和漢三才圖會卷第八十五 寓木類 附 苞木類 虎彪竹
とらふだけ 俗稱
虎彪竹
△按虎彪竹出於豊後姥之嵩筱竹之類而竹黃白色有
黒斑文微似虎皮之紋故名之用爲笻爲煙筒佳
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とらふだけ 俗稱
虎彪竹
△按ずるに、虎彪竹は豊後、「姥が嵩(うばがたけ)」より出づ。「筱竹《しのだけ》》」の類《るゐ》にして、竹、黃白色、黒≪き≫斑文、有り。微《やや》、虎皮《とらがは》の紋に似、故《ゆゑ》、之れを名づく。用《もちひ》て、笻《つゑ》と爲《なし》、煙筒(ラウ)[やぶちゃん注:煙管(きせる)の筒。先行する「竹」の私の後注「無節竹《むせつちく/ラウだけ》」を見られたい。]と爲《な》≪して≫、佳《よ》し。
[やぶちゃん注:この「虎彪竹」=「虎斑竹」は、本来的には、
竹の和名ではなく、黴(カビ)の一種に感染した複数のタケ類に感染をして、自然状態では、黒い汚ない煤(すす)のような斑紋を起こすタケ類の疾患個体(群)を指すもの
である。ウィキの「トラフダケ自生地」によれば、
◎『マダケやトウチクなど様々なタケに寄生する』菌である
とするものの、特に、現在、竹の一種である、
★タケ亜科ナリヒラダケ属ヤシャダケ(夜叉竹) Semiarundinaria yashadake の感染群落
が、岡山県真庭市と同県津山市の二箇所にあり、現在、そこが、
「トラフダケ自生地」という名称で「天然記念物」に指定されている
ため、あたかも
――ヤシャダケの異名のように誤認されている――
向きがあるようである。因みに、このタケに寄生する原因菌は、
菌界子嚢菌門チャワンタケ(茶碗茸)亜門フンタマカビ(糞玉黴)綱ディアポルテ亜綱 Diaporthomycetidaeカロスフェリア目 Calosphaerialesカロスフェリア科Chaetosphaeria カロスフェリア属カロスフェリア・フシスポラChaetosphaeria fusispora (シノニム:Miyoshia fusispora Kawamura / Miyoshiella fusispora :幾つかの記事は「虎紋菌」と記載するが、正式和名ではない)
という、子嚢殻中に子嚢を生じることを特徴とするディアポルテ亜綱の菌
で、
竹の稈(=幹)に特徴的な虎斑紋が生ずるものタケ類の疾患
である。ところが、ウィキの「トラフダケ」では、専ら、ヤシャダケのみを述べて、『感染による斑紋の美しさから江戸時代より珍重され、産地では伐採の規制などが行われてきた』と記してあるのである。ウィキの「トラフダケ自生地」へのリンクはあるのだが、他のタケも感染することが、全く記されておらず、語りも簡便に過ぎ、甚だ問題がある。寧ろ、ウィキの「トラフダケ自生地」が、丁寧な解説があり、好ましい。『この黒い斑紋は、煤のような汚いものに見えるが、虎斑菌は稈の表面だけでなく稈組織に深く入り込むため、これを拭い落して磨くと稈の表面に渋味のある美しい模様が浮かび上がり、ちょうど』、『張り子の虎の胴にある模様に似た黒い模様になるので虎斑竹と呼ばれ』、『磨けば磨くほど立派な斑紋が出るという』。天然記念物指定地となった地の種である『ヤシャダケは』、『稈の高さ約』四~八『メートルほどの中型のタケで』、『一説には福井県と岐阜県の県境近くにある』、『夜叉ヶ池畔で発見されたので』、『この名前が付いたと言われており』、『本州中部以西の川沿いに分布している』。『トラフダケのような稈に斑模様のある竹は斑竹(はんちく、まだらだけ)と呼ばれ、寄生する菌類や宿主となる竹の種類により』、『「圏紋竹」「ごま竹」「さび竹」など』の『複数』の変成を受けた『種が知られているが、これらは』疾患個体である『トラフダケに限らず古くから珍重され、日本国内ではキセルの管である「羅宇(らう)」の材質に使用されたり』、『正倉院の御物中の筆』十七『管のうち』、八『管が斑竹が使用されているなど』、『希少な装飾品として紋様が美麗なものは健常なものよりも高値で取引されていたという』。『美しい虎斑(トラフ)の出る条件は、直射日光が当たらない湿気の多い有機質に富んだ雑木林で、具体的には北向きの藪で急傾斜地の登るのが困難な場所、近くに小川の流れる場所が適しているとされ』るとある。最後には、『ヤシャダケが他の樹木と混生した場所に限って生育する』という文言があるが、これは、ヤシャダケがないと、虎斑竹は生じないという意味ではなかろう。ヤシャダケの場合は、全くの単族相では、菌寄生が生じない(極めて生じし難い)の意と思う。
!さて、以上とは別に、ウィキの「トラフダケ」にも、実は、嬉しい一節があるのである!
則ち――疾患ではない――★虎斑竹が別に存在する★――のである! これは、
◎マダケ属クロチク変種ハチク変種トサトラフダケ(土佐虎斑竹)Phyllostachys nigra var. tosaensis
である。大正五(一九一六)年に牧野富太郎が「土佐虎斑竹」と命名したもので、高知県高岡郡新正村大字安和(現在の須崎市(すささきし)安和(やすわ):グーグル・マップ・データ)に個体群を認めたものである。『形状は淡竹と同じで、表面に多数の茶褐色の虎斑状斑紋がある』とあるのである。なお、トサトラフダケについては、虎斑竹専門店「竹虎」の公式サイト「虎竹のある暮らし」のこちらを見られたい。画像豊富。
「姥之嵩」東洋文庫訳に割注して、『姥嶽という。祖母山』(そぼさん)『の古称。大分・宮崎・熊本の三県にまたがる高峰。』とある。ここ(グーグル・マップ・データ)。この場所からみても、竹の種は「ヤシャダケ」ではあり得ない、と私は思う。]
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