「和漢三才圖會」植物部 卷第八十四 灌木類 蠟梅
ろふばい 黃梅花
【俗南京梅】
蠟梅
ラツ ムイ
本綱蠟梅本非梅類因其與梅同時香又相近色似𮔉蠟
[やぶちゃん字注:「𮔉」は「蜜」の異体字。]
故名之小樹叢枝尖葉結實如垂鈴尖長寸餘子在其中
其樹皮浸水磨黒有光采凡有三種
狗繩梅 以子種出不經接者臘月開小花而香淡
磬口梅 經接而花疎開時含口者
檀香梅 花宻而香濃色㴱黃如紫檀者最佳
[やぶちゃん注:「㴱」は「深」の異体字。]
△按蠟梅花六出單葉似小梅花而黄色其枝柔靱遠見
則彷彿倭連翹伹連翹花四出而盞形爾
農政全書云蠟梅枝條頗類李其葉似桃葉而寛大紋
微麁開淡黃花味甘微苦
[やぶちゃん字注:「梅」と「梅」の混淆はママ。子細に観察し、使い分けた。]
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ろふばい 黃梅花
【俗南京梅】
蠟梅
ラツ ムイ
[やぶちゃん注:「ろふばい」はママ。歴史的仮名遣は「らうばい」が正しい。]
「本綱」に曰はく、『蠟梅、本《も》と、梅の類《るゐ》に非ず。因りて、其れ、梅と、時を同《おなじく》し、香≪も≫又、相近《あひちか》く、色、宻蠟《みつらう》に似≪れば≫、故≪に≫、之れを名づく。小樹≪にして≫、叢《むらがれる》枝、尖《とが》る葉≪にて≫、實を結ぶ。垂鈴《たれすず》のごとくにして、尖り、長さ、寸餘。子《たね》、其の中に在り。其の樹皮を、水に浸して、磨《みが》≪けば≫、黒《くろく》して、光采《かうさい》[やぶちゃん注:「光彩」=「光澤」に同じ。]、有り。凡そ、三種、有《あり》。』≪と≫。
『狗繩梅《くようばい》』 『子《たね》を以つて、種《うゑ》、出《しゆつ》≪す≫。接《つぎき》を經《へ》ざる者。臘月[やぶちゃん注:旧暦十二月。]、小≪さき≫花を開きて、香《かをり》、淡《あはし》。』≪と≫。
『磬口梅《けいこうばい》』。『接《つぐ》ことを經《へ》て、花、疎《まばら》に、開≪く≫時、口を含む者。』≪と≫。
『檀香梅《せんかうばい》』。『花、宻《みつ》にして、香《かをり》、濃く、色、㴱《ふかき》黃≪なり≫。「紫檀《したん》」のごとき者≪にして≫、最も佳なり。』≪と≫。
△按ずるに、蠟梅は、花、六出《ろくしゆつ》。單葉≪なり≫。小梅の花に似て、黄色。其の枝、柔《やはら》かに、靱(しな)へ、遠く見≪れば≫、則ち、倭の連翹《れんげう》に彷彿(さもに)たり。伹《ただし》、連翹の花は、四出《ししゆつ》して、盞(ちよく)[やぶちゃん注:「ぐい呑み」のこと。]の形なるのみ。
「農政全書」に云はく、『蠟梅≪の≫枝條《しでう》、頗《すこぶ》る、李《すもも》に類《るゐ》≪す≫。其の葉、桃の葉に似て、寛《ひろく》、大≪にして≫、紋、微《やや》、麁(あら)く、淡≪き≫黃花を開く。味、甘く、微《やや》、苦《にが》し。』≪と≫。
[やぶちゃん注:「蠟梅」は日中ともに、
双子葉植物綱クスノキ目ロウバイ科ロウバイ属ロウバイ Chimonanthus praecox
がタイプ種である。「維基百科」の「蜡梅」が同種である。なお、良安も指示している通り、注意喚起しておくと、「梅」は、
バラ目バラ科サクラ属ウメ Prunus mume
であって、近縁でも何でもない。かく言う私も、青年になるまで、梅の一種と思い込んでいたから。関東近辺では、修善寺の梅林が、お薦めである。当該ウィキを引く(注記号はカットした)。異名漢字表記では、『臘梅、唐梅』(からうめ)』があり、『中国原産の落葉樹である』。『和名の「ロウバイ」の語源は、漢名の「蝋梅」の音読みとされ、由来について一説には、陰暦の』十二『月にあたる』臘月(ウィキ原文では漢字を間違っている)『(ろうげつ)にウメの香りの花を咲かせるためだと言われている』。「本草綱目」に『よれば、半透明で』、『にぶいツヤのある花びらが』、『まるで蝋細工のようであり、かつ臘月に咲くことにちなむという』。『日本へ渡来したのは』十七『世紀初めの江戸時代ごろとされる。庭木として広く植えられている』(本「和漢三才圖會」は正徳二(一七一二)年成立なので、既に本邦に定着していた)。『落葉広葉樹の低木で、高さは』二~五メートル『になる。株立ちし、樹皮は淡灰褐色で』、『皮目』は、『縦に並び、生長とともに浅く割れたようになる。葉は長さ』十~十二センチメートル『の細い長楕円形で、両端は尖る』。『花期時期は』一~二『月』。『早生種では』十二『月頃に、晩生種でも』二『月にかけて半透明で』、『にぶいツヤのある黄色く香り高い花が』、『やや下を向いて咲く。花色は外側が淡黄色で内側が暗紫色をしている。果実は痩果で一見すると種子に見え、花托が生長して壺状の偽果になり、中に偽果が詰まり数個から』十『個程度』、『見られる』。