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2024/10/05

「和漢三才圖會」植物部 卷第八十四 灌木類 蜀茶

 

Tyanoki_20241005061101

 

からつばき

       今云加良豆波木

蜀茶

       蜀今四川之地

       出於此者皆佳

       如蜀椒蜀葵皆

       佳種也

 

五雜組云閩中有蜀茶一種足敵牡丹其樹似山茶而大

高者𠀋餘花大亦如牡丹而色皆正紅其開以二三月照

耀園林所恨者香稍不及耳

△按倭有唐海石榴者樹相似而葉狹長色淡不澤葉紋

 縱橫細似甃狀其花重辨大而正紅如牡丹所謂蜀茶

 是也伹枝朶柔靭葉亦不多而大木希也

凡本草綱目山茶花與海石榴不分別相混註之矣二物

 雖爲同類葉花之厚薄大異凡子生者皆單葉名山椿

 故採枝接之或六月揷於陰地則活

 

   *

 

からつばき

       今、云ふ、「加良豆波木」。

蜀茶

       「蜀」、今の四川の地≪にて≫、

       此《ここ》に出《いづる》者、皆、

       佳《よ》し。「蜀椒《しよくしせう》」

       ・「蜀葵《しよくき》」、皆、佳《よき》

       種なり。

 

「五雜組」に云はく、『閩中《びんちゆう》に、蜀茶、有《あり》。一種、「牡丹」に敵《てき》≪するに≫足《たる》。其の樹、「山茶《さんさ》」に似て、大≪にして≫、高き者、𠀋餘《あまり》。花の大いさも、亦、牡丹のごとして、色、皆、正紅。其れ、開《ひらく》こと、二、三月を以つてす。園林《ゑんりん》を照耀《てりかがやかす》。恨む所は、香《かをり》、稍《やや》、及ばざるのみ。』≪と≫。

△按ずるに、倭、「唐海石榴(《から》つばき)」と云ふ者[やぶちゃん注:「云」は送り仮名にある。]、有り。樹、相似《あひに》て、葉、狹長《さなが》、色、淡《あはく》、≪光≫澤、≪あら≫ず。葉≪の≫紋、縱橫《たてよこ》、細《さい》にして、甃(いしだゝみ)≪の≫狀《かたち》に似たり。其の花、重辨《ぢゆうべん》≪にして≫大《だい》≪にて≫、正紅。牡丹のごとし。所謂る、「蜀茶」、是れなり。伹《ただし》、枝・朶《はなぶさ》、柔かに、靭(すな)へ、葉も亦、多からずして、大木、希れなり。

凡そ、「本草綱目」に、「山茶花(さゞんくは[やぶちゃん注:ママ。])」と「海石榴(つばき)」を分別せずして、相混《あひこん》じて、之れを註す。二物、同類爲《た》りと雖も、葉・花の厚薄《こうはく》、大《おほい》に異《い》なり。凡そ、子《たね》≪より≫生(は)へ≪る≫者は、皆、單葉《ひとへ》にして、「山椿《やまつばき》」と名づく。故、枝を採りて、之れを接《つ》ぐ。或いは、六月、陰地《かげのち》に揷(さ)せ≪ば≫、則ち、活《かつ》≪す≫。

 

[やぶちゃん注:この「蜀茶」というのは、いろいろと日中の記事を見るに、通常の茶とは異なる特殊な種の名前ではなく、現在の四川地方で、茶のある品種を、特別な方法で製した茶を指すことが判った。最初に見出したのは、販売店の作製するサイト「中国茶の世界(真如禅意精品流通)」の「■唐・宋茶詩」で、私の好きな白居易の茶を詠み込んだ「外寄新蜀茶」と別な三篇の詩句を引用し、「蜀茶」について、『蜀は現在の四川。蜀茶は四川蒙山茶を差します。若返りの効能があると言われていたので、古くから珍重されていました』と記されてあったので、決定的であった。同じ詩を掲げておられるJun氏のブログ「船橋市茶文化資料室」の「蜀茶~蒙頂黄小茶」には、四川省雅安市蒙頂山(同地区にある「蒙山茶史博物館」をポイントした)産の当該茶葉の写真があった。次いで、「維基百科」の「黄茶」を見たところ、「分類」の三番目に「黄芽茶」があり、その二番目に『四川の名山である蒙黄芽』の名が挙がっていた。さらに、そこにリンクがあった「蒙頂黄芽」(原題は『蒙黄芽』)には、それは『蒙頂山で生産される』もので、『形状は美しい平たい蕾(つぼみ)型をした、黄色を呈した御茶であり、蕾は均一で、微毛が多く、色は鮮やかな黄色』であり、『蒙頂山には多くの品種がある有名なお茶の産地で、中華民国初期には、主にここで黄芽が栽培され、「蒙頂黄芽」は「蒙頂茶」の代表となった』とあった。最後にウィキの「黄茶」があったので、それを引用しておく(注記号はカットした)。『黄茶(きちゃ、ホァンチャ/ファンチャ)は中国茶の一種』。『黄茶は一般的には弱後発酵茶(軽度の発酵を行ったお茶)として説明される事が多い。ただし茶業における「発酵」は酵素による酸化を指し、生化学的な意味での「発酵」ではない』。『一方、茶類の分類を定義を定めた「ISO 20715:2023 Tea — Classification of tea types」では』、『黄茶を製法の観点から以下のように定義している』。

