」の異体字。]

爲最 白粉團卽綉毬也宜種牡丹臺𠙚與牡丹同開爲

襯色甚佳俱用八仙花種於盆內削去半𨕙架起就接

[やぶちゃん注:「起」は「己」が「夬」となっているが、このような異体字は見当たらないので、「起」とした。]

三才圖會云繡毬花甚繁簇成如毬故以名用八仙花接

故枝昜生。

△按粉團花木高五七尺葉似箱根楊櫨而團皺文四月

[やぶちゃん字注:「櫨」は、底本では、(つくり)が「恵」の上部のような字の下に「思」の字が配されたものであるが、このような異体字は見当たらないので、正字で示した。]

 開花初淡青色後正白小花攅簇團二三寸如毬可分

 種可揷枝未見接成者也紫陽花亦名紫綉毬與此不

 同【紫陽花 草之屬 粉團花 木屬】

 

   *

 

てまり   綉毬《しうきう》  繡毬《しうきう》

      玉繡花《ぎよくしうくわ》

粉團花 【「天末利《てまり》」。】

 

 

「遵生八牋《じゆんせいはつせん》」、及び、「畫譜」に云はく、『二種、有り。≪一種、≫「麻葉花《まえふくわ》」は、開くこと、小《ちいさく》して、色、𨕙《はし》、紫なる者、最≪上≫と爲す。』≪一種、≫『「白粉團《はくふんだん》」は、卽ち、「綉毬」なり。宜《よろしく》、「牡丹《ぼたん》」の臺《だい》[やぶちゃん注:「うてな」ではなく、台地(専用に築き上げた台型の地面)の意である。]の𠙚に種《う》ふべし。「牡丹」と同《おなじ》く開《ひらき》、襯色《はだぎいろ》[やぶちゃん注:肌着色。綺麗な白色であろう。]と爲《な》して、甚《はなはだ》、佳なり。俱に、「八仙花」を用《もちひ》て、盆の內に種《うゑ》て、削去《けづりさ》り、半𨕙《はんえん》[やぶちゃん注:幹の「片方」。]を架-起《かけおこ》して、就-接《つ》ぐ。』≪と≫。

「三才圖會」に云はく、『繡毬花、甚《はなはだ》、繁《しげ》く、簇-成《むらがりなり》、毬(てまり)のごとし。故、以つて名づく。「八仙花」を用ひて、故枝《ふるえだ》に接(つ)げば、生《しやうじ》昜《やすし》。』≪と≫。

△按ずるに、粉團花は、木の高さ、五、七尺。葉、「箱根楊櫨(《はこね》うつぎ)」に似て、團《まろ》く、皺文《しはもん》あり。四月、花を開く。初《はじめ》は、淡青色、後《のち》に正白≪たり≫。小《ちさ》き花、攅-簇(こゞな)りて[やぶちゃん注:小さな花が群生して。]、團《まろ》さ、二、三寸。毬(てまり)のごとし。分《わ》け種《うう》べし。枝を揷《さ》すべし。未だ接ぎ成《なす》者、見ざるなり。紫陽花(あぢさいのはな)も亦、「紫綉毬」と名づく≪も≫、此れと同じからず【「紫陽花」は、「草」の屬。「粉團花」は、「木」の屬≪なり≫。】。

 

[やぶちゃん注:この「粉團花」に限っては、日中ともに、

双子葉植物綱キク亜綱マツムシソウ目レンプクソウ科ガマズミ属ヤブデマリ変種 ヤブデマリ Viburnum plicatum var. tomentosum

これは、前項「椐」と同種となるので、そちらの私の注を参照されたいが、しかし、良安の図は、比較するに、全く異なっている。されば、良安が比定した「粉團花」は、恐らく、

