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2024/10/26

「和漢三才圖會」植物部 卷第八十四 灌木類 榊

 

Sakaki

 

さかき    坂樹【日本紀】

       賢木【本朝式】

【倭字】 龍眼木【漢語抄】

       【和名佐加岐】

       正字未詳

[やぶちゃん注:「本朝式」は「延喜式」の方が通りが良いので、訓読ではそれに代えた。]

 

△按榊本朝神社必用之木猶浮屠用木𮔉其木葉似木

 𮔉而葉小色深青無香四時不凋開小白花結子生青

 熟紅

 

  古今霜やたひをけとかれせぬ榊葉の立ちさかゆへき神のきねかも

[やぶちゃん注:この「をけと」は「古今和歌集」の原本自体がママである。「おけど」が正しいが、訓読では、原書を尊重してそのままで示す。]

 日本紀云有八百万神取天香久山坂樹祈於天窟戸之

 事以來爲神之縁木

 

   *

 

さかき     坂樹《さかき》【「日本紀」。】

        賢木《さかき》【「延喜式」。】

【倭字。】   龍眼木《りゆうがんぼく》【「漢語抄」。】

       【和名、「佐加岐」。】

       正字、未だ、詳かならず。

 

△按ずるに、榊は、本朝≪の≫神社、必用の木≪なり≫、猶を[やぶちゃん注:ママ。]、浮屠《ふと》[やぶちゃん注:仏教。サンスクリット語の漢音写の一つ。「屠」の字を嫌って、「浮圖」「佛圖」等とも書いた。]の「木𮔉(しきみ)」を用ひるがごとし。其の木・葉、木𮔉(しきみ)に似て、葉、小《ちいさ》く、色、深≪き≫青。香《かをり》、無し。四時、凋まず。小≪さき≫白花を開き、子《み》を結ぶ。生《わかき》≪は≫、青≪く≫、熟≪せば≫、紅なり。

  「古今」

    霜《しも》やたび

          をけどかれせぬ

       榊葉《さかきば》の

      立ちさかゆべき

            神のきねかも

「日本紀」に云はく、『八百万《やほよろづ》の神たち、天香久山(《あま》のかぐやま)の坂(さか)の樹《き》を取《とり》て、天窟戸《あまのいはと》の事、祈り玉ふ[やぶちゃん注:「玉」は送り仮名にある。]。』≪と≫有り。以來、「神の縁《えん》≪の≫木」と爲《な》る。

 

[やぶちゃん注:これは、

双子葉植物綱ツツジ目モッコク科サカキ属サカキ Cleyera japonica

である。当該ウィキを引く(注記号はカットした)。漢字表記は、他に『賢木・栄木』。『日本の神道においては、神棚や祭壇に供えるなど』、『神事にも用いられる植物。別名、ホンサカキ、ノコギリバサカキ、マサカキともよばれる』。『和名サカキの語源は、神と人との境であることから「境木(さかき)」の意であるとされる。常緑樹であり、さかえる(繁)ことから「繁木(さかき)」とする説もあるが、多くの学者は後世の附会であるとして否定している。「榊」という文字は平安時代に日本で会意で形成された国字である。上代(奈良時代以前)では、サカキ』・『ヒサカキ』(ツツジ目モッコク(木斛)科ヒサカキ(姬榊)属ヒサカキ Eurya japonica var. japonica)・『シキミ』(樒・アウストロバイレヤ目 Austrobaileyalesマツブサ科シキミ属シキミ Illicium anisatum )・『アセビ』(馬酔木・ツツジ目ツツジ科スノキ亜科ネジキ(捻木・捩木)連アセビ属アセビ亜属アセビ亜種アセビ Pieris japonica subsp. japonica )・『ツバキ』(代表種ツツジ目ツバキ科ツバキ連ツバキ属ヤブツバキ Camellia japonica )『など、神仏に捧げる常緑樹の総称が「サカキ」であったが、平安時代以降になると「サカキ」が特定の植物を指すようになり、本種が標準和名のサカキの名を獲得した』。『類似植物と混同されやすいので、サカキは「ホンサカキ」(本榊)や「マサカキ」とも呼ばれ、近縁のヒサカキ(後述)については、「シャシャキ」「シャカキ」「下草」「ビシャコ」「仏さん柴(しば)」「栄柴(サカシバ)」などと地方名で呼ばれることもある』。『学名は、植物学者で、江戸時代に出島オランダ商館長を務め、サカキをヨーロッパに紹介したアンドレアス・クレイエル』(Andreas Cleyer(一六三四年~一六九八年頃)『にちなむ』。『日本列島では本州の茨城県・石川県以西、四国、九州、沖縄に分布する。日本国外ではアジア東南部に分布し、朝鮮半島南部、済州島、台湾、中国が知られている。ヒマラヤと中国南部には、別亜種が知られる。陰樹で、山地の照葉樹林内に生える。枝葉は日本の神社での神事に使われるため、神社の境内に植えられることも多い』。以下に二種の変種を掲げてある。