tea (3.2) derived solely and exclusively, and produced by acceptable processes, notably enzyme inactivation, rolling/shaping, yellowing and drying, from the bud or bud and the tender shoots of varieties of the species Camellia sinensis (L.) O. Kuntze, known to be suitable for making tea for consumption as a beverage.

『(試訳)Camellia sinensis (L.) O. Kuntze—飲料として消費される茶を作るのに適していることが知られているの変種の芽もしくは芽と柔らかい苗条から、容認できる工程、とりわけ酵素の不活性化、揉捻/成形、悶黄、および乾燥によって唯一かつ排他的に得られ、製造された茶(茶の定義は3.2章を参照)。

  —ISO 20715:2023 Tea — Classification of tea types』。

『通常の中国緑茶とは異なる加熱処理を行うことと、その後牛皮紙に包み悶黄と呼ばれる熟成工程を経て作られることが』、『製造工程における特徴である。黄茶の加熱処理は低い温度から始まり、徐々に温度を上げ、その後徐々に温度を下げる。この処理法によって、茶葉の持つ酵素による酸化発酵が起こる。中国緑茶の場合、最初から高温に熱した釜に茶葉を投入するため、上記の酸化発酵は(一部、萎凋』(いちゅう)『を施す緑茶はあるが)基本的には起こらない。黒茶以外で発酵と呼ばれる青茶は、施される工程と発酵の度合いこそ違えど、酵素による酸化発による酵茶であることは共通している。また、黒茶以外で論ずると、一部の緑茶で萎凋を施すことを』勘案『すれば、この黄茶とは発酵茶の中では唯一萎凋を施さない種類といえる』。『工程で中途半端に酸化発酵した茶葉は、次に悶黄と呼ばれる黄茶独特の熟成工程を経る。この悶黄と呼ばれる工程、微生物による発酵という俗説があるが、これは間違いである。悶黄には微生物は一切関与しない。高湿度高温の環境下茶葉内のポリフェノールを中心とする成分が非酵素的に酸化される工程である。ポリフェノールおよび葉緑素(クロロフィル)は酸化されることで、緑から透明及び黄色へと変色する。これにより茶葉と水色がうっすらとした黄色になるため黄茶と呼ばれる』。『代表的な黄茶として君山銀針、霍山黄芽、蒙頂黄芽』(☜)『などが挙げられる。黄茶は清朝皇帝も愛飲したといわれ、中国茶の中でももっとも希少価値が高』く、百『グラム』一『万円を超えるものも決して珍しくはない』とあった。……と……ここで、二〇〇〇年に、妻が南京大学に日本語教師として一年勤めた際、訪ねた時、立ち寄った上海の茶葉店で、目ン玉が飛び出す高価な黄色い茶葉を見たのを、今更に思い出したわ……。

 なお、良安が言っている「唐海石榴(《から》つばき)」は、

ツツジ目ツバキ科ツバキ連ツバキ属トウツバキ Camellia reticulata

で、ちゃいますなぁ。同種は、M.Ohtake氏のサイト「四季の山野草」の「トウツバキ」によれば、『中国雲南省に自生する常緑高木。唐時代から観賞用に栽培され、園芸種が多い。日本の自生ツバキのヤブツバキ、台湾のタイワンヤマツバキ』( Camellia hozanensis )『に近い仲間』とあった。

