「神威怪異竒談」(「南路志」の「巻三十六」及び「巻三十七」)正規表現電子化注「巻三十七」 井田村八岐鹿⻆
[やぶちゃん注:原書の解説や凡例・その他は初回を見られたい。今回の底本はここから。標題は「ゐだむら やつのまたの しかづの」と訓じておく。]
井田村八岐鹿⻆
幡多郡(はたのこほり)井田(ゐだ)村へ、昔、一角(いつかく)八股鹿(やつノマタのしか)、出(いで)けるを、猟師、見付(みつけ)て、早速、打殺(うちころ)しけると也(なり)。
其(その)八股⻆(やつまたのつの)、三尺斗(ばかり)、有(あり)。
珍敷(めづらし)きもの故、當村(たうそん)、氏神(うぢがみ)、天滿宮社內(やしろうち)へ納め置ける。
閏月(うるうづき)の有(あ)る年、九月九日に開帳して、人々に見せるよし。
平常(へいじやう)は、見る事、ならず。
[やぶちゃん注:「幡多郡井田村」高知県幡多郡黒潮町伊田(いだ:グーグル・マップ・データ航空写真。以下同じ)であろう。御覧の通り、恐らく海辺の伊田港周辺部を除き、九割以上は奥深い山間部である。
「一角八股鹿」(いっかくやつのまたのしか)とあるが、この鹿は四国(九州にも分布する)であるので、哺乳綱鯨偶蹄目シカ科シカ属ニホンジカ亜種キュウシュウジカ Cervus nippon nippon である。同亜種の♂の成獣(毎年一本ずつ生えるらしい)の角は四本に枝分かれするのが普通であるから、この二本とも(と思われる)八つに分枝する個体というのは、極めて珍しいものと思われる。論文を見る限り、化石シカ類のものでも、七分岐であった。
「天滿宮」ここにある。ネットでは掛かってこないので、「一角八股鹿」は現存しないか。残念!]
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