「神威怪異竒談」(「南路志」の「巻三十六」及び「巻三十七」)正規表現電子化注「巻三十七」 川太郎之皿
[やぶちゃん注:原書の解説や凡例・その他は初回を見られたい。当該部はここから。標題は「かはたらうのさら」と訓じておく。]
川太郎之皿
水虎(カハタラウ)の皿といふ物を、称名寺の脇寺(わきじ)、長德院の什物(じふもつ)にあり。
小(ちさ)き繪皿ほど有(あり)て、陶器(やきもの)の樣(やう)に見ゆる。
其謂(そのいはれ)、しらず。
「安永年間[やぶちゃん注:「安永」一七七二年から一七八一年まで。徳川家治の治世。]滿慶比丘、五臺山の桃木茶屋に居住(きよぢゆう)の時、加持して、水虎を顯(あらは)しける。」
とぞ。
潮江川に、何(なん)と云(いふ)、水虎、何所(いづこ)の井(ゐ)・流(ながれ)の內(うち)、或(あるい)は淵・河とも、不殘(のこらず)、住所(すみどころ)、知れて、夫(それ)を戒(いましめ)て云(いはく)、
「人に、害を成さずは、祭(まつり)を、すべし。」
と、いはれし、とかや。
夫(それ)より、六月十六日、川〻(かはがは)にて、胡瓜(キウリ)を流し、灯燈(てうちん)、夥敷(おびただしく)照らして、祭來(まつりきた)れり。
又、
「肥前國、『尼御前の宮』は、日本國の水虎の惣社(そうじや)。」
とかや。
今年、文化四年、除災の祈禱を願(ねがひ)て來(きた)る。
又、小兒の懷中守(かいちゆうまもり)とて、二寸四方の紙へ、梵字、四つ、書(かき)て有(あり)。是を懷中すれば、怖れなし、とぞ。
[やぶちゃん注:「川太郎」「水虎(カハタラウ)」河童の記事は、恐らく、私のブログでは、最もメジャーな妖怪である。近代小説を含めると、河童がメインの記事は、四百件近くある。絵入りのもので比較的新しい記事は「甲子夜話卷之三十二 9 河太郞幷圖」と、「甲子夜話卷之六十五 5 福太郞の圖」か。論考では、『「南方隨筆」底本正規表現版「俗傳」パート「河童の藥方」』で、私の河童関連記事へのリンクもしっかり附してある。
「称名寺の脇寺、長德院」浄土宗西山(さいざん)永観堂禅林寺派の称名寺(グーグル・マップ・データ)は、現在の高知市升形(ますがた)に現存するが、「脇寺」の「長德院」というのは見当たらない。「ひなたGPS」の国土地理院図を見ても「卍」記号は一つしかないので、現存しないようである。「河童の皿」なる什物も称名寺には、ないようである。河童にミイラや、斬られた河童の腕というのは、よく聴くが、「皿」というのは、かなり珍しいので、残念である。
「滿慶比丘」不詳。
「五臺山の桃木茶屋」「五臺山」は現在の高知市五台山にある真言宗智山派五臺山金色院(こんじきいん)竹林寺。神亀元(七二四)年、聖武天皇の勅命により行基が開創したと伝え、自刻とする文殊菩薩を本尊とする。大同年間(八〇六年~八一〇年)に空海が再興した。四国八十八箇所第三十一番札所。「桃木茶屋」は「奈良文化財研究所」の作製になる「土佐へんろ道 竹林寺道・禅師峰寺道(五台山)」(「四国八十八箇所霊場と遍路道」調査報告書第二集(高知市文化財調査報告書第四十二集)・二〇一七年三月刊・PDFで同研究所公式サイトのここでダウンロード可能)の、『第3章 へんろ道』の『第2節 史料・絵図等にみる竹林寺道・禅師峰寺道』の冒頭に、本書の竹林寺の寺誌を引用をして、
《引用開始》
文化12(1815)年の成立とされる『南路志』に載せる寺誌「竹林寺」では「伽藍」を列挙した後、「其坂路ハ(中略)南ノ方、桃木茶屋ノ方道ハ秦元親ノ浦戸在城の時ニ作り又西吸江へ坂路ハ山内氏入国ニ開くと云々」とあり、現在の南麓・坂本近くの見晴らしの良い桃木茶屋跡へと下る禅師峰寺道が、長宗我部元親が浦戸在城時に設けた道とされ、竹林寺道にあたる西からの道は藩主・山内氏の入国時のものと伝えられていたことが知られる。またこの途上に「坂中石燈籠、明和年中高知講中建立」の存在が記されるが、現在は土台と壊れた石材の一部が残るのみである。
《引用終了》
とあった。この記載から考えると、「桃木茶屋」は、この「へんろ道」(グーグル・マップ・データ航空写真。中央に配した)の途中、『現在の南麓・坂本近くの見晴らしの良い』場所にあったということが判った。ストリートビューで辿ったが(最上部の「旧へんろ道」の画像がある)、現在は樹木が繁っており、それらしい見晴らしのよいという箇所はなかなか、見出せなかったが、一箇所、かなり下った(現在の登りからは階段を上った最初の広いスペース)ここは、見晴らしがよさそうだが(航空写真の拡大図ではここ)、この有意な平地自体が、江戸時代からあったものかどうかは判らない。正し、有力候補の一つとは言えよう。
「潮江川」現在の鏡川であろう(グーグル・マップ・データ)。
「肥前國」「尼御前の宮」現在の福岡県久留米市瀬下町(せのしたまち)にある「水天宮(総本宮)」(グーグル・マップ・データ)。それ絡みなら、私の好きな小説「藪野直史野人化4周年記念+ブログ・アクセス670000突破記念 火野葦平 海御前 附やぶちゃん注」を強くお薦めする。]
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