「和漢三才圖會」植物部 卷第八十四 灌木類 山牡丹
やまぼたん 名義未考
【正字未詳】
山牡丹
△按山牡丹高五七尺枝婆娑葉不繁其葉似桑葉而團
亦似粉團花葉而色淺有鋸齒皺文夏開小白花畧似
南天花秋結子爲簇亦如南天子而房短落葉子尚存
與曾曾女【正字未考】 木枝葉皆似山牡丹而唯其子房小於
山牡丹耳二物共關東多有而畿内希有之
*
やまぼたん 名義、未だ考へず。
【正字、未だ詳からなず。】
山牡丹
△按ずるに、山牡丹、高さ、五、七尺。枝、婆娑《ばさ》として、葉、繁らず。其の葉、桑の葉に似て、團《まろく》、亦、「粉團花《てまり》」の葉に≪も≫似て、色、淺《あさく》、鋸齒≪と≫、皺文《しはもん》、有り。夏、小さき白花を開く。畧《ほぼ》、「南天」の花に似、秋、子《み》を結ぶ。簇《むらがり》を爲すも亦、「南天」の子のごとき≪に≫して、房、短《みじかし》。落葉して、子、尚《なほ》、存す。
與曾曾女(よそぞめ)【正字、未だ考へず。】 木・枝。葉、皆、「山牡丹」に似て、唯《ただ》、其の子房《しぼう》、山牡丹より小《ちさ》きのみ。二物、共に、關東には、多≪く≫有りて、畿内には、希《まれ》に、之れ、有り。
[やぶちゃん注:「山牡丹」なる独立種は本邦には存在しない。ネット検索では、まず、
双子葉植物綱ユキノシタ目ボタン科ボタン属シャクヤク Paeonia lactiflora 、或いは、その近縁種も含むシャクヤク類の異名
である。次いで、
ツツジ目ツツジ科ツツジ属ヤマツツジ変種ヤマツツジ Rhododendron kaempferi var. kaempferi
の異名
である。しかし、この孰れも、良安に言っている属性は「山牡丹」に当て嵌まらないと思う。まず、彼は「山牡丹の葉は桑の葉に似ており、丸く、粉団花にも似ている」と言っているのだが、前項の「粉團花」で考証した通り、バラ目バラ科シモツケ亜科シモツケ属コデマリ Spiraea cantoniensis である。しかし、シャクヤク・ヤマツツジ・クワ・コデマリの葉を比べて見たが(総てそれぞれのウィキの画像)、
■クワの葉は――丸くで――センス無くしてデッかくて――びっちり鋸歯がある
- シャクヤクとヤマツツジの葉は――どっちも細身(シャクヤクが光沢があり、よりスマート。ヤマツツジは控えめでちっこい)で孰れも鋸歯がない
◆コデマリの葉は――細身だが――ヘナヘナな細身で――鋸葉があるもののクワとは似ても似つかない
シロモノ連中ナノダ! どこにも、親和性は――ナイぞッツ!――というのが、私の結論である。随って、「葉」から種を絞ることは出来ないのである。
次いで、良安は「山牡丹の花と実は、南天の花と実に似ている」という。ナンテンの花・実(1・2)は、これだ。
キンポウゲ目メギ科ナンテン亜科ナンテン属ナンテン Nandina domestica
がそれだ。ナンテンの花と実は、シャクヤクにも、ヤマツツジにも似ていない。
一点だけ、通性があるように見える(植物体の他の部分が、全然、似てないんだから、無理矢理と言ってもよいのだが)のは、ウィキの「ヤマツツジ」に、『果実は蒴果で長さ』六~八『の長卵形で』八~十『月に熟し』、『裂開する。冬でも裂開した果実が枝に枯れ残っていることも多い』とあり、これは、良安の言う「房は短い。落葉しても、子(み)はなおも残っている」というのと見かけは似ている。しかし、私は無論、この「山牡丹」の種候補にヤマツツジを挙げるつもりは、さらさら、ない。東洋文庫訳も、一切、ダンマリである。しかし、良安は、この種を頑強に独立項に掲げ、しかも、酷似するが、「子房」だけは小さい別種「與曾曾女(よそぞめ)」をさえ、挙げているのである。彼が、この「子房」の語を使うのを初めて見たが、植物学的な厳密な器官の意ではなく、ただ、種の入っている果実が、有意に小さいと言っているに過ぎない。
しかし……うん?……この同属別種とする「與曾曾女(ヨソゾメ)」という名前……このプロジェクトで……一回……注で書いたのを思い出したぞッツ?
なんだ!! クソ!!! こいつ!
マツムシソウ目ガマズミ科ガマズミ属ガマズミ Viburnum dilatatum の異名
じゃねえか!!! しかも、
ガマズミは先行する「莢蒾」で同定比定した奴だゾ!
ガックリきた…………そっち……見てくれ……ここまで費やした時間……延べ六時間を無駄にした……
……さて――この良安の言う「山牡丹」と「與曾曾女」の二種は何か――
ウィキの種の「ガマズミ」には、『近縁のコバノガマズミ( Viburnum erosum Thunb.)やミヤマガマズミ( Viburnum wrightii Miq)の葉は』、『比較的』、『細長く』、『先端が尖った楕円形であるので、区別できる(しかし葉は変異が多いため、区別しにくいこともある)』とあるから、この三種のどれか、と言っちまうのが、一番、手っ取り早いが、
日本には、ガマズミ属はウィキの「ガマズミ属」では、『日本には15種ほど自生する』とあって、和名のある種は十七種を挙げてあるものの、その内、当該種ページがあるものは、十二種しかない。しかも、そこには、植物に詳しくはない私でも、名前を見ただけでも、凡そ「ガマズミ」とは、見かけが、ジェンジェン違う種が含まれている(例えば、ガマズミ属サンゴジュ変種サンゴジュ Viburnum odoratissimum var. awabuki )から、そいつらをいちいち分布検証するほど、俺は奇特な人間じゃねし!
別に「一般社団法人日本植木協会」公式サイト「理想の植木を見つけに行こう!」の「【ナショナルプランツ コレクション】ガマズミ2」には、『ガマズミの仲間(ガマズミ属Viburnum L.)は世界で150種以上あり、日本には主に12種が生育している』(学名が斜体になっていないのはママ)ってあるし!
最も信頼出来る「跡見群芳譜」の「樹木譜」の「がまずみ」でも、明快な種同定に至り得る記載は、ない。
……これ以上、種同定する気は――最早――ないね――悪しからず――]
« 「神威怪異竒談」(「南路志」の「巻三十六」及び「巻三十七」)正規表現電子化注「巻三十七」 (宝曆十一巳年東將軍家御上使有ける時武江の數輩子安櫻の產婦に奇なるを聞て……) / 「神威怪異竒談」(「南路志」の「巻三十六」及び「巻三十七」)正規表現電子化注~了 | トップページ | 「和漢三才圖會」植物部 卷第八十四 灌木類 小粉團花 »