「蜀椒《しよくしせう》」双子葉植物綱ムクロジ目ミカン科サンショウ Zanthoxylum piperitum の果皮が「花椒」「蜀椒」と呼ばれて健胃・鎮痛・駆虫作用を持つ。日本薬局方ではサンショウ Zanthoxylum piperitum及び同属植物の成熟した果皮で種子を出来るだけ除去したものを生薬山椒としている。

「蜀葵《しよくき》」アオイ亜科タチアオイ属タチアオイ Althaea rosea の中文名(「維基百科」を見よ)にして、本邦での同種の古名。

「五雜組」既出既注。以下は「卷十」の「物部二」の一節。「維基文庫」の電子化されたここにあるものを参考に、段落ごと、そのまま示しておく。

   *

閩中有蜀茶一種,足敵牡丹。其樹似山茶而大,高者丈餘,花大亦如牡丹,而色皆正紅。其開以二三月,照耀園林,至不可正視,所恨者香稍不及耳。然牡丹香亦太濃,故不免有富貴相。蜀茶色亦太艷,政似華清宮肥婢,不及昭陽掌上舞人也。

   *

「閩」現在の福建省を中心とした広域の地方旧名。

「牡丹」ユキノシタ目ボタン科ボタン属ボタン Paeonia suffruticosa

『凡そ、「本草綱目」に、「山茶花(さゞんくは[やぶちゃん注:ママ。])」と「海石榴(つばき)」を分別せずして、相混《あひこん》じて、之れを註す。二物、同類爲《た》りと雖も、葉・花の厚薄《こうはく》、大《おほい》に異《い》なり。凡そ、子《たね》≪より≫生(は)へ≪る≫者は、皆、單葉《ひとへ》にして、「山椿《やまつばき》」『凡そ、「本草綱目」に、「山茶花(さゞんくは)」と「海石榴(つばき)」を分別せずして、相混《あひこん》じて、之れを註す。二物、同類爲《た》りと雖も、葉・花の厚薄《こうはく》、大《おほい》に異《い》なり。』東洋文庫の後注には、『良安は山茶花を「サザンカ」として「ツバキ」と区別しているが、『新註校定国訳本草綱目』(春陽堂、昭和五十年)や『日本中国植物名比較対照辞典』(東方書店、一九八八)では、『本草綱目』と同様、中国の山茶は日本の「ツバキ」に当るとしている。』とある。しかし、少なくとも、

「新註校定国訳本草綱目」第九冊の「山茶」の牧野富太郎(旧版)と北村四郎によるツバキ Camellia japonica の種同定は――これ――トンデモハップンあらまっちゃんで臍(べそ)の宙返り級の――大ハズレ誤比定同定――である

と言わざるを得ない。いやさ、国立国会図書館デジタルコレクションの当該部を御覧な(リンク先は標題のみ。次のページが、全本文)。標題に『和 名 つばき』『學 名 Camellia japonica L.』『科 名 つばき科(山茶科)』とある。さあて、お立ち合い! 「釋名」を見んさい! 時珍曰く、その葉は茗に類し、又、飮にもなる。故に「茶」なる名を呼ばれるのだ。』(「時珍」の太字は原本では傍点「○」)とあるぜ? 「茗」とは音「メイ・ミヤウ(ミョウ)」で、これ、「遅く採った茶の芽」を「茗」と呼ぶんだ! 本邦のツバキを語るのに、いの一番に――飲用に供する――と言うバカがどこにいる? 以下、植物名を見ろよ! 『海榴茶』・『石榴茶』・『躑躅茶(ていしよくちや)』・『官粉茶』(これは多分、「宮粉茶」が正しい)・『串珠茶(くわんじゆちや)』・『南山茶』とあるぜ? ツバキ類の花を愛でるなら、何故、一つも「~花」になっていなくて、一律、「~茶」なのよ? 極め付きは最後だ。『周憲王の救衆本草には『山茶は嫩葉』(わかば)『を𤉬熟(てふじゆく)』(「𤉬」は「煠」(「焼く・炒める・茹でる」の意)の異体字)『し、水で淘』(よなぎ:水で洗って不純物を選り分けて除去する)『つて食へる。また蒸し晒して飲にも作れる』ときたもんだ! このどこが、美しい花を愛でる「ツバキ」の説明なんだヨッツ!?! これは立派なツツジ目ツバキ科ツバキ属チャノキ Camellia sinensis だべ!! 牧野「博士」先生、椿(つばき)の葉っぱで作ったお茶を、どうゾ!!!

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