和漢三才圖會卷第八十六 果部 五果類 杏
あんす 甜梅
【和名加良毛々
俗云阿矣須】
杏【音荇】
杏何梗切音衡
然今呼如姜音
からもゝ
本綱云杏葉圓而有尖二月開紅花亦有千葉者不結實
甘而有沙者爲沙杏黃而帶酢者爲梅杏青而帶黃者爲
柰杏大如梨黃如橘者爲金杏
杏實【酸熱有小毒】多食動宿病產婦最忌之
杏仁【甘苦溫冷利有小毒】 降也陰也入肺經其用有三潤肺消
食積也散滯氣也除風熱咳嗽去治大便秘
杏仁【治氣】桃仁【治血】便難脉浮者屬氣用杏仁陳皮脉沉者
属血用桃仁陳皮用凡雙仁者不可用殺人【𢙣黃芩黃芪葛根】
三才圖會云杏東方歳星之精接梅者味酸接桃者味甘
畫譜云杏根生最淺以大石壓根則花盛果結宜近人家
者盛也
△按杏山林及家園皆有之信州最多而出杏仁販他邦
凡桃仁扁長有皺梅仁圓而尖杏仁大於梅仁而圓微
皺三者宜辨
新六いかにして匂ひ初めけん日の本の我国ならぬからもゝの花衣笠内大臣
*
あんず 甜梅《てんばい》
【和名、「加良毛々《からもも》」。
俗、云ふ、「阿矣須《あんず》」。】
杏【音「荇《カウ》」。】
【杏は、「何《カ》」「梗《コウ》」の切。
音「衡《カウ》」。然≪しかれども≫、
今、呼《よぶ》こと、「姜《キヤウ》」
のごとき音《なり》。】
からもゝ
「本綱」に云はく、『杏は、葉、圓《まろく》して、尖《とがり》、有り。二月、紅≪き≫花を開く。亦、千葉《やへ》の者、有≪るも≫、實を結ばず。甘《あまく》して、沙《糖》[やぶちゃん注:砂糖。]≪の味≫有る者を「沙杏《しやきやう》」と爲《な》≪し≫、黃にして、酢を帶《おぶ》る者を「梅杏《ばいきやう》」と爲す。青《あをく》して、黃を帶ぶ者、「柰杏《だいきやう》」と爲す。大いさ、梨のごとく、黃≪にして≫、「橘《きつ》」のごとき者を「金杏《きんきやう》」と爲す。』≪と≫。
『杏實《きやうじつ》【酸、熱。小毒、有り。】多《おほく》食へば、宿病[やぶちゃん注:持病(を持つ者の場合を言う)。]を動《うごか》す。產婦、最《もつとも》、之れを忌《いむ》。』≪と≫。
『杏仁《きやうにん》【甘苦、溫。冷利《たり》。小毒、有り。】 降《かう》なり[やぶちゃん注:体内で下降する性質がある。]。陰なり。肺經《はいけい》に入る。其の用《よう》、三つ、有り。肺を潤《うるほ》すや、食積《しよくしゃく》[やぶちゃん注:食物のつかえ。]を消すや、滯《とどこほ》≪れる≫氣を散《さんず》るや、なり。風熱・咳-嗽《せき》を除き、大便の秘《つまれる》を治す。』≪と≫。
『「杏仁」は【氣を治す。】。「桃仁」は【血を治す。】。便、難《かた》く、脉、浮《ふ》なる[やぶちゃん注:指を軽くあててもすぐに判る脈で、力を入れて圧すと、抵抗がなく消えそうになる脈の状態を言う。]者は、氣≪に≫屬す。≪此れには≫、「杏仁の陳皮《ちんぴ》」を用ふ。脉、沉《ちん》なる[やぶちゃん注:指を軽く当てただけでは、拍動を触れず、深く圧迫して初めて触れる脈を言う。]者は、血《けつ》に属す。≪此れには≫、「桃仁の陳皮」を用ふ。凡そ、雙仁《さうにん》の者、用ふべからず。人を殺す【黃芩《わうごん》・黃芪《わうぎ》・葛根《かつこん》を𢙣《い》む。】。』≪と≫。
「三才圖會」に云はく、『杏は、東方歳星《とうはうさいしやう》の精≪なり≫。梅に接(つ)ぐ者、味、酸《す》≪にして≫、桃に接く者は、味、甘し。』≪と≫。
「畫譜」に云はく、『杏の根、生ずること、最も、淺し。大なる石を以つて、根に壓(をもしにす[やぶちゃん注:ママ。])れば、根、則ち、花、盛《さかん》≪にして≫、果、結んで、宜しく、人家に近き者は盛なり。』≪と≫。
△按ずるに、杏《あんず》は、山林、及び家園に、皆、之れ、有り。信州に、最も多し。杏仁を出《いだ》して他邦に販《ひさぐ》。凡そ、桃仁は、扁《ひらた》く、長くして、皺、有り。梅仁《ばいにん》は、圓(ゑん)にして、尖《とが》り、杏仁は、梅仁より、大にして、圓《まろ》く、微《やや》、皺《しは》む。三者、宜しく、之を辨ずべし。