『冬芽は枝に対生し、葉芽は卵形で』、『花芽は球形をしている。枝先には仮頂芽(葉芽)が』二『個つく』。以下「品種」の項。『ロウバイ属には他に』五『種があり、いずれも中国に産する。なお、ウメは寒い時期に開花し、香りが強く、花柄が短く』、『花が枝にまとまってつくといった類似点があるが、バラ目』 Rosales『バラ科』Rosaceae『に属しており』、『系統的には遠縁である』。『ソシンロウバイ(素心蝋梅)やトウロウバイ(唐蝋梅)などの品種がある。よく栽培されているのはソシンロウバイで』、『花全体が黄色で、ロウバイよりもよく結実する。ロウバイの基本種は、花の中心部は暗紫色で、その周囲が黄色である』。
○カカバイ Chimonanthus praecox f. intermedius(『狗牙蝋梅・狗蝿梅』。「本草綱目」の引用に出る『狗繩梅《くようばい》』である)
○ソシンロウバイ Chimonanthus praecox f. concolor(『素心蝋梅』。別名シロバナロウバイ(白花蝋梅))
○マンゲツロウバイ Chimonanthus praecox ‘Mangetsu’(『満月蝋梅』。学名の通り、ソシンロウバイから選抜された園芸品種。『ほかにも「揚州黄」「吊金鐘」などの栽培品種がある』)
○トウロウバイ Chimonanthus praecox var. grandiflorus(『唐蝋梅』、ほかにも『「虎蹄」「喬種」などの栽培品種がある』)
以下、「栽培」の項。『土壌をあまり選ばず、かなり日陰のところでも』、『よく育ち』、『開花する丈夫な花木である』。『繁殖は、品種ものの一部を除き』、『挿し木が一般的だが』、『実生からの育成も容易』で、『種まきから最も簡単に育てられる樹種である。晩秋になると、焦げ茶色の実がなっており、中のタネ(真の果実)はアズキくらいの大きさである。寒さに遭わせたほうが』、『よく発芽するといい、庭に播き』、五ミリメートル『ほど覆土しておくと、春分を過ぎてから生えてくる』。以下、「毒性」の項。『種子などにアルカロイドであるカリカンチン』(Calycanthine)『を含み』、『有毒。中毒すれば』、『ストリキニーネ様の中毒症状を示す』。以下、「薬用」の項で終わる。『花やつぼみから抽出した蝋梅油(ろうばいゆ)を薬として使用する。中国では、花をやけどの薬にすると言われている』。
「本草綱目」の引用は、「漢籍リポジトリ」の「木之三」「灌木類」の「蠟梅」([088-72a]以下)(記載は非常に短い)の「釋名」「集解」から殆んどをバラして引いたパッチワークである。
「磬口梅《けいこうばい》」これは中文サイトを、複数、見ても、ロウバイ Chimonanthus praecox の学名を挙げてある。上記引用に、『繁殖は、品種ものの一部を除き』、『挿し木が一般的だが』、『実生からの育成も容易』で、『種まきから最も簡単に育てられる樹種である』とするので、本来の種子から繁殖する、同種のプロトタイプ群と見受けられる。
「檀香梅《せんかうばい》」これは、ロウバイとは、クスノキ目クスノキ科Lauraceaeまでは同じだが、属レベルで異なる、
クロモジ(黒文字)属ダンコウバイ Lindera obtusiloba
である。当該ウィキを引く(注記号はカットした)。『檀香梅』『は』『別名でウコンバナ、シロヂシャともよばれる。和名の由来は、実や葉、また材が檀香(ビャクダン:白壇)のように香り、花がウメ(梅)に似ていることによる。丸みのある浅く』三『裂した葉が特徴』。『中国、朝鮮半島、日本に分布する。日本では本州(新潟県、関東地方以西)、四国、九州に分布する。山地の雑木林内や林縁の明るい場所に自生する。植栽されることは稀であるが、庭にも植えられる』。『落葉広葉樹の低木から小高木。成木は樹高』二~七『メートル』、『幹の直径約』十八『センチメートル 』。『樹皮は暗灰色から茶褐色で滑らかであるが、皮目が多く少しざらつく感じになる。小枝は日当たりのよい面は赤味を帯び、日陰側は緑色であることが多い。枝を折ると芳香がある』。『花期は』三~四『月』。『雌雄異株で、雄株のほうが花数が多い』。『葉が芽吹く前に、芳香がある黄色い小さな花を散形花序に多数つける』。『雄花と雌花の花被片は』六『個で楕円形。雄花の雄蕊の花糸に』一『対の密腺がある。花序の柄は長さ』一『ミリメートル』『ほどついている』。『葉は互生し、柄がある。葉身は幅広い倒卵形で、長さは』五~十五センチメートル、『幅は』四~十三センチメートル、『基部が幅広く丸くなり』、『先端が浅く』三『裂するのが基本であるが、なかには裂けないものもある。葉質はやや厚く、表面はつやのない緑、若葉の裏面には毛が生えている。