バラ目バラ科シモツケ亜科シモツケ属コデマリ Spiraea cantoniensis

と考えられる。当該ウィキを引く(注記号はカットした)。『コデマリ』の漢字表記は、『小手毬』『別名、スズカケ。中国名は麻葉繡球。中国(中南部)原産で、日本では帰化植物』である(渡来時期は諸説あるが、少なくとも江戸時代より以前に渡来していることは明らかである)。『庭や庭園に植えられる』(全体画像)。『落葉低木で、高さは』一・五メートル『になる。幹は叢生し、枝は細く弓なりに枝垂れる。樹皮は灰褐色で皮目があり、枝は表皮が剥がれやすい。生長すると縦に筋ができる。若い枝は暗紅色で無毛である。葉は互生し、葉先は鋭頭で、形はひし状狭卵形になる』。『花期は春(』四~五『月)。白の小花を花序に集団で咲かせる。この花序は小さな手毬のように見え、これが名前の由来となっている。果実は散房状につき、果柄は下部が長い。果序は冬でも残ることがある。冬芽は卵形で褐色、芽鱗は縁に毛があり多数(』十二~十五『枚)が重なる。側芽が枝に互生する。葉痕は半円形で突き出し、維管束痕が』三『個』、『つく』。『日本では、よく庭木として植えられている』。『変種に八重咲きのヤエコデマリ』(Spiraea cantoniensis f. plena )『がある』。『一重の花(普通種)』の画像、及び、『八重の花(変種)』の画像。「他科の名前の似た種」項に、『オオデマリ』(キク亜綱マツムシソウ目レンプクソウ科ガマズミ属ヤブデマリ変種オオデマリViburnum  plicatum var. plicatum f. plicatum )『・ヤブデマリという名前が似ている植物があるが、これらはスイカズラ科』Caprifoliaceae『で』あって、『本種と類縁ではない』と注意喚起されてある。但し、困ったことに、この次の次の項が「小粉花團花」で、良安の解説だけで記されているのである。そこで、また、一応、考証しなくてはならない。

「遵生八牋《じゆんせいはつせん》」(じゅんせいはっせん)は、明の高濂(こうれん)の著になる随筆。全二十巻。万暦 一九(一五九一) 年の自序がある。日常生活の修養・養生に関する万端のことが述べられ、また、歴代隠逸者百人の事跡が記されており、文人の趣味生活に関する基礎的な文献とされている(「ブリタニカ国際大百科事典」に拠った)。引用は、「漢籍リポジトリ」の『欽定四庫全書』の同書の「卷十六」の「燕間清賞牋下」のガイド・ナンバー[016-8b]以下の「粉團花二種」のパートからである(多少、手を入れた)。

   *

  粉團花二種

麻葉花開小而色邊紫者爲最其白粉團卽繡毬花也宜種牡丹臺處與牡丹同開用為襯色甚佳俱用八僊花種於盆内削去半邊架起就接

   *

「畫譜」既出既注だが、再掲すると、東洋文庫の巻末の「書名注」によれば、『七巻。撰者不詳。内容は『唐六如画譜』『五言唐詩画譜』『六言唐詩画譜』『七言唐詩画譜』『木本花譜』『草木花譜』『扇譜』それぞれ各一巻より成っている』とあった。こちらは原本がネット上では見られない。

「麻葉花《まえふくわ》」これは、「紫なる者」とあることから、コデマリとは縁も所縁もない、キク亜綱キク目キク科キク亜科シオン属ミヤマヨメナ Aster savatieri  園芸品種 Miyamayomena savatier (ミヤマヨメナと同学名とする説もある。その場合は、Aster savatier Miyamayomenaとなるか)である。

「綉毬」ここで引用の不審部分が明確に判る。良安の指摘が大当たりなのである! これは、中国で、ミズキ目アジサイ科アジサイ属アジサイ節アジサイ亜節アジサイ Hydrangea macrophylla の別名である。以下に出る「八仙花」もアジサイの異名である。「維基百科」の同種の「球花」を見よ。則ち、「遵生八牋」と「畫譜」にあるのは、「二種」というのには、コデマリは、含まれていないと断定してよいのである。

「牡丹《ぼたん》」ユキノシタ目ボタン科ボタン属ボタン Paeonia suffruticosa 

『「三才圖會」に云はく、『繡毬花……』東京大学の「三才図会データベース」で、当該画像をダウンロードし、当該「繡毬花」のみをトリミングして、画像の向きを微修正した上、汚損と判断したものを清拭したものを以下に示す。これは、明らかにアジサイである。

 

Sansaizuesyukyuuka

 

「箱根楊櫨(《はこね》うつぎ)」マツムシソウ目スイカズラ科タニウツギ属ハコネウツギ Weigela coraeensis 詳しくは当該ウィキを見られたいが、漢字表記は『箱根空木』で、『別名でベニウツギ』・『ゲンペイウツギ』『ともよばれる。ゲンペイは源平で、すなわち花の色が』、初め『白色だが』、後に『紅色になることから』、『そう呼ばれる』。『標準和名は、箱根に多いとして付けられた名であるが、箱根に限らず』、『日本列島の太平洋側に自生している』。『ウツギは漢字で卯木あるいは空木と書くが、卯木は卯月(陰暦』四『月、陽暦』五『月)に咲くからといわれ、空木は小枝が中空なのでその名がついたものである』とあった。

『「紫陽花」は、「草」の屬。「粉團花」は、「木」の屬≪なり≫』これは、現代の植物学では誤り。両者は、ともに落葉低木の一種である。まあ、最近では、この木本・草本の分類自体が確然たる分類群としては流行らなくなっているけれども。]

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