「新六」
いかにして
匂ひ初《そ》めけん
日の本《もと》の
我《わが》国ならぬ
からもゝの花 衣笠内大臣
[やぶちゃん注: 「杏」は、日中ともに、
双子葉植物綱バラ目バラ科サクラ亜科サクラ属杏子節 Armeniaca アンズ変種アンズ Prunus armeniaca var. ansu
である(「維基百科」の「杏」を見よ)。当該ウィキを引く(注記号はカットした。全体はかなり長いので、適宜、省略した)。漢字表記は『杏子・杏』。『アプリコット(Apricot)と英名で呼ばれることもある。別名、カラモモ(唐桃)。中国北部で形成された東洋系の品種群には、ウメとの交雑の痕跡がある。原産地は諸説あるものの、中国の山東省、河北省の山岳地帯から中国東北地方の南部とする説が有力とされる。学名』(広義)『の Prunus armeniaca は、ヨーロッパにおいては』、『近世にいたるまで』、『アルメニア(Armenia)が原産地と考えられていたためつけられたもの』である。『和名アンズは』「杏子」『の唐音とされている。古名は、カラモモである。中国原産で、中国植物名は杏』(シィン)。『中国大陸から日本への渡来は古く、日本最古の本草書』「本草和名」(延喜一八(九一八)年成立)『には、漢字を「杏子」、和名「カラモモ」とある。標準和名アンズの読みは、江戸時代になってから、漢名の杏子を唐音読みでアンズとなったといわれている』。『中国の北東部、山東省、河北省、山西省、黄河より北の原産といわれる。日本では、長野県、山梨県、山形県を中心に栽培されている』。『落葉広葉樹の小高木。樹皮は暗灰褐色でやや赤みを帯び、縦に割れ目が入る。一年枝は赤褐色で』、『やや光沢があり』、『無毛』。『開花期は春』(三~四月頃)。『サクラよりもやや早く、葉に先立って淡紅色の花を咲かせる。花は一重咲きのほか、八重咲きの品種もある。葉は卵円形で葉縁には鋸歯がある』。『花は美しいため』、『花見の対象となることもある。自家受粉では品質の良い結実をしないために、他品種の混植が必要であり、時には人工授粉も行われることがある』。六~七『月には収穫期を迎え、ウメによく似た果実は』、『橙黄色に熟し、果肉は赤みを帯びて核と離れやすくなる。果実の表面には、細かな産毛が密生する。果実を利用するため』、『栽培されている』。『冬芽は互生し、広卵形で暗褐色から赤褐色をしており、多数の芽鱗に包まれている。花芽は葉芽よりも大きく、葉痕部は膨らんでいる。葉痕は半円形や楕円形で、維管束痕が』三『個つく』。『アーモンド』(サクラ属アーモンド Prunus dulcis :中央アジア原産)『やウメ、スモモと近く、容易に交雑する。ただし、ウメの果実は完熟しても果肉に甘みを生じず、種と果肉が離れないのに対し、アンズは熟すと甘みが生じ、種と果肉が離れる(離核性)。またアーモンドの果肉は、薄いため』、『食用にしない。耐寒性があり』、『比較的涼しい地域で栽培されている』。『病害虫に注意する。防除体系(防除暦)に基づき』、『適切な農薬使用を行う。冷涼地、乾燥地では無農薬栽培が可能』。『一年生の植物と異なり、アンズなどの樹木に実る果実はその種を播いても同じ物は実らない。従って苗は接ぎ木によって増やされる。台木には、実生が用いられる』。『ホウ素欠乏土壌では実の外観不良が発生しやすく、ホウ素欠乏抑制のため施肥管理が重要。成木ではカリ、燐酸を多めにする』。『中国原産であるが、日本へは』古くの『渡来種とされ、弥生時代以降の遺跡から出土している。果樹として栽培の歴史は古く、愛媛、広島など瀬戸内地方、青森県津軽地方が古い産地である。広島大実などの品種がある』。『長野県ではアンズの栽培が盛んだが、そのきっかけは』三百『年以上も昔に遡る。伊予宇和島藩のお姫様が』、『この地に輿入れする際、故郷の花を忘れないため』、『アンズを持ち込み、城内に植えたのが始まりとされている』。