「神威怪異竒談」(「南路志」の「巻三十六」及び「巻三十七」)正規表現電子化注「巻三十七」 峯寺観音
[やぶちゃん注:原書の解説や凡例・その他は初回を見られたい。当該部はここから。「峯寺観音」「ぶじくわんのん」と読み、現在の南国市(なんこくし)十市(とおち)にある四国八十八箇所第三十二番札所の真言宗豊山派八葉山(はちようざん)求聞持院(ぐもんじいん)禅師峰寺(ぜんじぶじ:グーグル・マップ・データ。以下同じ)。本尊は十一面観世音菩薩。この寺の北西近くに「石土池」(地元でも「いしどいけ」「いわつちいけ」「いしづちいけ」等と呼ばれ一定しない。池の南に「石土神社」(いわつちじんじゃ)があるが、これは決定打にはならない。神社名を尊び、土地名などとずらすのは、ごく一般的であるからである)があるが、冒頭の「十池」は、その池であろう。地元の方の証言に、「十市の池」とも呼び、その場合「とおちのいけ」と呼んでいるという記事があったので、その「市」が落ちたものであろう。]
峯寺観音
昔、「十池(といけ)」の池に、大蛇(だいじや)、すめり。
或時、蛇の骸(むくろ)より、火、出(いで)て、燃(もゆ)る事、三日にして、骨のみ、有り。
其ほねを、村のもの、集めをく[やぶちゃん注:ママ。]に、或夜、夢、見る。
一人の女、來りて、
「吾は是(これ)、峯寺(ぶじ)の觀音也。此所(ここ)の池中に、住(すく)事、久し。千年の後、骨中(こつちゆう)より、火、出(いで)て、身を、燒く。今、汝が拾ふ所の燒骨(しやうこつ)を、禪師峰寺(ぜんじぶじ)に納(をさ)むべし。骨は、此山(このやま)に止(とどま)り、心は南方無垢世界(なんはうむくせかい)に遊行(ゆぎやう)する。」
と語(かたり)て、南の天に飛揚(ひやう)す。
其頭(そのかしら)に戴(いただ)く所のものは、皆、佛面(ぶつめん)なり。
峯寺の僧に、此旨(このむね)を、つぐ。
僧の云(いはく)、
「今年正月十八日、七、八歲斗(ばかり)の少女、來りて、*『十』の字を書(かき)て、去(さる)。又、一女、來(きたり)て、『一』の字を書(かき)て去る。又、一女、來(きたり)て、*[やぶちゃん注:「*」で挟んだ部分は、国立公文書館本(81)の右丁一行目下方から、二行目下から二字目までで補った。]『面』の字を書(かき)て去る。如此(かくのごとく)、十一人[やぶちゃん注:「近世民間異聞怪談集成」では、この「十一人」を『土人』と起こす。確かに「土」に似ている。しかし、先の国立公文書館本では、はっきりと『十一』と書かれてある。而して、この僧の証言を小学生が見ても、「土」に見えるのは、「十一」がくっ附いたものと理解する。この編者・判読者は、ちゃんと話を通して読めば、「十一」であることは明白だ。どうして、この低レベルの誤判読を放置プレイしてしまっているのだ!?! 何度も言うが、心底、呆れ果てたぞ! 印税、戻して、全面改正し直せ! 馬鹿野郎!]の少女、各(おのおの)、一字を、書(かき)、去る。十一字を並べ見るに、
『十一面觀音菩薩止此山』
と、有(あり)。奇異の恐れをなすといへども、世の人に語るとも、信ぜざるのみにあらず、我を疑ふべし。」
と、他(ほか)にもらさず、過(すご)しぬ。
後世(ごぜ)、自然に、其(その)妙(みやう)、有るを、待所(まつところ)に、はやくも、在世の內に符節を合(がつ)するに、
「靈瑞、難有(ありがた)し。」
と感淚して、池中の蓮葉(はすのは)を以(もつて)、蛇骨(じやこつ)を包み、宝殿を作り、納(をさ)む。是より、此池、逐年(ちくねん)[やぶちゃん注:「年々」に同じ。]、淺く成(なり)て、昔、「百𠀋が淵」と唱ふ所も、知人(しるひと)、なし。
[やぶちゃん注:個人ブログ「あれこれある記」の「石土神社 石土洞」に、『断崖下部の洞窟は石土洞または蛇穴(じゃあな)と呼ばれ、男蛇・毒蛇という雌雄の大蛇が住んでいるとか。洞窟の高さは低いものの、奥は深くてどこまで続いているか誰も知らない(大蛇がいて確かめられない)とか』とあり、さらに、『ふしぎなはなし-「昔、峯寺(32番札所 禅師峰寺)の住職が犬を飼っていて、犬が迷った時のために首輪にお寺の山号を書いた札を吊るしていたそうな。ある日、蛇穴に逃げ込んだウサギを追いかけて入ったまま2日たっても3日たっても戻らなかったそうな。そうするうちに伊予の国(愛媛県)吉田藩の領内のとある洞窟の入り口で、ウサギをくわえたままの犬の死骸が見つかり、その首輪にはなんと、峯寺の山号が書かれた札がついていたそうじゃ」』と別な奇異伝承を紹介されており、『他にも石鎚山や讃岐(香川県)の萩原寺』(ここ。グーグル・マップ・データ。直線で北北東五十キロメートル弱もある)『まで続いているという伝説もあってなかなかミステリアスです』とあった。写真も豊富なので、是非、読まれたい。]
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