「和漢三才圖會」植物部 卷第八十四 灌木類 伏牛花
ふくぎうくは 隔虎刺花
伏牛花
本綱伏牛花生蜀地川澤中葉青細似黃蘗葉而不光莖
亦有刺開花淡黃色作穗佀杏花而小
氣味【苦甘】治風溼四肢拘攣骨肉疼痛頭痛五痔下血
[やぶちゃん字注:「ふくぎうくは」はママ。「溼」は「濕」の異体字。]
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ふくぎうくは 隔虎刺花《かくこしくわ》
伏牛花
「本綱」に曰はく、『伏牛花は、蜀[やぶちゃん注:現在の四川省。]の地、川澤《かはさは》の中に生ず。葉、青く、細《おまか》にして「黃蘗《わうばく》」の葉に似れども、光らず。莖も亦、刺《とげ》、有り。開花して、淡黃色にして、穗を作る。「杏《あんず》」の花に佀《に》て、小《ちいさ》し。』≪と≫。
『氣味【苦、甘。】風溼《ふうしつ》・四肢≪の≫拘攣《ひきつり》・骨肉≪の≫疼痛・頭痛・五痔≪の≫下血を治す。』≪と≫。
[やぶちゃん注:「伏牛花(ふくぎうくわ)」は日中ともに、
双子葉植物綱キク亜綱アカネ目アカネ科アリドオシ属アリドオシ変種アリドオシ Damnacanthus indicus var. indicus
である。「維基百科」は「虎刺」であるが、本文に別名を「伏牛花」とする。当該ウィキを引く(注記号はカットした)。漢字表記『蟻通』(歴史的仮名遣は「ありどほし」)で、この『語源には』二『説ある』。①『とげが細長く、アリでも刺し貫くということから』、②『とげが多数あり、アリのような小さい虫でないと通り抜けられないということから』というものである。『別名を一両(イチリョウ)、タマゴバアリドオシ』(卵葉蟻通)『ともいう。中国名表記は、「虎刺」(刺虎、伏牛花、繡花針)』。『日本、朝鮮半島南部、東南アジアからインド東部まで分布する。日本では、本州(関東地方以西)、四国、九州、沖縄に分布する。山地のやや乾いた薄暗い林下に生育する』。『同属はジュズネノキ』(「数珠根の木」。Damnacanthus macrophyllus )『など、日本から東南アジア周辺に数種が分布する』。『常緑広葉樹の低木で、高さは』二十~六十『センチメートル』。『主茎はまっすぐに伸びるが、側枝はよく二叉分枝しながら横に広がる。若い枝には短い剛毛が密生する。葉は対生し、長さ』一~二・五センチメートル『の卵円形から卵形で、質は固く表面に光沢ある。葉腋に』一『対の細長い長さ』一~二センチメートル『の鋭い棘がある。葉が枝から水平に広がり、それに対して棘は垂直に伸びる』。『花期は』五『月ごろ。葉腋に漏斗形の白い花を通常』、二『個ずつ咲かせる。花冠の長さは約』十『ミリメートル』『ほどで、先は』四『裂する。果実は液果で直径』五~六ミリメートル『 の球形。冬に赤く熟し、先端に萼が残る。果実は翌年の花期まで木に残るものもある』。『栽培されることもあり、関西地方ではセンリョウ(千両)』(センリョウ目センリョウ科センリョウ属センリョウ Sarcandra glabra )、『マンリョウ(万両)』(ツツジ目サクラソウ科ヤブコウジ(藪柑子)亜科ヤブコウジ属マンリョウ Ardisia crenata 。センリョウとはただ見かけが似ているだけであって、全く縁がない種である。教員時代も、同属の植物だと思い込んでいた生徒が甚だ多かった)『とともに植え、「千両万両有り通し」と称して正月の縁起物とし、縁起木として床飾りにする』。『以下の変』『品種がある』として、六種が挙がっている。
○オオアリドオシ Damnacanthus indicus f. var. major
○ホソバオオアリドオシ Damnacanthus indicus f. var. lancifolius
○コバンバニセジュズネノキ Damnacanthus indicus f. var. lancifolius f. oblongus
○ヒメアリドオシ Damnacanthus indicus f. var. indicus f. microphyllus
○ビシンジュズネノキ Damnacanthus indicus f. var. intermedius
○リュウキュウジュズネノキ Damnacanthus indicus f. var. okinawensis
「本草綱目」の引用は、「漢籍リポジトリ」の「木之三」「灌木類」の「伏牛花」([088-72b]以下)のパッチワークである。
「黃蘗《わうばく》」ムクロジ目ミカン科キハダ属キハダ変種キハダ Phellodendron amurense var. amurense 。先行する「黃蘗」の私の注を見られたい。
「杏《あんず》の花」「杏」は日中ともに、バラ目バラ科サクラ亜科サクラ属アンズ変種アンズ Prunus armeniaca var. ansu であるが、アンズの花はこれである(当該ウィキの画像)。
「風溼《ふうしつ》」漢方で、先の「風」、及び、「水」気の体内過剰によって生ずるとされる筋肉・関節などに起こる病気。
「五痔」複数回既出既注だが、再掲しておくと、東洋文庫の「丁子」の割注に、『内痔の脈痔・腸痔・血痔、外痔の牡痔・牝痔をあわせて五痔という』とあったが、これらの各個の症状を解説した漢方サイトを探したが、見当たらない。一説に「切(きれ)痔・疣(いぼ)痔・鶏冠(とさか)痔(張り疣痔)・蓮(はす)痔(痔瘻(じろう))・脱痔」とするが、どうもこれは近代の話っぽい。中文の中医学の記載では、「牡痔・牝痔・脉痔・腸痔・血痔」を挙げる。それぞれ想像だが、「牡痔・牝痔」は「外痔核」・「内痔核」でよかろうか。「脉痔」が判らないが、脈打つようにズキズキするの意ととれば、内痔核の一種で、脱出した痔核が戻らなくなり、血栓が発生して大きく腫れ上がって激しい痛みを伴う「嵌頓(かんとん)痔核」、又は、肛門の周囲に血栓が生じて激しい痛みを伴う「血栓性外痔核」かも知れぬ。「腸痔」は穿孔が起こる「痔瘻」と見てよく、「血痔」は「裂肛」(切れ痔)でよかろう。この場合、「下血」とあるので、それらの病態の内で、出血を見るものに限る処方と読める。]
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