現行では、『長野県千曲市の森地区』(ここ。グーグル・マップ・データ)が『日本一のあんずの里として知られる』。以下、「品種」の項の冒頭。『大別すると、中央アジアからヨーロッパに広まった西洋系と、中国から日本へ渡った東洋系に分かれる。ヨーロッパ、中央アジアで発展したアプリコットは甘い品種が多く、東アジアで発展したアンズは酸味が強い品種が多い傾向がある』。続いて、品種の簡単な解説附きの表があるが、そちらで見られたい。以下、「利用」の項。『果実は生食のほか、ジャムや乾果物、果実酒などにして利用される。薄い桃色の花は花材にもされる。果実の果肉は、カロテン(ビタミンA)・B2・Cのほか、クエン酸、リンゴ酸などの有機酸、スクロースなどの糖分』を五~十『%を含む。未成熟な種子や果実には、青酸配糖体の一種アミグダリンが含まれる』。『種子(仁)は、アミグダリンを約』三『%、脂肪油を約』三十五『%、ステロイドなどを含んでおり、杏仁(きょうにん)と呼ばれる咳止め(鎮咳)や去痰、風邪の予防の生薬(日本薬局方に収録)として用いられている。また種子は、杏仁豆腐の独特の味を出すために使用される』。『アンズは春に花が咲き』、六~七『月に旬を迎える出回り期の短い果物である。橙黄色に熟した果実の果肉は、そのまま生食してもおいしく、核(種子)を除いて』一『週間ほど日干しにすれば』、『干しアンズになる。カナダで育成されたハートコットは甘味が強い生食用品種であるが、日本在来種は酸味が強く、生食に向かないものが多いため、干しアンズやシロップ漬けなどの加工品になる。また、生の果肉か』、『干しアンズを使って、砂糖を加えてとろ火で煮るとアンズジャムができる。シロップ漬けは、干しアンズを広口瓶に入れて、水に砂糖を入れて一度煮立ててから冷ました砂糖水を注いで、二『週間ほどおいて作る。料理では、杏仁豆腐などがある。アンズ酒は』、六月頃『に収穫した青い未熟果を』『焼酎』で『漬け込んで』、三ヶ『月ほど冷暗所において作る。出来上がったら』、『漬けた果実は取り除く』。「杏仁(あんにん)」の項。『種子の中にある仁(じん)は、杏仁(きょうにん)という名の漢方になる苦い仁と、杏仁(あんにん)とよばれる菓子に使われる甘い仁がある。中華のデザート杏仁豆腐にも使われ、本来は薬膳料理であり、甘い杏仁(あんにん)の粉を寒天でかためてシロップに入れたものである。現在』、『デザートとして作られているものは、杏仁と同じ芳香成分ベンズアルデヒドをもつアーモンド』・『エッセンスで風味をつけていることが多い』。以下、「漢方と民間療法」の項。『本種またはその他近縁植物の種子は杏仁(きょうにん)または杏子(きょうし)、果実は杏子または杏実(きょうじつ)と呼ばれる生薬であり、日本薬局方にも収録されている。鎮咳、去痰、嘔吐に用いるほか、麻黄湯、麻杏甘石湯、杏蘇散などの漢方処方に用いられる。キョウニンを水蒸気蒸留して精製したものがキョウニン水で、鎮咳に用いる。杏仁は熟した果実を採集して、核を除いて種子をとって天日乾燥して調製する。果実は生でも天日干しにしたもの、どちらも薬用にできる』。『民間療法では、咳、喘息、便秘に、生の果実』や『種子(杏仁)』を『水で煎じて』『服用する用法が知られている。下痢しやすい人や、妊婦には服用禁忌とされる。滋養保健、冷え性、低血圧の改善に、アンズ酒を就寝前に盃』一『杯ほど飲むのが良いといわれている。種子は、脂肪油を含み、脂肪油はのどの腫れや痰の排出に役立つとされる』。(☞)『しかし、アミグダリン(青酸配糖体)』(amygdalin)『は酵素の働きで青酸を生じ、微量で呼吸や血管の中枢を興奮させ、大量でめまい、吐き気、動悸、息切れなどの中毒症状や麻痺がおこるので、生の果実の多量摂食や種子の多量服用は禁忌である』(☜)。