Cleyera japonica var. wallichiana (『ヒマラヤ産。花が大きい』)

Cleyera japonica var. parvifolia(『中国南部。葉が小さい』)

『常緑広葉樹』で、『低木を見ることが多いが、小高木で高さ』十二メートル、『胸高直径は』三十センチメートル『になるものがある。一年枝は緑色で無毛だが、幹の樹皮は暗赤褐色になり皮目があり、ほぼ滑らかである。枝先の冬芽は裸芽で、互生する葉の付け根につき、長披針形で』、『若葉が巻いて』、『細長く』、『鎌状に曲がるのが特徴。冬芽は枝と同色である。頂芽はよく葉上に出る』。『葉は二列生で互生し、葉身は長さ』六~十『センチメートル』『の長楕円形で、厚みのある革質でつやがある、のっぺりとした表面で、葉縁の鋸歯は全くない。裏面はやや色薄く、両面ともに無毛。近縁種のヒサカキには葉縁に鋸歯がある点で区別できる』。『花期は』六~七月頃で、『側枝の基部の側の葉腋から黄白色の小さな花を咲かせる。花は』五『弁で、葉の下側から』一~四『個が束状に出て、下向きに咲く。花色ははじめは白く、のちに黄味を帯びてくる。果期は』十月頃『で、果実は直径』七~八『ミリメートル』『の液果で』、十一『月頃には黒く熟す。果実には柄がある』。『材は緻密でかたいことから、器具材、箸、櫛に使われる。赤紫色に熟した果実は、赤紫色の染料に使われる』。『日本では古くから神事に用いられる植物である。古来、植物には神が宿り、特に先端が尖った枝先は神が降りるヨリシロとして若松やオガタマノキ』(招霊木・小賀玉木・モクレン目モクレン科モクレン属オガタマノキ節オガタマノキ Magnolia compressa )『など様々な常緑植物が用いられたが、近年は身近な植物で枝先が尖っており、神の依り代にふさわしいサカキやヒサカキが定着している。家庭の神棚にも捧げられ、月に』二『度』、朔『日と』十五『日(江戸時代までは旧暦の』同日『)に取り替える習わしになっている。神棚から下げた榊は、神社でお焚き上げ、海や川に流す、土に埋めて自然に還すなどといった方法が正式だが、近年は環境に配慮し、水をふき取り、塩でお清めをしてから白紙に包んで処分することも多い。神棚では榊立を用いる』。『サカキは神仏に捧げる常磐木の代表樹で、結婚式、安産祈願、お宮参り、七五三などの祝い事の際に、神へ奉納する玉串に使われる。神社では、サカキが供花とされ、境内にサカキがあると、小枝におみくじが結ばれるのを見かける機会も多い』。『こうした用途があるため、日本ではサカキやヒサカキは市販されている。中国からの輸入が』九『割を占めるが、国内でも生産に力を入れる農業協同組合などがあり、国産榊生産者の会という団体もある』。『縁起木として扱われるため、常緑を活かした庭木としても使われる』。『サカキは関東以南の比較的温暖な地域で生育するため、関東以北では類似種(別属)のヒサカキ( Eurya japonica )をサカキとして代用している。ヒサカキは仏壇にも供えられる植物である。花は早春に咲き、独特のにおいがある。名の由来は小さいことから「姫榊」とも、サカキでないことから「非榊」とも』称する。『店頭に並んでいるサカキとヒサカキを見分けるポイントは葉縁で、葉が小さく、鋸歯がある(ぎざぎざしている)ならヒサカキ、表面がツルツルしていて、葉縁がぎざぎざしていない全縁ならサカキである。また、サカキは茎頂の芽(冬芽)が、鎌状あるいは長刀状に湾曲して尖っていることでも見分けられる』とある。