葉によって裂け方にかなり個体差があり、裂けない葉もある。外見的には葉の形などシロモジ』(クロモジ属シロモジ(白文字)Lindera triloba )『にやや似る。葉も揉むとわずかに芳香がある。秋になると葉は黄葉して鮮やかな黄色に染まり、やがて落葉する。ダンコウバイの葉のよう』な、特徴的に『浅く』三『つに切れ込む葉は他にみられず、葉の形で簡単に見分けられる』(添えられてある「葉」の写真)。『果期は』九~十『月。果実はクスノキの実を少し大きくしたような光沢のある球形で、直径は』七~八ミリメートル『ほどあり、はじめは赤色であるが』、『秋の黄葉の時期に熟して黒紫色に変わる。種子は淡褐色から褐色で強い香りがある』。『冬芽は互生し、葉芽は長楕円形で、花芽はほぼ球形。芽鱗は赤茶色で花芽は』二、三『枚、葉芽は』四、五『枚ある。落葉のころには来春の花芽が葉腋にでき、つぼみのまま越冬する。葉痕は半円形で、維管束痕が』三『個つく』。『ウコギ科』Araliaceae『の』カクレミノ(隠蓑)属『カクレミノ( Dendropanax trifidus )』(二ヶ月前に行った伊東の温泉の離れの坪庭に大きく育った個体を見つけ、親しく観察した)『は常緑樹で、葉がダンコウバイやシロモジ( Lindera triloba )にやや似ており、秋に古い葉の一部が橙色から黄色に紅葉する。シロモジもダンコウバイも、切れ込みのない葉が』、『時折』り、『混じる』。『庭木に利用されている。材は芳香があり、楊枝や細工物に使う。種子からは油がとれる。果実には香りのいい油分があって、朝鮮では種子の油を高級な髪油として用いた』とある。
「紫檀《したん》」一説に、二種を含むとし、マメ目マメ科マメ亜科ツルサイカチ連ツルサイカチ属ケランジィ Dalbergia cochinchinensis と、マルバシタン Dalbergia latifolia である。但し、異論を唱える者もあり、それらはウィキの「シタン」を見られたい。
「連翹」「枸𣏌」で既出既注だが、再掲すると、本邦で言うシソ目モクセイ科Forsythieae連レンギョウ属レンギョウ Forsythia suspensa は、中国原産で、江戸初期に植物体は渡来している。しかし、中国の漢方生薬「連翹」の基原植物は、一般には、中国原産の同属シナレンギョウ Forsythia viridissima の成熟果実を、一度、蒸気を通したのち、天日で乾燥したものを指すとされる。生薬扱いしたのは、良安がわざわざ「倭の連翹」と言っているからで、実際の植物体としてのシナレンギョウを見ていないから、かく言わざるを得ない、ということは、当然、植物体ではなく、加工された果実の生薬としての生薬体で比較していると、とるしかないのである(シナレンギョウの日本への渡来は大正末期である)。では、日本に在来種のレンギョウ属はいないかというと、中国地方の、代表的なカルスト台地である岡山県北西部の阿哲台(あてつだい:深草縁夫氏のサイト「日本すきま漫遊記」の「岡山・水車と鍾乳洞を巡る(6日目)」に載る地図を見られたい)、広島県北東部の帝釈台(阿哲台の南西にある広島県庄原市東城町(とうじょうちょう)帝釈未渡(たいしゃくみど:グーグル・マップ・データ)にある)といった石灰岩地の岩場などに選択的に植生するヤマトレンギョウ Forsythia japonica と、小豆島のみに植生するショウドシマレンギョウ Forsythia togashii の二種があるのであるが、孰れも、現在、絶滅危惧種に指定されている。私は、良安が言っているものが、正規の在来種の分布が非常に限定されているヤマトレンギョウやショウドシマレンギョウであるとは思えないのである。少なくとも、この在来種二種を良安が実際に現認し、知っていたとは、私には、まず、絶対に思われない。但し、以上の記載で最も参考にさせて戴いた「公益社団法人日本薬学会」公式サイト内の「シナレンギョウ」のページには、全く異なる基原植物説の追加記載があって、『中国の古い本草書には「湿り気のあるところに生育している草本植物」との記載があることから,連翹はオトギリソウ科のオトギリソウやトモエソウの仲間を指すという説もあります』とあることを言い添えておく。オトギリソウは、キントラノオ目オトギリソウ科オトギリソウ属オトギリソウ Hypericum erectum であり、トモエソウは、同じオトギリソウ属トモエソウ Hypericum ascyron である。なお、以上の記載には、別にサイト「Arboretum」の「ヤマトレンギョウ」のページも参考にした。]
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