『解毒するには、アンズの樹皮を煎じて飲むとよいといわれている』。以下、「医学的知見」の項。『アンズの種子に含まれるアミグダリン(青酸配糖体)はサプリメントなどに配合され、俗に「がんに効く」などとわれているが、人を対象にした信頼性の高い研究で』、『がんの治療や改善、延命に対して』、『効果はなく、むしろ青酸中毒を引き起こす危険性があると報告されている。過去にアミグダリンをビタミンの一種とする主張があったが、生体の代謝に必須な栄養素ではなく欠乏することもないため、現在では否定されている。アメリカ食品医薬品局(FDA)は、治療に何の効果も示さない非常に毒性の高い製品であり、本来の医療を拒否したり』、『開始が遅れることにより命が失われていると指摘し、アメリカでの販売を禁じている』。『古くから葉や種子は生薬として使用されてきたが、これはアミグダリンを薬効成分として』、『ごく少量』、『使い、その毒性を上手に薬として利用したものである。薬効を期待して利用する場合は』、『必ず』、『医療従事者に相談し、自己判断での摂取は避けるように』せねばならない。『食薬区分においては、キョウニン(アンズ/クキョウニン(苦杏仁)/ホンアンズの種子)は「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)」(医薬品)にあたり、食品、健康食品としての流通はできない。 カンキョウニン(甜杏仁)は「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)」(非医薬品)にあたり、食品、健康食品としての流通はできるが医薬品的な効能効果を表示することはできない。日本のアンズの仁は』、『ほとんどがアミグダリンを多量に含む苦杏仁である』。『アンズ、ウメ、モモ、スモモ、アーモンド、ビワなどのバラ科サクラ属植物の種子(種皮の内部にある胚と胚乳からなる仁)には』、孰れも『種を守るために青酸配糖体であるアミグダリンが多く含まれ、未熟な果実や葉、樹皮にも微量含まれ』ている。『アミグダリン自体は無毒であるが、経口摂取することで、同じく植物中に含まれる酵素エムルシンや、ヒトの腸内細菌がもつ酵素β-グルコシダーゼによって体内で分解され、シアン化水素(青酸)を発生させる。シアン化水素はごく少量であれば安全に分解されるが、ある程度摂取すれば』、『嘔吐、顔面紅潮、下痢、頭痛等の中毒症状を生じ、多量に摂取すれば意識混濁、昏睡などを生じ、死に至ることもある』。しかし、『熟した果肉や加工品を通常量摂取する場合には、安全に食べることができる。アミグダリンは果実の成熟に従い、植物中に含まれる酵素エムルシンによりシアン化水素(青酸)、ベンズアルデヒド(アーモンドや杏仁、ビワ酒に共通する芳香成分)、グルコースに分解されて消失する。この時に発生する青酸も揮散や分解で消失していく。また、加工によっても分解が促進される』。『しかし、種子のアミグダリンは』、『果肉に比べて高濃度であるため、成熟や加工によるアミグダリンの分解も果肉より時間がかかる。種子がアミグダリンをもつのは自分自身を守るためにあると考えられ、外的ショックを受けてキズが入った種子には』千~二千『ppmという高濃度のシアン化水素を含むものもある。生の種子を粉末にした食品の中には、小さじ』一『杯程度の摂取量で安全に食べられるシアン化水素の量を超えるものある』。二〇一七『年に高濃度のシアン化合物(アミグダリンやプルナシン)が含まれたビワの種子の粉末が発見されたことにより、厚生労働省は天然にシアン化合物を含有する食品と加工品について』、十『ppmを超えたものは食品衛生法第』六『条の違反とすることを通知した。海外ではアンズの種子を食べたことによる死亡例が報告されている。欧州食品安全機関(EFSA)は、アミグダリンの急性参照用量(ARfD)(毎日摂取しても健康に悪影響を示さない量)を』二十『μg/kg体重と設定した。