「漢語抄」は「楊氏漢語抄」の略。奈良時代(八世紀)の成立とされる辞書であるが、佚文のみで、原本は伝わらない。

「古今」「霜《しも》やたびをけどかれせぬ榊葉《さかきば》の立ちさかゆべき神のきねかも」「古今和歌集」の「卷第二十 神遊びの歌」の第二首(一〇七五番。ここでは歴史的仮名遣の誤りを訂した)、

   *

霜(しも)八度(やたび)

     おけど枯れせぬ

    榊葉(さかきば)の

   立ち榮(さか)ゆべき

       神の巫覡(きね)かも

   *

「八度」は回数が多いことで、「巫覡(きね)」とは、神に奉仕する人の意。参考にした「新日本古典文学大系」版脚注には、『ここでは巫女(みこ)か』とされる。但し、「覡」(音「ゲキ」)は、一説では、男性の「みこ」を「覡」とする。寧ろ、男女ともに指すとした方が、祝祭としてはいいだろう。同書の訳を引用しておくと、『霜が繰り返し置くけれど枯れもしない榊の葉が勢いよく繁茂するように、栄えてゆくはずの神人』(「じにん」と読んでおく)『たちよ』である。

『「日本紀」に云はく、『八百万《やほよろづ》の神たち、天香久山(《あま》のかぐやま)の坂(さか)の樹《き》を取《とり》て、天窟戸《あまのいはと》の事、祈り玉ふ[やぶちゃん注:「玉」は送り仮名にある。]。』≪と≫有り。以來、「神の縁《えん》≪の≫木」と爲《な》る』というのは、正確な引用ではなく、解釈である。恐らく、「日本書紀」の「神代上」の中にある、知られた天照大神(あまてらすおみかみ)の天石岩戸(あまのいわと)隠れのシークエンスの(太字下線は私が附した)、

   *

于時、八十萬神、會於天安河邊、計其可禱之方。故、思兼神、深謀遠慮、遂聚常世之長鳴鳥使互長鳴。亦、以手力雄神、立磐戶之側、而中臣連遠祖天兒屋命・忌部遠祖太玉命、掘天香山之五百箇眞坂樹、而上枝懸八坂瓊之五百箇御統、中枝懸八咫鏡一云【眞經津鏡。】、下枝懸靑和幣和幣、此云尼枳底・白和幣、相與致其祈禱焉。又、猨女君遠祖天鈿女命、則手持茅纒之矟、立於天石窟戶之前、巧作俳優。亦、以天香山之眞坂樹爲鬘、以蘿【蘿、此云此舸礙。】爲手繦【手繦、此云多須枳。】而火處燒、覆槽置覆槽、此云于該、顯神明之憑談【顯神明之憑談、此云歌牟鵝可梨】。

   *

を元に、良安か、或いは、国学者が訳したもので示したものと推定される(以上の原文は「日本書紀」の電子化サイトのここを参考に、一部の漢字に手を加え、記号を使った)。割注を除いて、国立国会図書館デジタルコレクションの黒板勝美編「日本書紀  訓讀 上卷(昭和八(一九三三)年岩波文庫刊)の当該部を参考に、訓読したものを示す。

   *

時に、八十萬(やそよろづ)神(かみたち)、天安河邊(あめのやすのかはら)に會(つとひにつと)ひて、其の禱(いの)るべき方(さま)を計らふ。故(か)れ、思兼神(おもひかねのかみ)、深く謀(はか)り、遠く慮(たばか)りて、遂に常世(とこよ)の長鳴鳥(ながなきとり)を聚(あつ)めて、互(たがひ)に長鳴(ながなき)せしむ。亦(また)、手力雄神(たちからをのかみ)を以つて、磐戶(いはと)の側(とわき)に立(かくした)てて、中臣連(なかとみのむらじ)の遠祖(とほつおや)天兒屋命(あまのこやねのみこと)、忌部(いんべ)の遠祖太玉命(ふとたまのみこと)、天香山(あまのかぐやま)の五百箇真坂樹(いほつのまさかき)[やぶちゃん注:よく茂った榊の樹。]を掘(ねこじ)にして、上枝(かみつえ)には、八坂瓊(やさかに)の五百箇御統(いほつのみすまる)[やぶちゃん注:大きな勾玉(まがたま)をさわに紐で連ねたもの。]を懸(とりか)け、中枝(なかつえ)には八咫鏡(やたのかがみ)を懸け、下枝(しもつえ)には靑和幣(あをにぎて)・白和幣(しらにきて)を懸(とりしで)て、相與(あひとも)に、祈禱(のみいのり)まうす。

   *]

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