「和漢三才圖會」植物部 卷第八十四 灌木類 笑靨花
しじめばな 俗云蜆花
笑靨花
遵成八牋云笑靨花其花細如豆一條千花望見若堆雪
[やぶちゃん注:書名「遵成八牋」は「遵生八牋」の誤り。訓読では訂した。]
然無子可種根窠叢生茂者數十條以原根劈作數墩分
種昜活
△按笑靨花之名義難解高三四尺小木叢生其葉圓長
微皺似櫻桃葉三月開小白花形如蜆肉一條數千
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しじめばな 俗、云ふ、「蜆花(しゞみばな)」。
笑靨花
「遵生八牋」に云はく、『笑靨花は、其の花、細《こまか》なること豆《まめ》のごとく、一條《ひとえだ》≪に≫千花≪たり≫。望見《のぞみみ》≪れば≫、堆《つもれる》雪のごとく然《し》かり。種《うう》べき子《み》、無し。根窠《こんくわ》[やぶちゃん注:幹の根元に生じた空洞。]、叢生して茂き者、數十條。原根(ふるね)を以つて、劈(さ)き、數墩《すとん》[やぶちゃん注:幾つかの根を含んだ土の塊り。]と作《なし》、分け、種へて、活《くわつ》≪し≫昜《やす》し。』≪と≫。
△按ずるに、「笑靨花(わらふゑくぼの《はな》)」の名、義、解し難し。高さ、三、四尺。小木」≪にして≫、叢生≪す≫。其の葉、圓長《まろくなが》≪して≫、微《やや》皺《しは》≪あり≫。「櫻桃(ゆすらうめ)」の葉に似たり。三月、小≪き≫白≪き≫花を開く。形、蜆(しゞみ)の肉《にく》のごとく、一條《えだ》、數千《たり》。
[やぶちゃん注:「笑靨花」は日中ともに、
双子葉植物綱バラ目バラ科シモツケ(下野)亜科シモツケ属シジミバナ(蜆花) Spiraea prunifolia
である。「維基百科」の「笑靥花」を見られたい。当該ウィキを引く(注記号はカットした)。『中国原産で、庭園などに植えられている。 春に同属のユキヤナギ』(シモツケ属ユキヤナギ Spiraea thunbergii )『より』、『遅れて花が咲く。 エクボバナやハゼバナ、コゴメバナとも呼ばれるが、ユキヤナギをコゴメバナと呼ぶことがある。 花は』一センチメートル『ほどの小さな白い花で』、『枝にそって咲く、八重咲きで、バラの特長をよく表している。 花柄は』一・五~『ほどで』、『長く、一か所から数個の花柄が伸びる。 葉は互生し』、『楕円形。長さ』二~二・五センチメートル『幅』一・五センチメートル『ほど』。『花が八重咲きのコデマリ』(シモツケ属コデマリ Spiraea cantoniensis 。当該ウィキの画像(植物体全体・花)を張っておく)『に似ているため』、『誤』認『されることもある。樹高は』一~二メートル『で株立ちし、枝垂』(しだ)『れる』とある。同ウィキの植物体全体画像・花の画像をリンクさせておく。「維基百科」の「笑靥花」他によれば、
李叶綉繡線菊短瓣変種 Spiraea prunifolia var. simpliciflora(中文名「單瓣笑靨花」・和名「ヒトエノシジミバナ」)
李葉繡線菊多毛變種Spiraea prunifolia var. pseudoprunifolia(中文名「假笑靨花」・和名「タイワンシジミバナ」)
が変種として挙げられてある。
「蜆」本邦種は、斧足綱異歯亜綱シジミ科シジミ属ヤマトシジミ Corbicula japonica (汽水域種)、マシジミ Corbicula leana (淡水域種)、セタシジミ Corbicula sandai (琵琶湖水系の淡水域種)をすべて数え上げておけば、ストーカー的貝類同好家からも文句も言われまい。ここは、中文引用にはない本邦での和名なのだから、中国・台湾を中心とした東アジアに分布し、本邦で一九八五年頃に侵入が確認されている淡水域に住むシジミ属タイワンシジミ Corbicula fluminea を出す必要も全くない。
「遵生八牋」(じゅんせいはっせん)は、明の高濂(こうれん)の著になる随筆。全二十巻。万暦 一九(一五九一) 年の自序がある。日常生活の修養・養生に関する万端のことが述べられ、また、歴代隠逸者百人の事跡が記されており、文人の趣味生活に関する基礎的な文献とされている(「ブリタニカ国際大百科事典」に拠った)。引用は、「漢籍リポジトリ」の『欽定四庫全書』の同書の「卷十六」の「燕間清賞牋下」の「四時花紀」の項目のガイド・ナンバー[016-7a]以下の「笑靨花」のパートからである(多少、手を入れた)。
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笑靨花
花細如豆一條千花望之若堆雪然無子可種根窠叢生茂者數十條以原根劈作數墩分種易活
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『「笑靨花(わらふゑくぼの《はな》)」の名、義、解し難し』とするが、サイト「漢字ペディア」の「笑靨花」には、『花の中央が靨(えくぼ)のようにくぼんでいることから』とある。]
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