その量は小さなアンズの仁で小児は半分、成人は』一~三『個程度である。急性中毒については小児で』五『個以上、成人で』二十『個以上との報告がある。アミグダリンの最小致死量は』五十『mg/kgであり』、三グラム『のサプリメント摂取による死亡報告がある』。『厚生労働省は、アンズやビワなどの種子を利用したレシピの掲載についても注意喚起を行っている。家庭で生のアンズやビワの仁から杏仁豆腐を作ると、調理実験により数分煮るだけではシアン化物が全て除去されないことが報告されている。場合によっては』一~二『食分の杏仁豆腐でシアン化物の急性参照用量(ARfD)を超えることが考えられる』。『材木』として『柱、敷居』の材となる、と終りにある。
但し、注目すべきは、「維基百科」の「維基百科」にある「杏组」である。これは、本邦のウィキにはない、所謂、現行の「杏節」に相当するするものの独立ページであり、
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杏组(學名: Prunus sect. Armeniaca )是李属李亚属的一个组,分布于欧亚大陆。组下物种的果实通称杏,突出观赏价值则称为杏花。
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これは、機械翻訳を参考にすると、『アンズ節(学名:Prunusct. Armeniaca )は、ユーラシア大陸に分布するスモモ属或いはサクラ属の群である。この群に属する種の果実は、一般に「杏」と呼ばれ、観賞価値の優れた種は「杏花」と呼ばれている。』となろうか。興味深いのは、その以下に、次に示す十一種をリストしていることである(実在するリンクのみを残して示す)。幸いにして、Katou氏のサイト「三河の植物観察」の「アンズ 杏、杏子」のページに詳細な種群が記されてあるので、そこにあるものの一部を添えた丸括弧内に示しておいた。それが判るように、同ページから引用したものには、初回以降は、引用符の前に★を附しておいた。なお、そちらのページでは学名が斜体になっていないが、斜体にして示した。
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○杏 Prunus armeniaca
○布里扬松梅 Prunus brigantina(「扬」は「揚」の簡体字。これには、注があり、『この分類には議論の余地がある。葉緑体 DNA 配列によれば、「ブリアン・パイン・プラム」のグループと、「プラム」のグループの種に分離群を成してているが、核 DNA 配列によれば、この二つの群は、より近いからである』といった内容が書かれてある。Katou氏のサイト「三河の植物観察」の「アンズ 杏、杏子」のページでは、★『ブリアンソンアプリコット』とされ、『フランス、イタリア原産。英名はalpine apricot , Briançon apricot , Briançon plum , marmot plum。』とある。)
○华仁杏 Prunus cathayana
○紫杏 Prunus × dasycarpa(★『中国(新疆ウイグル自治区)、カシミール、ロシア、南西アジアで栽培され、野生種は知られていない。中国名は紫杏 zi xing。』)
○洪坪杏 Prunus hongpingensis(リンク先に『湖北省の標高千八百メートル以上の道路沿いや集落を中心に植生し』、『特に舟山県』(グーグル・マップ・データ)『紅平村で生産される』とある)
○背毛杏 Prunus hypotrichodes
○李梅杏 Prunus limeixing(★シノニム『 Prunus × limeixing 』。★『中国原産。中国名は李梅杏 li mei xing。栽培種であり、野生種は知られていない。』)
○东北杏 Prunus mandshurica(★『マンシュウアンズ 満州杏』。『朝鮮、中国、ロシア原産。中国名は东北杏 dong bei xing。)
○梅 Prunus mume(本書の次の項が「梅」である)
○山杏 Prunus sibirica(リンク先によれば、別名を『西伯利亚杏』(シベリア杏(あんず))とし、種小名は「シベリアの」意であるとある。★『モウコアンズ 蒙古杏』。★『朝鮮、中国、モンゴル、ロシア原産。中国名は山杏 shan xing。』)
○政和杏 Prunus zhengheensis(リンク先によれば、『「紅梅杏」とも呼ばれ』、『福建省、浙江省などに分布』とあり、『中国に於ける第二級国家重点保護野生植物である』とある)
「本草綱目」に記される各種の名は、これらの中の種と各個的に同一である可能性が極めて高いと思われるからである。
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「本草綱目」の引用は、基本、「漢籍リポジトリ」の「卷二十九」の「果之一」の「五果類一十二類」の二項目の「杏」([073-4a]以下)のパッチワークである。
「甜梅《てんばい》」同前の「杏」の「釋名」の冒頭にこの異名を載せており、意味から見ても問題ない古い異名である。但し、現行、この熟語は、中国語では、アンズの異名ではなく、特に台湾の「干し梅」(青梅の塩漬け・砂糖漬け・乾燥の行程を何度も繰り返して作る伝統的な梅加工品で、梅の美味(うまみ)と酸甘の味を特徴とするもの)を、専ら、指すようである。
「加良毛々《からもも》」唐桃。
『杏は、「何《カ》」「梗《コウ》」の切』東洋文庫訳では、この反切の「何」の字を誤字として、割注で正しい字を『下』として挿入している。しかし、複数に中文サイトを見るに、「集韻」と「韻會」では『下梗切』とするが、「正韻」では『何梗切』であるから、問題ない。中国で時代によって発音が異なることは、よく知られたことである。
「沙《糖》[やぶちゃん注:砂糖。]≪の味≫有る者」この訓読は東洋文庫訳を参考にした。確かに「沙」は「砂」の正字ともされ、「沙」には、「熟れ過ぎたもの」の意はあるものの、砂糖の意はないので、以上の訓読はちょっと問題があるように自分乍ら、思われはする。しかし、直下に出る「沙杏《しやきやう》」はそのようなニュアンスを体現している熟語とも感じられるので、かく、した。事実、「百度百科」の「沙杏」には、『指杏的一种,果肉甜而多汁』とある。しかし、その出典の第一は、以上の「本草綱目」のこの箇所であり、現在の種名を記さない。
「梅杏《ばいきやう》」不詳。因みに、調べている中で、中文サイトで「辽梅杏」(「遼梅杏」(園芸品種Prunus sibirica cv. Pleniflora )、シノニムと思われる「辽梅山杏」( Prunus sibirica 'Pleniflora' )という種を見つけはした。
「柰杏《だいきやう》」不詳。因みに、「柰」は本邦では古くリンゴ類、又は、バラ科シモツケ亜科ナシ連ナシ亜連カリン属カリン Pseudocydonia sinensis の異名である。
「橘《きつ》」これは、双子葉植物綱バラ亜綱ムクロジ目ミカン科ミカン属マンダリンオレンジ Citrus reticulata のこと。当該ウィキによれば、『原産地はインドのアッサム地方で、これが交雑などで変化しながら世界各地に伝播したものと考えられている』もので、一方、本邦の「橘」は、古代を除き(「古事記」に出る「橘」は如何なる種であったかは、現在も確定不能である)、同じミカン属ではあるが、日本固有のタチバナ Citrus tachibana で、種としては、異なる。
「金杏《きんきやう》」不詳。なお、本邦では、信州産の「干しあんず」を甘露煮にした商品の名としては、ある。
「杏仁《きやうにん》」講談社「漢方薬・生薬・栄養成分がわかる事典」によれば(一部の読みを省略した)、『漢方薬に用いる生薬の一つ。バラ科アンズの種子を乾燥させたもの。鎮咳、去痰の作用があり、気管支炎、喘息などに用いる。感冒、肺炎、気管支喘息に効く麻黄湯(まおうとう)、気管支炎、小児喘息に効く麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)、気管支炎、気管支喘息に効く苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)などに含まれる。また、あんず酒は疲労回復に効く』とある。
「肺經《はいけい》」肺の動きを司る経絡。腹から胸・喉・鎖骨・上腕の前内側・肘・前腕の前内側・親指までの経絡を言う。
「杏仁の陳皮」この「陳皮」は極めて限定的な種子の皮を指す、特異な用法である。本来の「陳皮」はウィキの「陳皮」によれば、『成熟前の青い果皮を「青皮」というのに対し、成熟した状態の果皮であることを指す』とあるからである。
「雙仁《さうにん》」種子が二つあるもの。
「黃芩《わうごん》」「黃苓(わうきん)」に同じ。双子葉植物綱キク亜綱シソ目シソ科コガネバナ Scutellaria baicalensis の根から採れる生薬。漢方にあっては婦人病の要薬として知られる。血管拡張・血行循環促進・産後の出血・出血性の痔・貧血・月経不順といった補血作用(但し、多くは他の生薬との調合による作用)を持ち、冠状動脈硬化性心臓病に起因する狭心症にも効果があるとする。
「黃芪《わうぎ》」マメ目マメ科ゲンゲ属キバナオウギ Astragalus membranaceus の根を基原とする生薬。当該ウィキによれば、『止汗、強壮、利尿作用、血圧降下等の作用がある』とある。
「葛根《かつこん》」基原植物は本原種の周皮を除いた根を乾燥したもので、「葛根湯」で現在もお馴染みの風邪薬・解熱鎮痛消炎薬に配合されている。なお、ウィキの「クズ」によれば、『花は可食で、シロップ漬け』『や天ぷらなどにすることができる。ただし』、『他のマメ科植物同様にレクチンを中心とした配糖体の毒性が含まれており、多量に摂取すると吐き気、嘔吐、眩暈、下痢、胃痛などを起こすおそれもあるため、あまり食用には適していない。加熱されていない種子は食中毒の可能性がより高くなる。その他に、樹皮や莢にはウイスタリン(wistarin)、種子には有毒性アルカロイドの一種であるシチシン(cytisine)が存在するという報告も上がっている』とあるので、要注意である。
『「三才圖會」に云はく、『杏は、東方歳星《とうはうさいしやう》の精≪なり≫。梅に接(つ)ぐ者、味、酸《す》≪にして≫、桃に接く者は、味、甘し。』≪と≫。』お馴染みの東京大学の「三才図会データベース」で、当該画像をダウンロード(図ページ、及び、次の解説ページ)し、トリミングして、画像の汚損と判断したものを清拭したものを以下に示す。
この「東方歳星」は、中国の占星術に組み込まれた古代インドの天文学(占星術)の「九曜星」(くようしょう)」の一つで、現在の太陽系の木星に当たる。「梅に接(つ)ぐ者、味、酸《す》≪にして≫、桃に接く者は、味、甘し。」とあるのは、実際に接ぎ木可能である。素敵な個人サイト「宮菜園」の「多品種接木」がよい。それに拠れば、『モモ、スモモ、プルーン、梅/アンズ、リンゴ、梨等それぞれの木種同士で多品種を接いで育てるのは、一部の例外を除いて、概ね問題なく生育します。本ページでは、スモモにモモやプルーン、梨にリンゴ等、異なった果物の木種を接いで育てる例を多品種接木としてご紹介しています』。『現在確認出来ているのは、以下の2種のグループです』(以下の不等式表記間にある空欄の一部を省略した)。『① スモモ≧梅/アンズ>プルーン>桃』/『② 洋梨>和梨>リンゴ』/この『各グループ内では相互に接木可能ですが、≧や>で示した様な樹勢の強弱があり(この場合左側の品種の樹勢力が」強いことを示す)、枝の勢力調整が必要です』。『例えば、①のグループでは、枝の勢力が強くなる上の方(頂芽優勢)に樹勢の弱い桃を配置し、なるべく勢力を強くする様な処理が必要です』。『以上は枝関係の基本の考えですが、台木によって樹全体の生育状況が変わってくるため、実際育てる場合、台木、中間台、枝の配置などを試しながら試行錯誤の育成となっています』と記しておられる。以下に、驚くべき接ぎ木群の模式図がある。必見! また、「YAHOO!JAPAN知恵袋」のQ&Aに、『梅の木に杏の枝を接ぎ木できるでしょうか』。『接ぎ木をすることによって同じ時期に花を咲かせることは可能でしょうか?』『杏と梅を同時に収穫は可能でしょうか?』という質問に対しての答えに、「有機菜果 種接(タネツギ)」さんが、『寒冷地以外では、接ぎ木して活着すれば問題なしと考えて結構です』。『ウメ台は、アンズ台に比べて、活着と耐寒性で劣るされています。(東城喜久著『アンズ』p.23 農文協)』『接ぎ穂の持つ性質はそのまま維持されるので、接ぎ木によって開花期は変わってきません。同時期に咲かせるには、同時期に開花する枝同士で接ぐ必要があります』。『アンズの開花期は普通のウメより遅いので、豊後など遅咲きの梅に接げば、開花期はある程度重なり、相互受粉が部分的に可能です』。『>杏と梅を同時に収穫は可能でしょうか?』について、『上文中の同時とは、「同時期」の意味と仮定して次を書きます』。『豊後にアンズ(品種不詳)を接いで収穫したことがあります。豊後収穫の10日後程度にアンズを収穫できました。収穫時期が特に早いアンズ品種を選ばないと、同時期には収穫できないでしょう』。『同時期に収穫できる意味を考えにくいので、「両種を」の意味かとも思います。両種収穫可能です』。『接ぎ木できるのは、科の下の分類である属が同じ場合です』。『ウメは Prunus mume 、アンズは Prunus armeniaca ですので、接ぎ木活着の可能性があるのです。バラ科ノイバラ Rosa multiflora などとは接げません』。『接げるということは、一応活着伸長するということで、十分に生育結実する実用性までは含んでないのが普通です。しかし、豊後性のウメへのアンズ接ぎは、実用性まで大丈夫です』と記しておられ、先の不等式でも、梅とアンズは等価位置にあるので、大いに納得出来た(学名の斜体は私が施した)。
「畫譜」東洋文庫の巻末の「書名注」によれば、『七巻。撰者不詳。内容は『唐六如画譜』『五言唐詩画譜』『六言唐詩画譜』『七言唐詩画譜』『木本花譜』『草木花譜』『扇譜』それぞれ各一巻より成っている』とあった。
「新六」「いかにして匂ひ初《そ》めけん日の本《もと》の我《わが》国ならぬからもゝの花」「衣笠内大臣」「新六」は「新撰和歌六帖(しんせんわかろくぢやう)」で「新撰六帖題和歌」とも呼ぶ。寛元二(一二四三)年成立。藤原家良(衣笠家良:この歌の作者)・藤原為家・藤原知家(寿永元(一一八二)年~正嘉二(一二五八)年:後に為家一派とは離反した)・藤原信実・藤原光俊の五人が、寛元元年から同二年頃に詠んだ和歌二千六百三十五首を収録した類題和歌集。奇矯・特異な詠風を特徴とする。日文研の「和歌データベース」の「新撰和歌六帖」で確認した。「第六 木」のガイド・ナンバー「02421」である。そこでの表記は、
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いかにして-にほひそめけむ-ひのもとの-わかくにならぬ-からもものはな
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となっている。]